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中国におけるナノテクノロジー発展の現状と戦略構想(その2)

2016年 4月28日

閻金定:科学技術部基礎研究管理センター

その1よりつづき)

2 海外におけるナノテクノロジーの発展の動向

 メゾスコピックスケール界における物質の特質を探究し、未来のハイテクノロジーの開発を目指すナノテクノロジーは、急速な発展を遂げ、経済・社会の発展や国防安全に今後、重 大な影響を与えるものと考えられている。ナノテクノロジーは、国家の未来の核心競争力の向上と戦略的新興産業の育成に向け、誘導と牽引という戦略的な役割を演じ始めている。世界の主要経済国は、ナ ノテクノロジー発展計画を次々と制定し、ナノテクノロジーへの投資を強化し、ナノテクノロジーの急速な発展を推進している。大まかな統計によると、国 家級ナノテクノロジー発展計画を打ち出した国は50カ国を超える。国外におけるナノテクノロジーの発展には次のような動向が見られる。

2.1 世界の科学技術発展の焦点となったナノテクノロジー

 米国家科学技術会議は2000年、連邦の各機構の力を統合し、ナノスケールの科学・工学・技術開発での協調を強化するため、「国家ナノテクノロジーイニシアティブ」(NNI)の制定を主導した。計 画実施に参加した機関は、国立科学財団や国防総省、エネルギー省、国立衛生研究所などの多くの部門にわたる。ナノテクノロジーの世界における米国の先導的地位を保つため、N NI計画への投入は年々高いレベルを保ち、経済危機の影響を受けることなく増加を続けた。米国政府の公式データによると、2014年度予算まででNNIへの投資総額は200億ドルに達した。こ こ3年のNNI投資を見ると、投資の割合が最も大きいのは基礎研究部分で、ナノテクノロジー設備・システムやナノ製造、環境、健康、安全の研究への投資も大幅に増加している [34,35]

 EUは2006年、第7次フレームワーク計画(FP7)を打ち出し、ナノテクノロジーを9大研究テーマの一つとした。EUは、34億7500万ユーロを投じ、ナ ノテクノロジーにおける国際的地位を増強した。EUフレームワーク計画以外にも、EU各国は、本国のナノテクノロジー発展計画を相次いで制定している。例えばドイツ政府は2011年、「 ナノテクノロジー行動計画2015」(Nanotechnology Action Plan 2015)を始動し、全国的なナノテクノロジー研究開発ネットワークを9カ所で次々と設立した。ネットワークは、ナ ノテクノロジー産業チェーンの各セクターの構成員からなり、産業チェーンの上流・中流・下流の動態的な協力や技術の集合、資金の優位性を強化し、革新プロセスと成果転化を加速するものとなった。ドイツは現在、ナ ノテクノロジー分野で、「有機発光ダイオード」「有機太陽電池」「革新型ナノ炭素チューブ」「分子イメージング」「リチウムイオン電池」からなる5つの経済・科学革新連盟を構築し、連 盟方式でこれらの分野への応用市場を推進している。

 日本政府のナノテクノロジー支援は2001年に始まった。ナノ分野は第2期科学技術基本計画(STBP)に盛り込まれ、高い投資が継続された。第3期科学技術基本計画(2006~2010年)では、「 ナノテクノロジー・ナノ材料」を重点分野として支援する方針が示され、情報技術や生命科学、環境/エネルギー、基礎技術などでナノテクノロジーが発揮する作用が強調され、研 究開発に333億1600万円が投じられた。

 ロシアは、ナノテクノロジー発展に2000億ルーブルを投じ、これを国家の「科学技術戦略を引っ張る牽引車」とする方針を打ち出した。フランスは、先 端ナノテクノロジーを専門に研究開発するいくつかの科学技術競争パークを設立した。世界的な注目を受けるグルノーブルのミナロジック世界マイクロ・ナノテクノロジー競争力拠点(Pôle de compétitivité)は、次世代半導体と生産プロセスの重点研究を行っている。イスラエルも、ナノテクノロジーを国家の重点研究分野とし、政府・企業界・学術界による「 イスラエル国家ナノテクノロジーイニシアティブ」を共同提出した。

