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傾斜機能ナノ構造材料(その4)

2016年 5月17日 盧柯(中国科学院金属研究所瀋陽材料科学国家(聯合)実験室、中国科学院院士)

その3よりつづき)

3 傾斜機能ナノ構造材料の製造及び加工

 現在のところ、傾斜機能ナノ材料は一般的に、傾斜的な塑性変形及び傾斜的な物理又は化学的析出法により製造されている。

3.1 傾斜的塑性変形

 塑性変形により金属中に大量の欠陥(例えば転位、結晶粒界又は双晶境界等)を生じさせることができるため、塑性変形条件を制御することで結晶粒組織をサブミクロン、又 はナノスケールにまで微細化することができる。結晶粒微細化の原理とは、変形によって転位が大量に増え、転位の交互作用によって大量の亜結晶粒界と結晶粒界が生じるため、当 初の粗大な結晶粒を徐々に分割して微小な結晶粒とする。結晶粒を一定程度まで微細化すると、転位の発生と構造の回復によって転位の消滅及び相平衡が生じ、結晶粒サイズは安定に向かう。結 晶粒サイズの定常状態と材料のタイプ・成分は関連性があり、一般的に純金属の結晶粒サイズの定常状態はサブミクロンオーダーであるが、合金材料の結晶粒サイズの定常状態はナノオーダーまで下げることができる。層 転位エネルギーの低い金属材料については、適切な変形条件下で大量の双晶が発生し得る。双晶境界はもともとの粗粒をナノスケールの厚さである積層構造に「分割」し、さらなる変形によってこれらナノ積層を破砕し、ラ ンダムに配向されるナノ結晶粒を形成させた。

 研究の結果、塑性変形によって生じる結晶粒の微細化過程は変形量、変形速度、変形温度及び変形傾斜により制御され、材料そのものの性能とも関係することがわかった。変 形量が大きいほど結晶粒は小さくなるが、変形量が一定の臨界値に達すると結晶粒サイズは飽和(すなわち、定常状態の結晶粒サイズ)に向かう。また、変形速度が速いほど、又 は温度が低いほど結晶粒の微細化には有利であり、変形傾斜の増大は往々にして結晶粒サイズを小さくする。

 塑性変形によって生じる結晶粒の微細化過程への理解に基づいて、近年、いくつかの表面塑性変形技術が発展を見せ、材料表面層の結晶粒の微細化が実現できるようになった。変形量、変 形速度及び変形傾斜は表面から内部に向かって傾斜的に変化するため、材料の表層に傾斜機能ナノ構造が形成される。表面の傾斜的変形方法は図10[4]に示すとおり、以下の3種類に分類できる。

(1)表面圧入式傾斜的変形(図10a):硬質ヘッド又はボールを用いて材料表面を複数回にわたって圧入し、表面層に重複繰返し応力による塑性変形を生じさせる。表 層の応力変化量及び応力変化速度は厚さの増大に伴って傾斜的に減少し、累積応力変化量は圧入回数に伴って増大する。例として、表面機械研磨技術[43,44]がある。

(2)表面摩砕式傾斜的変形(図10b):硬質のボール型ヘッドを材料表面に圧入することによってヘッドと材料との間に相対的移動を生じさせ、ヘ ッドと材料との間に生じる摩擦力によって材料表層に塑性変形を生じさせる。表層の応力変化量及び応力変化速度は厚さの増大に伴い傾斜的に減少し、累 積応力変化量は摩砕回数の増加及び予圧入を行う厚さの増大に伴って増加する。例として、表面機械摩砕技術[45]がある。

(3)表面転圧式傾斜的変形(図10c):硬質のボール型ヘッドを材料表面に圧入することによってヘッドを材料表面で回転させ、ヘッドの回転を利用して材料表層で塑性変形を生じさせる。表 層の応力変化量及び応力変化速度は深度の増大に伴って傾斜的に減少し、累積応力変化量は転圧回数の増加及び予圧入を行う厚さの増大に伴って増加する。

 これら3種類の変形方式のいずれによっても表面層の傾斜的塑性変形を実現でき、傾斜機能ナノ結晶粒構造及び傾斜機能ナノ双晶構造を生じさせることができる。表 面の傾斜機能ナノ構造層の厚さは(結晶粒サイズがナノ及びサブミクロンスケールの構造)数百マイクロメートルに達し、変形層の厚さはミリメートルオーダーに達する。

 傾斜的な塑性変形はバルク材料でも実現できる。Weiら[23]はバルク状TWIP鋼サンプルでねじり変形を行った結果、サンプル芯部の変形量が小さい一方でサンプル辺縁の変形量は大きく、サ ンプル中に一定の変形傾斜が生じ、傾斜機能ナノ双晶構造が得られた。

図10

図10 3種類の傾斜的塑性変形方式:表面圧入式傾斜的変形、表面摩砕式傾斜的変形、表面転圧式傾斜的変形 [4]

Fig.10 Three kinds of gradient plastic deformation[4] ;(a) surface impact gradient deformation, (b) surface grinding gradient deformation, (c) surface rolling gradient deformation.

