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中国の大学発ベンチャー企業(科学技術型)について(その8)

2015年11月25日  陳 強(同済大学経済・管理学院管理科学与行程系教授)、
余 偉 (同済大学経済・管理学院博士課程)

その7よりつづき)

3.3 清華同方威視

3.3.1 企業の概要

 清華大学を母体とする威視股份有限公司は、放射線イメージング技術をコア技術とし、自前の知財権を持つ安全検査設備と安全検査システムを提供する企業である。清華大学の派生企業であることから、清華大学とは戦略協力関係を結んでいる。同社のコア製品(大型コンテナ/車両検査システム)は、清華大学の工学物理科を由来とする技術を土台としている。同社の製品は、放射線イメージング技術をコアとし、加速器技術・測定器技術・電子技術・コンピューター情報処理技術・自動制御技術・精密機械加工技術・放射線防護技術などを一体化したハイテク製品であり、多分野・多学科・多専門の技術の高度な統合と言える。そこには「オリジナル革新、統合革新、消化吸収・再革新」という革新理念が体現されている[1]

 同社は、「八五」(第8次5カ年計画、1991-1995)の難関突破プロジェクトを発端とし、20年近くの発展を経て、国際化した市場と多元化した製品、多国籍の顧客を持つハイテク企業として成長してきた。15シリーズの製品を数え、70余の機種を揃え、税関・民用航空・鉄道・公安・港湾・交通・品質検査などに応用されている。世界95カ国・地域に販売され、国際市場のシェアは50%に達している。威視の製品は国内では、税関・航空運輸・鉄道運輸・公共安全などに幅広く使われ、全国の空港や港湾、国境税関などに設置されている。2008年の北京五輪大会、2009年の建国60周年式典、2010年の上海万博と広州アジア競技大会、2011年の深圳ユニバーシアード競技大会など各種の大型イベントでも、様々な種類の1000基近くの安全検査設備を提供した。国外市場では、オーストラリアやマレーシア、アラブ首長国連邦、トルコ、ジンバブエ、アルゼンチンなど5大陸をカバーする130余りの国・地域に300基を超える製品を提供し、世界的な評価を得ている。

3.3.2 発展プロセス

1.課題研究段階(1991-1996)

 威視股份有限公司の歴史は、1991年に清華大学が請け負った「八五」期間の難関突破プロジェクト「大型コンテナ検査システムの研究」に遡る。大型コンテナ検査システムとは、コンテナ内の貨物を検査するための専用ハイテク設備で、コンテナを開けることなくすばやく検査を行うことができ、コンテナを利用した密輸を取り締まる重要な武器となる。高度な技術を必要とする複雑なシステムであったため、当時は世界でも英国とドイツ、フランスの3カ国しかこの製品のコア技術を掌握していなかった。国内での開発の成功は、中国の核技術産業に大きな意義を持つと考えられていた。

 清華大学はこの「大型コンテナ検査システム研究」の難関突破の任務を負った。国家の支出と大学の調達による各500万元の研究経費を利用し、研究チームは4年をかけ、加速器・核探査器・核電子・コンピューターネットワーク・ソフトウェア・コントロール・放射線保護・機械などの多くの分野のキーとなる技術の難題を次々と克服し、世界でも先端水準の技術成果を得た。1996年1月、「大型コンテナ検査システム研究」は検収を通過し、「八五」期間の「科技難関突破重大科技成果賞」を獲得した。中国は、独・仏・英に続き、コンテナ検査システムのコア技術を掌握した世界で4番目の国となった。産業と社会の発展に対する研究成果の大きな価値を知ったプロジェクト担当の研究者と清華大学は、取得した成果を市場へと広げようという考えを持つようになった。

2.産業化普及段階(1996-2001)

 清華大学は、「帯土移植,回報苗圃」(研究成果を人員やプラットフォームとともに外部へと移転し、その利益を大学側に還元する)という産業化構想に基づき、大型コンテナ検査システムの研究成果の移転事業に着手した。大学は1996年7月、大学企業グループを窓口としてシステムの産業化を担当させることを決め、実体の企業を主体として産業化任務を請け負うという構想とプランを確定した。同年11月、税関総署は清華大学と合意を締結し、同システムの産業化プロセスを加速するために200万元を出資することを決めた。同年12月、清華大学企業グループは、実体企業を主体として産業化任務を請け負うためのプランの作成にとりかかった。1997年7月、威視股份有限公司の前身となる「清華同方核技術公司」が正式に設立され、「大型コンテナ検査システム」はついに自らの「家」を持つようになった。

 多方面からの支持と期待を得て、産業化の任務は計画通り完了した。1998 年1月、大型コンテナ検査システムは製品化の審査を通過し、大きな一歩を歩んだ。同年11月26日には、清華同方核技術公司と中国税関総署が「H986プロジェクト実施に関する枠組み協定」を締結し、1998年から2000年までの3年間での大型コンテナ検査システム10基の発注で合意した。1999年12月30日、固定式大型コンテナ検査システム「同方威視」が天津東港の税関で運用開始となり、大型コンテナ検査システム産業化プロジェクトの発展にとって大きな意義を持つ日となった。その後、同社の製品は急速に国内市場に広まり、2000年12月28日までに、北京や上海、天津など9都市に検査システム10基以上が設置され、システムの正常稼働率は99%を超え、ユーザーからの高い評価を得た。さらに大型案件や重要案件での取り締まりにも次々と成功し、中国の税関における密輸犯罪の摘発に大きく貢献した。2001年5月23日には、中国税関と「H986プロジェクト二期移動式コンテナ検査システム契約」を締結し、「同方威視」の受注契約は40基に達し、市場シェアは世界トップとなった。

