生態系サービスに向けた森林生態系管理:現状、挑戦、展望(その3)
2017年 2月24日
劉世栄:中国林業科学研究院森林生態環境・保護研究所,国家林業局森林生態環境重点実験室
代力民:中国科学院瀋陽応用生態研究所,森林土壤生態国家重点実験室
温遠光:広西大学林学院,亜熱帯農業生物資源保護・利用国家重点実験室
王 暉:中国林業科学研究院森林生態環境・保護研究所,国家林業局森林生態環境重点実験室
(その2よりつづき)
5 森林生態系管理の発展の趨勢と展望
生態系サービスに向けた森林生態系管理は、未来の森林経営の発展の方向であり、各国の森林持続可能経営と林業科学研究の最も重要な内容であり、さらに21世紀の林業の持続可能発展の核心である。政策レベルから見ると、中国の森林経営体系には系統的な転換が必要であり、木材を中心とした経営から生態系サービスを目指すべき方向とした多目標経営への転換を徐々に進めなければならない。森林生態系管理は、林業の分類経営を基本的なフレームワークとしたものから、分類経営と多目標経営の双方を配慮し、最終的には近自然林経営を主体とした森林経営体系を形成するものへと漸進的に発展させる必要がある。生態系サービスに向けた森林経営体系の構築にあたっては、今後も一定程度は、防護・生産・多目標経営という林業分類経営の基本的なフレームワークを守る必要があるが、主導的機能の確立と多目標経営の実現は、未来の森林経営が目指すべき主流の方向となっている。森林生態系サービスのさまざまな時間・空間の関係を配慮し協調させ、森林生態系サービスの効果と効率を最適化し、人類の福祉のための最大の利益を実現することは、変化する環境の下での森林生態系の構造や機能、健全性をよりよく維持することを可能とし、森林の気候変動適応能力を高められるだけでなく、各種のステークホルダーの参加のより良い協調と森林生態系管理のスムーズな実施の促進にも有利となる。
5.1 天然林の生態系管理
天然林の異なる起源に応じて、科学的な経営と管理を行う。天然林地帯に残存する老齢林パッチは、重要な遺伝資源の遺伝子プールであり、また回復・再建の自然参照体系でもあり、生物多様性保護に対して重要な意義を持っている[40]。これに対しては厳格な「封鎖」措置を取り、その品種と遺伝子の多様性を保存し、その群集の構造と機能を維持する必要がある。退行が軽度で構造が整った二次林に対しては、厳格な封鎖と保護・育成の措置を実施し、その良好に保たれた自己修復メカニズムと天然の更新能力に依拠して、外部の撹乱を排除した条件下で、その構造と機能の迅速な回復をはからなければならない。遷移初期段階にあり、天然更新能力が低く、樹種の組成と密度が不合理で、健康状况が良くない二次林に対しては、封鎖と調整の措置を取り、封鎖保護を行うと同時に、目的樹種の補植や補播種、育成保護、間伐、雑草・灌木除去などの適度な人工補助措置を通じて、その自然回復遷移経路を変えないという前提の下で、遷移段階のスキップまたは遷移プロセスの短縮を促進し、生態系の構造と機能の回復を加速する必要がある。退行が深刻で、環境が悪劣で、天然更新が困難な生息地に対しては、封鎖と再建の措置を取り、適切な品種または生態回復を駆動する品種を選び、物理的な措置と生物学的な措置を結合した方法を利用し、退行の深刻な生態環境に対して土壤機能の修復と人工植生の再建をはかる。天然林地帯の大面積の人工単純林に対しては、封鎖と改造の措置を取り、標的をもった育成や間伐、広葉樹林への針葉樹の導入、遷移後期の郷土樹種の補植などを行い、原生森林への遷移を誘導し、その構造や生態機能、生物多様性の回復をはかる[41]。
激化を続ける地球気候変動を緩和するため、林業は現在、経営発展方向の転換と調整の最中にある。これに応じて生まれた炭素固定林業は、一連の保護や森林の持続可能に適応した管理措置を通じて、大気中のCO2の吸収固定を増加させ、炭素排出を減少させ、森林生態系による炭素固定の最大の効果を実現し、森林生態系のその他さまざまなサービス効果を上げることを目標としている。造林や再造林、退行した天然林の回復、農林複合システムの構築などの措置を通じて、森林の植生と土壤炭素貯留量を高めることは、森林の炭素吸収源の機能を増強することを可能とする。また天然林は、原始老齢林も含め、炭素吸収源としての機能を持っているため[42-43]、天然森林の保護と維持は、既存の天然林生態系における炭素貯留庫を保護し、大気への炭素の排出を減少させ、生物多様性と品種資源を保護することを可能とする。天然林の持続可能経営の実施を通じ、一連の炭素管理措置を取ることで、排出削減と炭素吸収源増加の目標を実現することができる。
