第136号
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両院院士選出「2017年中国・世界10大科学技術進展ニュース」を振り返る(その2)

2018年1月22日 中国総合研究交流センター編集部

その1よりつづき)

 「2017年中国10大科学技術進展ニュース」の各研究の内容については、次の通りである。

2017年世界10大科学技術進展ニュース

1.新センサー技術によって「念」による機械義肢操作が可能に

 ある国際グループが『ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング』に発表した論文によると、同グループが開発したセンサー技術を使った機械義肢は、使用者の脊髄運動ニューロンが発する電気信号を検出し、義肢の制御をより柔軟なものとすることができる。これは「念」による義肢の制御に相当する。関連技術は、手足を切断した人がより多くの活動機能を回復するのを助けるものと期待されている。この種の新センサーは、脊髄運動ニューロンが発する電気信号を機械義肢に直接検出させるもの。筋肉の痙攣だけに頼った制御方式に比べると、より正確な制御が可能となり、完成される動作もより複雑なものとすることができ、機械義肢の実用性もこれとともに高まる。研究グループは今後、この新型の機械義肢に対するより広範囲な臨床試験を行い、改良を重ねた後、3年以内に市場に製品を投入することを計画している。

2.DNAによる新たなデータ記憶法が登場

 2017年3月2日に出版された『サイエンス』誌に掲載された米国人科学者の報告によると、研究者らは、データをデオキシリボ核酸(DNA)にコーディングする新たな方式を編み出した。これまで最高密度の大規模データ記憶案となる。このシステムでは、1グラムのDNAが215ペタバイト(1ペタバイトは約1125兆バイト)を記憶する能力を備えている。理論的には、人類の有史以来のすべてのデータを2台の小型トラックの大きさと重量に相当する容器の中に記憶することができる。だがこの技術を実用化できるかはそのコストにかかっている。DNAを用いたデータの記憶には多くのメリットがある。極度に圧縮されたデータは、寒く乾いた地方でなら数十万年にわたる保存が可能となる。また人類社会がDNAの読み取りと記述が可能な限り、人類はこれらの情報を解読することができる。科学者はさらに、これらのデータに対し、回数の制限をほとんど受けないエラーなしのコピーを作ることができる。

3.「中古」ロケットの打ち上げと回収に成功

 米スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ社は2017年3月30日、「中古」ロケットを再利用し、商業通信衛星1基を打ち上げることに成功した。ロケットの再利用は人類の宇宙開発史上で初めて。今回の打ち上げの主要任務は、ユーテルサット社の衛星「SES-10」を対地同期静止軌道に送るというもの。打ち上げに使われた「ファルコン9」ロケットの1段目は2016年4月に国際宇宙ステーションへの貨物輸送に使われ、その後、太平洋の無人船に着陸していた。人類が海上でロケットの1段目の回収に成功したのはこれが初めて。修復され、2段目を加えられた後、ロケットの1段目はケネディー宇宙センターに送り戻され、軌道打ち上げ任務を再び担った。ロケットの1段目の回収は、再利用可能なキャリアロケットの開発を目的としたもの。従来のロケットはいずれも使い捨てで、回収と再利用が可能となれば、打ち上げコストを引き下げることができると期待されている。

4.3Dプリンターで出産能力のある卵巣を作成

 2017年5月16日に出版された『ネイチャー・コミュニケーションズ』誌の報道によると、米国人科学者が3Dプリント技術を用い、ゼラチンによって作った人工卵巣で、マウスを妊娠させ、健康な子マウスを出産させることに成功した。この研究では、科学者らは、ゼラチンを射出するノズルを備えた3Dプリンターを使用し、ゼラチンには、動物卵巣中に天然に存在するコラーゲン由来のものを用いた。研究者らは、ガラススライド上に各種のゼラチン繊維のパターンを重ねることによって卵巣を構築した。その後、外科手術によって7匹のマウスの卵巣を取り出し、その位置に人工卵巣を縫合した。マウスの交配後、そのうち3匹の雌マウスが健康な子マウスを出産した。出産した雌ネズミは同時に自然に母乳を分泌した。これは、人口卵巣に組み込んだ卵胞が正常レベルのホルモンを産出していることを示している。この成果は、がんの放射線治療や化学療法で不妊となった患者の出産能力の回復を助けるものとなると期待されている。

5.重力を利用した星の質量の決定に成功

 『サイエンス』誌に2017年6月7日に発表された報告によると、アインシュタインが一般相対性理論を打ち出して100年後、科学者らは、この理論を利用し、白色矮星の質量を決定することに成功し、アインシュタインの「不可能な望み」が現実となった。科学者らは、5000個余りの恒星から、直線排列の形式となる星を探し、白色矮星「STEIN 2051 B」が完全な配置となることを発見した。この星は2014年3月、後方の星のちょうど手前に位置した。科学者らは、ハッブル宇宙望遠鏡を利用してこの現象を観察し、後方の星の視位置のわずかな移動を測定した。この作用は、天体測量の重力マイクロレンズ効果と呼ばれる。科学者らは、測定したデータから、この星の質量が太陽の質量の約0.675倍と推算した。「STEIN 2051 B」の質量の直接観測は、白色矮星の進化の理解に重要な意義を持っている。

