第135号
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海底メタンハイドレートの採掘技術の動向

2017年12月28日 趙羿羽 曽暁光 郎舒妍(中船重工経済研究中心)

 メタンハイドレートは天然ガスハイドレートとも呼ばれ、主にメタンから構成され、燃焼後の生成物は水と二酸化炭素であり、一種の新たな海洋クリーンエネルギーと考えられている。図1は、世界の有機炭素の含有量の分布状況である(データは「中国報告大庁」より)。天然ガスハイドレートに含まれる有機炭素は、世界の全有機炭素量の半分以上を占めており、天然ガスハイドレートが良好な開発の見通しを備えていることが見て取れる。これまでに確認された天然ガスハイドレートは主に、深海の海底と陸上の永久凍土地帯という2種類の環境条件下に存在している。専門家の予測によると、深海に埋蔵されている天然ガスハイドレートは約(1~5)×1015m3に達する。ますます枯渇するエネルギー、増加し続けるエネルギー需要、巨大な天然ガスハイドレート埋蔵量は、深海天然ガスハイドレートが今後、重要な海洋エネルギーの一つとなることを決定している。

図1

図1:世界の有機炭素含有量の分布図

 海底天然ガスハイドレートの学術研究状況に対して行った文献計量分析(図2)から、世界では1990年代から、海底天然ガスハイドレート分野の研究が大幅に増加し始め、近年も引き続き増加の傾向を示していることがわかる。このように海底天然ガスハイドレートは、海洋工学研究の焦点の一つとなっている。

図2

図2:海底天然ガスハイドレートに対する世界の研究関心状況

中国内外の採掘研究の現状

 海底天然ガスハイドレートの最初の発見は、1970年代の米国の深海でのドリリング作業に端を発する。1980年代以降は、海底天然ガスハイドレートに関する研究や探査、実験などが世界中で幅広く行われるようになった。米国や日本、ロシアなどの国は、海底天然ガスハイドレート研究の先頭に立っている。

 米国は、ブレーク海台の天然ガスハイドレート資源の状況を明らかにするため、1998年5月にはすでに、経費2億ドル・期間10年の海底天然ガスハイドレート研究計画を成立させた。米国はその後も、研究坑井のドリリングを続け、海底から天然ガスハイドレートのサンプルを採取し続けた。例えば2007年2月には、米エネルギー省と米国地質調査所、BPエクスプロレーション(アラスカ)の3者が共同し、アラスカ・ノーススロープで12.18立方メートルの天然ガスハイドレートコアサンプルを採取した。海底天然ガスハイドレートの安全な採掘はこれまで、解决の待たれる問題の一つとなってきた。このため米国エネルギー省は2012会計年度、海洋天然ガスハイドレートの安全採掘技術・方法研究のために650万ドルを投入する計画を立てた。米国エネルギー省は2013年には、ハイドレートの2015年~2030年の研究計画を発表した。

 日本は長期にわたり、海底天然ガスハイドレートの採掘研究に熱心に取り組んできた。海底天然ガスハイドレートのより良い研究のため、日本は1995年、メタンハイドレート開発促進委員会を設け、研究開発のための大量の資金を投入した。日本は、海底天然ガスハイドレートの採掘方法に対する長年の研究を通じて、底層の圧力を低下させることによって天然ガスを取り出す方法をほぼ確立している。日本は2012年2月初め、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて、愛知県沿岸の日本南海トラフ中の天然ガスハイドレートの採掘実験を展開した。図3は採掘試験装置の模式図である。日本は2013年3月12日、沖合80kmの地点で、底層圧力低下の方法を通じた天然ガスの取り出しに世界で初めて成功し、この方法の実行可能性を検証した。その後、設備の故障により、日本はこの採掘試験を中止した。

図3

図3:日本の採掘試験設備の模式図

 ロシアは長期にわたって、天然ガスハイドレートの研究に積極的に取り組んできた。ソ連解体後、ロシアは経済問題に直面したため、海底天然ガスハイドレート事業を国家レベルでサポートすることができなかった。だがロシアの大学や企業などの機関は、海底天然ガスハイドレートに対する調査や研究を放棄しなかった。主な研究海域には、オホーツク海やバレンツ海などが含まれる。ロシアは、陸上シベリアのメソヤハガス田で天然ガスハイドレートの採掘に成功した実践経験を持っており、深海の天然ガスハイドレートの採掘方法の研究にあたってもこれが有意義な参考データ・情報を供することに成功した。ロシアの学者は研究・分析を通じて、ガスリフティング法(固体採掘法)が深海からの採取方法に適していると考えている。ロシアは、2020年に天然ガスハイドレートの大規模な工業採掘を行う計画を打ち出しており、これは世界の海底天然ガスハイドレートの採掘を大きく促進するものとなる。

