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中低速磁気浮上式鉄道における片側式リニア誘導モータの設計および最適化(その2)

2017年 3月 1日

陳雅婷:中南大学交通運輸工程学院博士生

陳特放:中南大学交通運輸工程学院教授、博士指導教員

鄧江明、于天剣、唐建湘、成庶:中南大学交通運輸工程学院

その1よりつづき)

3 外部出力特性試験

 2つのSLIM設計プラン候補が中低速における牽引・制動特性の要求を満たせるかどうかについては、関連の試験により検証する必要がある。誘導電気モータの運行原理と結びつけると、SLIMは高速運行区域においては、一次コイルにおける誘導起電力の増加に伴い、一次側の電流に減衰特性が現れる[10-11]。図2のとおり。SLIMの定常状態におけるT-型等価回路モデルにおいて、この部分は直感的に描写できないため、本稿ではこれまでの国内外の関連設計試験データ[12]と併せて検討する。SLIMの優れた制御性能を獲得するために、SLIMの一次側電流と電気モータの速度の変化特性は、SLIMの一次側電流の有効値が時速>60 km/h以後は減衰特性があるものとする。これは、実際の運行時における稼働状況と一致するものである。

図2 SLIM設計プラン候補の動作電流-速度特性
Fig.2 The current-speed characteristics of SLIM

 図3に示すのは、国内外の関連データにこれまでに設計・計算されたプランをあわせて得られたSLIMの力率特性に関するグラフである[13]。図3により、8極89スロットのSLIM 設計プランは8極80スロットのSLIM設計プランに比べて電気モータの力率と効率がやや高いことが分かる。したがって、図4のように、当該プランのほうがさまざまな性能において優れたパフォーマンスを示すことが分かる。

図3 SLIM設計プラン候補の力率計算-速度特性

Fig.3 Power factor-speed characteristics of SLIM

図4 SLIM設計プラン候補の推力(Fx)および垂直力(Fy)の有限要素法計算-速度特性

Fig.4 The finite element calculation-speed characteristics

 電流-スリップ制御特性下の2つの設計プラン候補における電気モータの推力出力特性[14]は、以下のとおりである。

1) 1つ目の設計プラン候補において、安定した定格電流340Aの動作状況下で、滑り周波数がゼロから定格周波数へ、すなわち0~39.4Hzに変化するプロセスにおける電気モータの推力出力特性は図5に示すとおりである。

図5 推力出力と滑り周波数の变化特性

Fig.5 Variation characteristics of thrust output and slip frequency

 図5によれば、第一に、電気モータが垂直力の最適点における滑り周波数において推力を出力すれば、1台のSLIMにおける牽引制御要求を満たすことが分かる。また第二に、推力ピーク値において得られる推力最適点が滑り推力のピーク値であることが分かる。このうち、推力最適点の滑り周波数とそのピーク値力は、SLIMのT-モデルによって直接計算して求めることができる。

 上記の設計パラメータと結びつけると、相互感応パラメータの計算式は、以下のとおりである。

 二次側の等価電気抵抗の計算式[15]は、以下のとおりである。

 また、二次側の漏れインダクタンスの簡略化した計算式は、以下のとおりである。

 以上の簡略化した計算式により最終的に得られた最適点における3つの制御パラメータLm、RsおよびLlsについて、表9に示す。

表9 2つのSLIM設計プラン候補における動的パラメータの制御に関する正確な計算
Tab.9 Precise calculation for controlling dynamic parameters of SLIM’s two optional designs
SLIM型式 Rs/Ω Lm/mH Lls/mH
M-1 0.052 162 2.157 479 0.778 728
M-2 0.054 429 2.054 472 0.720 659

 2) 2つ目の設計プラン候補において、安定した垂直力の最適点を滑り周波数13.69 Hz下に制御し、電気モータの一次側電流の有効値が始動から定格値に至るまで、かつ、高速区域の誘導起電力が電流減衰の特性まで増強されるまでを考慮した場合の電気モータの推力出力特性は図6のとおり。

 図6により、高速区域における電流の減衰特性を考慮したとしても、垂直力最適点が滑り周波数13.69 Hz下で安定している場合は、2つの電気モータ設計プランのいずれを採用しても磁気浮上式鉄道の全体の牽引力出力は15kNを上回り、列車が受ける全抵抗力を考慮しても、いずれの設計プランも120km/hの中低速範囲における牽引要求を満たすことが分かる。また、図6により、8極-89スロット(M-2型)SLIMs(30台が同時に作動)は、8極-80スロット(M-1型)SLIMs(30台が同時に作動)に比べ、全体牽引力の出力が約10%上回ることが分かる。特に、SLIMが定格運行モード30~40km/hに設計される場合は、M-2型設計プランはM-1型設計プランより優れ、磁気浮上式鉄道の牽引能力の向上に資することがわかる。当然ながら、本設計プランではSLIMの電気モータの機械エアギャップが17mmの浮上前の牽引力設計要求しか考慮していないため、磁気浮上式鉄道が安定浮上モードにある場合を考慮するとすれば、SLIMの機械エアギャップは約8 mmとなり、電気モータの推力特性曲線は少なくとも20%~30%引き上げられる。