6.ダブルチャームバリオンを世界で初めて発見

 欧州原子核研究機構は2017年7月6日、多くの国の科学者の共同の努力を経て、ダブルチャームバリオンと呼ばれる新粒子を世界で初めて発見したと発表した。物質の構成と強い相互作用の本質に対する人類の理解を促進するものとなる。この発見には中国グループも貢献した。この最新の発見は、欧州原子核研究機構の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)上のボトムクォーク観測器(LHCb)の協力グループによってもたらされた。紹介によると、このダブルチャームバリオンは、質量の比較的大きい二つのチャームクォークと一つのアップクォークを含み、質量は約3621メガ電子ボルトで、プロトンの質量のほぼ4倍に達する。理論的予測によると、その内部構造は普通の重粒子とはまったく異なる。ボトムクォーク観測器は、欧州原子核研究機構の大型ハドロン衝突型加速器上の粒子物理実験装置の一つで、重クォーク粒子の産出と崩壊を専門に研究するものである。

7.華人科学者が「エンジェル粒子」発見を宣言

 米国スタンフォード大学の華人科学者の張首晟らは2017年7月20日、『サイエンス』誌上で、マヨラナ粒子が存在する証拠を初めて発見したと報告した。この重大な発見は、量子物理学を80年にわたって悩ませてきた難題で、量子計算に対しても重要な意義を持っている。張首晟が率いる理論グループは、いかなる実験プラットフォームによってマヨラナ粒子を見つけることができるか、どのような実験の信号が証拠となるかを予言した。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の何慶林と王康隆、アーバイン校の夏晶が率いる実験グループと理論グループは緊密に協力し、キラルマヨラナ粒子と呼ばれる一種の最も基本的なマヨラナ粒子を実験で発見した。イタリアの物理学者のエットーレ・マヨラナは、自然界に一種の特殊な粒子が存在する可能性があると予言した。反粒子がそれ自身であるこの粒子は、マヨラナ粒子と呼ばれる。

8.「遺伝子バサミ」を利用してヒト初期胚の病原遺伝子を修復

 2017年8月2日に出版された『ネイチャー』誌の報告によると、ある国際グループがCRISPR遺伝子編集技術を利用し、ヒトの初期胚中の遺伝性心臓疾患にかかわる遺伝子の突然変異の修復に成功した。ヒトの胚の遺伝子編集は米国で初となった。研究者は、肥大型心筋症を研究対象とした。これは一種のよく見られる単一遺伝子疾患であり、MYBPC3遺伝子の突然変異によって引き起こされ、青壮年の運動選手の突然死の主な原因の一つとなっている。研究者は、CRISPR遺伝子編集技術を利用して、人類の初期胚中のこの突然変異を修復した。その標的性は非常に高く、ターゲット以外の位置に突然変異を起こすことはなかった。研究者の紹介によると、精確な遺伝子編集技術は、より多くの健康な胚の獲得を促進し、体外受精の成功率を高めることにもつながる。ただ研究グループは、遺伝子編集方法はさらなる改善が必要だと慎重な見方を示している。

9.世界初の分子ロボットが誕生

 『ネイチャー』誌の2017年9月20日の報道によると、英国のマンチェスター大学の科学者が世界初の「分子ロボット」を開発した。化学的な指令を受け取り、分子の組み立てなどの基本任務を遂行できる。将来的には、薬物の開発や先端製造プロセスの設計、分子組み立てラインや分子工場の構築に用いることができる。分子ロボットは、炭素や水素、酸素、窒素などの原子わずか150個によって構成され、大きさは100万分の1ミリメートルにすぎない。このロボットを数百億個合わせても、塩の一粒ほどの大きさにしかならない。これほど微小な分子ロボットだが、ロボットアームを持ち、指令に基づいて分子を操り、ロボットアームで分子製品を作成することができる。非常に微小であることから、この分子ロボットには、材料の需要の引き下げや薬物開発の加速、エネルギー消耗の大幅な減少、製品の微細化の推進など、多くの強みが備わっている。

10.重力波研究で重要な進展を実現

 世界の多くの国の科学者らが2017年10月16日、二つの中性子星の合体による重力波を人類が初めて直接観測し、この壮大な宇宙現象の発した電磁信号を「見た」と発表した。米国の「レーザー干渉計重力波天文台」(LIGO)がこの重力波信号を捉えた。それから2秒後、米国のフェルミ宇宙望遠鏡も、同一の源から発されたガンマ線バーストを観測した。重力波天文台と電磁波望遠鏡を用いた同一の天体物理現象の同時観測は人類史上初めてであり、多数の観測方式を特徴とした「マルチメッセンジャー天文学」が新たな時代に入ったことを示すできごととなった。科学者らは6月1日、3度目の重力波を観測した。今回の結果は、一般相対性理論を再び検証しただけでなく、バイナリーブラックホール系統の成因の理解にも手がかりを提供するものとなった。9月27日には4度目の重力波の観測が発表された。これは欧州と米国の観測装置で初めて共同で発見された重力波となった。

(おわり)

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※本稿は2017年12月31日付の中国科技網「両院院士『2017年中国・世界10大科学技術進展ニュース』を選出」等を参考にその概要をまとめた。