 インドやドイツ、カナダ、韓国などの国も、天然ガスハイドレートの採掘にかかわる研究を展開している。

 中国も長期にわたって、海底天然ガスハイドレートの研究を重視してきた。中国の海底天然ガスハイドレートの採掘研究の序幕は1995年、中国大洋砿産資源研究開発協会が設立した予備研究課題「西太平洋ガスハイドレートの探査の見通しと方法の調査研究」によって開けられ、1997年から正式な研究が開始された。国家の各部門はその後、海底天然ガスハイドレートの特別研究課題の設立を開始した。中国石油大学中国科学院エネルギー研究所、中南大学などの科研機関が海底天然ガスハイドレートの理論研究の面で中国国内の先頭に立っている。長年の研究を経て、中国は、海底天然ガスハイドレートの探査やサンプリング・ボーリング、採掘などの技術と専用設備の面で一定の進展を実現し、2007年には、南中国海の神狐海域で天然ガスハイドレートの現物サンプルの採取に成功した。だが国外の進んだ技術水準と比べると、中国は、事前計画の不足や研究力の分散、核心設備の水準の限界などの原因から、依然として他国を追いかける段階にある。近年、「海洋石油981」や「蛟竜号」などの深海設備の開発が成功したことにより、中国の深海天然ガスハイドレートの探査やドリリング、採掘の発展は一定程度促進されている。

 総体的に言って、海底天然ガスハイドレートの存在する環境条件が複雑で、採掘の過程で直面する不確定リスクが多すぎることから、世界の海底天然ガスハイドレートの採掘は現在、依然として理論と試験採掘の段階にある(凍土区域の天然ガスハイドレートの採掘も商業化は実現していない)。中国と米国、日本の3カ国の天然ガスハイドレートの開発の歩みと計画は図4に示す通りである。天然ガスハイドレートの商業化採掘は、複雑でシステマティックなプロセスであり、すぐに実現することは不可能である。各国はまだ、実験や数値シミュレーション、現場での試験などの方式によって研究を続けている。

図4

図4:中米日3カ国の天然ガスハイドレートの開発の歩みと計画

主要採掘方法

 天然ガスハイドレートは一種の新型のクリーンエネルギーであり、その採掘は多くの人の支持を受けているが、大きなリスクも存在している。成熟した安全で環境に優しい採掘技術による下支えがなく、天然ガスハイドレートの採掘を間違えば、メタンの漏洩が発生する恐れもあり、その結果は憂慮すべきものとなる。メタンは二酸化炭素よりも強い温室ガスであり、引き起こされる温室効果の有害性はさらに大きい。メタンはさらに、水中の酸素含有量に影響し、海洋生物にも深刻な影響を与え得る。このため、海底天然ガスハイドレート採掘のカギとなる技術の難関を攻略し、安全で信頼できる実行可能な採掘方法を探ることが当面の急務となる。

 天然ガスハイドレートの従来の採掘方法には、減圧法と加熱法、試薬注入法の3種類がある。この3種の採掘方法は、陸上天然ガスハイドレートの採掘試験に幅広く用いられている。陸上試験採掘の実践は、減圧法が相対的に言って経済的に実行可能な方法であることを明らかにしている。減圧法は、天然ガスハイドレートの埋蔵層の圧力を下げることにより、天然ガスハイドレートの分解を促進し、天然ガスを採取するものである。日本はこの方法を採用して採掘試験を行い、海底での天然ガスハイドレートの採掘に成功し、減圧法を海底天然ガスハイドレートの採掘に用いることができることを証明した。

