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核燃料要素における炭化ケイ素材料の応用(その1)

2017年 1月23日

劉栄正:
清華大学原子力エネルギー・新エネルギー技術研究院、
先進的原子炉エンジニアリング・安全に関する教育部重点実験室

1985年生まれ、博士、助理研究員。研究テーマ:被覆粒子燃料、機能性セラミックス複合材料。

劉馬林、邵友林、劉兵:
清華大学原子力エネルギー・新エネルギー技術研究院、
先進的原子炉エンジニアリング・安全に関する教育部重点実験室

概要:

 燃料要素は原子炉における中核部品であり、その性能指標は原子炉の安全性と経済性に直接的な影響を及ぼす。現在、軽水炉で生じているジルコニウム合金の腐食や水素吸収、コ アシェル反応等の問題ならびに第4世代原子力システムの燃料要素における材料への特別な要求によって、核燃料要素領域においては、炭化ケイ素(SiC)を 被覆材または基材に用いる新型燃料要素に関するコンセプト設計およびその作製が新たな関心事となっている。本稿では、これまでの研究に基づき、軽水炉、高温ガス冷却炉、溶 融塩原子炉およびガス冷却高速炉におけるSiCおよびSiC基複合材料の応用について概括する。そして、SiCを被覆材または基材に用いるさまざまな原子炉における燃料要素の設計理念、構造形式、作 製方法および関連性能の表出について重点的に論じたうえで、原子炉用SiC材料の特性および共通問題を総括し、核燃料要素におけるSiC材料の応用について、その将来性と方向性を展望する。

キーワード:炭化ケイ素、燃料要素、被覆材、基材

はじめに

 原子力発電所で生じるエネルギーは燃料要素に由来し、核分裂によって発生する放射性物質は主に燃料要素の内部に滞留する。このため、燃料要素は原子炉の中核部品であり、原 子炉の経済性と安全性に直接的な影響を及ぼす。現在建設中または運用中の原子炉のほとんどは軽水炉であり、ジルコニウム合金が軽水炉の燃料要素における重要な構成要素となっている。現在、商 用化されている加圧水型原子炉による発電所のほとんどでジルコニウム合金が燃料要素の被覆材として用いられている。しかしながら、原子炉の安全性問題がますます重視されるなかで、ジ ルコニウム合金の水中腐食や水素吸収、コアシェル反応等、ジルコニウム合金特有の問題のために、新たな被覆材の研究が重要なテーマとなってきている。また、原 子力エネルギー研究の進展に伴って第4世代原子力システムの開発および商用化が加速しており、これに適応する新型の燃料要素が相次いで開発されている。これら新型の燃料要素は、設計上それぞれに特徴があり、被 覆材に対する要求が過酷になっているほか、燃料要素の種類によっては被覆材の選択に共通性があるため、研究および設計上、相互に参照できる。特に、高 温ガス冷却炉TRISO(Tristructural-isotropic)型被覆粒子の開発成功に伴い、炭 化ケイ素(SiC)を被覆材または基材とする新型燃料要素のコンセプト設計および作製が核燃料要素領域における新たな関心事となった。SiC材料は、その優れた性能のために、核 燃料要素における応用がますます広範になってきており、原子力エネルギー領域における用途も開拓が続いている。

 本稿は、SiCの基本的性質に着眼し、原子炉用SiC材料の特性および共通問題を系統的に総括したうえで、核燃料要素におけるSiC材料の応用について、その将来性と方向性を展望する。

1 SiC材料の性能

 SiCは共有結合のきわめて強い化合物であり、その基本的な配位構造は四面体形分子構造(SiC4またはCSi4)となっている。SiCはその積層順序の違いによって、2 00種類以上の結晶多形が確認されている。このうち、面心立方格子構造を持つSiCはβ-SiC(3C-SiC)と称される。β-SiCが2100℃以下で非常に高い安定性を持つのは、S iCの主な結晶相としてであり、その他の変異体はα- SiCと呼ばれる[1]。SiCは高温下で強度が大きく、硬度が高く、耐摩耗性が良好で、耐熱衝撃性に優れ、熱伝導率が大きく、抗酸化性が強く、耐 腐食性が高い等の優れた特性があるため、宇宙航空、化学工業、電子等の分野で幅広く応用されており、高温構造部品や新型電子デバイス等の分野で大きな潜在力を持つ。表1[2]にβ-SiCの主な性能指標を示す。

