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海洋漁業産業クラスター研究概論(その2)

2015年12月28日 秦宏、馬添(中国海洋大学管理学院)

その1よりつづき)

4 経済発展に対する海洋漁業産業クラスターの影響

 海洋・漁業産業クラスターの影響についての海外の研究は主に、地域経済の発展に対する海洋・漁業産業クラスターの影響に集中している。例えばBess[31]は、ニ ュージーランドの水産品産業の発展に対する海洋漁業経営の所有権の影響を分析した。オークランド地区委員会は、未来の産業発展の動向についての報告の中で、海 洋産業を含む産業クラスターの形成が地域発展の刺激に積極的な役割を果たすとの認識を示している。米国人研究者は、ボストン地区の建設についての報告の中で、海洋経済パークを建設すべきだとし、そ の建設は海洋産業クラスター実現のための重要な形式となると指摘した。

 中国では、海洋・漁業産業クラスターの影響について、海外よりも幅広い研究がなされている。例えば馬雯月[32]は、海洋産業の集積と国際協力の研究を通じて、海洋産業の集積化発展は、中 国海洋産業の発展水準を高めるための必然的な選択だと結論づけている。盛国勇ら[24]は、漁業産業クラスターが漁業生産の構造の最適化を促進し、国内外の水産品市場の開拓の力となり、漁 業の近代化の実現を加速すると指摘している。于謹凱ら[33]は、「点―軸」理論に基づき、中国の海洋産業の集中係数を比較し、漁業や臨海観光、海洋運輸業は高い集中係数を備えており、そ の他の産業に比べて際立った集積と牽引の働きを持っていると結論づけている。王文彬[26]は、漁業産業クラスターの発展は、漁業経済発展の加速器となるもので、産 業構造の調整や地域経済の協調発展の推進に重要な役割を担っていると指摘している。

5 海洋漁業産業クラスターが直面する問題と対策

 既存の海洋漁業産業クラスターの研究においては、徐勝[34]が、山東省海洋産業クラスターに対する推測とグレー相関分析を通じて、山 東省ですでに形成されたと言える産業クラスターは海洋塩業産業クラスターだけであり、まだ海洋産業クラスターを形成しているとは言えず、その他の主要海洋産業もクラスター化の傾向を示しているとし、第 一次産業クラスター、とりわけ海洋漁業産業クラスターの発展をさらに進め、その他の第二次・第三次産業クラスターも発展させていくべきだとしている。

 韓立紅ら[29]は、山東省の海洋漁業産業クラスターの発展は、海洋生態環境の悪化や産業構造のレベルの低さ、クラスターの総合設備や集約化の程度の低さなどの問題に直面しているとし、産 業クラスターのさらに高いレベルへの向上や産業構造の調整・最適化、近代海洋漁業産業体系の構築などの対策を提案した。盛国勇らは、湖北省の漁業のクラスター化発展における漁業の経済収益の低さや漁業生産構造の非合理性、漁業組織の発展の遅れ、漁業産品の流通能力の不足などの問題について、(1)養殖業を先頭として、漁 業産業チェーンの発展を促進する、(2)それぞれの土地にあった措置を講じ、最適の漁業産業クラスターモデルを選択する、(3)政府の支援の役割を十分に発揮させる――などの対策を提案している。

6 簡単な論評と将来の研究に対する展望

 全体としてみると、国内外の関連文献・論文の多くが、農業産業クラスターと海洋産業クラスター、漁業産業クラスター(淡水漁業と海洋漁業を含む)の研究に集中している。海 洋漁業産業クラスターに特化して研究した論文は少なく、これを専門とした研究書もない。既存の研究は主に、農業産業クラスターの研究の視点と成果を参考として展開されたものであり、海 洋漁業産業の特徴を有機的に結びつけて革新に至ったものではない。あるいは海洋産業クラスターの研究時に、そのうちの一つのグループとして簡単に触れられるだけで、立ち入ったものとなっていない。海 洋漁業産業クラスターの実践が沿岸各地で急速に発展しているのと比べれば、海洋漁業産業クラスターの研究は遅れており、まだスタート段階にあると言える。将来の研究においては、次 の点でさらなる取り組みが求められる。

6.1 海洋漁業産業クラスターの概念とその構成を科学的に画定する

 海洋漁業産業クラスターの概念はまだ十分には形成されておらず、統一もされていない。これは、後続のさらに立ち入った分析をする際の視点や範囲、結論に影響を及ぼしている。

