第137号
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食用植物油中の遺伝子組み換え成分の検出技術の研究進展(その2)

2018年 2月28日

李 允静: 中国農業科学院油料作物研究所,農業部油料作物生物学・遺伝育種重点実験室;農業部転基因植物環境安全監督検験測試中心

修士,補助研究員。遺伝子組み換え生物の安全と検出技術の研究に主に従事。

肖 芳,邵 林,武 玉花,万 丹鳳: 中国農業科学院油料作物研究所,農業部油料作物生物学・遺伝育種重点実験室;農業部転基因植物環境安全監督検験測試中心

呉 剛: 中国農業科学院油料作物研究所,農業部油料作物生物学・遺伝育種重点実験室;農業部転基因植物環境安全監督検験測試中心

研究員,修士課程指導教員。遺伝子工学と遺伝子組み換え安全評価の研究に主に従事。

その1よりつづき)

4 食用植物油中の遺伝子組み換え成分の検出方法とその長所・欠点の比較

 食用植物油中の遺伝子組み換え成分の検出の成功は,検出方法と目的遺伝子の選択が技術的なカギとなる。食用植物油中の遺伝子組み換え成分は残留DNAの形式で存在し,D NAレベルにおいてはPCR検出方法が主に用いられ,外来性配列の違いに基づき,その検出戦略は,普遍要素スクリーニングPCRと遺伝子特異性PCR,構造特異性PCR,系 統特異性PCRの4つの方法に分かれる[39,40](図1参照)。植物粗油においては,植物の内在性遺伝子(Lectin,PEPなど)は有効に増幅することができ,粗 油中では遺伝子組み換え成分の検出を良好に展開することができる[16,36]。一部の研究者は,粗油が最初の精製を受けた後,内在性遺伝子の増幅は困難になるか,D NA断片の微弱な帯だけが増幅されると考えている。食用植物油の遺伝子組み換え成分の検出方法としては主にレギュラーPCRとネステッドPCR,リアルタイム蛍光定量PCRが採用されている。

図

図1 遺伝子組み換え成分のPCR検出戦略

Fig.1 PCR detection strategy of genetically modified ingredients

4.1 レギュラーPCR方法

 レギュラーPCRは,遺伝子組み換え検出において最もよく用いられる主要技術であり,現在,遺伝子組み換え植物とその産品の成分の標準化検出と,新 たな遺伝子組み換え成分の鑑定研究に幅広く応用されている [41, 42] 。金紅・程紅梅らは,DNA抽出成功を土台として,定性PCR方法を利用し,大豆成分(Lectin遺伝子)とCaMV35Sプロモーター,NOSターミネーター,EPSPS遺伝子の検出に成功した [21, 23] 。王彭らは,2ラウンドの定性PCR方法を採用し,35Sプロモーター配列とT-nos,CP4-EPSPSを検出した [26] 。徐偉麗らは,Wizardキットを利用して大豆サラダ油DNAを抽出し,ゲル電気泳動ではDNAは検出しなかったが,定性PCR方法を利用し,内在性遺伝子LectinとCaMV35Sプロモーター,E PSPS遺伝子を検出した [43] 。同技術は,検出感度が比較的高いが,鋳型DNAのクオリティに対する要求が高く,反応過程においてPCR抑制因子の種類が多く,結果の精度が偽陽性と偽陰性の影響を受けやすいことから,量が少なく,干 渉成分が複雑で,破壊の深刻なDNAサンプルの検出にあたっては往々にして理想的な結果は得にくい。このためレギュラーPCR検出技術は,精 製食用植物油中の遺伝子組み換え成分の検出ニーズを満たすことはなかなかできない。

4.2 ネステッドPCR方法

 微量で,干渉成分が複雑で,破壊の深刻なDNAサンプルの分析と検出を実現するため,レギュラーPCRの土台の上に発展してきたのがネステッドPCR方法で,その基本的な原理は似通っている。2 セットのネステッドプライマーを利用し,アウタープライマーがDNA鋳型を増幅した後,アウタープライマーの増幅産物をインナープライマーとした鋳型で第2ラウンドの増幅を行う。聞偉剛らは,ネ ステッドPCRとセミネステッドPCRを用いて大豆粗油のLectin遺伝子とCaMV35S遺伝子,CP4-EPSPS遺伝子を検出し,検出感度は10-6ng/μLに達した。だ が一級大豆油中には内在性遺伝子と外来性遺伝子は検出されなかった [44] 。呉姍らは,大豆粗油を研究対象とし,レギュラーPCR方法では外来性遺伝子のCaMV35SとCP4-EPSPSは検出されなかったが,ネステッドPCR方法ではこの2つの要素が検出された [45] 。姚芹らは,シングルチューブネステッドPCR方法を用いて,精製大豆油中に含まれているCaMV35SとCP4-EP-SPS外来性遺伝子を検出した [28] 。レギュラーPCR方法と比べると,ネステッドPCRは,増幅効率を高めただけでなく,検出の感度と特異性も高めた。このため,高付加価値加工産品の遺伝子組み換えの検出において,幅広く応用されている。< /p>

