第137号
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中国の第3回農業センサス結果と農業新型経営主体の概要(その1)

2018年 2月 8日

白石和良

白石 和良:元農林水産省農業総合研究所海外部長

略歴

1942年生れ
1966年 東京大学法学部政治学科卒、法律職で農林省入省
1978年~1981年 在中国日本大使館一等書記官
1987年 研究職に転職、農業総合研究所で中国の農村問題、食料問題等を研究
2003年 定年退職 以降フリーで中国研究を継続

 中国の第3回農業センサスが、2016年12月31日を基準点として実施され、昨年ほぼ1年間の集計作業後、その速報値が「第三次全国農業センサス主要数値公報」(第1号~第5号)として昨年末に公表された。中国の農業センサスは、10年毎に実施されており、第1回目は1996年末を基準点とし、第2回目は2006年末を基準点として実施されている。これまでの例では、確定された詳細な数値の公表は、書籍の出版の形を採っているので、いつになるかは不明である。そこで、公表済の公報等から、今回の農業センサスの概要と筆者が特に注目している調査項目について紹介することとした。なお、日本語訳が定着していないと思われる訳語にはその後に原語を〔〕で括って併記した。

1.第3回農業センサスの概要

(1)主要調査項目と調査対象

ア.実施部局

 今回のセンサスの実施部局は、国務院第3回農業センサス指導小組と国家統計局であるが、実務的な面は統計業務が本来職務である国家統計局が担当している。また、実際の調査の実施は、国家統計局と国務院第3回農業センサス指導小組が連名で制定し、通達した「第3回全国農業センサス実施方案」(以下、「実施方案」)に基づいて行われているが、この実施方案は、2016年7月5日付けで通達されている。つまり、約半年の教育期間、意識統一期間を設けて実施に臨んだということである。

イ.主要調査項目

 主要な調査項目は、実施方案によれば、①農業従事者状況、②土地(農地等)の利用及び流動化状況、③農業新型経営主体状況、④農業現代化進展状況、⑤農業の生産能力及び構造状況、⑥食糧の生産及び安全保障状況、⑦農産物販売及び農村市場建設状況、⑧村クラスの集団経済及び資産、⑨農村治安維持状況、⑩郷、鎮の社会経済発展状況、⑪農民の生活状況、⑫支援対象貧困村及び貧困農家状況、⑬主要農作物生産の空間分布状況の13項目が上げられている。

ウ.調査対象

 調査対象は、中華人民共和国の国内〔境内〕の農業経営戸、農業経営単位、農村に居住し、かつ、農地請負経営権を持っている家庭、農業センサスの対象範囲内の村民委員会、居民委員会、郷、鎮、街道、リモートセンシングの対象農地等とされている。今回のセンサスで実際に調査されたのは、農家2.3億戸、農業経営単位200万余、村級の行政組織60万、郷鎮級の行政組織4万余に達している由である。

(2)これまでに公表された調査結果

 これまでに、公表済の公報のタイトルと公表項目は次のようである。

 第1号公報(12月14日公表):タイトル=「農業農村農民の基本状況」、公表項目=①農業経営体〔农业经营主体〕、②農業機械保有量、③農地等土地利用、④農村インフラ施設、⑤農村基本公共サービス、⑥農民生活条件

 第2号公報(12月15日公表):タイトル=「農業経営主、農業機械及び施設」、公表項目=①農業経営体数、②農業機械、③農地水利施設、④施設農業

 第3号公報(12月15日公表):タイトル=「農村インフラ施設及び基本社会サービス」、公表項目=①交通、②エネルギー、通信、③環境衛星、④文化教育、⑤医療及び社会福祉の機構、⑥市場建設

 第4号公報(12月16日公表):タイトル=「農民生活条件」、公表項目=①住居、②飲用水、③衛生施設、④耐用消費品保有状況、⑤主要生活エネルギー

 第5号公報(12月16日公表):タイトル=「従事者〔農業生産経営人員〕状況」、公表項目=①従事者の数量及び構造、②規模経営戸の従事者の数量と構造、③農業経営単位の従事者の数量と構造

2.「農業新型経営主体」に関する調査結果

 上述のように、今回のセンサスの重要調査項目として、13の項目が上げられているが、この中で、特に注目を集めている項目は、③の「農業新型経営主体状況」と思われる。それは、中国農業の根本的弱点が農業経営の小規模性、非効率性、劣弱性にあるとされ、このため、大規模で、競争力が強く、外国産農産物に太刀打ちできる新型の農業経営群の育成が現在の中国農政の喫緊の課題とされているからである。ここでいう「農業新型経営主体」の具体的イメージは、専業大戸(注:専業大型農家の意味である)、家庭農場、農民合作社、農業産業化経営の龍頭企業である。なお、農業に対するサービス業も、「農業」の概念に含める場合は、農業サービス業組織〔農業社会化服務組織〕も、「農業新型経営主体」に含めて議論される。このように、「農業新型経営主体」の現状に対する関心が非常に高いので、これまでに公表された数値を取りまとめ、紹介することとした。以下では、先ず、「農業経営体」全体の調査結果を紹介し、次いで、「農業新型経営主体」としての性格、色彩が強いと言える「規模経営戸」、「農業経営単位」の順で紹介する。

