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中国土壌化学発展の現状と展望(その2)

2016年1月8日

徐建明:浙江大学水資源・環境研究所所長、教授

略歴

教育部長江学者特別招聘教授、国家傑出青年科学基金獲得者、国家級「新世紀百千万人材工程」の第一選出者の一人、全国農業科学研究傑出人材、中国土壌学会副理事長。土壌化学や生物化学、土壌環境の質、食 物の安全などの分野の研究に長期にわたって従事。SCI検索論文発表154本、中英文著作出版各3部。

何艶許、佰楽:浙江大学水資源・環境研究所

その1よりつづき)

1.3 土壌鉱物-有機質-微生物の相互作用理論

 鉱物と有機質、微生物は、土壌の固相を構成する最重要の要素である。土 壌の鉱物-有機質-微生物の相互作用及びクリティカルゾーンにおいてカギとなる生物地球化学界面反応とプロセスに対するそのコントロールの作用とメカニズムを研究することはこれまでも、国 際地学分野における重大な学際的先端科学問題であった[12,25]。ここ10年余りはとりわけ、現代ミクロ分析技術の発展に伴い、原子・分子スケールからの追跡がより重要視されるようになっている[26]。 

 国際土壌科学連合は1990年代にはすでに、「土壌鉱物-有機質-微生物相互作用ワーキンググループ」を設立し、2年毎に国際学術会議を開いて研究の進展について交流を重ねてきた。こ の分野の研究の重要性を考慮し、国際土壌科学連合は2004年、「土壌鉱物-有機質-微生物相互作用ワーキンググループ」を「土壌化学、物理及び生物界面反応専門委員会」へと昇格させ、関連研究の発展・推 進をはかった。新たな歴史的段階において、ミクロの原子・分子スケールから鉱物-有機質-微生物の間の相互作用に注目し、これを解析することは、土 壌においてスケール効果を持った土壌特性及び生体物質と汚染物質の循環と転換におけるそのハイレベルな土壌生態サービス機能を全般的に理解する土台となる。

 土壌鉱物-有機質-微生物の相互作用には、生物学的プロセスと非生物学的プロセスの両面が含まれる。生物学的相互作用には、鉱 物顆粒表面または有機質と鉱物の重合によって生成される有機無機複合体における微生物細胞の生長繁殖や生物膜の形成、群落の分布、細胞外酵素と生物高分子物質の放出などが含まれる。非生物学的相互作用は、物 理的相互作用と物理化学的相互作用に分かれる。物理的相互作用は主に、土壌基質の幾何学的形状と重合能力を指し、土壌鉱物と有機質によって共同で決定される土壌の隙間の大小の分布や保水力、粘 結性などの微生物に対する影響などがある。物理化学的相互作用には、土壌において三者に発生する界面反応プロセスが含まれ、吸着-脱着、酸化還元、沈殿-溶解、錯体形成-離解などがある。

 土壌の鉱物と有機質は、微生物の遺伝物質と細胞外重合物の吸着固定を通じて、微生物の遺伝子伝播や群落構造、代謝活性に明らかに影響する。土壌の鉱物と有機質は、多 くの微生物の活性キャリアであるだけでなく、土壌の微生物の区系の構造と機能を一定程度制約している。微生物と鉱物、有機質との結合は、土壌中の生体物質と汚染物質の形態と有効性に変化をもたらし、吸着-脱着、酸 化還元、錯体形成-溶解などの土壌界面プロセスを駆動・加速し、土壌中の物質循環に明らかに影響を与え、これをコントロールしている[27]

 この面では、最近の研究は、鉱物-細菌の界面作用メカニズムを強調したものとなっている。細菌と鉱物の間の界面吸着挙動は、物理と化学の作用力がともに働くもので、界 面作用力の強さはその表面特性によって決まる。これには、疎水性(または接触角、表面自由エネルギー)、電動電位、表面電荷、比表面積などが挙げられる[27]。このうち疎水の作用力と静電気の作用力は、細 菌の吸着において重要な役割を果たしている可能性がある。研究によると、カオリナイトとモンモリロナイトの表面のシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)と枯草菌(Bacillus subtilis)の吸着プロセスにおいては、疎水作用は静電力の作用よりも寄与している[28]

