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医療用ロボットの未来―医療用ロボット産業の発展と未来戦略フォーラム(その2)

2016年 8月24日 劉 志遠(『科技導報』編集部)

その1よりつづき)

リハビリテーション支援ロボットのイノベーション

樊瑜波氏(中国生物医学工程学会理事長/国家リハビリテーション補助器具研究センター長/北京航空航天大学生物・医学工程学院院長)

 外科医療用ロボットとリハビリテーション支援ロボットは、ロボティクス技術の面では区別されるが、共通点も多い。リハビリテーション支援ロボットは家庭やコミュニティーでより多く利用され、歩行や重い物の運搬、あるいは日常動作等、高齢者や障害者が一定の機能や動作を実現するのを支援する。古くからのことわざ「養子防老」(子供を育てて老後に備える)はもはや現実的ではなく、介護は設備やロボットに頼る必要がある。介護問題の解決のために、単純に子供を多く産んだり、定年を延長したりするのは間違った考え方である。今後、介護問題を解決するには、技術や設備に頼るべきだ。

Paolo Dario氏(聖アンナ大学院大学バイオ・ロボティクス研究所(BioRobotics Institute)所長)

 現時点では、介護ロボットが人間より優れていることを証明できる充分なデータは存在しない。認知や四肢運動の面からいえば、ロボットが人間に比べて優れている点はない。介護ロボット、リハビリテーション支援ロボットの最大の課題は、それらの置かれる環境の複雑さにある。すでに類似のロボット製品は存在するが、認知システムや人間・機器間のインタラクション、人との感情交流で足りない点がある。さらにいえば、ロボットに体重70㎏の人を抱えさせようとするなら、装置を巨大にする必要がある。自重比も解決の待たれる課題である。

王田苗氏(北京航空航天大学教授/北京智慧制造研究院執行院長)

 介護ロボットとコンパニオンロボットが今後の重要な方向性となる。現時点では、性能の高いロボットは日本に集中している。研究の難点は以下のとおり。すなわち、1)機能・コスト比。医学的見地から、介護は自由型介護、半自由型介護、完全介護型介護に分けられるが、介護ロボットには大きな課題があり、多様な介護機能を備える必要がある。これは、価格が非常に高くなることを意味する。2)医師による指導がない状態での介護における安全性。もし、ある高齢者がロボットに寄りかかっている際にロボットが倒れ、その高齢者も倒れた場合には、基準上や法律上の問題が生じる。しかし、私の理解では、介護ロボットとコンパニオンロボットは外科医療用ロボットよりも成長率が高い。なぜなら、これらのロボットは外科医療用ロボットほど許可証申請が厳しくないからだ。とはいえ、価値の大きさとしては、やはり外科医療用ロボットが介護ロボットやコンパニオンロボットをはるかに上回るだろう。

畢勝氏(北京大学リハビリテーション医療医院院長)

 当院はリハビリテーション支援ロボットの研究においてはスタートが早く、同ロボット製品をすでに開発しているが、まだ製品化には至っていない。リハビリテーション支援ロボットは研究分野として高い関心を集めており、上肢、下肢および補助ロボット製品は非常に多く、産業として急速に成長するだろう。現時点では、リハビリテーション支援ロボットの製品化と臨床上のニーズとの間には一定の距離がある。リハビリテーションや理学療法を必要とする患者の症状は非常に複雑で、特に麻痺状態にある患者に対して、リハビリテーションの原理からいかにロボットを設計するかが重要になってくる。リハビリテーション支援ロボットの設計には、リハビリテーション医学の専門家との協力が必須であり、専門家の考え方や理学療法士の経験をロボットに反映させ、リハビリテーション医学の原理からロボットを設計してはじめて、開発に成功できるだろう。

孔繁軍氏(国家リハビリテーション補助器具研究センター付属リハビリテーション医院副院長)