 インド連邦政府は2007年、国家ナノテクノロジー計画を始動し、3カ所のナノテクノロジー研究所を建設し、インドを世界のナノ研究開発センターとして発展させると宣言した。イラン政府は、「 イランナノテクノロジー指導委員会」を設立し、政府の投入資金によってナノ研究を支援し、唯一のイスラム国家として国際ナノテクノロジー展示会に何度も参加し、イランのナノテクノロジー分野の進展を展示した。 

 世界各国のここ10年のナノテクノロジーへの投入と研究開発の現状を見ると、世界のナノテクノロジーの発展が、「重点の明確化、資源の集合、産業の育成、誘導・牽引」という傾向を示していることがわかる。先進国は、ナノテクノロジーの統合とその基礎研究・応用研究・産業化開発を通じて、未来の科学技術の発展に向けた有利なポジションと優先権を奪取し、次 の産業革命を主導することを望んでいる。発展途上国は、 ナノテクノロジーを通じて、新たな科学技術・産業革命においてより大きな発言権を得ることを期待している。

2.2 ナノテクノロジーの発展が示す交差・融合傾向

 ナノテクノロジーは、研究分野の交差した新興技術であり、物理・化学・材料・情報・生物・医薬などほとんどすべての分野にかかわり、現在の先端科学技術分野の代表と言える。ナノテクノロジーの進展は、世 界の科学技術発展の最新の状況を直接反映している。ナノテクノロジーの発展は現在、交差・融合の傾向を示しており、ナノテクノロジーとバイオテクノロジー、情報技術の連携はますます緊密化している。バ イオテクノロジーと情報技術の研究は今後、ナノスケール上で一つにまとまるものと考えられ、その発展はナノテクノロジーのブレークスルーを続けられるかにかかっている [1]

 情報技術の発展から見ると、マイクロエレクトロニクス技術の発展はすでにナノスケールに突入しており、ICチップの最小電子回路のサイズは22nmから6nmスケールへと縮小されている。マ イクロエレクトロニクスの小型化は「上から下へ」の発展と考えられるが、ナノ科学家らは「下から上へ」の新たな方法も模索しており、原 子や分子の組み立てによるナノエレクトロニクスの部品やシステムの構築も進めている。ナノ部品・電子回路・システムの新たな発展は、情報産業の急速な発展に大きなチャンスを提供し、大 きなブレークスルーを育んでいる。

 ナノテクノロジーと生物学・医薬学・情報学の結合は、未来のバイオテクノロジーと医薬品産業に重大な影響をもたらすことになる。ナノテクノロジーの利用は、細胞・分子・遺 伝子レベルで病態メカニズムの真の認識と理解を実現することを可能とする。ナノ級のマイクロ検査器の開発によって、体内の細胞・組織の健康状態と病態情報のリアルタイムの検査を実現し、医 学診断と疾病検出の精度を大きく高めることができる。最終的には、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーを統合した遺伝子治療や分子標的治療、病態組織・臓器の再生などを実現することも可能となる。人類の医療・健 康用のナノテクノロジーを発展させることは、重要な科学的・臨床的意義を備えている。

 ナノテクノロジーに対しては、新エネルギーや省エネ・排出削減、環境保護・汚染対策におけるニーズも日増しに高まっている。ナノ触媒材料の発展は、従来型エネルギー(石油、天然ガス、石炭など)の 効率利用や排出削減を可能とする。ナノ材料技術の活用により、新型の効率的なエネルギー貯蔵とエネルギーコンバーターを開発し、新エネルギーの大規模利用の問題を解決することもできる。環境保護の面では、ナ ノ粒子の吸着・触媒効果を活用することで、汚水中の重金属・有機汚染物の処理や、大気汚染の処理、また環境保護材料を開発したりすることもできる。従来型製造業の柱である鉄鋼・冶金、化学工業・繊維、建 築材料などでも、ナノテクノロジーを活用することにより、従来の産品の品質を高め、製造過程でのエネルギー消費や汚染物質の排出を削減し、産業の全面的なアップグレードを実現することができる。