図6 周波数13.69 Hz下における2つの設計プランの牽引特性に対する検証

Fig.6 Traction characteristic verification of two designs at 13.69 Hz

4 有限要素シミュレーション試験結果

 2つの候補プラン的電気モータのSLIMの実際の推力と垂直力について試験を行うのは難しい。なぜなら、SLIMが運行プロセスにある場合、その推力と垂直力に関する試験も動的状態で実施されなければならないため、一定の困難があるからである。しかし、Ansoft /maxwellを利用すれば、2つの設計プランの優劣をおおむね理解することができ、有限要素シミュレーション法を採用すれば、同一の作動条件や環境、材料属性において2つのプランの力学的特性を対比・検証することができる。安定的な滑り周波数を13.69Hzとした場合のシミュレーション計算の統計結果を図7~8に示す。実験結果により、M-2型はM-1型に比べ、低速区域と中高速区域のいずれにおいても、出力される推力が約16%高いことが分かる。また、電気モータが浮上状態のエアギャップ8mmの条件下においても、両者の垂直力の出力は約300~600Nであったが、M-2型の中高速区域における垂直力の出力は、M-1型に比べて約12%少なかった。

図7 8極89スロットSLIMの一次誘導鎖交磁束特性
Fig.7 Primary induction flux characteristics of 8 pole-89 slot SLIM

図8 2つのプランにおけるSLIMの安定電流・安定滑り周波数の出力特性の対比
Fig.8 Output characteristic contrast of the slip-frequency

 図8に示す2つのSLIM設計プランの出力特性から、以下のことが分かる。すなわち、8極-89スロットの電気モータの出力推力は(3200±50) Nで、8極-80スロットの電気モータより約23%高い(理論計算値は16%)が、一次鉄心が参考垂直方向y軸にて受ける垂直力は約- 800Nで、8極-80スロットの電気モータが受ける垂直力との位相差は小さい。全体的に、8極-89スロットのSLIM設計プランのほうがコストが安く、電気モータ性能に大きな向上が見られる。

 図9に中低速磁気浮上式鉄道用8極-80スロットSLIM設置時の配置イメージを示す。現場の牽引・制動試験により、既存のSLIMプランは基本的にこれまでの設計要求を満たすことが分かった。設計、製造技術コストおよび条件上の制約を考慮すると、8極(仮想9極) -89スロットのSLIMは現場で製造できるものではないが、前述の理論計算と有限要素シミュレーションによる検証により、当該プランのフィージビリティが検証されたことは、磁気浮上式鉄道におけるSLIMの全体的な性能の向上に貢献するだろう。

図9 1軸ボギー試験台車におけるSLIMおよび電磁石浮上装置の配置
Fig.9 Electromagnet layout of the single bogie

5 結論

 1) 中低速磁気浮上式鉄道用SLIMの牽引・制動特性要求を満たすことを目標に、リニアモータに関する2つの設計プラン候補を提案した。その一つは8極80スロット(長さ1927mm)で、もう一つは8極89スロット(長さ2047mm)であり、いずれのリニアモータも磁気浮上式ボギー台車に設置された場合、長さ・幅・高さに関する空間サイズ要求を満たすことができる。

 2) 構造空間および材料コストを考慮したうえで、SLIMのスピーディなモデル設計方法を提案した。SLIMのコイル極数、ピッチ、巻数、スロット型、配線等について、スピーディかつ正確に型を設定することができる。

 3) 2つのSLIM設計プランそれぞれについて磁路計算、起磁力計算、等価回路計算、始動特性計算等を行い、相応の計算・対比結果を得ることができた。設計に関する計算結果から、8極89スロットの設計プランは、始動時の推力と力率、電気モータ効率のいずれをとっても、8極80スロットのリニアモータより優れることが分かった。

 4) 8極80スロットのSLIMはすでに量産化されていることから、その性能試験、理論計算、有限要素シミュレーションの位相差は小さい。他方、8極(仮想9極) 89スロットのSLIMはまだ量産化されていないが、全体的な性能については理論上、そしてシミュレーション試験の結果のいずれにおいても検証されているため、実現可能な最適化プランということができよう。

(おわり)

参考文献

[10] MARINO R, PERESADA S, VALIGI P. Adaptive input-output linearizing control of induction motors [J]. IEEE Transactions on Automatic Control, 1993, 38(2) : 208-221.

[11] CHEN S L, LIN K H. A slim RFID tag antenna design for metallic object applications [J]. IEEE Antennas and Wireless Propagation Letters, 2008, 7: 729-732.

[12] LEE I O, CHO S Y, MOON G W. Improved phase-shift PWM converter for larger sized PDP slim sustain power module [J]. IEEE Transactions on Power Electronics, 2013, 28(2) : 945-958.

[13] PETROVIC V, ORTEGA R, STANKOVIC A M, et al. Design and implementation of an adaptive controller for torque ripple minimization in PM synchronous motors[J]. IEEE Transactions on Power Electronics, 2000, 15(5) : 871-880.

[14] KIM K, LIM S, PARK N C, et al. Structural dynamics modification of slim optical disk drive [J]. IEEE Transactions on Magnetics, 2009, 45(5) : 2209-2212.

[15] MOON H R, SHIN M H, LEE J Y, et al. Design of integrated light guide plate with functional structure of enhanced diffusion length for ultra-slim LED backlight unit[J]. Journal of Display Technology, 2015, 11(1) : 44-52.

※本稿は陳雅婷、陳特放、鄧江明、于天剣、唐建湘、成庶「中低速磁浮単辺直線電機設計及特性優化」(『哈爾濱工業大学学報』第48卷第9期、2016年9月、pp.83-88)を『哈爾濱工業大学学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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