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中国産業クラスターの形成及び変遷(その4)

2015年10月30日
年 猛(中国科学技術発展戦略研究院 産業科学技術発展戦略研究所研究員、経済学博士)責任編集

その4よりつづき)

1.5 中国における産業クラスターの政策システム及び特徴

表1 中国における産業クラスター発展戦略政策システム
出典:作者が関連政策を整理
レベル 戦略/政策 主な内容
国家
レベル
2005 国務院 個人経営・私営等非公有制経済発展を奨励・支持・指導することについての意見』 企業が専門的生産や特色のある経営に従事するよう導き、これを支え、「専(専門)、精(精錬)、特(特色)、新(新しい)」方向に発展させる。中小企業と大企業が多様な形式の経済技術提携を展開し、安定した供給、生産、販売、技術開発等の協力関係を築くことを奨励する。専門的協力のレベルを上げることで、基幹企業と有名ブランドを育成し、専門市場を発展させて、市場組織形式を改革する。公共資源の共有を推進し、中小企業集積を特徴とする産業クラスターの健全な発展を促進する。
2007 国家発展改革委員会 産業クラスター発展の促進についての意見』 「産業クラスターの発展に対して全体的計画と指導に欠けている。地区によっては無計画に団地や商業施設を建て、プロジェクトを掲げ、地区の分割を招き、資源の浪費も甚だしい。一部の産業クラスターはOEMが主で、技術力が低く、産業チェーンも整わず、自主ブランド作りやイノベーション能力に欠ける。社会化サービスシステムが不健全で、特に産業クラスターに付随する生産性サービス業の発展が立ち遅れている。分散して排出することを集中管理していないため、環境汚染が深刻なものもあり、立ち遅れた生産能力が産業転換において法に基づき淘汰されないものもある」これらの問題について、指導意見を出す。
2013 科学技術部『ベンチャー産業クラスター試験認定管理方法』 「集積試験作業をハイテク産業団地(以下「産業団地」と称する)で展開するには、一般的に国家ハイテク産業開発区を重点とする。政府による組織と指導、集積の科学計画と産業チェーンの共同発展により、伝統的な産業の転換とアップグレード、新産業の育成発展が促進され、産業の競争力があがる。」
地域
レベル
2006 『西部大開発「十一五計画」』 「製品輸出を主とする商品取引市場を重点的に建設・改造し、重点都市、辺境地区の産業クラスター形成を促進する」と明らかに指摘している。
2007 『東北地区振興計画』 「自主イノベーションに立脚し、産業クラスターを促進し、国際協力を強め、ハイテク産業化プロジェクトを実施して、ハイテク産業チェーンを構築し、中核的で競争力のある先導産業と産業クラスターの形成に尽力する」と提起する。
2006 国務院弁公庁 中国共産党中央委員会、国務院が、中部地区開拓の促進への意見を実施するのに関する政策措置の通知』 「特色ある産業基地を建設し、産業チェーンと産業システムを形成し、有力なハイテク産業クラスターを徐々に実現させ、ハイテク産業を少しでも成長させる」。「県域経済の発展に力を入れる。現地の資源の有利性から、それぞれ特色ある有力産業を培い発展させて、産業クラスターを形成し、雇用を拡大し、財政収入を増やす」。
省区
レベル
2007 『広東省産業クラスターアップグレード模範区建設指導意見(試行)』
『湖北省人民政府 産業クラスターの発展を促進することについての意見』
各省が国家レベルの集積発展に関する指導意見をもとに、各省の具体的状況をベースに、各省の集積の発展への指導意見を制定する。
市県区
レベル
2007 『東莞市 産業クラスター発展推進戦略の意見』
『長沙市「十一五」産業クラスター発展計画』
各市県区の人民政府は上級政府が出したクラスターへの指導意見に従い、現地の発展状況をもとに相応の指導意見や具体的に扱う政策措置を制定する。

 中国は改革開放初期に特色ある産業クラスターを形成したものの、発展戦略と政策はとても出遅れており、以下の特徴がみられる。

(1)産業クラスターの発展は国家戦略レベルになった。2007年、国家発展改革委員会が『国務院 個人経営・私営等非公有制経済発展を奨励・支持・指導することに関する若干の意見』を、また国家「十一五」計画綱要の産業クラスター発展への戦略的要求に基づき『産業クラスター発展促進への若干の意見に関する通知の公布』を発した。比較的系統立った中国産業クラスター発展への全体的考えと政策措置を提起した。このほか、科学技術部も関連政策を出し、産業クラスターをグレードアップ促進と国家経済転換の重要な手段とした。

(2)ハイテク産業化は中国産業クラスター戦略と政策で重点的に注目されるようになってきている。例えば、科学技術部は『国家ハイテク産業化及びその環境構築「十一五・十二五」発展綱要の公布について』、『国家ハイテク産業開発区十一五・十二五発展計画綱要の通知』及び『ベンチャー産業クラスター試験地認定管理方法』の中で、ハイテク産業の集積化による発展を中国産業クラスターのアップグレードの重要な方向としている。