 リハビリテーション支援ロボットは多様性や精確性の面で進歩しているが、人間の代わりには永遠になれない。リハビリテーションが到達するべき最終目標は以下の2つである。すなわち、1つ目は機能訓練であり、機能をある一定の正常なレベルにまで回復させることである。そして、このレベルに到達できない場合に必要となるのが2つ目であり、機能の代替である。リハビリテーション支援ロボットはこれら2つのミッションを満たす必要がある。疾患別に見るなら、例えば脳出血や脳血栓等の神経系疾患ではリハビリテーションの意義は大きく、患者の依存度は高いであろう。現在、中国では脳血管疾患の発症率が高く、死亡率は全体の第1位である。年間患者数は毎年200万人以上で、死亡者数は150万人余り、すなわち12秒に1人の割合で新しい患者が発生し、21秒に1人の割合で死者が出ている。一方、治療面から見れば、治療後の死亡率は中国では16.2%であり、先進国との差はあまりない(アメリカ14%、フランス15%、ドイツ15%、日本16%)が、後遺障害率が非常に高く、先進国ではわずか30%前後であるのに比べ、中国では80%に達する。中国はリハビリテーション医療のスタートが遅かったため、技術面ではまだ向上の余地がある。神経系疾患ではリハビリテーションの開始が早いほど効果が高いが、リハビリテーション期間は一般的に長くなるため、治療後期には患者の家庭におけるリハビリテーションが必要となる。リハビリテーション支援ロボットは、将来的には携帯化、小型化、軽量化、快適化といった方向で発展し、心臓・脳血管疾患患者により多くの福音をもたらすべきである。

医療用ロボットの標準化と産業化

張松根氏(北京天智航医療科技股分有限公司董事長)

 外科医療用ロボットであろうが、あるいはリハビリテーション支援ロボットであろうが、発展の上で最も重要な問題は政策環境である。産業チェーン全体に対する政策的支援がなければ、良好な産業構造の形成は難しい。現在、政策的支援の多くは最先端の分野、すなわち、コア技術やコア部品等に集中しており、この分野の登録も重視されているだろうが、用途や医療費の徴収、医療保険の適用等の問題が解決されておらず、産業の好循環の形成には課題が山積みである。また、実践プロセスにおける基準も欠落しているため、産業化の実現を真剣に考えるなら、基準の整備が重要な問題となってくる。一体、ロボットとはどういう概念か。登録証にロボットと表記してよいか。定義がなければ、非常に複雑な問題となる。また、手術やリハビリテーションの過程で問題が生じた場合には、設備の問題とするのか、あるいは医師の問題とするのか。このような作業は一企業や一検査機関では不可能であり、国の上層部による設計や計画が必要となろう。

李静莉氏(中国食品薬品検定研究院医療器械標準管理研究所所長)

 医療機器分野は、24の標準化技術委員会によって制定・改正された基準により管理されている。この10数年間、医療機器は標準化管理の面で急速な発展を遂げた。国の政策的支援の強化に伴い、医療用ロボットの分野では、プラットフォームの建設や基準の研究を含め、研究開発がますます重視されるようになった。

 医療用ロボットは、まずは医療機器の定義に適合しなければならない。現在の医療用ロボット製品では、手術支援ロボット、リハビリテーション支援ロボットおよび診断用ロボットの3つの領域の製品が医療機器として分類される。国際標準は未だ起草および研究段階にあり、中国もこの改訂プロセスに積極的に関与している。

 ロボットの研究開発に関わる専門家の多くは、性能や機能の実現、手術遂行の可否等を重視するが、医療用ロボットの設計段階においては、医療用電気機器に関する基準や電磁両立性の基準等、安全性に関する基準を考慮しなければならない。設計および設置・テスト段階においては、基準を満たしているかどうかを真っ先に考慮し、それから性能を検討する必要がある。産業の発展に伴い、さまざまなタイプや規格の医療用ロボットの開発、産業化が進むであろう。将来的には、国家基準の起草や国際基準の立案を主導し、医療用ロボット基準の研究を含む新興産業の分野でブレイクスルーがなされることを期待する。

李徳玉氏(中国生物医学工程学会事務局長)

 基準の制定は、医療機器の発展プロセスにおける重要な問題である。基準には、国家(業界)強制基準、業界基準および企業基準の3種類がある。企業基準のレベルが高ければ、ワンランク上の基準の一部やその基盤となる可能性がある。医療用ロボットの国家基準の制定には比較的長い時間を要するため、「第13次5ヵ年計画」の一環とするべきであり、学会や社会団体も役割を果たし、基準の制定を共に推進するべきである。また、研究界や産業界からの参加も期待している。

(本稿の執筆に際し、中国生物医学工程学会からご協力いただいたことに感謝申し上げる。)

(おわり)

 ※本稿は劉志遠「医用機器人的未来之路——医用機器人産業発展与未来戦略論壇紀実」(『科技導報』33卷23期、2015年12月,pp.43-45)を『科技導報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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