4.3 リアルタイム蛍光定量PCR方法

 各国の遺伝子組み換え表示制度の実施に伴い,遺伝子組み換え定量検出は,遺伝子組み換え表示制度実施のキー技術となっている。リアルタイム蛍光定量PCR検出方法は,検出ターゲットが比較的短い,特 異性が強い,繰り返し精度が高い,信頼性が高い,操作時間が短いなどの長所があり,遺伝子組み換え検出の分野で急速に発展し,応用されている。食用植物油中のDNA含有量が極めて低く,DNA配列断片が短く,破 壊が深刻であるなどの問題に対しては,リアルタイム蛍光定量PCR方法による遺伝子組み換え成分の検出は一定の優位性を誇っている。Vodretらは,イタリアの市場で45種の大豆食品を購入し,大 豆油を含む12種の食品にレギュラーPCRスクリーニングを用いてCaMV35Sエレメントを検出し,リアルタイム蛍光定量PCR検出を用いてRoundup Ready soybean遺伝子組み換え大豆成分が0.1%を占めていることを発見した [46] 。Grysonらは,粗油に対し,さまざまな温度や時間,水または酸の添加による脱ゲル化処理を施し,サンプル量を2gから5gに高めた。Wurz食用植物油DNA抽出方法を用いて,定 量PCRを行った結果,精製油中の残留リンが遺伝子組み換え成分の検出に影響することを発見した。サンプル量の増大は,遺伝子組み換え成分の検出成功のカギとなる [47] 。Zoricaらは,大豆粗油DNAの抽出成功を土台とし,リアルタイム蛍光定量PCR方法を採用し,遺伝子組み換え大豆の比率が0%と1%,5%,10%,100%の粗油に対して定量分析を行い,キ ット法を利用して抽出したDNAの結果がより真値に近くなることを発見した。大豆油の一次加工段階において,その中に含まれる遺伝子組み換え成分の含有量を検出することができる [19] 。鄧鴻鈴らが,リアルタイム蛍光定量PCR方法を採用し,一級大豆油と大豆食用油,混合油から検出した大豆の内在性遺伝子LectinとEPSPS遺伝子のCt値がいずれも34を下回った [48] 。蔡翠霞らは,食用植物油中のDNAの抽出成功を土台として,2ラウンドPCR方法とLAMP法,リアルタイム蛍光定量PCR方法を同時に採用し,7 種の植物油中にCaMV35Sプロモーターが含まれていることを検出した [30] 。同技術は,コストが高く,検出のスループットが相対的に不足しているなどの問題があるが,多重リアルタイム蛍光定量PCR検出体系や自動配置反応体系の構築などの改良措置を通じて,検 出スループットを高め,コストを引き下げ,遺伝子組み換え成分定量検出における同技術の応用と発展を促進することができる。

5 問題と展望

 食用植物油中の遺伝子組み換え成分の検出で主に採用されている技術手段はレギュラーPCRとネステッドPCR,TaqManに基づくリアルタイム蛍光定量PCR方法であり,検 出される配列断片は少なくとも70bp以上である。Zhangらは,新型のプローブなしダブルプライマーラベル蛍光共鳴エネルギー移動定量PCR方法を研究開発し,増 幅するターゲット配列を約40bp前後まで引き下げた。15種のトウモロコシグリットや豆乳などの高付加価値加工産品における増幅効率はTaqManリアルタイム蛍光定量検出方法を上回った [49] 。検出ターゲットを短縮して食用植物油中の遺伝子組み換え成分の検出を行うことは今後の研究の方向の一つと言える。食用植物油中の遺伝子組み換え成分の含有量が低い,核酸断片の分解・破壊が深刻である,D NAの抽出と遺伝子組み換え成分の検出が困難であるなどの問題をめぐって,異なるタイプ,異なるランクの食用植物油中のDNAの濃縮と抽出の方法を体系的に研究し,タ ーゲットが50bpよりも小さい遺伝子組み換え成分を検出できる定性定量検出方法を開発しなければならない。最終的には,汎用が可能で,操作性が高く,適用範囲が広い検出標準を構築し,中国の食用植物油の遺伝子組み換え成分表示管理に技術的なサポートを提供する必要がある。

(おわり)

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※本稿は李允静,肖芳,邵林,武玉花,万丹鳳,呉剛「食用植物油中転基因成分検測技術研究進展」(『中国油料作物学報』2017年第39卷第5期、pp.714-720)を『中国油料作物学報』編 集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司