 中国国外の科学者はさらに近年、CO2ハイドレート置換法や固体採掘法、混合スラリー採掘法など、海底ハイドレートを採掘する新たな方法を提出している。置換法の原理は、天然ガスハイドレート堆積層にCO2を注入し、CO2がハイドレートを生成すると同時に、放出される熱量が天然ガスハイドレートを分解するというものである。この方法は、CO2を貯留することができ、環境保護性が高く、前途のある採掘方法と言える。固体採掘法の原理は、固態の天然ガスハイドレートを直接採取し、浅水区域または船上に引き上げて分解するものである。混合スラリー採掘法は固体採掘法を由来とし、その原理は、天然ガスハイドレートをまず堆積層で気液混合相に分解し、その後、天然ガスと水、スラリーの三相が混じった混合スラリーを船上に引き上げて処理するというものである。

 中国国内の学者も長年の研究を経て、「地熱利用法」や「地面分解法」、「絞吸(カッター・サクション)法」、「海水リフティング法」など、固体採掘法の発想に基づく方法を打ち出している。これらの方法はもちろんまだ理論段階にあり、多くのカギとなる問題を解决する必要がある。

 各種の採掘方法にはそれぞれ使用条件に制限があり、それぞれに長所と短所がある。適切な採掘方法を選択するには、天然ガスハイドレートが存在する環境条件と自らの技術水準を考慮する必要があり、これには理論と試験の探索を絶えず続けなければならない。将来性があると世界的に認められている海底天然ガスハイドレートの採掘方法には、減圧法やCO2ハイドレート置換法、固体採掘法などがある。

中国の天然ガスハイドレート採掘技術に対する提案

 中国は天然ガスハイドレート研究の面で一定の成果を実現したが、世界の先進水準とはまだ一定の距離があり、いくつかの問題も存在する。例えば▽系統的な総体計画や開発のロードマップが欠けている、▽研究が分散しており、研究開発の体系が形成されていない、▽採掘技術がまだ成熟しておらず、安全で信頼できる採掘方法が形成されていない、▽天然ガスハイドレートの応用研究や試験採掘の研究の進展がまだ緩慢である――などの問題が挙げられる。上述の問題をターゲットとして、以下の措置を提案する。

  1. トップレベルデザインの強化:海底天然ガスハイドレートの研究開発戦略を明確化し、中国の南中国海などの海域に適した天然ガスハイドレート研究採掘計画と技術ロードマップを制定する。
  2. 研究開発体系の構築:企業と大学、研究機関からなる共同研究開発体系を構築し、産学研(産業・大学・研究機関)の結合をはかり、各者の研究開発の成果を総合し、統一的な研究開発進度のロードマップを制定する。
  3. 成果の実用化の強化:投入を拡大し、各方面の資源を統合し、取得した革新的な研究成果の実用化を促進する。同時に試験採掘研究を強化し、一定規模を備えた実際の採掘を推進する。
  4. 国際交流協力の強化:海底天然ガスハイドレートの試験採掘研究の面での国際協力を積極的に推進し、米国やカナダ、ロシア、日本などの国のグローバル企業と協力を展開し、天然ガスハイドレートの国際フォーラムの設立に積極的に取り組む。
  5. 産業化モデルの構想:産業化実現のためには、国家レベルで補助政策を制定して支援し、国家資金を投入するほか、民間資本や民間企業の参加も奨励する必要がある。
  6. キー技術開発の難関攻略:これには、天然ガスハイドレート探査開発キー技術や天然ガスハイドレート探査に用いる自主開発の深海探査艇、天然ガスハイドレート探査のリモートセンシング技術、高精度海底測位技術、サンプル採取装置や掘削リグなどの設備材料の高耐圧性/高気密性技術、天然ガスハイドレートの環境影響研究、メタンハイドレート採掘災害防止制御技術、メタンハイドレート採掘船/プラットフォームやメタンハイドレート輸送船などの新型設備の開発などが含まれる。

 天然ガスハイドレートは未来のエネルギー戦略において重要なポジションを占めている。今後20年で、ますます多くの国が天然ガスハイドレートを研究し、天然ガスハイドレートの採掘の商業化を実現していくことになる。中国には豊富な天然ガスハイドレートがあり、中国国内では長年にわたって研究が展開され、一定の成果が上がっている。中国は同時に、自身の欠点もしっかりと認識し、制度の整備や政策による支持、技術の難関攻略などをたゆむことなく続け、技術を追いかける側から技術をリードする側への転身をはかる必要がある。


※本稿は趙羿羽, 曽暁光, 郎舒妍「海底可燃氷開採技術動向」(『中国船検』2017年02期、pp.89-91)を『中国船検』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司