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ヒューマンロボットインタラクション力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボット技術研究(その4)

2016年 9月16日

宋愛国:東南大学儀器科学・工程学院 教授

研究テーマ:ロボットインタラクションおよび遠隔操作ロボット技術

その3よりつづき)

5 東南大学の関連研究の進展と応用例

 東南大学儀器科学・工程学院ロボットセンサー・制御技術研究所は1984年の設立以来一貫して、ロボットのセンサー・制御技術の研究活動に従事して来た。30年にわたる長期の研究を経て、力 覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットのセンシング技術や制御技術、力・触覚再現技術、仮想環境モデリング技術などの方面で重要な進展を実現し、力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボット技術を、宇 宙探査や遠隔リハビリテーション医療、原子力・化学の検査・応急処理などの分野に応用している [55-61]

5.1 遠隔リハビリテーション医療ロボット

 中国は、世界で障害者が最も多い国である。全国の障害者総数は約6700万にのぼる。また全国の60歳以上の高齢人口も大幅に増加しており、2011年の人口調査では、中 国における60歳以上の人口の割合は13.26%にのぼり、高齢化のプロセスが速まっていることが明らかとなった。脳卒中は現在、中高齢者の身体の健康を深刻に損なっている主要な疾病の一つであり、発 病率の高さや致死率の高さ、後遺症の残る比率の高さ、再発率の高さ、合併症、治癒率の低さなどの特徴がある。脳卒中の後遺症としては主に、肢体の痙攣や硬直、半身まひ、植物状態化などが挙げられる。

 脳卒中患者のまひした部位にリハビリテーションの訓練を施すことは、重要でカギとなる医療手段と言える。医学専門家は、脳卒中や脊髄損傷、各 種の事故によって肢体機能の障害が引き起こされた患者にリハビリテーションの訓練をすぐに行えば、神経筋の機能を有効に回復させることができ、生 涯にわたる障害となる可能性を大きく減らすことができると指摘している。肢体リハビリテーション訓練ロボットは、これらの患者にとっての良い知らせとなると同時に、広大な市場の見通しも備えている。図19は、力 覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットをリハビリテーション訓練分野に応用して開発した、ネットワーク化遠隔力覚リハビリテーション訓練補助ロボットであるリハビリテーションの療法士は、3 台の異なるリハビリテーション訓練ロボットを同時に遠隔制御し、肢体に運動機能障害のある患者3人のリハビリテーション訓練の過程をモニタリングできる。ロボットは、適 切な力覚フィードバック作用を患者に与えることができる。

図19

図19 東南大学の開発したネットワーク化遠隔力覚リハビリテーション訓練補助ロボット

5.2 核物質・化学物質の検査・応急処置を行う小型遠隔操作ロボット

 核物質と生化学毒物は、その脅威の隠蔽性や持続性、広範囲の殺傷性などにより、各種のテロ襲撃において選ばれる第一の手段となっている。また中国の原子力発電事業は急速な発展期にあり、す でに運用されている原子力発電所は6カ所、建設中のものは12カ所、計画中のものは25カ所にのぼる。2011年3月11 日、日本の東部海域の大地震によって津波が引き起こされ、福 島第一原子力発電所が放射線漏れ事故を起こし、世界各国の原子力発電の安全に警鐘が鳴らされた。核・生物化学物質によるテロの襲撃や各種の放射線漏れ事故の対応においては、放 射線漏れの発生源の位置と放射線の程度、または生物化学危険物の汚染状況を迅速かつ正確に究明することが、正確な処置計画の制定の前提となる。各種の複雑で危険な環境に適応し、機動的で柔軟性が高く、遠 隔制御の距離が長く、現場において迅速に展開できる小型の核物質・化学物質の検査と応急処置のための遠隔操作ロボットを開発することは、この問題を解決する重要な手段となる。

 本研究所は2004年から、南京軍区防化(化学兵器・核兵器防御)研究所と北京防化研究院と協力し、力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボット技術を核物質・化学物質の検査と応急処理の分野に応用し、核物質・化 学物質の検査・応急処置を行う小型の遠隔操作ロボットの開発に成功した(図20)。開発された小型核物質・化学物質検査遠隔操作ロボットは、核物質・生 化学物質の災害現場において人に代わって偵察やサンプル採取などの任務を完了し、核物質・生化学物質の事故またはテロ襲撃に対する処理能力を高めることができる。小型核物質・化 学物質検査遠隔操作ロボットの無線遠隔操作の距離は野外で3~5kmに達し、都市環境での無線遠隔操作距離も1kmを超える。移動ロボットは、キャタピラ式の移動メカニズムを採用し、マ ニピュレーターと多くの核物質・化学物質の計器を搭載し、遠隔操作による制御下で、半自律的な把握やサンプル採取、検知などの作業を行い、視覚図像などの多くのセンサー情報に基づいて、自 律的な目標追跡や自律的な階段昇降、自律的な経路追跡を実現することができる。遠隔操作コントローラーには、立体図形動態シミュレーションや力覚・触覚フィードバックなどの方法が用いられ、操 作員のテレプレゼンスが高められた。

