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中国産業クラスターの形成及び変遷(その9)

2015年10月30日
年 猛(中国科学技術発展戦略研究院 産業科学技術発展戦略研究所研究員、経済学博士)責任編集

その8よりつづき)

2.3 武漢東湖レーザー産業クラスター

 武漢は中国のレーザー技術の発祥地である。40余年の発展を経て、工業レーザー、医療レーザー、光学部品等を主体とするレーザー産業クラスターは、国内で最も重要で、最も集約されたレーザー生産加工基地のひとつとなった。現在、武漢のレーザー産業関連企業は200余社に及び、総収入は150億元以上、レーザー加工製品の年間生産量は全国の1/3を占めている。生産[1]の上流がレーザー材料及び付属部品、中流がレーザー機器及び付属設備、下流がレーザー応用製品、消耗品、計器設備等という完備された産業チェーンを形成した。

 近年、国内外のレーザー工業分野で高出力レーザー設備と加工システムが急激に発展し、武漢のレーザー産業は国内の他の地域に押され始めた。現在、珠江デルタ、長江デルタ、環渤海地区それぞれに特色あるレーザー産業クラスター(表1参照)が形成されている。例えば、武漢同様200余社のレーザー関連企業を持つ深圳は、武漢に続いて国内2番目に大きいレーザー産業クラスター地となり、100億元規模の生産高をあげている。

 世界規模でみると、中国のレーザー産業と国際市場を支配している国とでは、まだ大きな差がある。米国のレーザー技術は経済成長を推進するかなめの技術[2]で、レーザー医療及びレーザー測定においては世界をリードしている。また、交通・運輸、バイオテクノロジーとメディカルヘルスケア、ITと通信分野では、それぞれ1億、2.5億、4億米ドルの経済成長を記録している。ドイツはレーザー材料加工方面で世界のトップにあり、そのレーザーと光学製品の全世界での売上は、毎年10%~20%伸びている。日本はディスプレイ、光ストレージ、光通信及びハードコピーからなる光電子産業が、米国と欧州をしのいでいる[3]。ロシアには多種類多量のレーザー関連組織と機構があり、国際市場に数千モデルのレーザー機器、或いは設備を提供している。比較すると、中国のレーザー産業市場占有率と技術レベルは、国際市場とはまだ隔たりがある。

 そのため、武漢のレーザー産業の形成と変遷を分析し、制約となっている要素を探し対策案を出すことは、武漢のレーザー産業の発展のボトルネックを解消し、産業の国際競争力を高めるために、現実的な意義がある。また、国内のその他の地区のレーザー産業の発展にとっても参考となる。

表1:我が国のレーザー産業クラスター分布状況
地域 特色 代表機構
珠江デルタ地区
(深圳、広州)
中小出力レーザー加工機が主 大族激光、粤銘激光
長江デルタ地区
(上海、江蘇)
大出力レーザー切断溶接設備が主 上海激光所、北方激光
環渤海地区
(北京)
大出力レーザークラッディングと全固体レーザーが主 北京大恒激光、北京光電所
華中地区(武漢) 産業チェーンが上中下流にわたり、完備された産業チェーン 華工激光、楚天激光、団結激光

2.3.1 武漢のレーザー産業クラスターの形成と変遷の動因

 武漢レーザー産業クラスターの発展は、発芽草創期(前世紀70、80年代)、快速発展期(前世紀90年代から本世紀の最初の10年)、跳躍移行期(2010年から現在)を経て、現在、跳躍的先端化と国際的発展という新段階に入った。

 産業クラスターの形成と変遷は多くの要素に左右される。著名な学者(アダム·スミス、マーシャル、ウェーバー、シュンペーター、ポッター等)は、これを掘り下げて研究し、異なる角度から独特の見解を出した。ここでは、既有の理論研究成果をもとに、技術サポート、市場ニーズ、企業構造、サービス体系、政策支持、文化環境という5つの方面から武漢のレーザー産業クラスターの形成と変遷の過程を分析する。

図1

図1 産業クラスター変遷モデル

(1)技術サポート:国内をリードする技術能力

 東湖レーザー産業クラスターの形成と発展は、まずその地区でトップの技術推進と人材プールによるものだ。華中科技大学(もと華中理工大学)は、1971年にレーザー教育研究室を設立し、また1978年、全国に先駆けてレーザー専門コースを設立して、たくさんの専門人材を育成した。当校にはレーザー技術国家重点実験室、レーザー技術国家工程中心(国立技術センター)等の技術サポートプラットフォーム(図2参照)も備えてあり、レーザー技術研究開発においては国内をリードするレベルにある。現在、武漢東湖高新区内には、光電子情報技術の研究、開発、人材育成に従事する大学、研究機関が集まっており、各種技術スタッフが10万余人いる。そのうち1/3近くの技術スタッフは光電子情報技術(レーザー技術を含む)、及び関連分野の研究開発と産業化に従事している。