表1 β-SiC材料の主な性能パラメータ[2]
Table 1 Main property parameters of β-SiC
性能 パラメータ 性能 パラメータ
結晶構造 立方 熱膨張係数 (4~5)×10-6
(室温2000℃以下)
密度(g/cm3) 3.21 硬度/GPa 約25
融点
(分解温度)/℃
2800±40 弾性係数/GPa 350~700
比熱容量
kJ/(kg·K)
0.67(室温) 引張強度/MPa 840
熱伝導率
W/(m·K)
33.5~502.4 ポアソン比 0.19

 SiCのもう一つの重要な特徴は、その小さな中性子吸収断面積と低い固有活性および崩壊熱にあり、これらの性質によって原子炉領域への適用が可能となっている。SiCは照射下寸法安定性が非常に良好で、β -SiCは800~1000℃の中性子照射を受けてもわずか0.2%のクリープしか生じない[3]。SiCの理論密度は3.21g/cm3であり、化学気相成長法によって理論密度に近いSiCが作製可能で、技 術条件の変更によって多孔質かつ未固結のSiCが作製可能である。一般的によく用いられるSiC繊維は、その不定比性および不純物の存在によって密度が低下するため、S iC繊維とSiC基材を利用して作製された複合材料は、その界面と空洞の存在によって密度はさらに低下する[4]。緻密なSiCであれば核分裂生成物の放出を効果的に防ぐことができるし、多 孔質SiCであれば気体状核分裂生成物を閉じ込めることができる。このため、さまざまな密度のSiCの作製に成功することで、核燃料要素におけるSiCの応用が可能となる。

2 原子炉燃料要素におけるSiC材料の使用

2.1 軽水炉

 ジルコニウム合金はこの50年間にわたり、軽水炉の燃料棒において安全で信頼性の高い被覆材として利用されてきた。現在、ジルコニウム合金を被覆材とする軽水炉燃料要素は、設 計上の燃費限界値である62MW·d/kg(U)[5]に着実に近づいている。ジルコニウム合金による被覆はすでに成功を収めていたが、燃費の向上によって被覆材にさらに高い条件が求められるなかで、福 島第一原子力発電所事故によってジルコニウム合金被覆材の安全性問題が再び注目を集めるようになった。ジルコニウム合金被覆材の安全性に影響を及ぼす主な問題はジルコニウム-水反応であり、ジ ルコニウムと水蒸気は高温下において以下の反応を生じる。

Zr+2H2O→ZrO2+2H2↑ (1)

 反応は、開始時の進行は緩慢なものの、放出された水素の一部がジルコニウムに吸着されると、ジルコニウム合金の強度と塑性が低下し、脆性が向上する。高温または高燃費条件下では酸化腐食に転換点が生じ、反 応が急激に加速して大量の気体を生じ、一定条件下では爆発事故の可能性もある[6,7]。冷却材喪失事故(LOCA)においては、燃料要素の温度が急速に向上し、1 200℃以上でジルコニウム合金と燃料に共晶反応が生じ、ジルコニウム合金被覆の急速な腐食が生じる[8]。ジルコニウム合金被覆は、300℃以上においては温度が10℃上がるごとに強度が2%、弾 性係数が1%低下し、熱によるクリープ速度も温度上昇に伴って顕著に向上する[9-11]。このため、SiCの代用としてジルコニウム被覆の使用を検討することが新たな研究テーマとなっている[12-14]。S iCはより高い中性子注入に耐えうるため、SiC被覆による燃料棒はさらに高い温度や出力レベル、そしてさらに長い循環周期においての運用が可能である。このため、ジ ルコニウム合金被覆による燃料要素の燃費限界を解消できるうえに、事故発生条件における安全マージンの拡大を保証できる。