 米国やEU、日本などの先進国が制定したナノテクノロジー発展戦略からは、ナノテクノロジーと情報技術、バイオテクノロジー、エネルギー技術などの交差・融 合の傾向が進んでいることを読み取ることができる。こうした交差・融合の傾向は、新たな科学・技術分野を生み、分野や学科の異なる科学者による連携を推進し、人類による世界の認識と世界の改造の能力を切り開き、高 めるものとなる。

2.3 ナノテクノロジーの研究開発への民間資本の参入

 ナノテクノロジーの商業的チャンスの大きさに目をつけた大型グローバル企業の一部は、すでに未来の競争がナノテクノロジー産品を中心に行われることになると判断し、巨 額を投じてナノテクノロジーの開発を次々に進めている。その投資額は、ナノテクノロジーに対する政府の投資額をはるかに上回っている。

 米国の一部の大企業は、ナノテクノロジーを活用した産品と工法の改良の潜在性を積極的に探っている。インテルやIBM、ヒューレット・パッカードなどの一部のIT企業はすでにブレークスルーを実現し、商 業化された産品の生産を始めている。インテル社は、未来の半導体の製造工法について「2022年までに4nmに達する」との見通しを示している[1]。

 EUの第7次フレームワーク計画はナノ分野で、企業の参入を奨励する多くのナノテクノロジー研究開発課題を設け、関連分野は多岐にわたった。研究集約型企業を主なターゲットとし、そ れぞれのプロジェクトで少なくとも15%~30%のEUによる資金援助がなされることとなった。欧州委員会は、プロジェクトの立案段階から企業が参加し、積極的な役割を発揮することを奨励している。ド イツの企業界も、巨額を投じて関連分野の研究開発を進めている。BASF社は2006年から、巨額の経費を投じてナノテクノロジー研究を進めている。同社は、ナ ノテクノロジーについて議論する定期フォーラムを始めたドイツで最初の企業となった。

 日本の企業界も、ナノテクノロジーへの投入を強化している。関西地区ではすでに、100社近くの企業と16の大学・国立研究機構からなる「関西ナノテクノロジー推進会議」が設立され、同 地域のナノテクノロジーの研究開発と産業化プロセスの促進がはかられている。東レや三菱、富士通などの大企業は、巨額を投じてナノテクノロジー研究所を次々と設立し、自 身が強みを持つ産業分野へのナノテクノロジーの融合を進めている。

 ロシアは、ナノテクノロジーの産業化を促進するため、特別基金の設立や優遇貸付政策の制定を行っている。特別貸付額は、開発対外経済銀行だけで100億ドルを上回っている。国 家のナノテクノロジー分野での政策を実行するため、2007年夏にはロシアナノテクノロジーコーポレーション(Russian Corporation of Nanotechnologies、現 RUSNANO)が設立された。同グループは主に、医学や金属加工、新材料、太陽エネルギー、光学電子、ナノ電子の分野でのプロジェクトを展開することとなった。

その3へつづく)

参考文献

1 Roco M C, Mirkin C A, Hersam M C. Nanotechnology Research Directions for Societal Needs in 2020: Retrospective and Outlook. Berlin: Springer, 2010. 610

34 NSTC, CoT, NSET. National Nanotechnology Initiative Strategic Planning, 2014

35 US Food and Drug Administration. 2013 Nanotechnology Regulatory Science Research Plan, 2014

※本稿は閻金定「中国納米科学技術発展現状及戦略思考」(『科学通報』, 第60巻, 2015年)を『科学通報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技 術有限公司


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