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中国経済はどこに行くのか―「中国製造2025」をめぐる考察(その2)

2015年11月24日

周 建波

周 建波:北京大学経済学院 教授

略歴

1965年5月生まれ。山東省莱陽市出身、北京大学経済学院教授、博士指導教員、愛知大学国際中国学研究センター訪問教授。シンガポール、スイス、カナダ、エジプト、UAE、アメリカ等でも学生指導、研究活動に従事。中国経済思想史学会副会長、北京大学社会経済史研究所執行所長、北京大学市場経済研究センター常務副主任等を兼任。
『経済学季刊』、『北京大学学報』、『中国経済史研究』、『経済学動態』、『管理世界』、『中国工業経済』等の主要雑誌にて100篇以上の論文を発表。
主な著書:『洋務運動与中国早期現代化思想』(2002年北京大学第八回科研著作二等賞、北京市優秀科研著作二等賞、中国経済思想史学会一等賞、北京大学改革開放三十年優秀著作提名賞)、『営銷管理:理論与実務』(2008年中国市場学会改革開放三十年優秀営銷著作賞)、『成敗晋商』(2008年中国経済思想史学会優秀著作一等賞)

その1より続き)

二、中国経済の苦境脱却のための努力

 製造業コスト上昇の圧力に対応するため、中国では政府と民間を挙げた次のような努力がなされている。

1、ロボットによる労働力代替で生産コスト引き下げ

 珠江デルタ地区や長江デルタ地区、膠東半島などの地では、ロボットを使用するメーカーが増え、「鉄甲の大軍」を形成している。例えば国内最大の委託生産企業である富士康公司は、3年以内に100万台の工業ロボットの使用を開始することを宣言した。主な目的はコストを抑えることにある。同社はさらに、山西省晋城にロボット工業パークを投資設立し、自ら工業ロボットの生産に乗り出している。同社の設立者である郭台銘氏は、管理の過度な厳しさから批判を受けていたが、「ロボット戦略」によって富士康の企業イメージを完全に一新しようとしている。郭氏は、「人間が機械によってコントロールされるのではなく、人間が機械をコントロールしなければならない。単調な繰り返しの仕事はロボットに任せ、そうした仕事から従業員を解放しなければならない」と訴える。郭氏によると、ロボットの運用が始まれば、人的資源はより高い付加価値の産出へと移される。単調な仕事を嫌う80年代生まれや90年代生まれの若い従業員は、ロボットのソフトウェアやアプリケーション、メンテナンスを学ぶことで、ロボットのアプリケーションエンジニアやソフトウェアエンジニアとなる道も開ける。

 中国のロボット使用量の増加に伴い、多くの工業ロボットの世界大手、KUKAやABB、FANUCなどが、中国市場を「未来を決する戦場」と考えるようになっている。ABBロボット業務の中国エリアを統轄する顧純元博士によると、業界内では、中国があと数年でロボット稼働台数世界一となるという見方が支配的となっている。中国のロボット企業も負けてはいない。瀋陽や西安などではロボットの研究開発が加速しており、珠江デルタ地区では急速な応用が進んでいる。深圳市では2015年4月、企業や大学、研究所、投資機構36団体が「ロボット産学研資(産業・学術・研究・資本)連盟」を共同設立している。

2、インターネットやビッグデータの活用による流通コスト引き下げ

 最も典型的な例は、馬雲の「淘宝網」や「雲銀行」である。図書発行の分野では当当網やアマゾン・ドット・コム、タクシー配車の分野では「嘀嘀打車」がある。現段階では、中国のインターネット技術は流通分野に多く応用されている。これは中国がちょうど新たな商業革命の時期にあり、インターネットが流通費用引き下げの面で重要な役割を発揮するということと密接に関係している。これと比較すると、欧米や日本などの先進国では商業革命がすでに完了しており、インターネットが流通分野で力を発揮する余地は小さく、多くが製造分野に応用されている。そのねらいは、グローバル化した企業の運営コストを下げることにある。

