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中国産業クラスターの形成及び変遷(その8)

2015年10月30日
年 猛(中国科学技術発展戦略研究院 産業科学技術発展戦略研究所研究員、経済学博士)責任編集

その7よりつづき)

2.2.3  東北大学サイエンスパークを中心とする産業クラスターの主な特徴

(1)産業クラスターは1社の優秀なリーダー企業を中心とする産業クラスター

 東北大学サイエンスパークを中心とするソフトウェア(IT)産業クラスターは、主に1社の中核企業を中心として形成される。歴史的進化からみると、パーク内で生まれた企業である東軟グループが、東北大学サイエンスパークから発足して、東大ソフトウェアパークに投資・建設することによって、持続的発展の原動力となった。東軟グループ自身もこの産業クラスターの中核企業となり、産業クラスターの主動力となった。2012年末時点では、東大ソフトウェアパークの企業はまだ14社だが、産業クラスターは1社の優秀なリーダー企業が主導するという特徴が目立つ。

(2)イノベーションネットワーク構築により産業クラスターの形成を促進

 東北大学の知的資本、イノベーションベース、科学研究と学科の優位性を背景に、技術革新、科学技術の成果を産業化した。そして、ハイテク企業を育成するなど、イノベーションネットワークを形成している。

 1つ目は、知識生産の基本的なサポート。主に学校の科学研究システム或いは科学研究部門(重点実験室、研究センター等)が優位性を発揮し、国家重大プロジェクトや地方及び企業の各種研究課題を担い、多くの技術の原型や成果をあげている。

 2つ目は、東北大学研究院を設け、大学内のすべての国家重点実験室、工程技術センター及び校内の科学技術サービス機構を1つに集中させ統一管理したこと。その主な役割は、科学技術を利用して工程や企業を技術統合し、ハイテク製品の開発を行うもので、学校が試験段階から産業化まで工程を管理する。[1]

 3つ目は、イノベーションネットワークの開放性の重視。東北大学の学科、人材、科学技術成果及び科学研究資源等に頼りこれを発揮しながら、東大サイエンスパークがハイレベルの研究及び研究開発機構をパーク内に誘致した。さらに高水準の研究機構が存在することで、育成中或いは正式に発足した企業との有意義な相互啓発が生まれ、パーク内に見込みあるサポーターや産業チェーンの原型ができる。

 2008年末時点で、東大サイエンスパークは独立法人の高レベル研究機構を、累計で20余社誘致した。そして、サイエンスパーク自身の科学技術サービスの能力と研究開発能力を強力に発揮し、育成中の企業が順調に発足するために、良好な研究開発の環境を作り上げた。

 統計によると、研究開発及び研究センターに誘致され、サイエンスパークで育成中の企業の存続率は、前回統計より13%上昇し、育成中の企業が規定年内に無事発足した率は前回統計より28%上昇した。また、研究開発及び研究センターの2008年の研究開発収入の実績は、累計0.59億元だったが、研究開発及び研究機構の参入により、サイエンスパーク内の育成中及び正式に発足した企業の技術革新及び科学技術による産出は歴代最高より7.9%向上した[2]

(3)各種イノベーションプラットフォームを完備し、専門的サービスを提供する

 イノベーションサービスのプラットフォーム化と統合化を推進し、革新的設計の共通技術開発プラットフォーム、インキュベーションサービス等のプラットフォームを次々建設した。

 第1には、大学のクラウド産業、金属材料、健康産業のサイエンスパーク建設に基づき、資源を統合・共有し、「大製造」、「大データ」、「大シンクタンク」という三大イノベーションプラットフォームを構築して、根幹部分を共有する技術研究開発を行った。

 第2には、国家「高等教育機関イノベーション能力向上計画」(「2011計画」)を組み入れ、東北大学は「医療画像機器と医療情報クラウドサービス」等の共同イノベーションセンターを設立した。そして、国家の重大なニーズに答えるために、共同イノベーションプラットフォームを構築し、科学技術の成果の応用を進めて、サービス地域全体をグレードアップした。

