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京津冀(北京・天津・河北)における大気煙霧排出状況の研究(その3)

2016年 4月15日

姜克雋

姜克雋:中国国家発展改革委員会エネルギー研究所 研究員

 専門領域はエネルギー環境システムモデル研究、中国総合環境政策評価モデル(IPAC)の開発主担当。研究領域はエネルギーおよび気候変動政策に関連するシナリオモデルが中心。既存研究のもと、国 際政策決定プロセスや国際モデル研究にも関与。

その2よりつづき)

4. 京津冀将来設計

4.1 エネルギーと省エネ計画目標

1)石炭消費総量の抑制目標

 『大気汚染対策行動計画』では石炭総量の抑制が打ち出されている。2017年までに京津冀地域の石炭消費量マイナス成長の実現を目指す。域外からの輸送電力の受け入れ割合を増幅させ、天 然ガス供給を増加させ、非化石燃料利用強度を強めるといった措置を通じて石炭燃焼を代替する。『大気汚染抑制行動計画』の石炭抑制目標において、2017年末までに、京 津冀地域では石炭消費量を6300万トン削減し、このうち、北京市は石炭消費削減量1300万トン、天津市は粗鋼生産能力2000万トン削減を通じて石炭消費1000万トン削減を実現する。河 北省は石炭消費量4000万トンを削減する。『河北省石炭消費削減及び鉄鋼等生産能力減圧任務分解案』に基づき、河北省は2017年年末までに、全省で粗鋼生産能力6726万トンを減らし、このうち、唐 山では4000万トン、石炭消費量2560万トンを純削減し、邯鄲では1204万トン、石炭消費1670万トンを純削減する。石家荘では482万トン、石炭消費1500万トンを純削減し、秦 皇島市では520万トン、石炭消費600万トン純削減する。合理的に計算すれば、6000万トンの粗鋼は3000万トンのコークスに対応することになり、1トンのコークスには凡そ1.4トンの石炭が必要となり、6 000万トンの粗鋼を淘汰できれば、4000万トンの石炭消費量削減という目標を実現できることになる。

2)エネルギー構造調整目標

 2017年末までに、京津塘(北京・天津・塘沽区)送電網風力発電等再生可能エネルギー電力の電力消費に占める割合を15%に引き上げる。

 北京市のエネルギー消費における石炭消費の割合を10%以下に引き下げ、電力、天然ガス等のエネルギーの割合を90%以上に引き上げる。天津市は2017年までに、全 市の非化石エネルギーの一次エネルギー消費に占める割合を3%以上に引き上げる見込みだ。北京市、天津市、河北省の新規天然ガスを住民用、分散型エネルギー高効率利用事業に優先的に用い、ボ イラーや工業炉及び自家発電の石炭燃料に代替する。

 2017年末までに、北京市、天津市、河北省の現有の製油化学企業の石炭燃焼設備をすべて天然ガスあるいは周辺発電所からの送電に転換する。また2017年末までに、京津冀は県・区 を単位とする全密閉石炭配給センターを建設、すべての郷鎮村をカバーするクリーン・コール供給ネットワークを構築し、クリーン・コール使用率を90%以上にする。

 2015年までに新規建設される天然ガスパイプラインの輸送能力は1500億立方メートル以上で、京津冀全域をカバーする。

 京津冀地域での新たな建設プロジェクトでは、独自の石炭火力発電所を設けることを禁じている。石炭を用いるプロジェクトでは代替エネルギー使用による石炭使用削減を実施しなければならない。火 力電力の同時生産を除き、石炭発電所プロジェクトを新たに批准してはならない。現有の複数の石炭発電ユニットの発電総量が30万キロワット以上の場合は、石 炭消費の等量代替の原則に基づき大容量石炭ユニットを建設することができる。

 新エネルギーを積極的に発展させる。天津市は今後、浜海新区、寧河、静海、西青、薊県などの区域において、陸上集中式風力発電を最適化して発展させ、同時に分散式風力発電の発展にも力を入れ、洋 上風力発電を積極的に推し進める。2017年までに、天津市風力発電ユニットの規模を700兆ワット超に拡大し、ソーラー発電ユニット規模を90兆ワットに、2017年に150兆ワット突破を実現させる。また、地 熱の通年の採掘量を5000万立方メートルにコントロールし、都市のソーラーエネルギー生活温水利用量を1600万平方メートルにする。廃棄物発電ユニット規模は106兆ワットにし、通 年の廃棄物処理量を約240万トンに引き上げる。

