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嫦娥3号のランダーの精密な測位および精度に関する分析(その2)

2018年1月31日

曹建峰: 航天飛行動力学技術重点実験室、北京航天飛行制御センター

博士、エンジニア。宇宙飛行における動力学の研究に従事。

張宇、胡松傑、陳明: 航天飛行動力学技術重点実験室、北京航天飛行制御センター

黄勇: 中国科学院上海天文台

その1よりつづき)

3 測位精度の分析

 ランダーに対する追跡アークは比較的短く、データタイプも有限であるため、測位計算においてはすべての測定データを使用したが、これはランダーの測位精度の評価に対する難題である。一般的な外部データによる検査と重複アーク比較方法はいずれも測位精度の分析に適さない。本節では月面標高モデル、画像測位結果と共分散分析理論の方法を利用してランダーの測位精度について分析を行う。

3.1 標高モデルの比較

 LROはアメリカ航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターから2009年に打ち上げられた月面探査機である。この探査機の重要な科学ミッションは搭載した高周波レーザー高度計により全月面のレーザー測定を行うことであった。LROのレーザー測高データに基づき、研究者たちは一致性の係数による標高モデルと正四角格子(グリッド・セル方式)の数値標高モデルの逆解析を2050次数行った。標高モデルの逆解析においては高精度の軌道データを用いたところ、全体精度は10mを上回り、月正面の海エリアにおける精度がより高かった[12]。LROの標高モデルにおいては月面赤道座標系を用い、着陸地点付近の0.1°×0.1°(約3km×3km)の範囲内では月面の地形は平坦で、起伏は最大で約15mであり、標高変化の二重平均平方根は3mを下回り、算出された着陸地点の標高は-2 633mであった。

 LROの月面標高モデルは、標高方向におけるランダーの測位結果の検証に基準を提供した。算出された着陸地点の標高とLROの標高モデルとの差は約4.5mであった。標高モデルの精度範囲において、算出された着陸地点の標高値はLROの標高モデルと比較的一致するものであった。

3.2 LRO画像測位結果の比較

 2013年12月25日、LRO探査機はCE-3が軟着陸を行った地点の上空を飛行し、その月表面からの距離は約150kmであった。衛星搭載狭角カメラによりランダーとローバーの空撮映像が撮影され、その解像度は1.5mに達し、LRO研究チームはその後地形とのマッチング処理により比較的正確なランダーの位置を得た。表4にLRO研究チームが映像データに基づいて得た測位値を示すと共に[13]、無線通信による測位結果とLROによる視覚測位結果との比較も示す。画像データにより獲取されたランダーの位置は基準地形の精度と地形マッチングの精度により制約を受ける。基準図の水平方向の精度は30mを上回り、垂直方向のそれは5mであるが[14]、地形マッチングによりサブピクセルレベルに達しうる。双方の方式により獲得されたランダーの位置の標高方向における差は約2.4m、経緯度方向における差は約0.002°であり、月表面までの距離上約85mが反映される(表4)。

表4 測位結果の比較
Tab.4 Comparison of Positioning Results
  経度/(°)  緯度/(°)  標高/m
画像測位 340.4884 44.1214 -2640.0
無線通信による測位 340.4907 44.1189 -2637.6
偏差 -0.0023 0.0025 2.4

3.3 共分散分析

 米国テキサス大学のTapleyは共分散分析理論を精密な軌道決定技術の研究に応用し、解析待ちパラメータ(solve-for parameter)の先験的不確実性によるパラメータ解析精度への影響を分析することによって、動力学と測定モデルにおいてモデリングされていないパラメータによる解析結果への影響を分析した[15]。共分散を考察すると、形式上は以下のように示すことができる。

img

 式中のPは共分散の計算を示し、HxとHcはそれぞれ評価待ちパラメータとパラメータ考察にあたっての偏微分を示す。π=E[(c-c)(c-c)]。π=0で、P=P、すなわちパラメータに誤差がないと考察された場合には、共分散の考察と共分散の計算が一致する。

