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核分裂エネルギーの持続可能発展を求めて―「未来の先進核分裂エネルギー―ADS転換システム」戦略的先導科学技術特定プロジェクトとその進展(その2)

2016年1月28日 中国科学院
「未来の先進核分裂エネルギー―ADS転換システム」戦略的先導科学技術特定プロジェクト研究チーム

その1よりつづき)

3 ADS先導特定プロジェクトの概況と成果の紹介

3.1 立案の背景と総体目標

 中国科学院は、中国の原子力の持続可能発展の重大ニーズと既存の研究開発の手配に基づき、国際的な発展の傾向を考慮し、技術の実現可能性から出発し、中国のADS発展のロードマップを打ち出した(図3)[3]

図3

図3 中国ADS発展ロードマップ

 第一段階:原理検証-加速器駆動転換研究装置。ADSシステムのユニットの要となる技術問題を解決し、技術路線を確定し、小システムの統合を実現し、装置全体の統合のレベルからADSの各項の重大なキー技術とシステム統合、ADSのテスト・調整の経験を掌握し、ADSのデモンストレーション装置の建設に向けて土台を築く。

 第二段階:技術検証-加速器駆動転換デモンストレーション装置。加速器とターゲット、原子炉のシステムの指標を高め、「~1GeV@10mA/CW加速器駆動~0.5GWt」の未臨界炉システムを完成させ、システムの信頼性を高め、利用可能性を75%以上に高め、工業で求められるレベルへの到達を実現する。工学技術の検証を実現し、信頼性と燃料、材料の問題を解決し、工業普及装置の燃料と材料の選択を確定する。

 第三段階:工業への普及を図り、企業が主導しシステムを~GWt級へと拡大し、運転の信頼性とシステムの経済性の検証と工業への応用を実現する。

 2009年から2010年にかけての深く掘り下げた系統的な準備と検討、洗練を経て、中国科学院は、数回にわたるハイレベルの専門家による諮問・評議会を組織し、核廃棄物の転換にとってADSが合理的な選択肢であるとの判断を下した。同時に、中国の核廃棄物の蓄積速度を考えれば、ADSシステムを2030年前後に実際に使用し始めることが是が非でも必要であり、ADSの研究開発の加速が不可欠であるとした。このため、2011年1月には「ADS先導特定プロジェクト」が開始された。このプロジェクトは、中国の原子力発展の戦略ニーズに向けて、ADSの第一段階の原理検証をターゲットとし、ADSの加速器と破砕ターゲット、反応炉システムの各部分の要となる技術問題の解決に取り組んだ。これには、▽大強度・高効率・高信頼性の陽子加速技術でのブレークスルーをはかる、▽高出力の重金属破砕ターゲットと冷却剤のキー技術でのブレークスルーをはかる、▽未臨界の高速中性子炉に関連するキー技術でのブレークスルーをはかる、▽デモンストレーション装置のニーズに基づいて展望的な研究活動を展開し、ADS研究に必要なプラットフォームの土台を発展させる――などが含まれる。また「十二五」(第12期5カ年計画、2011-2015)の国家重大科学技術インフラ「加速器駆動転換研究装置」(China Initiative Accelerator Driven System、略称CIADS)建設プロジェクトの支援を利用し、装置全体の統合のレベルからADSの各項目の重大キー技術とシステム統合、ADSテスト・調整の経験を掌握し、今後のADSデモンストレーション装置の建設に向けた土台を築いた。先導特定プロジェクトの実施プランに基づいて、「総体プラント関連基礎研究」「陽子線形加速器」「重金属破砕ターゲット」「未臨界反応炉」「プラットフォームと総合施設」の主に5つのプロジェクト級の研究活動を手配した。中国科学院近代物理研究所や高エネルギー物理研究所、合肥物質科学院、中国科学技術大学が中心となって研究を請け負い、院内外のその他の関連研究機関も参加した。