 清華同方核技術公司は同時に、大量の技術開発を引き続き展開した。1999年、清華大学工学物理科は同方威視技術株式有限公司と協力し、世界初の加速器を放射源とした車載移動式コンテナ検査システムと、組み合わせ式の移動式コンテナ検査システムの開発に成功し、各性能指標は国外の同類製品を全面的に上回った。これは、中国がコンテナ検査システム技術の分野で米国やドイツなどの先進国を上回り、世界をリードする水準に達したことを示すと同時に、同社のその後の国際化戦略に土台を提供した。

 「大型コンテナ検査システム」の産業化の順調な進展に伴い、清華同方核技術公司は、国内市場の開拓で資本の原始的蓄積を実現した。2000年12月、清華同方核技術公司は、清華同方核技術株式有限公司に制度を変更し、清華同方が76%の株式を保有することとなった。同社は大学の環境からさらに離れ、市場化されたハイテク企業として成長した。

3.拡張段階(2001-)

 核技術公司の設立は、「大型コンテナ検査システム」の技術を製品に転化するためのものだった。製品の開発に成功し、中国税関への40基の設備の納入を完了した後、同社はいかに発展を続けていくかという問題に直面した。経営層は、国際市場を突破口とすることを選び、放射線イメージングのコア技術をめぐって、「大安全戦略」を実施し、世界最大の専門貨物検査設備の供給元として発展していった。

 2000年初め、オーストラリアの税関局は、コンテナ検査設備の入札募集を世界に向けて行った。オーストラリアは、清華同方核技術公司という当時は無名だった企業の入札書類を見て、その内容が最も詳しく、最も全面的だったことに驚いた。その後の視察でも、オーストラリアは、同方が設計したプランが期待に合致しているだけでなく、使用と操作の簡便性などの多くの面で予想以上に周到に考えられていることを発見した。同方の技術プランは最終的に顧客の信頼を得ることとなり、2001年5月30日、オーストラリア税関局は同社と北京で、組み合わせ式の移動式コンテナ検査システム「同方威視」2基の購入契約を締結した。同社はこうして国際市場への参入を成功させ、威視株式の発展にとっての画期的な成果を上げた。

 その後2001年7月、同方核技術株式有限公司はアラブ首長国連邦の入札に参加した。ドバイ港での実地試験では、中国企業の製品が群を抜いており、高い実力を誇るドイツと米国の競争相手を負かし、湾岸6カ国を驚かせた。アラブ首長国連邦は、試験で使われた設備をその場で購入した。「威視」のブランドは国際市場で一挙に有名となった。2002年3月3日、同社は社名を清華同方威視技術股份有限公司に正式に改名した。

 この後、威視股份有限公司は、海外市場の開拓を通じて急成長を維持し、年間販売額は2000年の1.75億元から2008年には24.39億元に増加し、年間平均成長率は34%に達した。2007年4月までに、威視股份有限公司は海外60余りの国・地域から200基余りを受注し、コンテナ検査システムの実践経験が世界で最も豊かで、設置量が最も多いメーカーの一つとなった。このほか特許出願数も毎年100%の速度で増えた。2008年第3四半期までに、威視股份有限公司は国内特許510件と国外特許318件を出願し、同方株式全体の特許数の50%近くを占めた。

 海外市場の開拓と同時に、威視股份有限公司は、自身の製品ラインの拡大も進め、「大安全」というコンセプトの下で製品の多元化戦略を実施した。同社は一方で、既存の製品の技術のアップグレードを絶えず進め、それまでの技術を更新することで、照射するエネルギーを二重にしたり、単一の視点を複数にしたり、検査の速度を上げたりといった技術上の改善を実現した。もう一方では、「威視」シリーズの製品の機能も多様化を実現し、初期のコンテナだけの検査から、荷物検査や液体・放射性物質検査、毒物・爆発物検査などに対応した複数の製品ラインを形成した。同社はさらに、顧客の業界の多様化も実現し、それまでの税関の密輸摘発から、民用航空や鉄道、港湾、公共の場所などへと広がり、多様な顧客のニーズに応えるようになった。

 威視股份有限公司は2008年通年で大型コンテナ検査設備91基と小型検査設備178基を受注し、海外顧客は2007年の67カ国・地域から88カ国・地域に増えた。北京五輪大会をチャンスとして、五輪大会に向けた安全保障や民用航空、鉄道などのターゲット市場での販売を強化し、1400基近くの小型設備と12基の大型設備の販売を実現させた。このうち北京五輪大会の安全検査設備の提供元として、2007年に引き続きリース形式で五輪大会向けに安全検査設備を提供したほか、イオン移動度分析技術に基づく携帯式の微量爆発物測定器や、二重エネルギー・二重視角のコンテナ車両検査システムなどの大型設備2基、小型設備686基を受注し、世界が金融危機にあえぐ中で良好な業績を維持した。

その9へつづく)


[1] 胡海峰.「インキュベーション、移転、フィードバック、連盟:大学派生企業の革新発展の道――威視株式公司を例に」[J].『中国軟科学』,2010(7):58-63.


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