図2

図2 技術サポートプラットフォーム

(2)市場ニーズ:集積の形成と発展の重要な推進力

 前世紀80年代初期、中国のレーザー研究は世界の上位にあったが、まだ多くの科学研究成果は産業化できておらず、国内ニーズを輸入でまかなうしかなかった。このような中、武漢東湖地区レーザー科学研究スタッフは、科学研究の成果と現実のニーズを結合させ、高新区内にイノベーション企業を立ち上げて、武漢及び全国のレーザー産業の発展を先導した。医療、自動車、鋼鉄、造船等下流産業の発展も、レーザー産業の成長に必要な場を与えた。武漢東湖地区レーザー産業の製品は幅広く、大、中、小の異なるランクのレーザー加工設備を含む。レーザー加工と医療設備の分野で、供給難度の大きい、高(高品質)、精(精密)、尖(洗練)な製品は、国内市場で首位を占める。企業生産は顧客のニーズに迎合し、逆に顧客のニーズも企業を絶えず刺激し革新させる。これが武漢レーザー産業クラスターのイノベーションと発展の好循環を促進した。

(3)企業構造:主要企業と中小企業の共存

 技術サポートと市場ニーズに引っ張られ、武漢にレーザー企業が生まれた。1985年、中国初の民営レーザー企業——楚天激光公司が、1994年、団結激光公司が誕生した。1997年、華中科技大学のレーザー加工国家工事研究センターが全面的に再編され、華工激光公司が設立された。上記3社の主要レーザー企業の影響のもと、武漢東湖高新区内に大小さまざまなレーザー企業がうまれ、完備した産業チェーンを持つレーザー産業クラスターが形成された。

(4)サービスシステム:産業発展のため全方位的サービスをする

 レーザー産業クラスターの発展を促進すべく、武漢東湖高新区に全方位サービスサポートシステムができた。まず「光谷」ができ、国家の光電子産業基地が大規模に建設されて、全国最大のレーザー産業基地の形成のための設備と環境のインフラができた。2014年6月、初回の国際レーザー産業サミットが中国で開催された。同時に、中国レーザー産業連盟、及び50億元規模の全国初のレーザー産業基金ができて、全国のレーザー企業のよりはやい発展、融資、市場入りに貢献した。武漢東湖高新区にある華中科技大学国家大学サイエンスパークに、2001年、レーザー加工及び設備産業化基地が落成した。

(5)政策支持:集積の形成と発展の重要な保障

 近年、中央と地方が、武漢レーザー産業の発展を奨励すべく、一連の計画と優遇政策を打ち出した。レーザー加工技術は国家の中長期科学技術発展計画を支える大事な技術であるとされ、国家の安全、国防建設、ハイテク産業化及び最先端科学技術の発展に関わっている。一方レーザー産業は先端製造分野の新型産業で、やはり国家が「十二五」期間に重点的に発展をサポートしている業種である。2013年、国家発展改革委員会は、4省1市に対して産業クラスター試験プロジェクトを実施し、連続3年、湖北レーザー産業に毎年無償で1億元を支援することとなった。湖北省はハイテク産業発展を支える税収優遇政策を打ちだし、武漢東湖新技術産業開発区が光電子情報等五大産業の発展を加速させるといういくつかの意見を支持した。武漢市も2013年に『武漢東湖新技術開発区のレーザー産業発展を加速させることに関する実施意見』を発表し、特別資金設立、イノベーション能力強化、企業育成力の強化、公共サービスプラットフォーム建設、レーザー産業基地の早急な建設等について、操作性の強い措置を提起した。

その10へつづく)


[1] 出典: http://laser.ofweek.com/2014-09/ART-240015-8120-28884720.html

[2] Thomas M. Baer, and Fred Schlachter, “Laser in Science and Industry: A Report to OSTP on the contribution of lasers to American jobs and the American economy”, report prepared for LaserFest 2010, June 15, 2010, http://www.laserfest.org/lasers/baer-schlachter.pdf

[3] http://laser.ofweek.com/2014-09/ART-8470-2400-28880504.html


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