第137号
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海底電力ケーブルを考慮した海上風力発電所の動的誘導性無効電力補償(その1)

2018年 2月21日

熊 信恒: 武漢大学電気工程学院

海上風力発電所の無効電力補償と過電圧の研究に主に従事。

陳 柏超: 武漢大学電気工程学院 教授

博士課程指導教員。高圧磁気制御リアクトル技術の研究に従事。

袁 佳歆: 武漢大学電気工程学院

 

概要:

 海上風力発電所の海底ケーブルで産出される大量の容量性無効電力を補償するため,海上風力発電所の動的誘導性無効電力補償の案を提起した。海上昇圧プラットフォームに小容量のコンデンサーを設置することで,二重給電風力発電ユニットの定格運行時の無効電力需要を保証し,風力発電所の無効電力需要が常に誘導性を示すようにすることができる。同時に陸上の高圧側に電磁弁式制御可能リアクトル(MCR)を設置して集中補償を行い,海上プラットフォームへの動的無効電力補償装置の設置を回避した。陸上に設置されたMCRと二重給電風力発電ユニットの無効電力の協調制御を通じて,系統連系ポイントの無効電力と電圧を保証し,風力発電所の信頼性を高めた。最後に,臨海風力発電所のシミュレーション計算により,上述の無効電力補償案の実行可能性と有効性を示した。

キーワード:海上風力発電所;二重給電誘導発電機;電磁弁式制御可能リアクトル;無効電力補償

 風力発電は,賦存量が大きい,開発周期が短い,設置が柔軟であるなどの長所を持っており,世界で最も急速に発展している再生可能エネルギーによる発電技術である。だが風力エネルギーのランダム性は,風力発電所の出力の比較的大きな変動性をもたらし,風力発電所のグリッド接続ポイントの母線の無効電力と電圧の変動を容易に引き起こし,風力発電ユニットの大規模な解列,系統の電力品質の不合格などにつながる可能性もある。電力系統の安全で安定した運用を確保するため,風力発電所は無効電力補償設備を設置しなければならないと国家基準によって定められている[1]

 陸上風力発電と比べると,海上風力発電には,風力資源が豊富である,風速が安定している,1ユニット当たりの容量が大きい,周囲の環境への影響が小さい,沿岸の負荷集中地域に近いなどの長所があり,近年,急速に発展している。海上風力発電所は一般的に沿岸から数十kmあり,高圧海底電力ケーブルを通じて陸上の電力系統と接続しなければならない。海上風力発電所と陸上電力系統の接続のタイプは高圧直流と交流の2種に分けられる。直流連系方式は,大容量の電力変換装置を配置しなければならず,固定資産投資のコストが高い。交流連系の投資コストは比較的低いが,電力ケーブルの対地容量の充電電流が高い,電力系統のリアクトルとの間に出現する共振と送電損失が比較的大きいなどの問題がある。現在,中国の海上風力発電の多くは交流連系方式を取っており,送電路線の充電電流は陸上風力発電を大きく上回る。このほか海上風力発電所の運営は整備が不便で,風力発電ユニットの制御方式には制限があり,風力発電ユニットの利用率が引き下げられている[2]。このため海上風力発電の実際の状況に基づき,風力発電ユニットの制御の複雑さを高めないという前提の下,合理的な無効電力補償の案を見つけることが重要となる。

 現在,風力発電の系統連系の研究の多くは,陸上風力発電を対象としたものとなっている。文献[3]は,DFIGの数理モデルを研究し,DFIGの無効電力調節能力を分析し,二重給電風力発電機自身の無効電力調節能力を利用して風力発電機の連系ポイントの電圧を安定化した。だが風力発電機の出力が大きい際には効果は限定的だった。文献[4]は,無効電力出力に対する風力発電所の有効変動の影響を分析し,無効電力補償装置(STATCOM)と二重給電風力発電機を導入し,電力系統の無効電力のニーズを協調的に補償した。文献[5]は,DFIGの無効電力調節能力の利用が発電ユニットの信頼性を引き下げるという問題をめぐって,コンデンサーバンクと静止型無効電力補償装置(SVC)を結合した無効電力補償の案を打ち出し,系統連系ポイントの無効電力電圧を有効に制御した。文献[6]は,海底ケーブルの無効電力補償の設計方法を打ち出し,補償容量の確定とリアクトルのグループ分けを説明した。文献[7]は,海上風力発電所の海底ケーブルの無効電力補償を研究し,両端での補償と固定で高圧分路リアクトルは効果が最も良いと論じたが,同文献では風力発電所の出力の変動性への考慮が不足していた。

 海上風力発電所の無効電力補償装置の設置の位置には主に,海上昇圧プラットフォームと陸上集中制御センターがある。通常の方法の多くは,STATCOMまたはSVCを海上昇圧プラットフォームに設置するもので,これは海上プラットフォームの建設コストと装置の整備の難度を高める。STATCOMやSVCなどのよく使われる動的無効電力補償装置の電圧階級は最大で35kVに達するが,動的無効電力補償装置を陸上の220kVの高圧側に設置すると,変圧器を追加するコストが生まれる。このほか海上風力発電所では,長距離の海底ケーブルで電気エネルギーを伝送するが,通常は,海底ケーブルの充電電流は風力発電所の容量性無効電力の需要を超えており,海上風力発電の無効電力需要は主に,誘導性無効電力となる。SVCまたはSTATCOMを使用すると,装置の容量性無効電力の補償能力が十分に利用できなくなる。