森林の管理・保護と公益林の建設をさらに強化し、天然林資源の育成を加速する。天然林保護プロジェクトを実施し、二次林の経営を適切に行い、近自然林業を発展させ、公園または自然保護区を建設し、伐採の禁止または制限措置を実行するなどの手段を通じて、天然林保護の長期的に有効なメカニズムの建設を進め、天然林資源の総量を大きく増加させ、天然林の構造と質、生態機能を大きく高め、生物多様性をさらに豊富にし、天然林の経営管理能力を全面的に向上させる。天然林保護プロジェクト地帯における林業企業の「代替産業」の持続可能発展の新モデルを探求・推進し、政府投入を拡大し、各項の社会保障政策を実現し、「天保プロジェクト」のもたらす恩恵を林業従事者へともたらすことは、天然林保護プロジェクトの段階的成果を固めることにつながる。
5.2 人工林の生態系管理
天然林やその他の植生類型と同様に、人工林が提供する生態系の産物とサービスも、人類の福祉の改善を大きく促進することができる。中国の人工林の年間伐採量はすでに1.55億m3に達し、木材総生産量の46%を占めている[6]。世界における木材の主要消費国である中国では、木材産物に対する需要が、国民経済と人口の増加につれて急速に伸びている。増大し続ける中国の木材需要の供給不足のほとんどは、人工林によって補われている。
木材だけでなく、人工林は、木材以外の林産物の提供を通じても経済発展と国民生活に貢献している。2011年、経済林総量の95.5%を占める人工林は、1.338億tにのぼる非木材林産物(果物1.147億t、ドライフルーツ/ナッツ0.093億t、茶0.014億t、木本油糧・その他0.016億t)を提供し、林業全体の総生産量の23%を占めた[44]。
これと同時に、人工林は、生物多様性の保護の強化や炭素隔離、水文学的調節などの環境サービス機能の強化を通じて、生態環境の改善において重要な役割を果たし、中国の林業戦略における生態回復と生態安全、生態文明の目標実現に積極的に貢献している[45]。世界のほかの国々と同様、生態の持続可能性と環境変化の面では、中国の人工林発展はすでに、巨大な試練に直面している。これには、激化し続ける地球気候変動の影響、人工林に対する経済・社会の発展の需要の多様化、人工林に対するさまざまな利害関係者の価値観の変化などが挙げられる。
中国は、人工林を2020年までに2005年比で4000万hm2増やすという国家林業戦略目標を設けている。だが数種の樹種からなる大面積の人工単純林は、景観構造の単一性、空間分布の不均衡、齢級分布の不均衡、蓄積・生長量のが低さなどの特質を持ち、さらに変化し続ける環境下で人工林経営の目的が多岐にわたるという複雑性も加わり、人工林の経営は重大な試練に直面している。中国南方の一部の省区は、短周期速生林(ユーカリなど)の栽培面積の持続的な拡大と集約経営度(施肥・除草・灌漑など)の高まりに懸念と恐怖を覚え始め、短周期速生人工林の発展を制限・抑制する政策まで打ち出されている。このため人工林経営管理戦略の改変を通じて、森林生態の育成と自然再生への重視を高め、大面積の完全伐採作業や大規模の人工更新・再造、化学的な施肥と除草の高集約経営作業などの方式を提唱することはやめ、人工林経営戦略を、短周期の木材生産量や造林面積の増加の単一的な追求から、長周期の木材生産の量と質の双方を重視し、人工林生態系サービスへと向かう近自然化多目標経営へと漸進的に転換する必要がある。中国の実際の国情と森林状況の発展状况に基づき、現段階または将来のしばらくの時期においては、中国の人工林経営体系は引き続き、複数の育成モデルを示し、短周期の速生豊産林モデルと長周期の高価値木材人工林モデル、長期・短期を結合した人工林混合モデルが共存することとなる。また単一的な経営目標と二重の経営目標、多目標経営とのモザイクと融合という発展傾向を示し、木材生産を手動とした単一目標、木材と非木材資源(「林下経済」と呼ばれる)との二重目標、人工林産物と生態系サービスの供給という多目標経営が混在することなる。だが最終的な発展の方向は、生態系サービスに向けた人工林生態系の多目標経営である。生態系サービスに向けた人工林生態系管理の発展は、森林経営者が経営計画の実施を通じて人工林による社会的効果(水・土地利用の衝突の調節)、経済的効果(生産力と経済成長)、環境面での効果(気候変動と生物多様性の影響)を全面的に整合することを促し、人工林経営が、木材と非木材の持続可能な供給の保障を前提としながら、気候変動の緩和と適応、水資源の調節・涵養、生物多様性の保護をいっそう後押しすることにつながる。
6 結論
(1)森林経営戦略においては、単純な森林面積の量の拡張から、単位面積当たりの森林生産力と森林の質の向上へと転換し、中国の森林生態系管理の水準を全面的に高め、森林資源の量と質を向上させると同時に、林業の産業発展も促進しなければならない。そうすることによって森林資源や土地資源、水資源を合理的に利用し、森林の生態機能を十分に発揮することができるだけでなく、国内の木材需要を満足させ、さらに社会に大量の就業の機会を提供することもできる。
