第136号
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原子力発電所の安全監視における光ファイバセンシング技術の応用に関する研究(その1)

2018年1月31日

宋祖栄: 中国環境保護部核・放射線安全センター

修士、エンジニア。主な研究分野は、放射能安全管理と監視。

李暁洋、李懿軒、畢金生: 中国環境保護部核・放射線安全センター

概要:

 原子力発電所の安全運行は人の命と財産の安全に関係するため、原子力発電所の運行状態を適時に把握することが安全な運行を確保するための重要な前提である。光ファイバセンサには耐電磁干渉性があり、本質的に安全で、ネットワーク構築が容易で、遠隔計測やオンライン計測が実現しやすいなどの一連の長所があるため、現在の原子力発電所の運行監視における多くの不足点を解決し、より正確で信頼性の高いデータを提供することができる。本稿では、パイプラインの振動監視やコンクリートのひずみ、温度監視など、原子力発電所における光ファイバセンシング技術の応用の見通しを述べる。また、光ファイバセンシング技術を紹介し、光ファイバセンシング技術の特徴とさらなる研究の方向性を総括した上で、原子力発電所の安全監視分野において光ファイバセンシング技術が持つ大きな優位性と幅広い応用の見通しについて指摘する。

キーワード:光ファイバセンシング技術、原子力発電所の安全監視、振動、ひずみ、温度

はじめに

 1950年代後期以降、原子力発電所は急速な発展を遂げた。世界では現在、合計440台あまりの原子力発電ユニットが運行され、発電量は世界の総発電量の約16%を占める。21世紀末までに、原子力発電所の発電量が世界の総発電量に占める割合は30%以上となり、原子力発電所を持つ国と地域は50ヵ所以上になることが予想される。近年、中国でも原子力発電所が急速な発展を見せており、2016年12月10日現在、中国大陸で運行されている原子力発電ユニットは36台で、総設備容量は3,350万kWに達している。また、中国では原子力発電ユニットの建設が大々的に進められており、建設中の原子力発電ユニットは21台で、総設備容量2,343.5万kWであり、建設中ユニットの規模は世界1位である。現在、中国はすでに第4世代原子力発電所の建設における高速炉の重要技術を掌握しており、自主開発の「華竜一号」原子力発電所技術モデルプロジェクトがすでに着工されていることから、原子力発電所技術は「中国製造」(製造業の強化を目指す中国政府の取り組み)における新たな代名詞となるだろう。しかし、中国の原子力発電所技術の進歩に伴い、その建設と発展においては安全性問題が重要な課題となってきており、ひとたび事故が発生すれば、人々の命と財産の莫大な損失と深刻な政治的影響をもたらすおそれがある。このため、原子力発電所の安全な運行を確保し、システムの安定運行と効率的運行を保障するために、原子力発電所の電力生産に関する各安全指標について監視を行うとともに、その変化をリアルタイムに監視する必要がある。なかでも重要なのは、原子力発電所の各種設備やパイプラインの振動監視、コンクリートのひずみ、温度監視である。従来型の電気センサは原子力発電所の安全監視分野ですでに幅広く使用されており、プラスの成果が上がっているが、電気センサは能動デバイスであるためゼロ点ドリフトが生じやすく、劣悪な条件下での防潮・防湿能力や長期安定性に劣るとともに、原子力発電所の内部環境における高い放射性によっても監視結果の信頼性に大きな影響を及ぼす。このため、原子力発電所のより正確な監視のために、新型のセンシング技術を研究する必要がある。光ファイバセンシング技術は光電子工学(オプトエレクトロニクス)が最もめざましい成長を遂げた技術の一つであり、この技術で採用されるのは光信号変調方式であるため、本質的に良好な耐電磁干渉能力を備えるとともに、耐高温性、高感度性、耐腐食性、信号減衰量が小さいなどの長所があり、従来型の電気センサでは難しかった計測上の問題が解決できる。光ファイバセンサはすでに多くの分野で応用されてはいるが、原子力発電所の安全監視における応用では中国でも海外でもまだ研究の初期段階にあり、実用化の先例が少ない。このため、光ファイバセンサの長所をいかに利用し、原子力発電所の安全監視において重要な役割を発揮させるかは価値のある研究テーマである。