 考えてみてほしい。ある人が一度に「二鍋頭」(中国の大衆酒)を一本しか買えないとする。この人はどこに行って買うだろうか。雑貨店である。この雑貨店には精算カウンターと店員がいなければならない。なぜならば、一度に一本しか酒を買えないということは、この人は貧しく、正しい教育を受けているとは考えられず、専門的な店員の案内を受けなければならないからである。またこの人が貧しいということは、窃盗という間違いを犯してしまうかもしれないということを意味しており、これを防止するためのカウンターが必要となる。これこそが1980年代の中国の商業の状況であった。生活レベルの向上に伴い、この人が一度に一箱の「二鍋頭」を買って帰ることができるようになると、雑貨店の面積では足りなくなり、各種の専門商店が現れた。日用品を販売するスーパーや衣類や革靴を販売する専門店が現れ、カルフールやウォルマートなどの大型商店も出現した。共通する特徴は、雑貨店のようなカウンターが取り除かれ、顧客が店内で自由に品物を選べるようになったということである。店員の数は大幅に減少した。これが1990年代に中国で起こった爆発的な商業革命の状況である。その原因は、庶民の生活レベルが向上し、より高い教育を受けるようになり、案内役の店員の必要性が自然と減ったことにある。生活レベルの向上は、外部の誘惑に抗う能力も高まったことを意味し、防犯用としてのカウンターも取り除かれることとなった。庶民の生活レベルがさらに高まり、この人が一度に一箱の「茅台酒」(高級酒)を買って帰れるようになると、次の商業革命が勃発する条件が整う。メーカーは、中間部分を省いて商品を直接消費者に渡せるということを発見する。これこそが、日用品販売分野の「淘宝網」や図書発行分野の「当当網」「アマゾン・ドット・コム」、交通分野の「嘀嘀打車」などの人気の原因であり、「ビッグデータ」や「クロスボーダー」などがメディアをにぎわすことにもつながった。顧客の収入が高まり、購買力が上がり、企業にさらに多くの利潤がもたらされるようになると、企業は、顧客に関連するデータを自ら収集・保存・整理するようになったためである。また顧客の購買力の増強は、企業がより多くの利潤を上げるため、従来の単一商品の制限を突破し、顧客に多くの種類の商品によるサービスを提供するということにつながる。これこそが「クロスボーダー」である。中国では現在、この商業革命が勢いよく進行している。

 だが新商品を生産し、収入の高まる庶民の新たな需要を満たすという面では、中国企業はなかなか成果を上げられていない。政府と民間を挙げて内需を刺激し続けても、庶民の需要を満たすに足る新商品は生まれていない。中国人は国内の商品を信頼しなくなり、次々に国外に行って買い物をするようになる。中国企業はこの分野で大きな発展の可能性があり、さらなる努力が必要となっている。

 コストが高まり続けていることについて、中国社会には、高コストの悪い所だけを論じ、良い所を論じないという偏向が見られる。そのために庶民が必要としている新商品の開発の面での準備が欠けている。高コストのもう一つの面は高収入である。中国で急速に上昇している消費需要は未来の市場の主力となることに間違いなく、企業界はこれを重視する必要がある。

 クレディ・スイス・ファースト・ボストンの理事でアジア地区のチーフエコノミストを務める陶冬氏は、過去8年間で中国の一線都市(北京、上海、広州、天津、深セン)の不動産価格は3.4倍となったが、同時期、中国の民間の健康産業市場は5倍、中国の映画産業の興行収入は9倍、中国のオンライン購入は55倍、中国の民間資産管理産業は100倍に膨れ上がったと指摘する。今年2月の中国の映画興行収入は史上初めて米国を超え、世界最高峰に立った。これは中国の新たな消費によって加わった生産額である。人々の消費構造は変化している。例えば欧米式ファストフード店での消費は下がっているが、欧米式のコーヒー店の売上は上がっている。企業家は、市場の需要の変化を発見する目を持たなければならない。

その3へつづく)


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