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中国の大学発ベンチャー企業(科学技術型)について(その4)

2015年11月9日  陳 強(同済大学経済・管理学院管理科学与行程系教授)、
余 偉 (同済大学経済・管理学院博士課程)

その3よりつづき)

4.分散型から集団化への移行が進んでいる

 中国の大学科技型企業の多くは当初、大学の収入獲得や学生への実験機会提供のための校営工場であるか、特定プロジェクトの担当者による実験室・作業室であった。多くは小規模で、市場のリスクに抵抗する力が十分でなかった。だが北京大学清華大学の大学経営科技企業の制度改革以来、各大学の科技型企業の管理は科学的なものとなり、資産経営企業や研究開発企業、産業集団などが設立され、企業に対する大学の投資が統一的に管理されるようになった。これらの機構は、国有資産の価値の保持や増加の責任を負い、大学と企業の間の「防火壁」となった。企業は大学の行政管理を受けなくなると同時に、大学も企業運営で収益が得られるようになり、大学の研究成果の転化や研究経費の増加が促進された。中国の大学科技型企業の発展は、当初の分散型から、統合や整理を通じた集団化へとシフトしていった。

 中国のトップレベルの研究型大学の多くは現在、傘下の科技型企業を集団化の方向で発展・拡張させている。典型としては、北京大学清華大学華中科技大学復旦大学同済大学が挙げられる。これらの大学はそれぞれ、資産経営会社の「北大資産経営有限公司」「清華持株有限公司」「華中科大産業集団」「復旦復華」「同済大学科技株式実業有限公司」を設立し、企業の資産投資や有力学科の研究成果普及、サイエンスパークの不動産管理などの業務を進めている。大学の拡張モデルは次の3つに大別できる。

 第一に、「モジュール化拡張」。北京大学清華大学はこの拡張モデルを取る。このモデルにおいては、大学から派生した科技型企業のそれぞれが重点産業を持ち、各子会社が業務の相似性や関連性に基づいて「小グループ」を構成し、それぞれの小グループが「モジュール」を構成し、それぞれのモジュールが「産業群」を構成する。例えば北京大学は2002、北大資産経営公司を設立したが、傘下には「北大方正集団」「北大青鳥集団」「北大未名」「北大維信」「北大明徳科技」「北大高科」の3大派生企業群と3大派生企業が置かれた(図8参照)。この6者はそれぞれが重点を持ち、核心産業を中心として産業チェーンの拡張を進めた。方正集団は、分社設立や内部再編、合併などを通じて、情報産業と医療産業を中心としたグループを形成し、金融や不動産などの助けを借りて、企業への投融資を行った。また北大青鳥は、北京大学の研究プロジェクト「青鳥プロジェクト」から派生したもので、校営工場の統合や分社の設立などを通じて、「IT」「教育」「文化・メディア」「不動産」「原子力エネルギー平和利用」の5大産業を形成した。さらに北大未名は、バイオ経済体系の構築に力を注ぎ、「バイオ農業」「バイオエネルギー」「バイオ環境保護」「バイオサービス」「バイオ製造」「バイオ医薬品」の6大分野を形成した。前者2つの集団が複数の産業に拡張していったのと異なり、未名集団はバイオ分野での拡張に尽力し、「企業+バイオ基地」という二重軌道の発展を進め、科学技術を核として、また不動産を足掛かりに他省へと拡張していった。北大維信と北大高科、北大明徳はそれぞれ、北京大学の優れた研究成果を拠り所として、中医薬(漢方医薬)と食品工学、精密科学の開発を進め、北京大学の派生企業の6大モジュールの一角を担った。様々な学科が揃い、均衡の取れた研究型大学は多くがこの拡張モデルを取っている[1]

図8

図8 「モジュール化拡張」モデル

 第二に、「重点化拡張」。その代表は同済大学である。この拡張モデルでは、大学の優勢学科を中心に、学科の関連産業チェーンが形成されると同時に、その他の産業への投資も進められ、重点産業を中心にその他の産業によっても支えられる発展局面が形成された。同済大学は1993年、上海同済科技実業株式有限公司を制度改革によって創立した。同社は、同済大学の建築・土木系の学科の強みを活用し、不動産の開発や建設で高い実力を備え、傘下には、専門性の高い多くの土木工事関連会社を保有していた。不動産開発と調査、爆破、設計、管理監督、施工を統合し、不動産管理を主導業務とした都市建設科技産業チェーンを形成した(図9参照)。不動産開発の産業チェーンを整備すると同時に、同済科技実業有限公司は、同済大学のその他の学科にも研究成果移転のプラットフォームを提供した。同済大学の環境工学院を土台に設立された「同済環境工学科技公司」、校営工場と研究所の制度改正を通じて設立された「上海同済機電廠有限公司」や「上海放射免疫分析技術研究有限公司」は、同済大学から派生する科技型企業の産業分野を広げた(図10参照)[2]。こうした拡張方式は、特定の学科で際立った強みを持つ大学によって主に採用された。

図9

図9 「重点拡張」モデル

図10

図10 同済大学から派生した科技型企業

 第三に、「全産業チェーン拡張」。この拡張モデルは、農林系大学から派生した科技型企業で採用されている。このモデルは、「モジュール化拡張」が多元的に発展するのとは異なり、母体となる大学の有力学科を土台に企業の全産業チェーンにまたがる横向きの拡張が進められ、企業内部の各部門間には上下流産業の関係が反映される。北京林業大学を例に取ると、同大学を発起人としたハイテク企業「北京林大林業科技株式有限公司」を唯一の派生企業とする。同社は、「部門+分社+設計研究院+苗木生産基地」を主要な組織構造としており、その業務範囲は庭園の計画・緑化・施工などに集中している。多元的な拡張モデルとは異なり、北林科技の主軸はあくまで「庭園」であり、計画・設計・施工・メンテナンス・環境評価から、庭園の緑化に必要な草花・苗木・盆栽・芝生の供給まで、それぞれ相応する社内の部門によって支えられ、庭園緑化の全産業チェーンが形成されている[3]

図11

図11 「全産業チェーン拡張」モデル

その5へつづく)


[1] 北大国有資産管理弁公室[EB/OL]. http://web5.pku.edu.cn/gyzcgl/.2010-7-7.

[2] 上海同済科技実業株式有限公司[EB/OL]. http://www.tjkjsy.com.cn/.2010-1-3.

[3] 北京林大林業科技株式有限公司[EB/OL]. http://www.bfus.com.cn/index/.2010-3-3.


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