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中国の大学発ベンチャー企業(科学技術型)について(その7)

2015年11月19日  陳 強(同済大学経済・管理学院管理科学与行程系教授)、
余 偉 (同済大学経済・管理学院博士課程)

その6よりつづき)

3.2 北大方正

3.2.1 企業の概要

 北大方正グループ有限公司(略称「北大方正」)は、中国で最も高いイノベーション能力と影響力を誇るハイテク企業の一つで、北京大学の投資によって1986年に設立された。北京大学が70%、経営層が30%の株式を保有する。北大方正の創始者である中国科学院・工学院の王選院士は技術の決定者でもあり、その発明した漢字レーザー写真植字技術は方正集団創業の土台となった。方正グループは現在、多元的な投資持株グループへの転換に成功し、その業務分野は、ITや医療医薬、不動産、金融、大口商品貿易などに広がっている。2013年の総収入は680億元、総資産は960億元、純資産は339億元に達した。社内には5大産業グループがあり、3万5千人余りの従業員を抱え、国内の各重要都市に広がり、海外市場の開拓でも実績を上げている。さらに上海・深圳・香港の株式市場への上場企業6社を有している。

3.2.2 発展のプロセス

1.技術の研究開発段階(1975-1988)

 北大方正の歴史は1970年代にまで遡ることができる。その技術開発の歴史は、創始者の一人である王選院士によるレーザー漢字写真植字技術の研究開発の歴史と重なる。

 1970年代、コンピューター産業の発展に伴い、電子写植技術は欧文の印刷出版物に広く応用されるようになっていた。だが中国はコンピューターによる漢字の入力と出力という大きな技術的な難題があったために、鉛活字を並べるという遅れた方法に頼っており、漢字は「ピンイン化」の危機にさらされていた。国家政府部門と研究機構も問題の深刻さを認識し、1974年8月、第四機械工業部(現在の電子工業部)・第一機械工業部(現在の機械工業部)・中国科学院・新華社・国家出版局(現在の新聞出版署)の5団体が連名で、国務院と国家計画委員会に報告書を提出し、漢字の情報処理系統の開発を国家重点研究プロジェクトとすることを要請した。国家計画委員会はこれを認可し、「748プロジェクト」と名付けた。

 1976年、王選氏が「748プロジェクト」を担当することが正式に決まった。1981年7月11日、王選研究チームが開発した最初のレーザー漢字写植系統のサンプル機「華光I型」が、国家コンピューター工業総局と教育部の共同評定を通過し、「漢字情報の圧縮技術では国外の写植機に勝り、レーザーの出力精度とソフトウェアの一部機能では世界をリードする水準に達している」との高い評価を得た。この「華光I型」を土台として1983年には「華光II型」が開発された。さらに1987年に開発された「華光III型」は新聞社「経済日報」に採用され、レーザー写植による世界最初の中国語新聞の出版が実現した。長期にわたる研究活動を経て、王選院士の漢字レーザー写植技術はついに市場での成功を収めた。王選院士は1988年、北大方正の前身となる設立まもない北大新技術公司に加わり、プロジェクトの大学から市場への移行が開始された。

2.市場拡張段階(1988-1995)

 北大新技術公司と北京大学コンピューター技術研究所(現在の北大方正技術研究院)は1988年、王選研究チームが開発したレーザー写植印刷システムを中心として、機電部所属の山東濰坊華光コンピューター公司(後の華光系統総成廠)と協力し、「北大華光」シリーズのレーザー写植系統の開発・製造・販売を一体化した戦略を確立した。技術の高さと先進性、安い価格によって、「北大華光」シリーズのレーザー写植システムは国内の販売市場を急速に拡大した。1989年末までに、中国で写植システムの開発を進めていた外国企業はすべて中国大陸部の市場から撤退した。1994年4月22日、「西蔵日報」が方正のシステムによって印刷されたことで、すべての省級新聞の印刷系統がレーザー写植となり、北大方正は大陸部の99%の新聞業市場を占め、生産額は1988年の数十万元から1992年の4億元にまで成長し、一定の資金を蓄積し、利潤率は30%から40%に達した。従業員も当初の十数人から300人余りにまで増えた。販売とアフターサービスのシステムも整備が進められ、上海や広東などでは販売とメンテナンスのネットワークが構築された。

 1992年4月、北大新技術は北大方正に改名され、北大方正グループ公司(略称「方正グループ」))が正式に設立され、大規模発展の軌道に乗り、国内市場を開拓すると同時に、海外での発展にも目を向けた。1992年、北大方正は香港地区とカナダに出先機関を設け、国際市場進出をスタートさせた。その後は、香港を足がかりとして、香港・マカオ・台湾と東南アジアに拡張する戦略を取った。1995年には、方正マレーシアが設立され、東南アジアの新聞業と印刷出版市場の発展が進められた。同年12月、方正グループのIT主体業務を含む方正(香港)有限公司が香港で上場し、現在の方正ホールディングス有限公司のもととなった。1995年までに、北大方正の製品は香港とマカオの各大型新聞、台湾「中央日報」、マレーシア「亜洲時報」「光華日報」「星洲日報」「南洋商報」、米国「世界日報」「星島日報」などに採用され、方正システムの先進技術は世界の中国語出版業の印刷技術の革新の波を引っ張り、国内の新聞業市場の90%以上、海外の中国語出版市場の80%前後のシェアを占めるようになった。