3.2 傾斜的物理的析出又は化学的析出

 材料における物理的析出(スパッタ析出、レーザー又は電子ビーム析出)及び化学的析出(CVD、電気化学的析出)の過程において、析出材料のミクロ構造は析出過程の動力学によって決まる。物 理又は化学的析出における動力学過程を制御することによって析出材料の構造及び成分を効果的に制御でき、構造又は成分の傾斜的変化を実現できる。例えば、電気化学的析出法を利用して、析 出速度及びその他の条件を制御すると、結晶粒サイズが10nmから数十マイクロメートルに傾斜的に変化する純Niサンプルを得ることができ、サンプルの厚さと結晶粒サイズの傾斜のいずれも調節可能である[46]。 

 相転移は構造微細化のもう一つの重要な道筋である。相転移条件(如温度、圧力等)によって相転移による核生成及び成長過程の動力学を制御することで、相転移産物のミクロ構造を調整できる。このため、相 転移温度又は圧力のサンプル中における傾斜的分布が実現できれば、材料中の相転移動力学の傾斜的制御が実現でき、傾斜機能ナノ構造が得られる。

4 応用及び展望

 傾斜機能ナノ構造が示す一連の特性(図11[4])は、新素材及び新加工技術の創造に新たなチャンスをもたらした。傾斜機能ナノ構造のこれらの特性を利用すれば材料の総合性能を大幅に向上できることは、既 存材料の使用範囲を広げるだけでなく、低コスト材料の後続処理として傾斜機能ナノ化を実施すれば、総合性能の向上が実現でき、高コスト材料の使用性能を超えることもできるかもしれない。例えば、処 理によって通常の炭素鋼の総合性能は合金の指標に達し、材料の使用コストを低減することができる。また、同じ道理により、傾斜機能ナノ化処理技術とその他の低コスト材料加工技術を結びつけることによって、高 コスト加工技術の代替として材料製造コスト削減という目的を達成できる可能性がある。

図11

図11 傾斜機能ナノ構造の示すいくつかの特性のまとめ[4]

Fig.11 Summary of properties and performance of GNS[4]

 傾斜機能ナノ構造の高い耐摩耗性は、すでに工業分野で応用されている。上海宝鋼研究院は、超音波機械研磨を利用した表面ナノ化処理技術により冷間圧延引張矯正ローラー(材質は軸受鋼)の表面を処理し、傾 斜機能ナノ構造の表層(ナノ結晶粒構造層の厚さは約10µm)を得ることができた。材質を変えない前提下で圧延ローラーの耐摩耗性を大幅に向上させた結果、使用寿命は従来の2~3日から6~9日まで増加し、ロ ーラー交換周期は倍に延長された。現在すでに、圧延ローラーの表面傾斜機能ナノ化処理技術は、宝鋼公司で量産体制に入っている。

 傾斜機能ナノ構造の優れた性能とは、材料又は部品の局部処理によって選択的に性能の向上を実現することで、材料全体又は部品の性能を高め、寿命を延ばせることにある。例えば、溶 接接合部は往々にして部品が断裂し、不良品となる「弱点」であるが、ここに傾斜機能ナノ化処理を行うことで、接合部の溶接凝固組織構造及びその均一性を改善し、強度及び変形能力を高めることができる。また、軸 類部品における軸径の過渡部は一般的に疲労断裂が生じやすい部位で、軸類部品の使用寿命に大きな制約を与える。このため、軸径の過渡部に表面傾斜機能ナノ化処理を行えば、過渡部の抗疲労性能を向上させ、軸 類部品の全体的な使用寿命を延ばすことができる。

 本研究の今後の重要課題の一つは、傾斜機能ナノ構造の製造加工技術を発展させることにより、さらに広い範囲及び高いレベルでの工業的応用というニーズに応えることである。ナノ構造の傾斜的変化の範囲をさらに拡大し、傾斜機能ナノ構造の精密かつ確実な制御を実現することは、製造加工技術上の難題となっている。高効率・迅速かつ低コストな製造加工技術は傾斜機能ナノ構造材料の応用と発展を促す上で非常に重要であり、これに対応する上で、傾斜機能ナノ構造-性能関係の理解を深めることは、製造加工技術のさらなる発展にも資するだろう。

 傾斜機能ナノ構造材料の研究においては、解決が待たれる問題や基礎科学的問題がまだ多く存在し、これには傾斜機能ナノ構造と力学、物理及び化学性能との間の内在的関係、傾 斜の制御及びそのさまざまな性能への影響、傾斜機能ナノ構造の各層における塑性変形メカニズムの特徴及びその対応する均一構造の変形メカニズムとの間の違い、傾 斜機能ナノ構造の各層間の変形メカニズムの相互作用及び中継メカニズム、傾斜機能ナノ構造の熱、機械及び化学的安定性及びその制御法則等が含まれる。これら基礎的な問題の解決は、系統的な実験研究や、理 論と計算シミュレーションの融合を頼りにしており、材料科学及びその他の分野(力学、凝縮系物理学及び化学)の融合に対しても新たな挑戦を突き付けている。

(おわり)

参考文献

[4] Lu K. In: Faester S, Hansen N, Juul Jensen D, Ralph B, Sun J eds., Proc 35th Riso International Symposium on Materials Science: New Frontiers of Nanometals, Department of Wind Energy, Riso campus, Technical University of Denmark, 2014: 89

[23] Wei Y J, Li Y Q, Zhu L C, Liu Y, Lei X Q, Wang G, Wu Y X, Mi Z L, Liu J B, Wang H T, Gao H J. Nat Commun, 2014; 5: 3580-1

[43] Lu K, Lu J. J Mater Sci Technol, 1999; 15: 193

[44] Lu K, Lu J. Mater Sci Eng, 2004; A375-377: 38

[45] Li W L, Tao N R, Lu K. Scr Mater, 2008; 59: 546

[46] Li Y. To be published

※本稿は盧柯「梯度納米結構材料」(『金属学報』2015年第1期)を『金属学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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