図20

図20 東南大学の開発した小型核物質・化学物質検査・応急処置遠隔操作ロボットシリーズ

 小型核物質・化学物質検査・応急処置遠隔操作ロボットはすでに6世代にわたって製品が形成されてきた。第2世代の製品からは南京防化分隊への配備が開始されている。第2世代ロボットは、北 京五輪の上海会場での安全保障任務を負った。第4世代ロボットは、2010年の上海万博における安全保障任務を完了し、核漏れや危険化学品汚染の応急訓練に何度にもわたって参加した。第5世代ロボットは、中 国科学院上海応用物理研究所の原子力エネルギーシステムの安全パトロールとモニタリングに用いられた。第6世代ロボットは、秦山原子力発電所3期の安全パトロール任務に用いられている。

6 未来の研究の重点

 力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットは、関連する学科が広く、技術の統合度が高く、システムの複雑性が強いことから、目下の研究水準は、理想的なテレプレゼンスからはまだ大きな距離がある。今 後さらなる研究の必要な重点としては主に次のいくつかが挙げられる。

(1)テレプレゼンス概念が提出されたのは、遠隔操作ロボットシステムにおける操作者の感知能力を高めるためである。これは、操作者による正確な意思決定の前提となる。離れた現場の力覚・触覚の感受は、シ ステムの性能にかかわるだけでなく、操作者の生理・心理感覚にもかかわる。このため力覚テレプレゼンスシステムの操作性能、すなわちテレプレゼンスの程度の評価においてはまだ、論争が少なくない。テ レプレゼンス理論が発展する中、力覚テレプレゼンスシステムの操作性能を合理的かつ定量的に評価する方法を早期に構築する必要がある。

(2)宇宙探査の発展に伴い、火星探査や太陽系外宇宙探査などに見られるように、遠隔操作ロボットの作業現場への距離はますます遠くなり、通信の遅延がますます長くなっているだけでなく、通 信の中断もまた一段と頻繁となっている。大きな通信の遅延と頻繁な信号の中断は、遠隔操作ロボットシステムの安定性と操作性能に深刻な影響を与える。こ のためテレプレゼンス遠隔操作ロボットシステムに対する長時間の遅延と信号の中断の影響は、今後研究の急がれる問題と言える。

(3)力覚テレプレゼンス遠隔操作システムは、人間をループに含んだヒューマンマシンカップリング(human-machine-coupling)システムであり、操作者は重要な構成要素の一つとなる。シ ステムの運行に対する操作者の人為的要素(生理・心理特性)の影響をめぐっては、遠隔操作システムのエルゴノミクス研究は、今後の重要な研究内容の一つとなる。

(4)遠隔地のスレーブロボットは多くが未知の環境で作業をするため、ロボットの作業環境のモデルを事前に構築することは難しく、仮想環境における予測制御の作用が制御されてきた。こ のため未知の環境の仮想環境モデリング理論とオンラインパラメーター認識方法は、研究の必要な重点の一つとなる。

(5) マニピュレーターと人の手には構造や柔軟性での差異があるため、ロボットの力覚や触覚などの感覚を人の手の相応の部位に正確に再現するには、人類の感覚と一致した力覚・触覚・運動覚センサー、さ らに人に適した力覚フィードバックと触覚再現のためのヒューマンロボットインタラクション装置の研究開発を深める必要がある。

7 結論

 テレプレゼンス遠隔操作ロボットは、現在のロボット工学研究の先端分野であり、焦点となる分野である。本稿は、力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボット技術の発展の現状とカギとなる技術を回顧・総括し、東 南大学儀器科学・工程学院ロボットセンサー・制御技術研究所が30年にわたって展開してきた力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボット技術研究の状況と典型的な応用例を紹介し、力 覚テレプレゼンス遠隔操作ロボット技術の今後の研究の重点問題を指摘した。

(おわり)

参考文献

[55]唐鴻儒,宋愛国,章小兵.基于宏行為的偵察機器人事務執行機制研究[J].機器人,2007,29(2):97-105

[56] Qian K, Song A G, Bao J T, et al. Small teleoperated robot for nuclear radiation and chemical leak detection[J]. International Journal of Advanced Robotic Systems, 2012, 9: 1-9.

[57] Guo Yan, Song Aiguo, Bao Jiatong, et al. Research on centroid position for stairs climbing stability of search and rescue robot[J]. International Journal of Advanced Robotic Systems, 2010, 7(4): 24-30.

[58] 郭晏,宋愛国,包加桐,等.基于差分進化支持向FL机的移動機器人可通過度預測1J].機器人,2011,33(3):258-272.& amp; amp; amp; amp; amp; amp; lt; /p>

[59] 徐国政,宋愛国,李会軍.基于模糊邏輯的上肢康復機器人阻抗控制実験研究[J].機器人,2010,32(6):792-798

[60] Pan Lizheng, Song Aiguo, Xu Guozheng, et al. Hierarchical safety supervisory control strategy for robot-assisted rehabilitation exercise[J]. Robotica, 2013, 31(5): 757-766.

[61] Song Aiguo, Zeng Hong, Yang Renhuang, et al. Fundamental problems in rehabilitation robots based on neuro-machine interaction[j]. Instrumentation, 2014, 1(3): 1-12.

※本稿は宋愛国「人機交互力覚臨場感遥操作機器人技術研究」(『科技導報』第33巻第23期、2015年12月,pp.100-109)を『科技導報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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