 以上の考察に基づき、本稿では原子力発電所の運行監視というニーズに対応するために、まずは新型の光ファイバ振動センサ、光ファイバひずみセンサ、光ファイバ温度センサを紹介した上で、原子力発電所の安全監視における光ファイバセンサ応用のフィージビリティについて初歩的な研究を行った。

1 光ファイバ振動センサ

 原子力の安全利用は原子力発電所の発展における前提条件であり、原子力の発展における根本的な目的でもある。原子力発電所の設備故障による深刻な災害を防ぐために、世界各国や国際原子力機関では原子力発電所の寿命管理方法を導入しているため、原子力発電所の設備の振動状態データについてリアルタイム評価を行い、異常振動が生じた際には直ちに補修することによって、故障の進展による災害発生を根絶する必要がある。このため、原子力発電所の監視分野においては光ファイバ振動センサに幅広い応用の見通しがある。現在、科学者たちは光ファイバ振動センシングの応用に関して大量の研究を行っており、重要な研究成果も上がっている。光ファイバ振動センサはその計測範囲に応じて、ポイント型光ファイバ振動センサと分布型光ファイバ振動センサに分類される。そこで、以下に近年の光ファイバ振動センサに関する研究成果を簡単に紹介する。光ファイバグレーティングセンサに関する研究分野においては、2009年に南開大学の孫華らがファイバブラッググレーティング(FBG)による振動センサを設計し[1]、FBGをカンチレバーに固定することによって振動の計測を実現した上に、センサの構造設計によって温度の干渉による影響を回避したところ、この実験結果では当該センサの最大誤差は0.5%で、計測上限振動数は6kHzであった。2010年、Hiroshi TsudaはFBGセンサをファイバリングとして光ファイバレーザに応用することで、振動の計測を実現した[2]。このセンサは数ヘルツ(Hz)から超音波範囲までの振動を計測できる上に、ひずみと温度変化に対する感度が低い。モード干渉計型光ファイバ振動センサの研究分野においては、2010年に成振竜らが2つのFBGを使用することで低振動の計測を実現した[3]。2つのFBGを採用したファブリ・ペロー共振器の構造とセンサの構造イメージは図1のとおり。彼らはセンサをカンチレバーに貼りつけ、振動が発生するとファブリ・ペロー共振器の長さに変化が生じることでスペクトル特性に変化が表れるため、このスペクトルの変化を計測することによって振動数と幅の計測を実現した。2015年、Yanli Ranらはsingle mode (SM)-no core (NC)-SM光ファイバ構造による振動センサを発表した[4]。このセンサの計測範囲は100Hzから29kHzで、分解能は1Hzである。このセンサは製作が簡単で、機械特性が良いという長所がある。

図1

Fig.1 Vibration sensor based on FBG Fabry-Perot cavity

図1 FBG ファブリ・ペロー共振器をベースとした振動センサ

 ポイント型光ファイバ振動センサは高い計測感度を実現できるが、このタイプのセンサは指定された位置の振動パラメータしか計測できないため、一定の空間に分布された振動パラメータの計測が必要な場合には往々にして要求を満たすことができない。位相敏感光時間領域反射率測定法(ϕ-OTDR)技術が初めて発表されたのは1993年で、その後20年あまりの発展を経て、現在では振動の分布型計測に幅広く応用されている。ϕ-OTDRの基本構造は図2のとおりで、採用されている光源は狭線幅レーザであり、インテンス・パルス・ライトを光ファイバの一端から注入し、計測器でレイリー散乱の後方散乱信号を受信することによって、振動信号の強度と位置の計測を実現する。すでに、中国と海外の研究者のいずれからも、振動の分布型計測におけるさまざまなϕ-OTDRシステムの応用例が発表されている。