3.2 段階的な成果と進展

 世界にはまだ、ADSの統合システムが完成した先例はなく、中国のADS研究開発はチャンスと挑戦とに直面している。加速器にかかわる挑戦としては、工業級ADS装置で要求される陽子加速器のビーム出力は10MW以上だが、現在世界で運転中の最大出力は約1.4MWであることが挙げられる。またADSシステムにおいて加速器の運転に求められる信頼性も現在の加速器をはるかに上回っている。破砕ターゲットの面ではまず、コンパクトな空間における10MW以上のビーム出力で引き起こされた熱の堆積をいかに効率的に移動させるかが問題になる。またターゲットと加速器、反応炉のカップリング問題と、極端な条件(高温、強照射、腐食など)の下で稼働する構造材料の問題を有効に解決する必要もある。ADS未臨界反応炉システムによってもたらされる新たな問題としてはさらに、炉心出力の不均等の問題、新型冷却剤の問題、加速器のビームトリップによる熱衝撃の問題、燃焼度の高まりによってもたらされる燃料部品や材料の問題などが挙げられる。このほかADSの核燃料にかかわる使用済み燃料中のウランやプルトニウムの分離、MAの分離、新型燃料モジュールの製造などの難題がある。

 先導特定プロジェクトの開始以来、超伝導陽子線形加速器や重金属破砕ターゲット、未臨界反応炉、原子力材料などの研究では、重要な進展やブレークスルーが実現され、一部のキー技術は、世界をリードする最先端の水準に到達している。

3.2.1 超伝導陽子線形加速器

 イオン源やRFQ(高周波四重極)加速器、低ベータ超伝導空洞、高出力カプラー、出力源、超伝導磁性体、低温恒温器など、超伝導線形加速器に必要な各技術でブレークスルーを実現し、システム統合研究段階への転換を開始した。

 各技術のブレークスルーの面ではまず、安定性の高い大強度陽子源の開発に成功した。また162.5MHz@2.1 MeV ADS RFQ加速器は、中国科学院重大科学技術任務局の組織した専門家による現場での技術テストを通過した。米国ロスアラモス国立研究所のLEDA RFQに続き、世界で2番目の10mA以上の連続波陽子ビームRFQ加速器となった。また世界で安定稼働されている連続波イオンビームRFQ加速器のうち、ビーム強度が最高のものともなった。325MHz@3.2MeV ADS RFQ 加速器のビーム平均出力は世界最高に達している。Spoke012超伝導空洞は、現在世界でベータ値が最低のSpoke空洞であり、すでにSpoke012デュアル空洞のシステム統合と2K低温下でのビームの稼働を実現している。Spoke012とSpoke021、HWR010の超伝導空洞の垂直テストでの性能指標は世界の先端水準に達している。

 システム統合の面では、入射器II低エネルギーエリアのプロトタイプが、エネルギー2.55MeV、最大強度11mAの連続波陽子ビームを引き出すことに成功し、ビーム出力は9.6kWに達した。このビーム出力は、現在世界で連続ビーム運転を行っている超伝導陽子線形加速器のうちで最高に達し、中国の大強度陽子超伝導線形加速器技術が世界の先頭に立ったことを象徴する成果となった。

3.2.2 重金属破砕ターゲット

 新型の流態固体粒子ターゲットのコンセプトを独自に打ち出し、初期的な設計を終え、電子ビームとカップリングした小型装置による原理検証のためのベンチテストを成功させた。このやり方では、固態ターゲットと液態ターゲットの長所が融合され、固体小球の流動を通じてターゲットエリア外の冷却が実現された。放射生成物の毒性が高い、温度・材料腐食効果が深刻であるという液体鉛ビスマス合金ターゲットの欠点と、熱除去が難しいなどの固体ターゲットの欠点を回避するものとなった。物理的には、数10MWのビーム出力に耐えることのできる実現可能性を備え、同分野の専門家はこれを積極的に評価し、これに注目している。欧州原子核研究機構(CERN)はすでに、欧州の多くの実験室と連携してビーム実験を展開しており、ベルギーのMYRRHAチームもすでに人員と経費を手配して関連設計を展開している。粒子流ターゲットに基づく各項目の技術検証とベンチテストはすでに全面的に始動している。