 なお、「農業新型経営主体」育成政策の重要性については、末尾の「参考説明」を参照されたい。

(1)「農業経営体」に関する調査結果

 ここでいう「農業経営体」とは、その経営の形態を問わず農業経営を行う全ての経営体の意味である。表1は、今回のセンサス結果をまとめたものである。

表1 農業経営主体全体の調査結果
出所:第1号、第2号公報等。
項   目 経営体数 (万人) 従事者 (万人) 1経営体当たり従事者
農業経営体(1+2) 20947 31422 1.50
 (シェア) 100.0% 100.0% 100.0%
 1.農業経営戸(①+②) 20743 30330 1.46
 (シェア) 99.0% 96.5% 97.5%
 ①規模経営戸 398 1289 3.24
  (シェア) 1.9% 4.1% 215.9%
 ②非規模経営戸 20345 29041 1.43
  (シェア) 97.1% 92.4% 95.2%
 2.農業経営単位(③+④) 204 1092 5.35
 (シェア) 1.0% 3.5% 356.8%
 ③農民合作社 91 - -
 (シェア) 0.4% - -
 ④非農民合作社 113 - -
 (シェア) 0.5% - -

ア.表1を読むための説明

 (ア)表1の「表側」の項目間の関係

 図示すれば、次のようである。

図

 

 つまり、「農業経営体」は、「1.農業経営戸」と「2.農業経営単位」から構成されており、また、「1.農業経営戸」は、「①規模経営戸」と「②非規模経営戸」から、「2.農業経営単位」は、「③農民合作社」と「④非農民合作社」から構成されているということである。

 なお、表1の表側に、上述した「農業新型経営主体」である専業大戸、家庭農場、農業産業化経営の龍頭企業、農業サービス業組織が記載されていないが、それは、これらの数値が単独ではまだ公表されていないためである。ただし、専業大戸と家庭農場の数値は、①の「規模経営戸」に含まれており、農業産業化経営の龍頭企業と農業サービス業組織の数値は、④の「非農民合作社」に含まれている。これらの「農業新型経営主体」の数値は、今後の公表を待たなければならないということである。

(イ)「農業経営戸」の定義

 実施方案等によれば、「農業経営戸」とは、中国の国内(注:香港、マカオ、台湾は含まれない。以下、同じ)で農業、林業、畜産業、漁業、これらに対するサービス提供業を行うものであり、かつ、次の基準のいずれかをクリアしているものである。なお、その所在地は、農村部、都市部は問わないとされている。

⒜年間に経営する農地、園地、養殖水面が0.67アール〔0.1畝〕以上であること

⒝年間に経営する林地、牧草地が6.67アール〔1畝〕以上であること。

⒞大、中家畜(牛、馬、豚、羊等)の年間飼養数が1頭以上であること。

⒟小家畜(兎等)、家禽の年間飼養数が合計で20頭羽以上であること。

⒠農産物の年間販売、消費額が1000元以上であること。

⒡農業サービス提供の営業収入が年間1000元以上であること。

(ウ)「規模経営戸」の定義

 実施方案等によれば、「規模経営戸」〔規模農業経営戸〕とは、農業経営の規模が比較的大きく、商品化生産を主としている農業経営戸とされ、業種ごとに次のような基準をクリアしたものとされている。

⒜耕種業:1年1作地域の露地栽培では6.67ha〔100畝〕以上、1年2作地域の露地栽培では3.33ha〔50畝〕以上、施設農業では施設面積が1.67ha〔25畝〕以上。

⒝畜産業:養豚は年間出荷頭数200頭以上、羊は同100頭以上、肉牛は同20頭以上、乳牛は常時飼育頭数20頭以上、ブロイラー、アヒルは年間出荷数が1万羽以上、鵞鳥は同1000羽以上、採卵鶏は常時飼育羽数が2000羽以上。