 第3には、既存の国立大学のサイエンスパークの総合サービスプラットフォームを利用して、科学技術の成果と資本力を利用して支援し、試作品を商品化した。それにより、より多くのハイテク企業を育成し、地方経済の発展を直接サポートした。

 第4には、大学生のための起業、就業サービスプラットフォームである。東大サイエンスパークは自身のプラットフォームの優位性を利用し、企業経営者や管理職にある人を招いて、卒業を迎える学生を対象に定期的に講座を開いたり、サイエンスパーク内の企業と協力して実習の機会を与えるなど、各種の就業前訓練や資質訓練を展開している。また起業については、主に起業コンテストを通して、起業意欲の啓発をしたり、無利子融資、起業資金補助、政策的資金援助、多方向の資金源保証を行うなどの支援をしている。

(4)特色ある科学技術成果の転化と企業インキュベーションサービスを行う

 サイエンスパークの限りある育成の場所と多くの育成ニーズ間の問題を解決するため、東北大学サイエンスパークは主に以下のような対策を講じている。

(1)技術移転センターを設け、科学技術成果転化メカニズムを一新する。

 東大サイエンスパークは各方面の経験を参考に、2005年、サイエンスパーク内に東北大学技術移転センター(資本金540万元)を設立した。このセンターは東北大学の独立した資産運用会社——東北大学科技産業集団有限公司に属し、サイエンスパークの恩恵を受けている。またセンターの中心となる人は、サイエンスパーク主任が兼務している。

 東北大学技術移転センターは東北大学サイエンスパークインキュベーションサービスの延長線上にあり、主に2種類の転化業務を専門に行う。1つは産業化の見込みが高い科学技術を、東北大学技術移転センターという実体を経て、一定の規模に達してから、サイエンスパーク内の育成対象の企業にする。もう1つは様々な資質条件が必要なプロジェクトを、東北大学技術移転センターが契約執行者として企業に代わり署名締結し、優れた科学技術成果が転化中に厳しく求められる資質、信用、体制等の問題のために停滞しないようにすること。東北大学技術移転センターは東北大学の各種の科学研究者に開放されており、希望する科学研究者は誰でも技術移転センターが持つ何らかの資質を利用して外部と契約や協議を締結することができる。これでプロジェクト化の際の敷居の高さをかなりクリアすることができ、同時に、科学技術成果の資本化を実現することができる。成果の所有者は「科学技術成果を販売或いは譲渡」する方式で利益を得るのではなく、科学技術成果で株価を決める方式で、出資者と共同で成果の実体を作り、ハイテク企業を立ち上げる[3]

(2)政府の活用していない資源を活性化し、産業のための専門のインキュベーターを作る

 東大サイエンスパークと所在地の3レベルの政府(遼寧省、瀋陽市、和平区)が協力し、国有資産民営化の中で使用されなくなっている建物や資源を利用し、これをインキュベーターに改造し、さらに所在地区の科学技術活動の特徴から分類して、育成中の企業や研究機構を置いた。瀋陽市和平区では、IT技術が盛んなので、和平区に増設したインキュベーターの場所にこれらの企業を優先的に移転させた。東大サイエンスパークは成果とインキュベーションサービスにおいて設備が整ってきたので、周辺に新しく建設されたオフィスビルも積極的にこのサイエンスパークに移りたいと希望している。瀋陽市和平区泰宸大廈は東大サイエンスパークと協議を結び、無償で3500平方メートルの土地を提供した。2008年末時点で、東北大学サイエンスパークインキュベーターの面積は累計4.54万平方メートルに達し、このうちサイエンスパーク大廈(2.8万平方メートル)が東北大学の出資で建設されたほか、上述の方式により、東北大学サイエンスパークに新しく増設されたインキュベーターの面積が累計1.74万平方メートルとなる。