 一方、カオリナイトとモンモリロナイト、針鉄鉱、バーネス鉱、石英、雲母の6種の鉱物表面の枯草菌(Bacillus subtilis)の吸着の研究によると、吸着量と親和力は、鉱 物の比表面積と正関数の線形を描き、拡張DLVO理論の予測する静電気エネルギー障壁と負関数の線形を呈する[29]。静電力などの物理作用のほか、細菌と鉱物の吸着には化学結合作用も参加している。最 近の研究によると、カオリナイトとモンモリロナイトの表面においては、枯草菌(Bacillus subtilis)の試験管内での細胞外重合物が水素結合によって吸着される [30]。シュードモナス・プチダ( Pseudomonas putida)とカオリナイトの吸着は多くが鉱物団粒表面に分布しており、顆粒のより小さい針鉄鉱と結合した後、細胞の多くは鉱物によってエンベロープされる[31,32]

1.4 有機汚染物分解の根圏勾配理論

 根-土界面は、クリティカルゾーンにおいて最もカギとなる環境界面の一つであり、植物と微生物、土壌、環境が相互作用する場所であり、物 質の植物体の出入りをコントロールするカギとなる機能を担っている[33]。根系分泌物の影響によって、根-土界面における土壌の理化学的及び生物学的な性状に変化が発生し、そ の中の生体物質と汚染物質のもともとの吸着・脱着、沈殿・溶解、錯体形成・解離、分解・残留、転換・放出などの界面化学反応とプロセスの複雑化を促進する。根 -土界面の研究はこうした点において最近10年で急速な発展を遂げた。

 根圏土壌とは、根の表面に付着している1—5mmの土壌である。従来の植物営養学研究においては、根系分泌作用には勾配逓減効果があるとされてきた。根圏効果の影響を受け、根圏土壌の物理的・化学的・生 物学的な性状は、根本の表面からの距離の異なるmm級の微小領域において差異が現れる。このため生体物質と汚染物質のクリティカルゾーンにおける植物生長の影響下の根-土界面の現象に対する研究を展開するには、異なる根圏の土壌を分離採取することが前提となる。

 ボトルネックとなっていたこの問題に対処するため、Heらは、複数の仕切りの設けられた3室構造の根箱を設計し、根圏研究法の革新を土台として、根圏の異なるmm級土壌をその場で分離採取した。研 究からは、ペンタクロロフェノール(PCP)の根-土界面中の分解が最大となるのは3mmの近根圏においてであり、より根の表面に近い1—2mmの微小領域においてではないことがわかった。この成果は、従 来の植物栄養研究が提示してきた営養因子の根圏における勾配逓減効果とは異なるもので、根圏効果の有機汚染物分解の特異性を示すものとなった。

 研究者らはさらに、リン脂質脂肪酸法を率先して採用して後続研究を進め、PCP汚染の脅威の下、根系分泌作用による根圏土壌の群落構造の誘導には一定方向の変化が生じることを明らかにした。ア ーバスキュラー菌根菌の3mmの根圏土層における濃縮がもたらされることにより、PCPの最大の分解が起こる。このことから、根 圏効果の有機汚染物分解の特異性を反映した土壌微生物学作用メカニズムが提出された[34-38]。これを土台として、Maらは、統合分析や定量的構造活性相関モデル、共溶剤モデル、有機溶剤分級抽出、等 価毒性濃度、DGGE、qPCRなどの技術を総合的に応用し、多環芳香族炭化水素(PAHs)の根-土界面における分配法則や減少動態、空間変動、微生物反応の研究を展開し、植 物根圏における主要部分のPAHsに対する吸着能力は「真菌>植物>土壌」であることを発見した。水稲の根の表面における鉄膜の形成は、植物の根系のPAHsに対する吸着を抑制し、抑 制効果はPAHsの疎水性の増強に従って増大した。根の表面の鉄膜を除去した後、根系の吸着能力は高まった。

 研究者らは、異なる有機溶剤を利用して土壌中の異なる有効性を持つPAHsを分級抽出し、土壌中における有効性の異なるPAHsの形態がPAHsの減少に影響するカギとなる要素であることを発見した。さ らに根圏微生物の群落構造及びPAHs分解菌の反応変化のさらなる分析によって、PAHs分解細菌が、水稲根圏の界面空間において酸素含有量は高いが養分は欠乏している区域(根系から1—2mmの根圏空間)に おいて促進され増加し、生態位置のずれによってほかの細菌との競争が避けられ、水稲の根圏の異なる空間においてPAHsの減少に差異分化が生じていることを発見した[39-43]

その3へつづく)


※本稿は徐建明、何艶、許佰楽「中国土壌化学発展現状与展望」(『中国科学院院刊』第30巻・増刊,2015年、pp.91-105)を『中国科学院院刊』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。


12宋長青,呉金水,陸雅海 等「中国土壌微生物学研究10年回顧」『地球科学進展』,2013,28(10):1087-1105.

