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傾斜機能ナノ構造材料(その1)

2016年 5月13日 盧柯(中国科学院金属研究所瀋陽材料科学国家(聯合)実験室、中国科学院院士)

概要

 本稿では、傾斜機能ナノ構造材料の国内外における近年の研究の進展について概括した。これには、傾斜機能ナノ構造の分類、傾斜機能ナノ構造材料の主な性能特徴及び製造加工技術が含まれる。また、傾 斜機能ナノ構造材料の直面する基礎科学的な問題及び工業分野への応用についても考察し、展望する。

[キーワード]ナノ材料、傾斜機能ナノ構造、性能、製造加工

 ナノ構造材料(nanostructured materials)とは、構造のユニットスケール(例えば、多結晶材料中の結晶粒サイズ)がナノオーダーである材料を指し、大 量の結晶粒界又はその他の界面を含むために、一般的な粗粒構造材料とは明らかに異なる一部の力学的及び物理化学的性能を有することが、構造上の顕著な特徴となっている[1]。過去30年間の研究によれば、ナ ノ構造材料は一般的に非常に高い強度と硬度を有し、材料の化学成分を変えないことを前提にしたとしても、構造をナノ化するだけで材料の強度と硬度を同等成分の粗粒材料の数倍から数十倍にまで高められるため、高 強度材料を進化させる新たな筋道となっている。しかしながら、ナノ構造材料は強度と硬度の顕著な向上に伴って塑性と靭性は著しく低下し、加工・硬化能力が消失し、構造安定性が低下するため、こ れら性能の悪化がナノ構造材料の応用と発展を妨げている[2]

 最新の研究によれば、ナノ構造の多層構造化(architecture)によってナノ構造の性能上の欠点を効果的に克服できると同時に、その長所を発揮することができる。すなわち、傾 斜機能ナノ構造が重要な構造タイプの一つとなる。傾斜機能ナノ構造とは、材料の構造ユニットサイズ(例えば、結晶粒サイズ又は積層の厚さ)が空間上でナノスケールからミクロスケールまで連続的に増加し、傾 斜的に変化するものをいう[3]。または、材料の一部分がナノ構造により、もう一部分が粗粒構造によって構成され、この2つの部分の構造ユニットサイズが傾斜的かつ連続的に変化すものを指す。傾 斜機能ナノ構造の実質とは、結晶粒界(又はその他の界面)密度が空間上で傾斜的な変化を呈するために、さまざまな物理化学性能の空間上での傾斜的変化に対応している。構造サイズの傾斜的変化は、さ まざまな特徴を持つサイズ構造(例えば、ナノ結晶粒、サブミクロン結晶粒、粗粒)の単純な混合又は複合と異なり、構 造の特徴サイズの突然の変化によってもたらされる性能の突然の変化を効果的に回避することができるため、さまざまな特徴サイズを持つ構造を互いに融合させられると同時に、そ れぞれの特徴サイズが対応するさまざまな作用メカニズムを発揮できるため、材料の全体的な性能及び用途の向上及び最適化を図ることができる。

 材料の多くの性能は、構造ユニットの特徴的なスケールの変化に伴って変わり、構造ユニットのスケールがナノオーダーまで小さくなると性能の変化は顕著となる。例えば、金 属材料の強度は結晶粒サイズの低下に伴って向上し、ナノオーダーまで小さくなると強度は異常なまでに高まる。図1[4]で示すように、傾斜機能ミクロ構造(ミクロスケールからマクロスケールにまで拡大する)と 比べ、傾斜機能ナノ構造の対応する強度変化の範囲は大幅に広がるため、大きな範囲内での強度調整が実現できる。このほか、ナノ構造材料は高い拡散速度や化学反応活性等の独特な理化学的性能を持つことも、傾 斜機能ナノ構造に全く新しい機能特性を付与している。このため、傾斜機能ナノ構造材料は近年、新たな研究分野として注目を集めている。

図1

図1 構造サイズに伴うNiの強度変化[4]