(3)産業クラスター戦略と政策は産業移転をリードすることを重視し始めた。例えば、『国家発展改革委員会 産業クラスター発展促進への意見に関する通知の公布』で、「産業が中西部地区へ移っていくことを奨励する」と明言している。

(4)異なる地区の産業クラスター発展の戦略構想を、地域レベルで初めて明確にした。産業クラスターの戦略構想を利用し、西部の大開発の推進、東北の振興、中部の開拓などの施策を、国家は重視し始めた。

(5)市県区各層で、産業クラスターがもたらす作用と政策の操作性を重視している。国家、地域、省区が打ち出した産業クラスター関連政策は戦略的手引きに近いものとなり、ゆえに市県区は国家及び省区の関連指導案と、現地の有利な点に基づき、税優遇策や財政支援等関係の詳細な集積発展政策を制定している。

1.6 中国が現在、産業クラスター発展で直面している問題

 現在、中国の産業クラスターの発展には、いまだ低コストという要素に大きく頼っているため、発展のレベルが低く、持続的競争力に欠ける。これは以下に表れている。

(1)工業用地の価格が低く、労働力も低賃金という、低コストに頼りすぎている。さらに政府の各種優遇政策により、中国の産業クラスター製品の競争の有利性は主に低価格という基盤上にある。しかし今後、大規模産業クラスターがもたらす要素コストの上昇により、土地価格と労働賃金が上がり、各種優遇政策も期限になると、現在集積内にいる企業が大規模な外部移転をしやすくなる。

(2)産業発展のレベルが低く、主な集積はバリューチェーンの底辺にいる。東部沿海でも中西部地区でも、現状の中国の産業クラスターは大半が労働集約型の伝統産業分野に集中しており、製品の付加価値は高くなく、技術も低く、価格が安い。つまり、集積規模が増え、価格が低く量が多い方ことが有利に働いている。一方、イタリア等の欧州国家では、集積製品は多くが高品質製品で、価格が高い。ゆえに、中国では、いかに集積産業のアップグレードを進めるか、これはまさに早急に検討しなければならない重要な問題である。

(3)企業が根付きにくい。中国の特に珠江デルタ地区では、産業クラスターが、政府の誘致補助により発展してきた。これら外来企業は、当初だいたい現地の低コストという要素と優遇政策、フットワークのよさ(loose-foot industries)にひかれて来る。これらの産業は通常大きな投資もいらず、低コストを求めるため、投資環境が変わると、他所に転出していきやすい。

(4)産業クラスターの産業チェーンが短く、集積内の企業間に過度な競争がある。中国の産業クラスターの大多数は同類製品を生産する企業による単純な集積で、だいたいは横つながりの産業クラスターである。上下方向の産業チェーンがしっかりしておらず、集積効果が充分発揮されていない。問題点としては、産業クラスター内の中核産業がはっきりしていない、生産の流れが悪い、産業チェーンが短すぎる、主導産業や影響力のあるブランドが少ない、また、大量の企業が一定のエリア内に密集していても企業どうしの情報交換が少なく、企業間の「信頼ネットワーク」が弱く、分業協力があまりない、などという点が挙げられる。つまり、集積の発展に有利な専門化分業協力システムや競争・連携メカニズムが形成されておらず、集積内で各企業間は協力よりも競争が多いと言える。

(5)自己開発能力が弱く、産業クラスターは持続的発展能力に欠ける。中国の大多数の産業クラスターには統一されたイノベーションプラットフォームがなく、産業クラスター内の企業もイノベーションや能力に欠ける。新しいことをやるには多くの資本をつぎ込まねばならないが、集積内の大多数は中小企業で、リスクを避けたいため、外部導入や模倣で自社の技術を上げようとしている。同時に中小企業の多くは労働集約型産業で、研究、開発、設計等、新しいことを開拓する人材に欠けている上に、企業と科学研究機構との協力体制も弱い。いつも他者の新製品や新技術を模倣していると、イノベーションを実施している企業の利益を損なうため、その会社がさらにイノベーションを生み出そうという積極性をくじき、悪循環を招く。

(6)現在の産業クラスターの発展は政府の力に頼りすぎている。地方政府も「企業誘致」に慣れたところがあり、外部からの誘致を強調しすぎて、内部発展を軽視している。大企業グループとその大規模プロジェクトを重視し、中小企業の集積を軽視する。また、政府の特定プロジェクトの資金の力に頼りすぎ、現場の持つ力を軽視する。こうして中国の大半の産業クラスターの発展は、内部からの開発力が不足するという、深刻な問題に面している。

(7)このほか、産業クラスター政策、地域政策、産業政策の間の関係が明確でなく、集積政策は「縦方向」と「横方向」の協調メカニズムが欠けている。中国は国家として「産業クラスター政策」の概念を明確に表明しておらず、産業政策と地域政策が単純に合わさったものと思われている。中国各地の集積政策で1つ突出した問題がある。それは産業クラスターと主産業が混同され、集積政策が産業政策の「コピー」のようになっていることだ。

その5へつづく)


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