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中国産業クラスターの形成及び変遷(その6)

2015年10月30日
年 猛(中国科学技術発展戦略研究院 産業科学技術発展戦略研究所研究員、経済学博士)責任編集

その5よりつづき)

2.1.4 形成メカニズム

 環同済知識経済圈は大学科技園区の発展を基盤に、同済大学を中核として、政府の指揮、地域と学校の連携、地域と企業の協力をもって、特色ある「三区連動」発展方式にたどりついた[1]。つまり「政府の指揮+学科からのサポート+企業が主体+市場の運営」という形態のもので、本質的には一種の政治・産業・学校の連合体である。

(1)同済大学の役割

 1つ目は、学科によるサポートと情報交流である。設計一条街の形成により、同済大学の建築設計、都市計画、土木工事等の学科の力が示された。駐在企業が増え産業が発展すると、同済大学の都市建設と防災学科群と現代設備製造業学科のリンクはさらに完成度を増し、産業発展における専門知識へのニーズには最大限応えた。また、同済大学は本来知識と情報を収集し発信する場所であり、専門図書資料は周辺企業も共有する形で活用している。また、頻繁に開かれる国際的な一流の研究者の講座、学校内部の各種報告会、セミナー等の学術交流活動により、設計者は視野を広げ、最新の思潮や最先端技術を得ることができる[2]

 2つ目は、人材の供給。同済大学の教師と卒業生は、周辺の設計企業を創業する際の主力軍である(例えば、80%の創業者が同済の出身)。多くの博識で経験豊富な教師、学者が創業した企業の顧問をしている。大学院生と学部生は、教師の研究室でプロジェクトに参加したり、或いは直接社内で就業することができるため、設計会社は多くの低コストで高品質な臨時職員を得ることができる。学生にとっても、就業により実習の機会を得るだけでなく、起業精神、プロジェクト運営知識、市場意識、人間関係、企業管理能力を培うことができる。それは、後に自ら起業するための着実な思想、能力、技術のベースとなる。

 3つ目は、教師や学生による改革や、彼らが起業に与える良好な影響である。同済大学の周辺設計産業への支援は、一定の自由な環境が与えられていることによる。例えば、教師の起業に特別な制限はなく、教師や学生が大学ブランドを利用することにも制限は少ない。また、同済大学は大学生の起業を大学教育機能の延長としており、起業教育を新しい人材育成の一手段ととらえている。起業を大学教育システム全体に組み入れ、イノベーションベースの建設、起業カリキュラム、起業コンテスト、起業組織、起業実践及びイノベーション起業資金補助等について、大学生に訓練や相談の場を与えている。現状、約3%の同済の卒業生が、卒業後に起業に参画している。

 4つ目は校弁企業の働きかけ。上海の四大著名設計院である、同済大学建築設計研究院、同済都市計画設計研究院、上海市政工程設計研究総院、上海郵電設計院のうち、2社は同済大学の校弁企業である。これらリーダー企業が、業務委託等の形で中小企業を集めている。

(2)政府の支持

 1つ目は、戦略ガイドラインと政策による支持。政府は、同済大学と共同で『楊浦環同済知識経済圈全体計画綱要』等の綱要を出し、環同済知識経済圈の発展を戦略的にリードしている。また、『中小企業融資保証に関する支援意見』等の政策を次々打ちだし、企業の創業を支持し、現地のイノベーション創業環境を改善した。

 2つ目は、公共サービスへの支持基盤の構築。楊浦区は知的財産権、研究開発、起業投資、人材、情報等の五大公共サービス基盤を重点的に構築した。地域内の大学をまとめ、上海教育服務園区(サービスパーク)等を共同で立ち上げ、サービス基盤の構築により経済圈の発展を支えた。

 3つ目は、資源の投入。「3つの“譲る”」、つまり大学が元の場所で拡大発展するため、最良の土地を譲る;商業・不動産プロジェクトを、大学のサイエンスパーク建設に譲る;人力、物資、財力を、大学周辺の環境整頓と美化のために譲る。

(3)市場のチャンス

 20世紀、90年代に入ってから、中国は急速な都市化のため、不動産業の爆発的増加の後、成長期に入った。これが都市計画と建築設計及び関連産業に巨大な市場をもたらした。一方、国内の建築設計市場はまだ成熟しておらず、不動産のオーナーは建築士を選ぶ際、しばしば過度な要求を出すが、若い建築士は思考が柔軟なため、チャンスを得やすい。この時、中央政府が浦東を開発して「同済現代建築設計街」を作るという好条件を提供した。

2.1.5 直面した発展の苦境と制約要素

 1つ目は、中核区の産業発展のための空間の不足。環同済産業が急速に発展すると、環同済地域の中に新企業が次々参入し、既存企業も大きく発展する中、2.6平方キロメートルという限りある都市空間は、これらの発展に影響する重要な要素となった。また、環同済企業は多くがプロジェクト形式で運営されており、業務量や時間配分が非常に不均衡という状況である。サポートとサービスが完備された仮設オフィスが必要だが、現状は、大部分のオフィスビルではふさわしいサポートとサービスが提供できず、そのため多くの企業の発展が制約される結果となり、空間問題のために環同済地域から離れた所に移転した企業も多い。さらに、産業の発展にともない、不動産開発価格が急上昇し、賃貸料も急上昇し、少なからぬ新進企業の存在基盤に影響をきたしている。これは、産業クラスター全体の活力を低下させ、その長期的発展に深刻な危害をもたらしている。

 2つ目は、外需の縮小と競争の激化。2014年『国家新型都市化発展計画(2014-2020)』が正式に公布されると、中国のこれまでの「都市建設式」規模で拡張していた都市化発展戦略から、人を中核とした都市化発展に変化した。今後、中国建築設計産業の発展は鈍化に向かうであろう。近年、環同済知識経済圈中で設計、工事コンサルタント、環境保護という三大主導産業の利益はどれも下降傾向にあり、中でも工事コンサルタントの下降が目立ち、環境ビジネス企業ではマイナス成長すら出現した。

 3つ目は、資金供給不足による産業の多様化への明らかな制約。設計産業はリスク投資へのニーズは比較的低いが、知識圈においては多くの環境保護、ソフトウェア、科学技術等の企業は技術水準が高く、初期の必要資金が大きい。このため、大きな資金不足に見舞われ、リスク投資への強いニーズは満たされていない。

 4つ目は、人材要素の制約。知識圈の産業の多様化とバリューチェーンの向上にともない、最先端のクリエイティブ人材のニーズが拡大している。これに対して、特に工業設計、環境保護等の人材のニーズはまだまだ満たされていない。

その7へつづく)


[1] 劉強、同済周辺設計産業クラスターの形成メカニズムと価値の研究[J].同済大学学報(社会科学版)、2007

[2] 陳強、王力銘「知識型サービス業革新集積の育成システムと構築——環同済現代設計産業クラスターの例[J]」中国科技論壇、2010


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