 新型軽水炉の燃料要素構造および基本寸法は図1のとおりで、3層の被覆構造を有する。第1層は化学気相成長法によって作製されたバルクSiC管で、核分裂生成物の放出を防ぐ第一の障壁であり、こ の層と燃料棒との間には、気体状核分裂生成物の一部を閉じ込められるように一定の間隙が設けられている。中間層は繊維を強化したSiCf/SiC複合材料であり、こ の層ではまず内層のSiC管上にSiC繊維を編み込んでから、化学気相浸透法によりSiC基体を作製する。中間層は内層のSiC管が外部から損傷を受けないように保護し、内 層のSiC管における照射条件下の引張応力を強化するとともに、クラックの拡大を防ぐことができる。最外層は環境保護層であり、冷却媒質による複合材料層への腐食を防ぐ。燃 料棒の末端をSiC材料で密封することにより、核燃料要素全体の密封性を保証することができる。この核燃料要素に対する放射線照射および性能検証については、す でに初歩的な研究が行われている[13,15,16]

図1

図1 三重SiC被覆構造の概要[13,15,16]

Fig.1 Structure and morphology of triplex SiC composite cladding[13,15,16]

2.2 高温ガス冷却炉

 高温ガス冷却炉はヘリウムガスを冷却材として、グラファイトを減速材および炉心構造材として採用し、燃料は被覆粒子がグラファイト基体に拡散している全セラミックス型燃料要素であり、炉 心のヘリウムガス出口温度は950℃に達しうる。高温ガス冷却炉は第4世代の先進型原子炉で、特有の安全性を設計の基本理念としており、全 セラミックス製のTRISO型被覆粒子が発電所の安全性確保のうえで重要な保障となっている[17,18]。高温ガス冷却炉の燃料要素は主に球形と角柱形の2種類であり(図2(a)、(e))、各 燃料要素の燃料エリアは1万個近くの被覆燃料粒子の拡散するグラファイト基体により構成される。被覆粒子の直径は1mm未満で、球形のセラミックス製核燃料コア、未固結熱分解炭素層、内側の緻密な熱分解炭素層、S iC層および外側の緻密な熱分解炭素層により構成され、その基本構造は図2(b)のとおりである。燃料粒子の複合被覆層により球形の圧力容器が構成され、核分裂による放射性生成物の発生に制約を与える。第 4層の被覆構造の中で最も重要なのはSiC層(図2(c)および(d))であり、完全なSiC層によって大部分の気体および固体核分解生成物を遮断し、かつ、被 覆燃料内の気体生成物による内圧を受け止められることは、高温ガス冷却炉の安全性における重要な保障である。

図1

図2 球形燃料要素とTRISO被覆燃料粒子((a)-(d))、角柱形燃料要素とQUADRISO被覆燃料粒子((e),(f))

Fig. 2 Spherical fuel element and TRISO coated particles ((a)-(d)); prismatic fuel element and QUADRISO coated particles ((e),(f))

 清華大学原子力エネルギー・新エネルギー技術研究院は、長期にわたる研究の結果、流動床炉において化学気相成長法によるSiC被覆層の作製に成功した。作製されたSiC層は理論密度に近く、厚 さは35µmであり、製造時破損率は10-6オーダーに抑えられている。SiCを主な被覆層とする燃料粒子は照射試験で優れた性能を示したうえに、中 国の10MW高温ガス冷却炉において実用に成功している[19,20]。中 国政府は2006年に200MWペブルベッドモジュール型高温ガス冷却炉を用いた発電所モデル事業(HTR-PM)を国家科学技術中長期発展計画の重大テーマに指定し、すでに建設を開始している。

 球床炉における球形燃料要素の循環と異なり、角柱形燃料要素は一度に炉心に入れられ、燃料コアにおける運転サイクル初期の余剰反応度が大きいことから、これを解消し、良好な出力分布を保証するために、酸 化ユーロピウム(Eu2O3)または酸化エルビウム(Er2O3)可燃性毒物(Burnable absorbers)を外側に一層加える必要がある。被覆粒子の作製プロセスにおいて、可 燃性毒物は新たな被覆層としてコア粒子表面を被覆し、多層被覆粒子(QUADRISO)を構成する[21-23]。QUADRISOにおいても、SiC層は核分裂生成物を閉じ込め、内 圧を受け止めるための重要な層を構成する(図2(f))。

その2へつづく)

参考文献

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※本稿は劉栄正、劉馬林、邵友林、劉兵「碳化硅材料在核燃料元件中的応用」(『材料導報』第29巻第1期,2015年、pp.1-5)を『材料導報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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