(5)政策措置をより積極的に導入及び奨励する

 1つ目は、財政資金の支援。長年、遼寧省、瀋陽市の各種ハイテク産業化計画において、サイエンスパーク内の企業にはいずれも一定の支援をしてきた。例えば、瀋陽市科学技術計画に優先的に入れられた「特急列車」プロジェクトには、毎年30万元、連続3年援助した。また、遼寧省ハイテク産業化計画に入ったプロジェクトには、1回につき80万——100万元援助している。省財政部は育成中の企業である瀋陽東大自動化股份公司に、一括2000万元の融資を計画し、このうち省教育庁が利息100万元を負担している。毎年省・市級の中小企業イノベーション基金とシード基金計画では、サイエンスパーク内の50余の育成中企業に、2010年までに国家級の支援をしている。市財政は2007年度、サイエンスパークの企業に融資利息1000万元を援助した。

 2つ目は、評価と激励。1998年、瀋陽市政府は市科学技術委員会の『大学サイエンスパークの建設と発展を支持することについての意見』を配布し、東北大学サイエンスパーク等の組織の発展を支援した。その後、2000年5月、瀋陽市大学サイエンスパークに、2003年4月、瀋陽市からハイテク企業インキュベーターに、2003年12月、遼寧省大学サイエンスパークに認定された。2004年6月、遼寧省教育庁、科学技術庁、国家税務局等の7部門が共同で『大学サイエンスパーク建設と発展を進めるための実施意見』を発表し、東北大学科サイエンスパークの組織を政策的に激励し支持した[4]

 3つ目は、税収での優遇。和平区政府は東北大学とインキュベーターを共同で設立する協議を締結し、東北大学サイエンスパーク内の育成中の企業、または和平区科技インキュベーター内の企業に、一定の税還付の支援がされることを定めた。「事業者登録、税務登録、出入国手続き等の一貫したグリーンチャンネルサービスを受ける権利」、「育成中企業賃貸料半額」等の政策支援である。

 4つ目は、インフラ建設用地の支援。サイエンスパーク建設用地に対して、地方の各級政府とも優遇政策をとっている。1995年、瀋陽高新区は、サイエンスパーク企業たる東軟グループの会社建設用に、800ムーの土地を特別価格で提供し、これが後に遼寧内で最も典型的なハイテク産業パークに発展した。2003年、高新区はさらに東大自動専門インキュベーターの建設用に、約300ムーの土地を特別価格で提供し、同時に最近開発された鉄西新区冶金工業園区でも、サイエンスパークを巣立った企業の建設用に、1000ムーの土地を特別価格で供用する計画である。

 そのほか、管理体制では、サイエンスパークは大学で科学技術と産業を主管する副学長が直接管理している。財務や人事については、サイエンスパークが実情に従い決めるのに任せている。サイエンスパークの重大な発展計画については、大学党政連席会議で審議決定する。サイエンスパークの実質的リーダーは、当初は科技処に頼っていたが、後に科技産業集団が担当するようになった。

(6)イノベーション動向追跡育成システムで、企業に特色ある長期サービスを提供する

 東大サイエンスパークには多数の優秀な卒業企業がある。それらはすでにサイエンスパークの外で発展し続けているが、東大サイエンスパークは依然、卒業企業にも一定の注意をはらっている。これらの企業の発展の現状や目標を追跡し、その特徴を把握している。そして、適切な時期に、東北大学が関連する有力な学科の情報や、サイエンスパークが把握している国外の優れた資本を導入する形で、サイエンスパークの優秀な卒業企業のさらなる発展に寄与している。このような支援をすることで、市場の国際化、管理の標準化を推進し、企業を卒業後も安定的に発展させている。

その9へつづく)


[1] 葛継平、林莉、姜昱汐等「中国の大学のサイエンスパーク:機能、管理、革新の研究」北京:経済科学出版社、2013

[2] 孫来泉、張慶華「国立大学のサイエンスパーク——東北大学科技園の建設と発展. 中国の大学のハイテクと産業化」2009(11):20-23

[3] 安宇宏「東北大学が大学科技園建設に力を入れ、成果の転化を全面的に推進する. 中国の大学の科学技術と産業化」2008(1):72

[4] 孫来泉、張慶華「国立大学のサイエンスパーク——東北大学科技園の建設と発展. 中国の大学のハイテクと産業化」2009(11):20-23


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