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中国産業クラスターの形成及び変遷(その5)

2015年10月30日
年 猛(中国科学技術発展戦略研究院 産業科学技術発展戦略研究所研究員、経済学博士)責任編集

その4よりつづき)

2.ケース分析:大学を頼りに形成された産業クラスター

2.1 環同済知識経済圈

2.1.1 全体の空間レイアウト

 「環同済知識経済圈」は1つのインナーサークル(現在ここは張江ハイテクパーク楊浦園に正式に組み入れられた)を囲んで、1つのエクスパンディング・サークル及び4つの放射点からなる。「 インナーサークル」は同済大学の四平路キャンパスを中核とし、密雲路、中山北二路、江浦路、控江路、大連路に囲まれ構成されるエリアで、面積約2.6平方キロメートル( 楊浦区60.61平方キロメートルの約1/25)。「エクスパンディング・エリア」は曲陽路、大連西路、大連路、周家嘴路、黄興路、邯鄲路に囲まれ構成されており、面積は約10平方キロメートルである。こ こからさらに外へ向かって広がり、新江湾城放射点、共青森林公園放射点、黄浦江北岸浜江放射点、黄興公園放射点という4つの「放射点」を形成する。

 現在、経済規模はインナーサークルがメインで、エクスパンディング・エリアは発展途上である。

図1

図1 環同済知識圈全体空間レイアウト

2.1.2 発展の経過

 環同済知識経済圈は、開発初期から現在までに完備された知識経済圈を形成した。同済大学周辺のクリエイティブ産業は、3つの重要な発展段階をたどってきた。

(1)第一段階:20世紀90年代初期、建築設計の一条街が形成される

 90年代、急速な都市化と不動産業の爆発的成長が、同済大学周辺の都市計画と建築設計及びその関連産業に大きなチャンスをもたらした。同済大学の教師と学生は土木建築計画等の学科の強みを生かし、大 学が自ら、キャンパスや周辺地区に大小の会社や事務所を設立した。

 キャンパスの不動産資源に余裕が無くなると、楊浦区政府は赤峰路に同済ハイテク区同様の上海滬東ハイテク経済園区を建設し、建築設計の一条街が徐々に形作られた。1996年から2002年頃にかけて、長 さ860メートルの赤峰路をシンボルとする「現代設計一条街」ができた。

(2)第二段階:クリエイティブ産業中核区の発展と成熟(1990年~2007年)

 赤峰路の市場集積効果が出始めると、たくさんの設計会社・事務所が集まってきて、近くの密雲路、国康路、四平路も徐々に発展した。上海の同済大学建築設計研究院、同済都市計画設計研究院、上 海市政工程設計研究総院、上海郵電設計院という4つの著名な設計院、及び世界の建築設計業界で第三位の日本の安藤忠雄氏の設計会社等が、相次いで同済大学周辺に転入してきた。それ後、同済大学水処理等、有 力な学科や上海環保集団を頼りに、密雲路にも徐々に環保科技一条街が形成された。

 2003年頃になると、密雲路、中山北二路、江浦路、控江路、大連路に囲まれた、面積約2.6平方キロメートルの中核区が形成された。これは知識、サービスでつながり、創意、革新、創 業を特徴とした知識経済中核区である。2004年、同済大学サイエンスパークが設立、いくつものハイテク企業が同済大学サイエンスパークに入り、中核区はますます集積能力を持つようになった。

(3)第三段階:環同済知識経済圈の形成と発展(2007年~現在)

 周辺産業の規模が拡大すると、現地の政府や学校はこのクリエイティブ産業クラスターを基準として、建設を進めることを重視するようになった。

 2007年、同済キャンパス周辺産業に形成されていた「建築設計産業ベルト」を基礎に、同済大学と楊浦区は「楊浦環同済知識経済圈」の建設を共同で進め、『全面的な提携をさらに強化して、自 主イノベーションを推進するための枠組み協定』及び『楊浦環同済知識経済圈の全体計画綱要』という2つの重要文書を共同で発表した。

 2009年4月、国家科学技術部火炬中心(たいまつ計画センター)の審査を経て、「国家たいまつ計画環同済研究開発設計サービス特色産業基地」、略称「環同済知識経済圈」と認定を受けた。これまでに、全 国で唯一現代サービス業を主とする特色ある産業基地である。創意・設計産業、国際エンジニアリングコンサルティング·サービス業、新エネルギー・新材料・環 境保護科学技術産業という三大産業の集積を重点的に発展させた。

2.1.3発展の特徴と規模

(1)発展の特徴
  • 区(地域)と学校が共同で推進する:楊浦区と同済大学が協力し、「環同済知識経済圈管理委員会」の発足など、発展を共同で推進していく。
  • 知識の働かせ方の変革:同済大学の学科の力を頼り、産業は知識集約型を主とする。
  • 産業と都市の融合と共存:産業と都市が空間を一体化させ発展する。
  • 起業ムードが濃厚である:80%の企業が設計関係の中小企業(従業員20人未満)であり、80%の起業者が同済の出身である。
  • 放射範囲が広い:80%の事業者が上海以外の地区から来ている。
  • 特徴ある集積:建築と都市の計画設計が産業全体をリードし、景観設計、市政工学設計、通信工学設計、室内設計、環境保護設計、ソフトウェア設計、工業設計、自動車研究開発設計、ファッション設計、教 育設計等の設計関連分野がこれに続き、次に、工事請負、不動産、投資・管理コンサルタント、装飾、グラフィック製作、建築模型、コンピューターメンテナンス、情報発信等の関連産業が連なる。産 業チェーンの各部分がすべて高度に専門化され、かつ周辺の飲食、銀行、旅行、専門書籍店、レジャー、コンサルティングエージェンシー等のサービス業の発展も伴っている。
図2

図2 環同済経済圈大設計産業クラスターの構成

(2)集積の規模

 年間の生産総額は2002年の10億から2013年の227億まで増えた。生産総額の増加率は20%を超え、2015年には300億を突破する見込みである。企 業数は2002年の176社から2013年には2000余社まで増えた。また、設計従事者は3万人を超え、 [1] 空間も2002年の全長860メートルの赤峰路「現代設計一条街」から、今では12.6平方キロメートルになった。

 中国で最大の設計産業クラスターであり、現在の産業の割合は、研究開発設計が約68%、環境保護、新エネルギー・省エネルギーが約12%、高度製造が10%、その他が11%である。

その6へつづく)


[1] 統計データは2.6平方キロメートルの中核区のもの。


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