図2

Fig.2 Schematic diagram of the ϕ-OTDR

図2 ϕ-OTDRの基本構造

 2009年、中国の電子科技大学の羅俊らがϕ-OTDRシステムに繊維強化プラスチック製光ケーブルを導入することによって、振動の定位と計測を実現した[5]。このタイプの光ケーブルは一般のそれより高い感度があるが、このシステムで採用しているのは狭線幅レーザである上に、光ファイバにおける可飽和吸収体法の利用によってレーザの線幅を推し狭め、レイリー散乱の後方散乱光による干渉効果を強めることで、このセンシングシステムは低コスト・高感度という長所を獲得した。2012年に中国科学院上海光学精密機械研究所の梁可楨らは、ϕ-OTDRをベースとした分布型光ファイバ振動センシングシステムを発表した[6]。このシステムの装置イメージは図3のとおり。このセンサで採用されたのはデジタルコヒーレント計測とウィナーフィルタリング技術であり、光ファイバリンクに沿ったレイリー散乱の振幅と位相のリアルタイム復調により、200Hzの圧電セラミックスの振動信号の位置と振動数の計測を実現した。計測の長さは3.5km、システムの空間分解能は5mである。

図3

Fig.3 Schematic diagram of the distributed optical fiber vibration sensing system based onϕ-OTDR

図3 ϕ-OTDRをベースとする分布型光ファイバ振動センシングシステムのイメージ

 2013年にHugo F.Martinsらはϕ-OTDRを利用して振動を計測し[7]、振動点におけるレイリー散乱の後方散乱信号幅の変化を分析することによって超音波振動数の計測を実現した。このセンサの計測範囲は1.25km、最大計測振動数は39.5kHzで、空間分解能は5mであった。2013年、天津大学のYang Anらはジョーンズ行列のモデルをϕ-OTDRに応用し[8]、2本の光ファイバセンサにより戻ってきたレイリー散乱の後方散乱信号の干渉構造により、振動信号の多点型計測を実現した。また、狭線幅レーザの代わりに汎用レーザを採用することでシステムコストを大幅に引き下げ、実験では5km長さの光ファイバセンサにおける信号対雑音比(SN比)が9.5dBの際の振動が計測できた。分布型光ファイバ振動センサでは、光ファイバ沿線の振動パラメータの変化を計測できるため、現在の光ファイバ振動センシングの主な研究の方向性となっている。

その2へつづく)

参考文献:

[1] 孫華,劉波,周海濱,等.一種基于等強度梁的光繊光柵高頻振動伝感器[J].伝感技術学報,2009,22(9):1270-1275.DOI:10.3969/j.issn.1004-1699.2009.09.010.

[2] Tsuda H.Fiber Bragg Grating Vibration-sensing System, Insensitive to Bragg Wavelength and Employing Fiber Ring Laser[J]. Optics Letters, 2010, 35(14):2349-2351. DOI:10.1364/OL.35.002349.

[3] 成振竜,趙建林,周王民,等.一種基于光繊光柵法布里-珀羅腔的低頻振動伝感器[J]. 光子学報, 2010,39(1):47-52. DOI:10.3788/gzxb20103901.0047.

[4] RAN Y L, XIA L, HAN Y, et al. Vibration Fiber Sensors Based on SM-NC-SM Fiber Structure[J]. IEEE Photonics J, 2015,7(2):1-7. DOI:10.1109/JPHOT.2015.2408436.

[5] 羅俊,饒云江,岳剣鋒,等.新型高霊敏分布式光繊入侵監測系統[J].儀器儀表学報, 2009, 30(6):1123-1128. DOI:10.3321/j.issn:0254-3087.2009.06.002.

[6] 梁可楨,潘政清,周俊,等.一種基于相位敏感光時域反射計的多参量振動伝感器[J]. 中国激光, 2012, 39(8):119-123. DOI:10.3788/CJL201239.0805004.

[7] Martins H F,Martin-Lopez S,Corredera P, et al. Coherent Noise Reduction in High Visibility Phase-Sensitive Optical Time Domain Reflectometer for Distributed Sensing of Ultrasonic Waves[J]. Journal of Lightwave Technology, 2013, 31(23):3631-3637. DOI:10.1109/JLT.2013.2286223.

[8] AN A Y, FENG X, LI J, et al. Two-beam Phase-sensitive Optical Time Domain Reflectometer Based on Jones Matrix Modeling[J]. Optical Engineering, 2013, 52(9):094102. DOI:10.1117/1.OE.52.9.094102.

※本稿は宋祖栄、李暁洋、李懿軒、畢金生「光繊伝感技術在核電站安全監測中的応用研究」(『量子光学学報』2017年第23卷第3期、pp.297-304)を『量子光学学報』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司