3.2.3 未臨界反応炉

 臨界と加速器駆動未臨界のデュアルモデルの運転能力を備えた革新型の10 MW ADS鉛ビスマス冷却研究実験炉の細かいプラン設計を完了し、世界の同業の専門家の一連の技術審査と設計評価を通過した。多機能の鉛ビスマス炉技術の総合実験回路KYLIN-IIを完成させ、マテリアルサービス・熱水力学・安全実験を一体化し、国内の同業専門家からは、「KYLIN-IIの技術指数と規模は世界をリードする水準にある」との評価を受けた。これは、鉛ビスマス炉のマテリアルサービス性能・熱水力学・受動的余熱除去技術・炉事故安全特性などに基礎研究と工学検証プラットフォームを提供している。また鉛ビスマス環境下の燃料交換機構と制御棒駆動機構などのCIADS 装置用鉛ビスマス冷却反応炉のキー部品のサンプル機の研究開発と鉛基炉工学技術統合試験装置CLEAR-Sの工学設計も完了し、2016年には建設が終わって実験が始められる計画が立てられている。鉛基ゼロ出力装置の物理・工学設計を完了し、建設の環境影響評価と安全性分析の認可を獲得した。計画によると、ゼロ出力装置は2016年9月に建設を完了し、実験を開始する。

3.2.4 プラットフォームと総合施設

 超伝導空洞溶接加工工法実験室や超伝導空洞処理・測試プラットフォーム、低温ステーション、乙級放射化学実験・放射化学材料計算プラットフォーム、核材料照射/放射/高温協同作用総合実験プラットフォーム、破砕ターゲット設計シミュレーション・ソフト/ハードウェアプラットフォーム、核データ測量プラットフォーム、液態鉛ビスマス破砕ターゲットキー技術研究プラットフォームなどを完成させ、先導特定プロジェクトの各項目の研究活動の順調な推進を確保した。

3.2.5 総体プランと建設場所の選定

 国家「十二五」重大科学技術インフラCIADS総体設計プランを確定し、プロジェクト提案書を作成した。国家発展・改革委員会は専門家を組織し、プロジェクト提案書に対して立案に向けた論証を行った。また建設場所を選定し、新パークの立地に対する初期的な実現可能性分析報告と選出段階の環境影響報告を行った。

3.2.6 今後の研究の展望

 材料研究の面では、自前で調製・開発したSIMP鋼が、現在世界で主流の原子力装置用の耐照射構造材料を優るかこれに並ぶ性能指標を記録し、原子力装置の新たな構造材料の候補として期待されている。現在、2トン級の製造を完了し、すでに5トン級の工業規模の製造を開始している。同時に、SiC複合繊維材料研究開発を展開し、2015年末には、第3世代SiC複合繊維のパイロット生産ラインの建設を実現する計画である。核燃料の製造の面では、ウランナノ材料の製造と一連のアクチノイド系有機化合物結晶体の合成を完了し、粒径の異なるウラン球とセリウム球を作り出した。反応炉の先進2ループ設計の面では、主要な熱交換器や熱再生器の最適設計プランを獲得し、実験サンプル機を加工して完成させ、LBE-He熱交換総合実験プラットフォームを構築した。