3.IT多元化発展段階(1995-2002)

 中国語出版産業の成功を拠り所として、北大方正はまず、単一市場での資源の蓄積を実現した。北大方正グループはその後、多元化戦略を通じてさらなる拡張を進めた。

 1995年12月、方正グループのIT主体業務を含む方正(香港)有限公司が香港で上場し、現在の方正ホールディングス有限公司の下地を作った。北京ではさらに、方正ホールディングスの完全子会社の北大方正電子有限公司が設立された。方正グループは、従来のIT業務全体を北大方正電子有限公司に組み込み、方正グループは管理持株会社として、管理グループ化と事業の多元化の方向への発展を取り始めた。同年12月以前にはすでに、北大方正は、ソフトウェア開発とブランドの強みを生かしてコンピューターのハードウェア市場へと進出し、自社ブランドのコンピューターやディスプレイを発表し、すぐに市場での成功を収めていた。

 1998年5月、方正グループは、国内の上場企業である上海延中実業株式有限公司(現在の方正延中科技集団株式有限公司)を買収し、「方正コンピューター」や「方正プリンター」などの自主ブランドのハードウェア業務を方正電子公司から分離して方正科技へと移した。同年にはさらに、北大方正の外部状況にも急激な変化が起こった。IT技術の発展に伴い、コンピューターの速度と保存能力は、漢字レーザー写植を制限していた従来の問題を解消した。AdobeやIBMなどの有名なグローバル企業と、国内で新たに生まれていた浙大快迅や清華紫光などの企業が、中国語出版市場に次々と進出し、方正が独占していた利益にあずかるようになった。ソフトウェアの業績が大きく低下したことで、方正は98年、大きな危機を迎えた。この時、多元化戦略が方正の継続的な発展の動力を維持せしめた。ソフトウェア市場での業績悪化に見舞われた一方、方正はハードウェア業務で抜群の実績を収めた。2001年、方正のコンピューターの販売台数は135万台に達し、アジア太平洋地域のPC市場の7位につけた。

 2000年9月、方正ホールディングス有限公司は、香港の上場企業である栄文科技(方正数碼と改名)を買収した。方正電子の一部のシステム統合業務とインターネットサービス業務は分離され、方正数碼に移された。方正ホールディングスはさらに、方正電子から一部の開発資源を分離し、方正国際を設立し、日本と韓国のメディア出版業務を担当することとした。さらに方正電子の製品技術を拠り所として、北米や東南アジア地区の中国語メディア業務の展開も進め、2002年4月には、方正ホールディングス傘下の方正マレーシアがクアラルンプールで上場した。北大方正電子はこうして、IT業務の多元化発展と業務のスピンオフのプロセスを完了し、情報処理技術を核心として情報産業向けにクロスメディアネットワーク出版のソフトウェア技術・製品・販売・サービスを提供する業務構造を確立し、情報処理技術に専門に従事するソフトウェア企業となった。

4.業種をまたいだ多元化発展段階(2002-)

 2001年、王選教授の支持の下、方正グループは、「専門化を土台とした限られた多元化」という発展戦略の実施を始め、単一的なハイテク企業から多元化企業への転身をスタートした。2003年、方正グループは制度変革を行い、グループ管理の制度とモデルを整備し、グループの飛躍的な発展に活力を注いだ。

 方正グループは2002年8月には浙江証券を買収して証券分野に、2003年7月には蘇州鋼鉄集団有限公司を買収して製鉄市場に、同年8月には西南合成製薬総廠の主要株主となってバイオ製薬市場に進出した。さらにIT分野の開拓も続け、開発したApabiシリーズの電子版権保護システムで大成功を収め、国家情報産業部の「重大技術発明賞」を獲得した。

 北大方正の良好な業績発展は多くの投資家を引きつけた。方正グループは2004年7月、海外の投資銀行と初めて戦略協力関係を結んだ。同年11月には、グループのIT系プロジェクトが、国家開発銀行による長期プロジェクト建設融資を獲得した。

 方正グループは2009年初め、新たな3年間の発展戦略を打ち出し、「多元的な投資持株グループへと転換する」という発展目標を正式に打ち出した。2011年に創設25周年を迎えた方正グループは、革新的なビジネスモデルによって急速に発展し、「IT」「医療・医薬」「不動産」「金融」「大口商品取引」の5大産業で活躍する投資持株グループとしての転換に成功している。

その8へつづく)


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