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中国の大学サイエンスパークについて(その10)

2015年10月26日  康琪(中国科学技術発展戦略研究院体制管理研究所 シニア研究員)

その9よりつづき)

 華中科技大学サイエンスパークが過去10年で急速な発展を実現した要因には主に、人材と環境の二つの側面がある。

4.1 人材要因

(1)高水準な管理チーム

 華中科技大学サイエンスパークは企業モデルで運営され、実務能力の高い管理チームを備えている。管理層の人員のうち華中科技大学の出身者は5%にすぎず、そのほかはすべて外部から招いた専門的な管理人材であり、インキュベーションやイノベーション、不動産開発、マーケティング、顧客サービス、情報収集などの面で豊かな経験を持っている。華中科技大学サイエンスパークは、全国の各大学サイエンスパークの中でも比較的早期に、キャンパスから市場への分化を実現した。日常の管理については、パーク内の人員のことを考えた管理がなされ、非営利目的のレストランが2軒設けられるなど、パーク内の2万人のニーズに合わせた良好な生活サービスが提供されている。

(2)業界専門家の指導

 華中科技大学サイエンスパークが主導産業を打ち立て、特色ある各種の拠点を生むことができたのは、学科の筆頭となる人材や研究成果の産業化を促進できる統率力のある人材を集めることに成功したためである。パーク内の「武漢鋭科光ファイバーレーザー技術有限責任公司」を例にとると、董事長で総エンジニアを務める閻大鵬氏は「産業報国」のリーダーとも言える人物で、米国の有名大学や研究所、レーザー企業でベテラン研究員やシニアエンジニアを務めた。半導体レーザーと光ファイバーのカップリング、半導体レーザーのパッケージング技術、大出力光ファイバーレーザー、光ファイバー増幅器、光ファイバー部品などの研究に長期にわたって従事し、米国特許3件を取得している。光ファイバーレーザーの分野で、中国に技術封鎖が実行され、価格が独占的に決められ、輸出禁止の措置さえ取られている状況を見て、閻大鵬氏は帰国して起業し、中国に属して光ファイバーレーザーを開発することを決心した。2007年、華中科技大学サイエンスパーク内に「鋭科光ファイバーレーザー」を設立し、光ファイバーレーザーの100%の国産化を実現し、レーザー産業の大国による独占という世界的な局面を打ち破った。閻大鵬氏は、産業を引っ張る勢力となることを目指し、2013年には研究チームを率いて10KW光ファイバーレーザーの自主開発に成功し、この分野の国内の空白を埋め、中国をこの技術を掌握した世界で2番目の国とした。閻氏はもう一方で、華中科技大学の教授を兼任する形で、レーザー産業の若い人材の育成にも貢献した。

(3)イノベーション・企業スピリットを持った若い人材の必要性

 華中科技大学サイエンスパークは、プロジェクトのインキュベーションと産業発展をいずれも重視する戦略を堅持し、インキュベーション投融資サービス体系を構築し、スタートアップ企業を寛大に受け入れる環境を作り、若い卒業生がイノベーション・起業に身を投じることを特に重視している。パーク内には起業学院や起業クラブも設けられ、若い人材の起業のために学習と交流の場を提供している。パーク内で最近成長が著しい「武漢菲克思医療器械有限公司」は、華中科技大学の数人の在学生が共同で起業した会社で、ポリマー包帯やポリマー石膏などの製品を自ら開発・生産し、ビジネスモデルも自ら探索し、製品を市場に普及させている。

4.2 環境要因

(1)各級政府がサイエンスパーク発展を政策環境で支援

 党と国家は近年、科学技術イノベーションの発展を重視し、産学研の結合を強調している。中央と地方の各級政府は、多くの計画や政策措置を打ち出し、研究所や大学による各業界の研究成果の転化を促進している。科技部と教育部は2001年5月、第1回「全国大学サイエンスパーク工作会議」を開催し、科学教育による国家振興戦略に基づき、大学サイエンスパークの発展方向をしっかりと捉え、国家大学サイエンスパークと入居企業に向けた関連優遇政策を積極的に実現するよう地方政府に奨励した。湖北省と武漢市政府、武漢東湖ハイテク区管理委員会は、一連の優遇政策を相次いで打ち出した。大学サイエンスパークの建設にかかわる水・電気・道路・通信などの施設は都市建設の全体計画に組み込まれ、税の減免の対象となった。ハイテク人材を誘致する政策が打ち出され、海外の科学技術人員や海外留学生による大学サイエンスパークでの起業が奨励された。大学サイエンスパークで優れた実績を上げた企業は開発区財政による奨励の対象となった。武漢東湖ハイテク区は技術財産権取引所を設立し、大学サイエンスパークが技術と融資の問題などを解決するための一助となった。湖北省武漢市政府が最近打ち出した、在学中または卒業5年以内の大学関係者による起業の奨励と支援を目的とした起業支援計画「青桐計画」は、上述の武漢菲克思医療器械有限公司を含む華中科技大学サイエンスパーク内の一連のスタートアップ企業の発展を促進した。

