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中国における高度知的生産の発展戦略に関する研究(その1)

2016年10月19日

潘 健生:
上海交通大学材料科学・工程学院材料改質・数値シミュレーション研究所教授

中国工程院院士。主な研究テーマは、熱処理技術および設備の設計、ならびにそのコンピュータ・シミュレーション。

王 婧:上海交通大学材料科学・工程学院材料改質・数値シミュレーション研究所

顧 剣鋒:上海交通大学材料科学・工程学院材料改質・数値シミュレーション研究所

要約:

 中国の製造業は規模が大きいもののレベルは低い。特に、重要部品の耐用年数が短く、信頼性が低いことが、中国の製造業における致命傷となっている。著者およびその研究グループが企業を対象に大規模調査を行った結果、中国では競争力のない低付加価値製品の大量生産によって、深刻な資源浪費と環境汚染が生じているため、持続的発展が難しいことがわかった。また、ハイエンド設備および重要部品については今なお輸入に頼っていることが、国家経済および国防の大きな脅威となっていることを見出した。このため、高度知的生産の大々的な推進は、中国の製造業が健全なモデルチェンジを行い、科学的進歩を実現するうえで重要な意味を持つ。本稿では、中国における高度知的生産のフィージビリティを検討することによって、高度知的生産の全体的なフレームワークとその主な内容に関する提案を行ったうえで、高度知的生産の発展に向けて、いくつかのアドバイスを行う。

キーワード:高度、知的生産、知的設計、知的熱処理

 設備製造業は、国民経済の発展および国防建設の分野に生産設備を提供する戦略産業であり、国家の総合力と技術レベルの表れでもある。設備製造業で生産される製品は、個人が楽しむためのものではなく、ユーザー向け設備である。また、ユーザーが購入しようとするのは、設備そのものと言うよりは、むしろ設備に備えられた機能である。このため、耐用年数が長く、信頼性が高いことこそ、設備がそのあるべき機能を正常に、安定的に、かつ、安全に発揮するための前提となる。歴史的に見ても、世界に名だたるメーカーの設備や重要部品はいずれも、耐用年数や信頼性の面でレベルが高い。設備製造業におけるこの世界的な傾向は、長い間、変わっていない。

 2008年の世界金融危機以降、先進国ではその教訓から、経済構造の調整と製造業の再建を加速した。アメリカ、EU、日本等では「再工業化」という成長戦略が打ち出された[1]。先進国が提唱したこの「再工業化」戦略の本質は、長い目で見れば、ポスト危機時代の新たな技術革命において主導権を握ることにあった。つまり、既存の製造業の再建のみならず、産業のレベルアップによるコスト高の解消や、今後の経済成長の支柱となるハイエンド産業の模索によって、競争力を再生し、世界における主導的な地位を維持することを目的としていた。このような背景のなか、先進国においては、最先端の設備製造業における技術革新と製品のモデルチェンジが加速した。また、重大設備の応用環境が正常な状態を維持できなくなり劣悪になるにつれて、21世紀のハイエンド設備製造業においては、製品の耐用年数や信頼性の向上、ならびに軽量化が、競争の中核要素となった。

1. 中国における設備製造業の現状

 中国の設備製造業は建国以来、長年にわたる成長の結果、さまざまな分野を網羅し、相当の規模と一定のレベルを誇る産業体系となり、総量と規模の面において世界でも上位を占めるようになった。しかし、品質と技術レベルにおいては依然としてローエンドの水準にあり、独自の知的財産権を持つ技術体系の確立には至っていない。産業の核心技術と設備については相当程度、海外からの提供に頼っており、ハイエンド設備の製造能力についても先進国と比べると大きな開きがある。例えば、集積回路チップ製造設備の80%、ならびに大型石油化学設備の40%、自動車生産における重要設備および集約農業における先進的設備の70%は、今なお輸入に頼っている。また、中国からの輸出製品の多くはOEM生産であり、自主ブランドを持つ企業は20%に満たない[2]

1.1 高度生産技術の欠如、製品の耐用年数の短さ、ならびに信頼性の低さが、規模が大きいもののレベルが低い中国の設備製造業の致命傷となっている

 現在、世界の製造業では技術革新がメインテーマとなっているが、中国は、「技術の遅れ―模倣―さらなる技術の遅れ―さらなる模倣…」または「技術の遅れ―技術導入―さらなる技術の遅れ―さらなる技術導入…」という悪循環を抜け出せず、世界をリードするような次世代の高付加価値製品を生産できないでいる。競争力のない低付加価値製品を大量生産しても、深刻な資源浪費および環境汚染という代償を払う一方で、わずかな利益しか得られないため、持続的発展は難しい。また、ハイエンド設備や重要部品を輸入に頼っていては、国家経済および国防の安全に対する脅威となる。これらの根本的原因は、中国では長きにわたり、高度知的生産の重要性を認識してこなかったことにある。