(2)森林経営は、単一的な木材生産の追求から多目標経営へと漸進的に転換する。森林の林産物という単一的な経営目標を、生態や経済、社会などにかかわる広範な多目標経営へと転換する。これらの目標は、「ミレニアム生態系評価」に応じて、生態系サポートサービス(養分循環、土壤構造、一次生産)、供給サービス(食物、淡水、木材、繊維、燃料)、調節(気候、洪水・冠水、植物病害調節、水源浄化)、文化・審美(美観、精神、教育、レジャー)に分けられる。生態系サービスに向けた多目標森林経営は今後、長期的な生態系の機能と安定性を維持すると同時に、人類の経済・社会の発展のニーズをより良く満たすものとなる。
(3)人類の生存と発展に必要な資源は、根本的に考えて、自然生態系を由来とするものにほかならない。森林生態系とそのサービスはほかのものによっては替えがたく、良好に循環する森林生態系を維持・管理することは、人類の生存と発展の維持の土台となる。生態系の構造と機能の完全性に基づく森林の持続可能経営を通じて初めて、社会・経済と環境保護の両面における森林のさらなる価値を実現し、生物多様性の保護と生態系機能の維持を実現し、脆弱でダメージを受けやすい生態系の再建・回復を実現し、気候変動の影響に対する森林生態系の適応能力を増強することができる。
(4)森林経営は、林分のレベルから森林景観の経営へと転換され、森林景観の時空的異質性と動的変化を際立たせ、森林景観の多様性と連結性を唱導し、森林とその他の土地利用モデルのモザイクによって構成される複合景観の持続可能性と安定性を高めるものとする。森林景観経営は、景観資源の利用を最適化し、多種の生態系のサービス機能を考量し協調させることができるだけでなく、森林生態系と隣接居住区の環境・経済面でのリスクを縮小し、自然資源の供給や食物の安全性、社会発展の長期的な安定性を高めるものとなる。
(5)森林生態系管理の政策決定は、過去の経験に基づく主観的なものから、情報化・数値化・スマート化されたものへと転換される。景観生態学の方法と空間分析技術、森林資源調査の方法を結びつけて利用し、森林生態系管理の政策決定サポートシステムと森林景観回復・空間経営計画システムを構築し、森林経営分類体系を区分し、データのリアルタイムの更新と情報管理を行い、森林資源の全過程の精密な数値化管理を実現する。このほか森林遷移モデルと森林景観動的モデルを利用し、林分の採伐強度と更新プランの経営効果をシミュレーション・予測し、景観スケールにおける伐採地区の空間配置や生物多様性保護・持続可能経営プランを評価・確定することは、異なる目標に応じた森林経営モデルの選別に科学的な根拠を与え、森林景観の回復や森林景観の持続可能性の維持、多目標空間経営に新たな方法を提供するものとなる。
(おわり)
参考文献
[6] 国家林業局. 国家森林資源清査. 2014.
[40] 繆寧, 劉世栄, 史作民, 馬姜明, 王暉. 強度干擾后退化森林生態系統中保留木的生態効応研究綜述. 生態学報, 2013, 33(13) : 3889-3897.
[41] 劉世栄, 代力民. 生態保護與建設工程 / / 李文華, 等著. 中国当代生態学研究. 北京: 科学出版社, 2013.
[42] Zhou G Y, Liu S G, Li Z A, Zhang D Q, Tang X L, Zhou C Y, Yan J H, Mo J M. Old-growth forests can accumulate carbon in soils. Science, 2006, 314(5804) : 1417-1417.
[43] Lewis S L, Lopez-Gonzalez G, Sonké B, Affum-Baffoe K, Baker T R, Ojo L O, Phillips O L, Reitsma J M, White L, Comiskey J A, Djuikouo K M N, Ewango C E, Feldpausch T R, Hamilton A C, Gloor M, Hart T, Hladik A, Lloyd J, Lovett J C, Makana J R, Malhi Y, Mbago F M, Ndangalasi H J, Peacock J, Peh K S, Sheil D, Sunderland T, Swaine M D, Taplin J, Taylor D, Thomas S C, Votere R, Wll H. Increasing carbon storage in intact African tropical forests. Nature, 2009, 457(7232) : 1003-1006.
[44] 国家林業局. 中国林業統計年鑑(2011) . 北京: 中国林業出版社, 2012.
[45] 国家林業局. 中国森林資源報告------第七次全国森林資源清査. 北京: 中国林業出版社, 2009.
※本稿は劉世栄,代力民,温遠光,王暉「面向生態系統服務的森林生態系統経営: 現状、挑戦与 展望」(『生態学報』第35巻第1期,2015年1月、pp.1-9)を『生態学報』編 集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司