 本節では、共分散分析理論により現行の測定により達しうる測位能力を分析し、それにあたり測位計算に用いるすべてのデータを使用した。ミッション中のデータ品質に基づいて、共分散分析において考慮した測定誤差は以下のとおり。すなわち、測距ランダム誤差は1m,システム誤差は10m、速度測定ランダム誤差は0.2mm/s、時間遅延ランダム誤差は0.1m、システム誤差は0.1m、時間遅延率ランダム誤差は0.1mm/s、ステーション位置誤差については各方向において10cm考慮する。パラメータ設定の考察にあたっては4種類の状況に分類する。すなわち、①測定データのランダム誤差のみを考慮する場合、②測定データランダム誤差とステーション位置誤差を考慮する場合、③測定データランダム誤差、ステーション位置誤差とUSB測距システム偏差を考慮する場合、④測定データランダム誤差、ステーション位置誤差、測距と時間遅延のシステム誤差を考慮する場合である。

 表5に共分散分析に基づいて導かれたさまざまな条件下における測位誤差(1σ)を示す。①と②を比べると、ステーション位置誤差による測位結果への影響が顕著なことがわかる。現在の測定条件下では、各方向における10cmの誤差によって測位精度は約2倍下がる。測距と時間遅延データによるシステム誤差(①と②)を完全に修正することができれば、現行のデータで10mオーダーの測位精度が実現できる。ステーション位置誤差と測定誤差による測位精度の影響は同等である。システム誤差が測距データに取り入れられると測位精度が著しく下がる。一方、時間遅延データにおいてはシステム誤差が小さいため、測位結果への影響はそれほど顕著ではない。

表5 共分散に基づく測位誤差
Tab.5 Positioning Errors Based upon the Covariance Analysis
パラメータ 設定 経度方向 /m 緯度方向 /m 標高 /m
3.6 2.8 0.9
9.8 6.8 1.9
11.3 9 7.3
11.4 9.1 7.3

4 おわりに

 本稿では統計的測位方法に基づき、UXBおよびVLBI測定データを用いてCE-3月面ランダーについて測位計算を行った。さらに、最新のLROによる月面の数値標高モデルに基づき、着陸地点の標高値の計算について検証を行った結果、両者間の差は約4.5mであり、LROの光学画像データによる測位結果と比較した結果、その標高方向における差は約2.5mで、三次元位置差は約85mであった。現行の測定データについて、共分散分析理論に基づいて予想される測位精度を分析したところ、UXB測距データのシステム偏差が測位精度を制約する主な誤差源であり、10mのシステム誤差により導かれうる測位誤差は100メートル近いことがわかった。システム性の偏差を良好に取り除くことができれば、現在のデータをもとに10m前後の測位精度を実現することができる。

(おわり)

参考文献:

[12] Kreslavsky M A,Head J W,Neumann G A,et al. Lunar Topographic Roughness Maps from Lunar Orbiter Laser Altimeter(LOLA)Data:Scale Dependence and Correlation with Geologic Features and Units[J].Icarus,2013,226:52-66

[13] NASA Images of Chang’E-3 Landing Site[EB/OL]. NASA/GSFC/Arizona State University.2013[2014-01-23]. http://www.nasa.gov/content/nasa-images-of-change-3-landing-site/

[14] Cook A C,Watters T R,Robinson M S,et al.Lunar Polar Topography Derived from Clementine Stereoimages[J].Joumal of Geophysical Research,2000,105:12 023-12 033

[15] Tapley B D,Schutz B E,George H B.Statistical Orbit Determination[M]. California:Elsevier Academic Press,2004

※本稿は曹建峰、張宇、胡松傑、黄勇、陳明「嫦娥三号着陸器精確定位与精度分析」(『武漢大学学報· 信息科学版』2016年第41巻第2期、pp.274-278)を『武漢大学学報· 信息科学版』編 集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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