(2)「中部の勃興」の最中にある湖北地区の経済環境

 湖北省は中国中部の内陸部に位置する旧工業拠点である。全国の経済発展全体の中では、20世紀半ばに国家重点建設の対象となり、急速に成長した後、改革開放後は歩みを緩めていた過程をたどってきた。中央政府は現在、地域経済の協調発展という問題をこれまでになく重視しており、湖北省が「中部の勃興」を実現する契機を与えた。2011年、湖北省全体の総生産額は1兆9594.19億元で、前年比13.8%の成長となり、8年連続で2ケタ成長を維持した。国家のマクロ経済の状況は複雑で、下降リスクは増大しているが、湖北省は2014年上半期、9.5%のGDP成長を実現し、成長率は全国平均を2.1ポイント上回った。こうした背景の下、華中科技大学サイエンスパークを代表とする湖北地区の大学サイエンスパークの成長と発展は、歴史的なチャンスと良好な経済環境に恵まれている。

(3)華中科技大学の専門学科の技術環境

 華中科技大学サイエンスパークが拠点としている華中科技大学は国家教育部直属の全国重点大学であり、華中理工大学・同済医科大学・武漢都市建設学院が合併して2000年5月26日に設立された。国家「211プロジェクト」の重点建設と国家「985プロジェクト」の建設の対象として最初に選ばれた大学の一つである。同大学の学科は全面的で、構成も合理的で、研究型大学の学科体系をほぼ備え、哲学・経済学・法学・理学・工学・農学・医学など12学科をカバーしている。学部専攻は95専攻にわたり、修士学位の授権機構は224個、博士学位の授権機構は183個あり、博士研究員の流動ステーションは35カ所ある。一級学科国家重点学科は7学科、二級学科国家重点学科は15学科(内科学・外科学は三級)、国家重点(育成)学科は7学科ある。同大学は研究の実力が高く、光電技術や材料科学、バイオ医薬、機械工学などの分野で多くの研究成果を取得し、華中科技大学サイエンスパークの発展に強力な技術的サポートを提供している。レーザー産業を例に取ると、華中科技大学は1970年代から中国で率先してレーザー教育研究室とレーザー専攻を設立し、レーザー技術国家重点実験室とレーザー技術国家工学センターなどのサポートプラットフォームを配備し、この技術の研究と発展で国内をリードする地位に立った。このように力強い技術環境の影響と支えの下、華中科技大学サイエンスパーク内には、「華工レーザー」「鋭科レーザー」「凱瑞迪レーザー」「戴欧徳レーザー」などを代表とする様々な規模の各自特色あるレーザー企業が育った。

 華中科技大学サイエンスパークは、開拓精神のある一連の開発・管理・技術人材を集中させてきた。これらの人材は、大学の研究員との良好な相互関係を通じて、知識の集約という強みを十分に発揮し、武漢東湖地区の良好な政策環境を活用し、現地政府が「武漢•中国オプティクスバレー」を通じて光電子産業を発展させようとしている歴史的なチャンスを捉え、リーダーとなる企業を育てると同時にスタートアップ企業の発展も重視し、パークの業務を開拓すると同時に管理の専門化も重視し、華中科技大学サイエンスパークを、産学研の結合と研究成果の産業化の促進、科学技術のイノベーション・起業人材の養成を実現する中国を代表する拠点の一つとして成長させた。

(おわり)

参考文献:

  1. 科技部ハイテク発展・産業化司.「革新理念 中国の特色ある国家大学サイエンスパークの建設」.
    『中国ハイテク産業導報』,2012-10-29(第A02面).
  2. 科技部.『中国科技発展報告』2011. 北京:科学技術文献出版社,2012.
  3. 科技部.『中国科技発展報告』2012. 北京:科学技術文献出版社,2013.
  4. 科技部トーチハイテク産業開発センター.
    『中国トーチ統計年鑑』2009、2010、2011、2012. 北京:中国統計出版社.
  5. 晏志成. 「社会への奉仕と大学発展への貢献の両立――清華サイエンスパーク発展センター主任・梅萌教授を尋ねる」. 『中国大学科技・産業化』,2011(1):13-15.
  6. 「中国科技発展報告教育部資料」,2013.

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