⒞林業:経営林地面積が33.33ha〔500畝〕以上。

⒟漁業:養殖面積が3.33ha〔50畝〕以上、漁撈用動力船1艘(小型では2艘)以上、その他の漁業では漁業収入が30万元以上。

⒠農業サービス業:その経営収入が10万元以上。

⒡その他:農林水産物の合計販売額が10万元以上。

 なお、「規模経営戸」という用語は、「適正規模経営戸」とも呼ばれ、通常に用いられるが、これまでは、その基準は地域ごとに決められ、全国統一のものは無いとされていた。今後は、上記の基準が全国統一の「適正規模経営」の基準となるものと思われる。

(エ)「農業経営単位」の定義

 実施方案等によれば、「農業経営単位」とは、中国の国内で農業生産経営に従事することを主とする法人及び未登記の単位、並びに農業生産経営を主としない法人及び未登記の単位の中の農業産業活動を行う単位を指すとされている。農業を主とする農場、林場、養殖場、農林牧漁場、農業サービス提供単位、実際に農業経営活動を行っている農民合作社を含むとともに、国家機関、社会団体、学校、科学研究所、鉱工業企業、村民委員会、居民委員会、基金会などに附属する農業産業活動を行う単位も含むとされている。なお、中国語の「単位」という言葉は、邦訳が困難なため、日本の研究者は、中国語をそのまま日本語の中で使っている。本稿も、同様である。

(オ)「農民合作社」の定義

 実施方案等によれば、「農民合作社」とは、合作社という名称を持ち、「農民専業合作社法」に規定される合作社の性格、設立条件、設立手続、構成員の権利義務、組織機構、財務管理に関する要求に適合し、農業生産経営または農業サービス提供を行い、かつ、名称を農民合作社とする農民の互助経済組織を指すとされている。工商部門に登記済みのもののほか、未登記であっても上記の事項に適合する農民合作社は含まれるが、会社〔公司〕の名称で登記された株式合作制企業〔股份合作制企業〕、社区経済合作社、供銷合作社、農村信用社等は含まれない。また、農業生産資材の購入、農産物の加工、貯蔵、輸送、販売等の非農業業務に従事する合作社も含まれない。

 実は、この「農民合作社」に関する実施方案等の規定の仕方には問題がある。問題の箇所は、「名称を農民合作社とする農民の互助経済組織」〔名称为农民合作社的农民互助性经济组织〕との規定である。この規定を字義通り読めば、その名称に「農民合作社」という文字が入っていなければ、その合作社は、農業センサス上は「農民合作社」ではないことになってしまうからである。

 一例を挙げれば、北京にある天津甘栗の生産を行っている著名な「北京龍泉板栗種植専業合作社」は「農民専業合作社法」に基づいた、かつ、法人格も持っている農民専業合作社であるにも関わらず、農業センサス上は「農民合作社」ではないことになるのである。

 なぜ、このような珍妙な結果になってしまったのか?第3回農業センサスの実施の検討が開始されたころは、中国の農業生産関連の合作社は「農民専業合作社法」に基づいた農民専業合作社と同法に基づかない農民合作社の2種類が存在していた。いくつかの理由によって、「農民専業合作社法」が改正されることとなったが、その改正目的の一つが、「農民専業合作社」を「農民合作社」に改正することであった。この改正には、習近平国家主席の意向が働いていると思われていたので、必ずこの改正は実現する、と大方が忖度したのである。何を隠そう、筆者もその一人であった。

 「農民専業合作社法」の改正の経過を紹介すると、同法改正案は、2017年6月第12期全人代常務委員会第28回会議に提出、審議され、その後、同年12月22日に同常務委員会第31回会議で修正改正案が審議され、同12月27日に修正案が成立し、今年2018年7月1日から施行されることとなっている。ところが、改正は行われたものの、農民専業合作社の農民合作社への名称変更は認められない、即ち、農民専業合作社は農民専業合作社のまま、という予期せぬ結果となってしまったのである。農民合作社が新たな法令用語となる前提でものごとを進めていた国務院第3回農業センサス指導小組と国家統計局が今後どのような対応をとるのか。今後出版される正式公表資料でどのように扱われるのか?結果が待たれるところである。

イ.表1に掲載されている数値の説明

 表1が示している数値の意味を若干説明すれば、中国の「農業経営体」は大小取り混ぜて2億947万体あり、その従事者は3億1422万人いるということである。「農業経営体」の中では、ほぼ日本の個別経営に当たる「農業経営戸」が圧倒的に多く、全体の99.0%を占めており、非「農業経営戸」であり、法人経営の一種と言える「農業経営単位」は1.0%に過ぎない。ただし、1経営当たりの従事者数を見ると、「農業経営戸」の1.46人に対して、「農業経営単位」は3倍余の5.35人となっている。この差は、両者の経営規模の格差を反映したものである。