 海洋漁業産業は、農業のカテゴリーにおいてクラスター化の優勢をもともと持った産業であるが、農業産業一般とは明確な区別がある。海洋漁業産業クラスターの発展は、従来の意味での農業(淡水漁業含む)産 業クラスターのカテゴリーを超え、はっきりとした独自の特徴を備えている。第一に、クラスターの経済活動という角度から見ると、従来の意味での農業産業クラスターの関連活動だけにかかわるものではない。生産( 海水養殖業)、加工(海産品加工業)、販売(海産品貿易業)のほか、海水種苗業や海洋捕獲業(近海と遠洋での捕獲を含む)、海産品コールドチェーン物流業、海洋漁業資源保護・増殖業、漁業港湾、漁業用物資業、漁 業船舶建造修理業など、特有の一連の活動にかかわるものである。関連する産業分野がより広く、総合性がより強く、集積効果がより際立ち、クラスターの牽引力がより大きい。

 第二に、クラスターの構成という角度から見ると、従来の意味での農業産業クラスターのサブクラスターだけにかかわるものではない。農業生産(海水養殖)サブクラスターと食品加工(海産品加工)サ ブクラスター、農場投入製造(漁業用物資)サブクラスターのほか、海洋捕獲サブクラスターや漁業港湾サブクラスターなど特有のサブクラスターがある。グローバル経済の一体化への参加を全面的に深めていく中で、海 洋漁業の特徴を適切に考慮し、海洋漁業産業クラスターの内実と構成をさらに拡大・規範化し、海洋漁業産業クラスターをマルチレベルで全方向的に理解・研究する必要がある。

6.2 実地調査を重視し、理論的思考を強化し、海洋漁業産業クラスターの属性の特徴をさらに探究し、海洋漁業産業クラスターの理論の枠組みを系統的に構築する

 現在の海洋漁業産業クラスター研究の視点の多くが、特定の地域における海洋漁業産業クラスターの発展の実情を分析したものである。研究内容は、その特徴や問題、地域経済の発展に対する働き、発 展加速のための対策の分析に集中している。クラスターの研究とは銘打っていても、海洋漁業産業クラスターの性質や特徴についての理論的な思考が欠け、分析の視点が制限され、深い分析が十分にはできていない。海 洋漁業産業クラスターに対する立ち入った実地調査が不十分で、発展のための対策や提案も理論に偏ったものが多く、照準が定まっていないこともある。既存の研究方法の多くは定性分析の段階にとどまり、定 量研究は少ない。

 海洋漁業産業クラスターは、独特な自然属性、経済属性、空間属性、資源属性、生態属性を備えている。その形成と発展は、空間という角度から言うと、陸地空間にかかわると同時に、沿岸や海岸、海 域の空間にもかかわる。資源という角度から言うと、陸地資源にかかわると同時に、海域資源にもかかわる。生態の角度から言うと、海域の生態環境に大きく依存している。自然と経済の角度から言うと、海 洋生物の自然的再生産の面があると同時に、人類の経済的再生産の面もある。農業産業クラスターとは違い、工業産業クラスターとも異なる自身の特殊性がある。

 これらのことから、将来の研究においては、海洋漁業産業クラスターの属性の特徴や形成条件、形成メカニズム、発展モデル、影響要因などの研究を深め、クラスター集積度の測定・分析やクラスターの成果( クラスター自身の成果と地域経済の発展に対する働きを含む)の評価、海洋漁業産業クラスターの発展に対する政策誘導の役割、ク ラスター発展プロセスにおける制度の進化などの研究を全面的に展開する必要があると考えられる。

(おわり)

参考文献:

[24] 盛国勇, 夏厚俊, 呉暁斌. 湖北漁業集群化発展的研究与思考[J].安徽農業科学, 2008, 36(4): 1688-1689.

[26] 王文彬. 加快漁業産業集群発展的対策和建議[J].漁業致富指南, 2011, 2: 15-16.

[31] Bess R. New Zealand maori claims to fisheries resources[J]. Marine Policy, 2001, 25(1): 23-32.

[32] 馬雯月. 開放経済視角下的海洋産業発展 [D].青島: 中国海洋大学, 2008.

[33] 于謹凱, 于海楠, 劉曙光, 等.我国海洋経済区産業布局模型及評価体系分析[J].産業経済研究, 2009, 2: 55-62.

[34] 徐勝, 楊娟. 山東省海洋産業集群発展対策研究 [J].中国漁業経済, 2012, 30(1): 104-106.


謹賀新年

 

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