 上述の海上風力発電所の従来の無効電力補償方法の不足をターゲットとして,海上風力発電所の無効電力需要を研究し,二重給電風力発電ユニットの無効電力調節能力を合理的に利用するという状況の下,純誘導性の動的無効電力補償装置と固定コンデンサーを組み合わせた無効電力補償案を提起した。さらに大容量・高電圧の電磁弁式制御可能リアクトル(MCR)を無効電力補償装置として採用し,臨海風力発電所の無効電力需要に対する分析を通じて,同海上風力発電所の無効電力補償系統の容量配置と制御方法を確定した。シミュレーション結果からは,系統連系ポイントの無効電力と電圧は良好に制御され,風力発電系統連系の関連要求を満たしたことがわかった。

1 研究の背景

1.1 海上風力発電所の無効電力需要

 海上風力発電所は現在,二重給電非同期誘導風力発電機(DFIG)を幅広く採用している。典型的な海上風力発電所の構造は図1に示す通りである。風力発電機群の風力発電機は,発電機の端の昇圧変圧器を経て,35kV海底ケーブルを通じて,集電母線と連結する。さらに集電母線を経て,海上昇圧プラットフォームのメインの昇圧変圧器と連接する。メイン変圧器は,220kV海底ケーブルを経て,電気エネルギーを上陸ポイントの陸上集中制御センターに伝送する。集中制御センターは,高架線を経て,電力系統の地域変電ステーションと連結し,海上風力発電の系統連系を実現する。

図1

図1 典型的な海上風力発電所の構造の模式図

Fig.1 Schematic diagram of a typical structure of offshore wind farm

 分析を簡便にするため,長さの比較的短い35kV電力ケーブル路線の損失と充電電流を無視し,系統を高圧側にまとめた等価回路は図2の通りである。

図2

図2 海上風力発電系統の等価回路

Fig.2 Isogram of an offshore wind farm power system<

 系統の潮流分析によって,系統連系ポイントの無効電力が得られる。

 

 式中,Qpccは,系統連系ポイントの無効電力である。Qwは,風力発電機から出力される無効電力容量である。Qtは,変圧器の無効電力損失である。Qcは,路線の充電電流である。QLは,海底ケーブル路線の無効電力損失である。

 確定された路線の長さと系統のパラメーターに対しては,系統の電圧が比較的安定していることから,路線の充電電流Qcは固定値に近くなる[6,7]。変圧器の無効電力損失Qtと路線の無効電力損失QLは,路線の電流と関係し,路線の出力が大きいほど損失は大きくなる。二重給電風力発電機の出力の力率は通常1に近くなり,風力発電機の出力する無効電力容量Qwはとても小さい。海底電力ケーブルの充電電流は高架線をはるかに上回り,Qc≫QLとなる。大型風力発電所のメイン変圧器の容量は比較的大きく,その無効電力損失Qtは比較的大きく,無視することはできない。系統連系ポイントの無効電力は主に,QcとQtの値の差から决定される。

 風力発電ユニットの出力は,路線の伝送率,つまり系統の損失を決定する。高圧側の定格電圧をUNとすると,メイン変圧器の無効電力損失は次式で表される。

 

 式中のXtはメイン変圧器の等価抵抗である。ΔQt0はメイン変圧器の励磁電流損失である。Qwは小さく,ΔQt0は基本的に変化しないことから,(2)から,Qtは,Pwの二乗に従って変化することがわかる。

 同じように,海底ケーブル路線の無効電力損失は次式で表される。

 

 式中のXLは路線の等価抵抗である。二重給電風力発電機に対し,力率が1となることを目標に制御をすると,風力発電機の出力の有効範囲は次のようになる。

 

 Qwを無視し,近似計算によって次式が得られる。

 

 このうちKt=Xt/U2N,KL=XL/U2Nである。

 海上風力発電所の無効電力の必要容量は次式を満たす必要がある。

 

 風力発電所の無効電力需要の範囲は,風力発電所の系統パラメーターにかかわる。海底ケーブルの長さが比較的短い時には,Qcは比較的小さく,風力発電所の無効電力需要は,風速が定格風速の小さな範囲に近づいて初めて,容量性無効電力の需要が出現する。一般的な状況においては,風力発電所の無効電力需要はいずれも,誘導性無効電力である。海底ケーブルの長さが比較的長い状況では,Qcが比較的大きく,風力発電所に必要なのは,誘導性無効電力の補償だけである。

1.2 電磁弁式制御可能リアクトル

 電磁弁式制御可能リアクトルは,出力容量が連続的かつ滑らかに調整可能な誘導性無効電力補償設備であり,直流励磁電流の大きさを制御することを通じて,無効電力の出力容量の改変という目的を達成する。磁気制御リアクトルは,高調波の出力が小さい,接続する電圧階級が高い,信頼性が高い,生産運用コストが低いなどの長所があり,呼応速度では,新たな構造と制御方法を採用した磁気制御リアクトルはすでに,半サイクル以内を達成している[8-11]。従来の動的無効電力補償装置と比べると,磁気制御リアクトルは,海上風力発電所の誘導性無効電力補償の需要をより良く満たすことができる。

その2へつづく)

参考文献:

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※本稿は熊信恒,陳栢超,袁佳歆「考慮海底電纜的海上風電場動態感性無功補償」(『武漢大学学報(工学版)』2016年第49巻第4期、pp.591-602)を『武漢大学学報(工学版)』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司