4 次段階の取り組みの重点と発展の展望

4.1 ADS先導特定プロジェクトの次段階の取り組みの重点

 ADS原理検証段階においては、同先導特定プロジェクトの位置付けは、ADSシステムのユニットのキー技術でブレークスルーを実現することである。現在、ADSシステムの各ユニットの各技術では、ほぼ全面的なブレークスルーが実現され、CIADSの技術路線が確定されている。次の段階の取り組みの重点は、分かれているシステムの統合の検証を行い、CIADSプロジェクトの建設に向けて安全分析と技術の土台を固めることである。(1)超伝導線形加速器の面では、設計指標~25MeV@10mAの直流運転加速器サンプル機を完成させる。(2)破砕ターゲットの面では、粒子流ターゲットの伝熱や駆動、選択などの技術総合検証プラットフォームの建設を完了し、小型原理サンプル機を構築し、ビーム・ターゲットのカップリングの検証を行う。(3)未臨界反応炉の面では、ゼロ出力装置の建設を完成し、関連実験計画を明確化する。同時に、CLEAR-Sの建設を完成し、鉛ビスマス総合実験回路と連携して、材料性能や熱水力学、熱交換器破口事故などの実験と炉・ターゲットのカップリング検証を展開する。(4)材料の研究開発の面では、5トン級の工業規模SIMP鋼の製造を完了する。(5)燃料製造の面では、アクチノイド系元素を含む燃料の製造と乾燥分離法の前期研究を継続して展開する。このほか現場での活動を全面的に始動し、CIADSプロジェクトの順調な実施を確保した。ADSの新概念や新原理、新方法、経済性評価の研究などを積極的に展開した。

4.2 中国ADSの発展の展望

 核燃料の不足や使用済み燃料の処分、核セキュリティ、核拡散防止などの問題を解決するため、半世紀以上の間、各国の科学者は様々な方法を試みてきたが、有効な解決方法はまだ形成されていない。

 ADSシステムは、核分裂エネルギーの持続可能発展が直面する核廃棄物の安全処理・処分を解決するために打ち出されたものであり、ADSシステムは、核廃棄物の転換の面で独特な強みを持っているだけでなく、増殖や生産能力の面でも巨大な潜在力を備えている。同先導特定プロジェクトの実施を土台として、我々は、「加速器駆動先進原子力システム」(Accelerator Driven Advanced Nuclear Energy System、ADANES)というまったく新たな概念とプランを提出し、原理のシミュレーション試験・検証をほぼ完了した。ADANESは、ADS燃焼器と使用済み燃料再生利用処理の二つからなり、その主要な特長は、加速器駆動システム固有の安全性と冗長性を十分に利用し、廃棄物の転換と燃料の増殖、エネルギー生産を一体化し、一部の中性子毒物だけを排除した使用済み燃料を利用してADS燃焼器の核燃料として再生させることができることにある。原理的には、同システムのウラン資源利用率は現在の軽水炉の~1%から95%以上へと高められ、産生される核廃棄物は元々の使用済み燃料量の4%に満たず、放射性寿命も数10万年から約500年に短縮することができる。

 ADANESシステムは、ウラン資源に基づく核分裂エネルギーを、数千年にわたる持続が可能で、排出される炭素量が少なく、安全で信頼性が高く、コストパフォーマンスも高く、核拡散を防ぐことのできる戦略エネルギーとするもので、中国のADS研究の未来の発展方向と位置付けられる。国家の早急な安定した支援を得られれば、2022年前後には、使用済み燃料の循環利用の検証やADS燃焼器原理サンプル機(10MWt)などの段階的な事業がぼぼ完了する見込みで、世界の各分裂エネルギーの革新発展をリードし、2030年前後には工業レベルのデモンストレ―ションも実現される見通しだ。

※本稿は中国科学院の許可を得て翻訳・転載したものである。
原文:http://www.bmrdp.cas.cn/alzx/XDA_02/201509/W020150917318296598175.pdf


中国科学院近代物理研究所(蘭州)、中国科学院高エネルギー物理研究所(北京)、中国科学院合肥物質科学研究院(合肥)

[3] 詹文竜,徐瑚珊. 『未来先進核分裂エネルギー——ADS転換システム』中国科学院院刊,2012,27(3):375-381.


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