25 Borch T, Kretzschmar R, Kappler A, et al. Biogeochemical redox processes and their impact on contaminant dynamics. Environmental Science & Technology, 2010, 44(1):15-23.

26 Churchman G J. The philosophical status of soil science. Geoderma, 2010, 157(3-4):214-221.

27栄興民,黄巧雲,陳雯莉 等「土壌鉱物与微生物相互作用的機理及其環境効応」『生態学報』,2008(01):376-387.

28栄興民,黄巧雲,陳雯莉 等「細菌在両種土壌鉱物表面吸附的熱力学分析」『土壌学報』,2011(02):331-337.

29 Hong Z, Rong X M, Cai P, et al. Initial adhesion of Bacillus subtilis on soil minerals as related to their surface properties. European Journal of Soil Science, 2012, 63(4):457-466.

30 Cao YY,Wei X, Cai P, et al. Preferential adsorption of extracellular polymeric substances from bacteria on clay minerals and iron oxide. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2011, 83(1):122-127.

31 Rong X M, Huang Q Y, He X M, et al. Interaction of Pseudomonas putida with kaolinite and montmorillonite: a combination study by equilibrium adsorption, ITC, SEM and FTIR. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2008, 64(1):49-55.

32 Rong X M, ChenWL, Huang Q Y, et al. Pseudomonas putida adhesion to goethite: studied by equilibrium adsorption, SEM, FTIR and ITC. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2010, 80(1):79-85.

33徐建明,何艶.「根-土界面的微生態過程与有機汚染物的環境行為研究」『土壌』,2006(04):353-358.

34 He Y, Xu J M, Tang C X, et al. Facilitation of pentachlorophenol degradation in the rhizosphere of ryegrass (Lolium perenne L.). Soil Biology & Biochemistry, 2005, 37(11):2017-2024.

35 He Y, Xu J M, Lv X F, et al. Does the depletion of pentachlorophenol in root-soil interface follow a simple linear dependence on the distance to root surfaces? Soil Biology & Biochemistry, 2009, 41(9):1807-1813.

36 He Y, Xu J M, Ma Z H, et al. Profiling of PLFA: implications for nonlinear spatial gradient of PCP degradation in the vicinity of Lolium perenne L. roots. Soil Biology & Biochemistry, 2007, 39 (5):1121-1129.

37何艶,徐建明,李兆君.「有機汚染物根際脅迫及根際修復研究進展」『土壌通報』,2004,35(5):658-662.

38何艶,徐建明,汪海珍 等「五氯酚(PCP)污染土壤模擬根際的修復」『中国環境科学』,2005,25(5):602-606.

39 Ma B, Chen H H, He Y, et al. Evaluation of toxicity risk of polycyclic aromatic hydrocarbons(PAHs)in crops rhizosphere of contaminated field with sequential extraction. Journal of Soils and Sediments, 2010, 10(5):955-963.

40 Ma B, Chen H H, Xu M M, et al. Quantitative structure-activity relationship(QSAR)models for polycyclic aromatic hydrocarbons(PAHs)dissipation in rhizosphere based on molecular structure and effect size. Environmental Pollution, 2010, 158(8):2773-2777.

41 Ma B, He Y, Chen H H, et al. Dissipation of polycyclic aromatic hydrocarbons(PAHs)in the rhizosphere: synthesis through meta-analysis. Environmental Pollution, 2010, 158(3):855-861.

42 Ma B,Wang J J, Xu M M, et al. Evaluation of dissipation gradients of polycyclic aromatic hydrocarbons in rice rhizosphere utilizing a sequential extraction procedure. Environmental Pollution, 2012, 162: 413-421.

43 Ma B, Xu M M,Wang J J, et al. Adsorption of polycyclic aromatic hydrocarbons(PAHs)on Rhizopus oryzae cell walls: application of cosolvent models for validating the cell wall-water partition coefficient. Bioresource Technology, 2011, 102(22):10542-10547.


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