3)石炭から天然ガスへの目標

 京津冀地域のエネルギー消費、とりわけ石炭消費量は増加し続けており、石炭燃焼は京津冀地域の主な汚染源の一つとなっている。現在、京津冀地域はすでに「煤改気(石炭から天然ガスへ)」に 発展させる政策や資源、経済、技術といった条件を有している。「煤改気」の行動目標は、2015年に「煤改気」代替量を少なくとも45億立方メートルにし、2017年までに95億立方メートルに、2 020年でに代替量を200億立方メートルに引き上げる。2020年の200億立方メートルの「煤改気」の代替量は約2700万トン標準炭に相当する。このうち、都市部の代替量は15億立方メートル、工 業燃料代替量は125億立方メートル、発電代替量は60億立方メートルとする。

 「煤改気」の行動のポイントは、1)バラ石炭使用者。冬季暖房設備利用期間、京津冀晋(山西省)地域では石炭燃焼後の直接排出の汚染物質濃度に対する貢献率は通年の50%前後を占める。2)エ ネルギー多消費の工業製造業企業。その特徴として石炭の消費量が大きく、使用が集中し、「煤改気」を実行しやすく、「煤改気」の重点となる。3)石炭火力発電所。発電所は石炭利用率が最大の業種で、現在、短 時間内での排出量超過といった問題がある。代替の順序では、まず天然ガスで石炭(主に住民と公共サービス)を代替し、次に石炭消費量の大きい業種(工業企業など)の代替を行い、最 後に異なる地域の発展状況に基づき発電ユーザーを選んで代替を行う。

4.2 大気汚染対策目標

 『京津冀および周辺地域の大気汚染対策行動計画実施細則』では、大気汚染対策の全体的な目標として、5年の取り組みを経て、京津冀および周辺地域の大気の質を顕著に改善させ、重 度汚染の日数を大幅に減らす。2017年までに、北京市、天津市、河北省微小粒子状物質PM2.5濃度を2012年比で約25%削減し、このうち、北 京市は2017年までにPM2.5の年平均濃度を1立方当たり60マイクログラムに抑制する。河北省は2017年までに石家荘、唐山、保定、廊坊、定州、辛集ではPM2.5濃度を2012年比で33%引き下げ、邢 台、邯鄲では30%引き下げる。また秦皇島、滄州、衡水では25%以上引き下げ、承徳、張家口では20%以上引き下げる。

4.3 京津冀地域の長期発展への展望

 三省・市の未来社会経済発展計画、大気煙霧抑制行動計画エネルギー発展計画、及び全国社会経済発展とエネルギー発展に基づき、京津冀地域の未来における長期的発展モデルには顕著な変化が見られ、サ ービス業を主とする経済発展の様相を呈し、日本の首都圏に類似した発展モデルとなり、エネルギー多消費産業の発展は基本的にピークを迎え、生産能力は拡大しない、あるいは縮小を始め、重 工業を主導とするモデルは2030年までに転換を実現する。京津冀地域の全国での地位はサービス型産業主導の国の中心となる。

 北京市は都市工業を除き、他の工業は基本的に存在せず、完全にサービス業を主産業とする。現地サービス業、つまり商業、飲食、不動産、小中高校教育、医療、スポーツ、娯楽、園芸といった業界を除き、北 京は首都行政区、国際金融センター、大学教育、科学研究、文化デザイン、IT、インターネット産業、バイオ科学技術といった、全国そして世界の中核となる国際都市産業機能を担っている。

 天津は都市工業とサービス業の中心地を形成する。目下、天津の港に依存する工業はクリーン化を参入条件に加え、大型工業の発展を減らし、先端工業製造へと転換し、北 京と天津の科学研究と技術発展の成果を通じて科学技術の産業化を促進し、大型都市の中の先端工業都市を構成する。現在天津にある大型重工業の発展は継続させず、現状を維持しつつ、同様の産業は新たに建設しない。 

 河北は多元化した発展を進む社会経済の様相を呈していく。河北は引き続き総合的な工業システムを発展させる一方で、サービス業を強化させる。このサービス業も現地向けサービス業を主として発展させ、同 時に北京、天津へのサービス業、つまり農村サービスや近代農業サービス、観光といった面を発展させ、また、地域中心都市を構築し、生態居住区を発展させ、中小型快適都市を特色とするサービス業を構築する。都 市高速軌道交通システムを形成し、北京周辺都市で特定の業界と人々を引きつける小都市を形成し、ヨーロッパの50万人居住都市をモデルに、特色ある環境の良好な北京を軸とする中小都市群を造り上げ、良 好な相互作用を生み出す。