 一つの数値を示されても、その意味するところを理解するのは難しいので、これまでの農業センサスの結果と対比してみよう。

表2 各農業センサス結果による農業経営体数(単位:万)
出所:第1号、第2号公報等。
  Ⅲ(2016年) Ⅱ(2006年) Ⅰ(1996年) Ⅲ/Ⅱ Ⅱ/Ⅰ
農業経営体(1+2) 20,947 20,056 19,345 104.45% 103.67%
1.農業経営戸 (①+②) 20,743 20,016 19,309 103.63% 103.66%
 ①規模経営戸 398 - -    
 ②非規模経営戸 20,345 - -    
2.農業経営単位 (③+④) 204 40 36 516.46% 110.40%
 ③農民合作社 91 - -    
 ④非農民合作社 113 - -    

 先ず、「農業経営体」総数は、第1回~第2回センサスの間に3.67%、第2回~第3回センサスの間に4.45%の増大となっている。つまり、中国の「農業経営体」は、この20年間速度を速めて増大していたのである。次に、「農業経営戸」は、第1回~第2回の間は3.66%、第2回~第3回の間に3.63%の増大となっており、増大率は僅かに小さくはなっているが、増大を継続していることは、「農業経営体」全体の趨勢と同様である。これらから言えることは、中国の「農業経営体」は、現在も、弱小経営の拡大再生産を行っているということである。こうした実態を掌握している中国政府が、「農業新型経営主体」の育成、拡大に躍起となっているのが理解できよう。中国政府の躍起さが表れているのが、「農業経営単位」の数値である。第1回~第2回の間は10.40%の増、第2回~第3回の間は416.46%の増大となっている。ただし、伸び率は巨大だが、実数は未だ微細であるのが現実である。

(2)「規模経営戸」に関する調査結果

ア.「規模経営戸」と「非規模経営戸」との比較

 表3に見るように、「規模経営戸」は、戸数では、全「農業経営戸」の僅か1.9%に過ぎないが、1主体当たり従事者は3.24人となっている。他方、「非規模経営戸」では、戸数では全「農業経営戸」の98.1%を占めているものの、1主体当たり従事者は1.43人である。つまり、「規模経営戸」の従事者収容力は、「非規模経営戸」に比して1.81人多いということである。

表3 規模経営戸と非規模経営戸の比較
出所:表1から抜粋、再計算した。
    経営戸数 (万戸) 従事者 (万人) 1経営戸当たり従事者(人)
農業経営戸(①+②) 20,743 30,330 1.46
 (シェア) 100.0% 100.0% 100.0%
 ①規模経営戸 398 1289 3.24
 (シェア) 1.9% 4.2% 221.5%
 ②非規模経営戸 20,345 29,041 1.43
 (シェア) 98.1% 95.8% 97.6%
イ.「規模経営戸」の地域的分布

 次に、地域別に、「規模経営戸」と「非規模経営戸」の分布状況を見てみよう。今回の農業センサスで用いられた地域区分(4大地区)は次のようである。

①東部:北京、天津、河北、上海、江蘇、浙江、福建、山東、広東、海南(計10)

②中部:山西、安徽、江西、河南、湖北、湖南(計6)。

③西部:内蒙古、広西、重慶、四川、貴州、雲南、チベット、陜西、甘粛、青海、寧夏、新疆(計12)

④東北:遼寧、吉林、黒龍江(計3)

 経済関連の地域区分では、普通は、東部、中部、西部の3大地区が使われるが、ここでは、東北が独立している。これは、東北3省を一体として考察し、諸施策を講ずることが必要と考えられる場合にこうした取り扱いが取られるためと思われる。なお、3大地区区分の場合は、遼寧が東部に、吉林、黒龍江が中部に区分される。

 表4に見るように、「規模経営戸」は、数量の多さでは、東部、西部、中部、東北の順であるが、規模経営率(「農業経営戸」に占める「規模経営戸」の割合)では、東北、東部、西部、中部の順になっている。「規模経営戸」の業種別数値は未発表なので、その理由は明確にはできないが、東北が高いのは、本来1戸当たりの経営農地面積が他の地域より大きいので、規模経営への移行が容易であるためと思われる。また、東部地区が高いのは、経済先進地域なので、耕種業以外の業種での規模経営への移行が容易なためと思われる。

表4 地域別の農業経営戸数と規模経営戸数(単位:万)
出所:第2号公報。
  全国 東部地区 中部地区 西部地区 東北地区
 農業経営戸A 20,743 6,479 6,427 6,647 1,190
(シェア) 100.0% 31.2% 31.0% 32.0% 5.7%
 内規模経営戸B 398 119 86 110 83
(シェア) 100.0% 29.9% 21.6% 27.6% 20.9%
B/A 1.9% 1.8% 1.3% 1.7% 7.0%

その2へつづく)