Fig.1 Variation of measured strength (or 1/3 hardness) of pure Ni versus the characteristic structural size[4]

図2

図2 傾斜機能ナノ構造の分類: 傾斜機能ナノ結晶粒構造、
傾斜機能ナノ双晶構造、 傾斜機能ナノ積層構造及び傾斜機能ナノ柱状構造[4]

Fig.2 The classification of gradient nanostructures (GNS) with grain size gradient (a), twin thickness gradient (b),
lamellar thickness gradient (c) and columnar size gradient (d)[4]

1 傾斜機能ナノ構造の分類

 同一の化学成分及び相組成という条件下では、傾斜機能ナノ構造は以下4つの基本的なタイプに分類できる。図2[4]のとおり。

(1) 傾斜機能ナノ結晶粒構造:構造ユニットが等軸状(又は近等軸状)の結晶粒で、結晶粒サイズがナノスケールからマクロスケールまで傾斜的に変化するもの(図2a)。

(2) 傾斜機能ナノ双晶構造:結晶粒中に亜構造—双晶が存在し、結晶粒サイズが均一に分布し、そのうちの双晶/基体積層の厚さがナノスケールからマクロスケールまで傾斜的に変化するもの(図2b)。 

(3) 傾斜機能ナノ積層構造:構造ユニットが二次元の積層状結晶粒であり、積層の厚さがナノスケールからマクロスケールまで傾斜的に変化するもの(図2c).

(4) 傾斜機能ナノ柱状構造:構造ユニットが一次元の柱状結晶粒であり、柱状結晶粒の直径がナノスケールからマクロスケールまで傾斜的に変化するもの(図2d)。

 上記4種類の構造タイプには、大角結晶粒界、小角結晶粒界、双晶境界等のさまざまな界面構造が存在できる。これら基本構造のうち2種類又は多種類の複合によって傾斜機能複合ナノ構造を形成できる。例えば、傾斜機能ナノ結晶粒構造と傾斜機能ナノ双晶構造の複合構造には、結晶粒サイズの傾斜とともに双晶密度の傾斜が存在するため、結 晶粒界密度と双晶境界密度が同時に傾斜的変化を呈する。 

 化学成分と相組成に変化が生じる際に形成される傾斜機能複合ナノ構造はさらに複雑であり、例えば化学成分に傾斜的変化の存在する傾斜機能ナノ結晶粒構造には、相 組成が傾斜的に変化する傾斜機能ナノ構造(相界面密度が傾斜的に変化)等が存在する。316ステンレス中に形成され、マルテンサイト相及びオーステナイト相により組成される、傾 斜分布を呈するナノ結晶粒構造がその一例である[5]

 材料中の傾斜機能ナノ構造はさまざまな形式で存在するが、ほとんどの場合、ナノ構造部分は材料の表面に、粗粒構造は材料の内部に存在する。こ のような傾斜機能ナノ構造の表層ではナノ構造の多くの優れた性能を発揮することができ、バルク材料の表面性能及び表面構造の多くの敏感な性能を大幅に高めることができる(詳しくは後述する)。また、ナ ノ構造部分を材料の内部に、粗粒構造を材料の表面に置くこともできる。このような構造タイプも独特の性能を発揮することができるが、まだ研究は少ない。

その2へつづく)

参考文献

[1] Gleiter H. Prog Mater Sci, 1989; 33: 223

[2] Meyers M A, Mishra A, Benson D J. Prog Mater Sci, 2006; 51: 427

[3] Fang T H, Li W L, Tao N R, Lu K. Science, 2011; 331: 1587

[4] Lu K. In: Faester S, Hansen N, Juul Jensen D, Ralph B, Sun J eds., Proc 35th Riso International Symposium on Materials Science: New Frontiers of Nanometals, Department of Wind Energy, Riso campus, Technical University of Denmark, 2014: 89

[5] Huang H W, Wang Z B, Lu K. Acta Mater, 2015, in revision

※本稿は盧柯「梯度納米結構材料」(『金属学報』2015年第1期)を『金属学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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