4.4 主な情況指標設定

 ここではモデルに必要なポイントとなる社会経済指標、および重要な技術発展ビジョンを提示する。北京は今後エネルギー多消費製品の生産量を提示しない。

 経済成長速度は表1を参照、人口発展は表2参照、エネルギー多消費製品は表3と4参照、交通情況は表5参照。

表1 経済成長速度
  2010-2015 2015-2020 2020-2025 2025-2030
北京 7.8% 7.6% 6.5% 6.3%
天津 8.5% 8% 7% 7%
河北 8.3% 8.3% 7.5% 7.3%
表2 人口と世帯数
地区 項目 単位 2012 2015 2020 2030
  北京    人口 万人 2069.3 2268 2442 2599
都市化率 % 86.2% 88% 90% 92%
都市人口 万人 1783.7 1995.6 2197.9 2391.3
都市世帯数 万世帯 731.0 821.3 915.8 1039.7
農村人口 万人 285.6 272.1 244.2 207.9
農村户数 万世帯 92.1 89.2 81.4 74.3
  天津    人口 万人 1413.2 1590 1757 1920
都市化率 % 81.6% 82% 86% 90%
都市人口 万人 1152.4 1303.5 1511.3 1728.2
都市世帯数 万世帯 461.0 529.9 621.9 732.3
農村人口 万人 260.7 286.1 246.0 192.0
農村世帯数 万世帯 82.8 92.3 80.9 66.2
  河北    人口 万人 7287.5 7699 8014 8133
都市化率 % 46.8% 50% 58% 65%
都市人口 万人 3410.6 3849.4 4648.1 5286.7
都市世帯数 万世帯 1188.3 1360.2 1721.5 2114.7
農村人口 万人 3877.0 3849.4 3365.9 2846.7
農村世帯数 万世帯 1071.0 1075.3 1020.0 918.3
表3 天津の主なエネルギー多消費製品生産量
重量箱=中国で用いられる板ガラスの計量単位。厚さ2mm、比重2.5の板ガラス10平方メートルの重量(約50kg)に相当。
製品 単位 2012 2015 2020 2030
粗鋼 万トン 2124 2400 2400 2000
板ガラス 万重量箱 1651 2300 2300 2300
エチレン 万トン 113 150 150 150
機械ずき紙及び板紙 万トン 223 250 250 250
炭酸ソーダ 万トン 49 49 35 20
苛性ソーダ 万トン 114 130 130 100
セメント 万トン 784 980 600 400
原油加工量 万トン 3098 3050 3000 3000
表4 河北の主なエネルギー多消費製品生産量
重量箱=中国で用いられる板ガラスの計量単位。厚さ2mm、比重2.5の板ガラス10平方メートルの重量(約50kg)に相当。
製品 単位 2012 2015 2020 2030
粗鋼 万トン 18048 15000 13000 12000
板ガラス 万重量箱 11383 11000 11000 8000
合成アンモニア(万トン) 万トン 305 305 305 260
機械ずき紙及び板紙 万トン 565 500 500 400
炭酸ソーダ 万トン 260 260 260 200
苛性ソーダ 万トン 89 100 100 70
セメント 万トン 12810 10000 9000 7000
コークス 万トン 6678 6600 6000 4000
自動車 万台 82.5 110 160 200
表5 交通情況
地区 項目 単位 2012 2015 2020 2030
   北京   自動車保有量 万台 520 576 628 676
都市公共交通負担率 % 43.0% 33% 39% 41%
都市非自動車利用率 % 38% 34% 38% 38%
先進省エネ自動車普及率 % 5% 8% 20% 50%
完全電気自動車率 % 0% 1% 10% 40%
地下鉄営業距離 キロ 442.0 570.0 1000.0 1300.0
   天津   自動車保有量 万台 261.6 338 399 449
都市公共交通負担率 % 29.0% 33% 39% 41%
都市非自動車利用率 % 42% 38% 36% 36%
先進省エネ自動車普及率 % 6% 8% 20% 50%
完全電気自動車率 % 0% 1% 8% 35%
地下鉄営業距離 キロ 88.0 190.0 350.0 780.0
   河北   自動車保有量 万台 957.6 1236 1670 2053
都市公共交通負担率 % 25.0% 27% 33% 36%
都市非自動車利用率 % 44% 40% 40% 40%
先進省エネ自動車普及率 % 4% 7% 20% 50%
完全電気自動車率 % 0% 0% 5% 35%
地下鉄営業距離 キロ 0.0 80.0 190.0 550.0

その4へつづく)


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