 例えば、蒸気温度600℃を超える、出力100万キロワット超の超臨界圧タービンについては、技術導入によって生産されたものの、中国では早期から生産能力を確立し、市場投入もしていた。しかし、技術移転の際に、外国企業が高圧ローターや高圧・中圧ローターの大型鍛造品(半製品)の製造技術を提供しなかったために、自主製造による蒸気タービンと公称しつつも、高圧ローターについては輸入に頼るしか方法がなかった。ローター1台の価格は、蒸気タービン全体の製造コストの2分の1を占めた。外国企業は、ローターの完成品しか提供せず、半製品の提供を拒んだ。それは、中国企業が半製品からサンプルを取り、その材料や構造を分析することによって、製造技術を解明するのを避けるためであった。こうして、高圧ローターの大型鍛造品については、中国で自主開発を行うのは難しくなった。その後、中国では長年の努力によって、室温および高温下における短時間始動性能を持つ高圧ローターの開発に成功したが、時すでに遅く、600℃級の蒸気タービンは時代遅れとなっていたため、開発にかけた莫大な投資(材料費だけで巨額に上った)は回収しようがなかった。現在、中国で蒸気タービンの生産を行う各大型工場では620℃級の蒸気タービンが製造されているが、高圧または高圧・中圧ローターについては今なお輸入に頼らざるを得ない状況である。その一方で、中国の一部の企業では現在、620℃級の蒸気タービン向け高圧・中圧ローターの材料性質に関する制御技術の研究に着手している。しかし、スタートの段階ですでに海外に比べて10~20年の遅れがあるため、開発に成功したときには、620℃級の蒸気タービンについては技術寿命がいくばくも残されていないおそれもある。

 機械製造業における材料改質および材料性質制御技術に関する研究開発は、製品の設計開発よりはるかにサイクルが長いため、材料製造技術の研究開発は製品開発に先駆けて行われるべきであるが、中国では往々にして逆となっている。例えば、1980年代にフィアット社のトラクターが導入された際も、図面と技術基準の導入にとどまり、材料改質や材料性質制御技術を同時に輸入することはなく、直ちに能力を結集して自主開発に着手することもなかった。市場に大量に投入し、ユーザーの使用によって問題が発生して初めて、熱処理や鋳造・鍛造技術の段階に戻って研究が行われたが、30年経った今も回収は終わっていない。トラクターの無故障時間も、今なお270~280hにとどまっており、海外で30年以上前に設計され、すでに時代遅れとなっている製品指標(>350h)と比べても大きな開きがある。

 このように、高度生産技術の基本的な地位およびその技術革新における牽引作用を軽視するという、中国に長らく存在する態度を変えない限り、「技術の遅れ―技術導入―さらなる技術の遅れ―さらなる技術導入」という受身の姿勢から脱却するのは難しいだろう。また、さらに深刻なのは、中国で大量生産される機械設備の耐用年数および信頼性は、海外の同種製品に比べて大きな差があることである。

 例えば、この10数年にわたり、中国では減速機の製造が急速に成長しているが、耐用年数が短く、信頼性が低いという欠点は解決されていない。中国最大手を自称する減速機の大手メーカーで、年間売上高約20億元を誇り、優良製品が数多く揃う企業でさえも、製品の中には使用から1年も経たないうちに歯車の歯面が壊れたものがある(図1)。海外の同種製品では20年の耐用年数を保証しているのに比べれば、その差は歴然としている。ハイエンドのトランスミッションに至っては、中国製品は耐用年数が短すぎ、市場投入のレベルには及びもつかない。ロボットのトランスミッションについても、海外製品は720hに1度のメンテナンスで済むところ、中国製品は30h未満で故障してしまう。このため、ロボットのトランスミッションについては、100%輸入に頼るよりほかない。

写真1

図1 歯面が壊れたために、早い段階で使用不能となった歯車

Fig.1 Early stage failure of gear caused by seriously damaged tooth surface

 また、軸受産業についていえば、中国における転がり軸受の生産高は世界の約60%を占めているが、時速200km以上の鉄道用軸受や、回転速度2500r/min以上の精密旋盤用軸受、大規模風力発電設備用の主軸軸受、大型圧延機用軸受等のハイエンド製品については、やはり輸入に頼らざるを得ない。

 ボールねじに関しては、中国では最高の精度等級である0級の製品製造をすでに実現しているが、同じ企業でも、精度の高い製品では往復回数のべ600万回超を維持する反面、数万回にも満たない低レベル製品もある。このため、中国製ボールねじ製品の技術指標については低く見積もり、平均でのべ10万回と定めるよりほかない。中国製品は、のべ100万回を下回らないことを明確にコミットする海外有名メーカーの製品の足元にも及ばないことから、中国製のハイエンドNC工作機械に使用する転がり軸受については、輸入品を選ぶしかない状況となっている。

 江西省のあるメーカーが生産するスクリューポンプは海外の模倣品で、外観と機能は輸入製品と同等だが、輸入品ではスクリューの芯金に断裂事故が発生したことがないのに比べ、中国製では事故がたびたび発生している。そこで、材料を高価なものに変更したが、改善は見られなかった。故障率が高すぎて、アフターサービスが追いつかなかったために、このメーカーは無料で予備のポンプを提供する以外に方法がなかった。このため、コストがかさむ結果となったばかりでなく、ユーザーも満足できず、低価格で販売せざるを得なくなった。

 今回の調査結果から考えると、中国の設備製造業では類似の状況が数多く存在するものと予想される。

その2へつづく)

参考文献

[1] 知的生産に基づく製造業変革の核心[J]。設備製造、2013(8):60-61.

[2] 陳柳欽、中国のハイエンド製造業の振興と発展を加速する[J]。鄭州航空工業管理学院学報、2011(4):19-27

※本稿は潘健生,王婧,顧剣鋒「我国高性能化智能制造発展戦略研究」(『金属熱処理』第40巻第1期、2015年1月,pp.1-6)を『金属熱処理』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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