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四川省における土砂災害気象警報モデルの構築と検証(その2)

2018年3月27日

李 雲君: 成都信息工程大学

研究テーマは地質災害警報、気象地理情報システムの研究開発、水文モデル。

劉 志紅: 成都信息工程大学教授

博士。研究テーマは3S集積と気象の応用。

呂 遠洋: 北京華云星地通科技有限公司

柳 錦宝: 成都信息工程大学

王 平: 広安市気象局

その1よりつづき)

4 土砂災害気象リスク警報モデルの構築

 土砂災害リスク区分をベースとし、降水量を誘発因子として地質—気象のカップリングによる警報モデルを構築して研究を行ったところ、降雨が土砂災害を誘発する最重要因子であることがわかった。しかし、土砂災害の誘発メカニズムには雨の種類によって明らかな違いがあるため、累積降水量・時間により土砂災害気象警報を確定することは長らく難題となってきた。しかし、ロジスティック回帰モデルでは有意性検定により相関性に差のある因子を自動的に除去できることから、この問題が解決できる。

4.1土砂災害と降水量統計による分析

 本稿では、2008年から2013年において、正確な降水量データのある過去の土砂災害ポイント7872ヵ所における当日と前日までの降水量について統計を行い、土砂災害発生当日と前日までの降水量の法則をおおむね決定づけた。図10に示すように、過去の土砂災害5160ヵ所(全土砂災害の約65%)においては累積降水量(7日間の累計降水量、以下同じ)に対する当日降水量の貢献度が40%を超え、このうち過去の土砂災害1395件(全土砂災害の約18%)においては累積降水量に対する当日降水量の貢献度が80%を超えた。これにより、四川省の土砂災害は当日降水量による影響を非常に大きく受け、過去の土砂災害においては当日降水量が100~200mmの場合の頻度が最も多いことがわかった。土砂災害2093件(全土砂災害の約27%)では累積降水量に対する前日降水量の貢献率が40%を超え、土砂災害の件数は降水量貢献率の増大に伴って減少し、土砂災害の50%近くで前日降水量が50mmを超えることから、四川省の土砂災害はやはり前日降水量に影響を受けることが分かる。また、土砂災害の7%前後では累積降水量に対する2日前、3日前、4日前の降水量の貢献率が40%を超え、2日前、3日前、4日前の降水量が25mm未満に集中的に分布したことから、四川省の土砂災害は2日前、3日前、4日前の降水量と一定の関係があるものの、相関性は小さいことが分かった。このため、計算コストを節約すべく、本研究においては土砂災害当日の降水量と災害前4日間の降水量のみを抽出して土砂災害警報モデルを構築する。

図10

図10 累積降水量に対する土砂災害発生当日および災害前4日間の降水量の貢献

Fig. 10 Contribution of precipitation to cumulative precipitation on the day of the landslide hazard and the first four days

4.2 土砂災害気象警報モデル

 四川省の地域自動ステーション約4000ヵ所における1時間あたりの降水データに基づいて過去の災害ポイントに最も近い雨量ステーションにおける日降水量平均値を抽出し、土砂災害の発生当日、1日前、2日前、3日前、4日前の日降水量の正確率を保証した。処理後に正確な降水量を得られた過去の災害ポイントは7130ヵ所で、このうち災害ポイント4991ヵ所(70%)をモデリングデータ、災害ポイント2139ヵ所(30%)を検定データとした。土砂災害リスクを静的因子とし、確率降水量を動的因子として、土砂災害が発生したか否かを独立変数としてロジスティック回帰モデル(表3)を構築したところ、3日前と4日前の確率降水量は有意性検定に合格しなかったため、除去すべきであることが分かった。

表3 方程式中の変数
Tab.3 Variables in the equation
  B S.E. Wald df Sig. Exp(B)
土砂災害リスク 3.589 0.130 791.509 1 0 33.048
Day回帰 11.545 0.368 1053.98 1 0 133 175.572
day1回帰 9.748 0.648 250.309 1 0 31 081.809
day2回帰 14.302 1.190 159.988 1 0 3 668   
158.024
Constant -4.31 0.109 1739.165 1 0 0.011

 3日前と4日前の確率降水量を除去した後に改めてモデリングを行い、SPSS分析で得た結果によれば、Cox & Snell R Squareは0.54であり、Nagelkerke R Squareは0.72であったことから、モデル全体のフィッティング度は非常に高いことが分かった。また、各因子はいずれも有意水準が0.05のWald検定に合格し、かつ、因子間の相関係数は非常に小さかったことから、相互に独立していることがわかった。土砂災害発生の発生に対する正確な予測率は82.3%に達した。モデリング結果は以下のとおり。

img

 式中のD0は土砂災害発生当日の降水確率値であり、D1は土砂災害発生前日の降水確率値であり、D2は土砂災害発生2日前の降水確率値であり、Pは土砂災害発生確率であり、Pが1に近いほど土砂災害発生の確実性が高いことを示す。各因子のWald値は表4のとおりであり、この結果、土砂災害警報値への影響が最も大きいのは当日降水量であり、その次が土砂災害リスクであり、さらにその次が土砂災害発生前日の降水量であり、土砂災害発生2日前の降水量による警報結果への影響が最も小さいことが分かった。この結果により、四川省の土砂災害は集中的な強い降水による影響を大きく受けることが明らかにされた。これは、その降水特徴に一致することから、四川省において土砂災害が多発する原因が降水という見地から検証されたこととなる。

表4 因子のWald値
Tab. 4 Wald value of different factors
因子 Wald
土砂災害リスク 791.509
Day回帰 1053.98
day1回帰 250.309
day2回帰 159.988
Constant 1739.165

4.3警報結果の検証

 警報モデル結果に対する検証によれば(表5)土砂災害の80%で警報に成功し、このうち土砂災害の30%で警報結果が0.75を上回り、土砂災害の18%で警報結果が0.99を上回った。また、超大型、大型土砂災害の90%で警報に成功し、なかでも超大型、大型土砂災害の40%で警報結果が0.75を上回り、超大型、大型土砂災害の12%で警報結果が0.99を超えた。現在、四川省で運用されている警報確率モデルにおける警報正確率が41%であるのに比べれば、欠報率は大幅に減少していることがわかる。

表5 モデル検証統計表
Tab. 5 Statistics of the model verification
P 土砂災害における警報率(%) 大型、超大型土砂災害における警報率(%)
≥0.5 80 90
≥0.75 30 40
≥0.99 18 12

 土砂災害警報は誤報率と欠報率のバランスを取らなければならない。本研究では、モデリングに関与していない群発性土砂災害の個別事例について、モデルの誤報率と欠報率を検証した。統計によれば、2013年7月10日に群発性土砂災害が四川省北東地域で発生しており、既存の確率的モデルによる警報結果とロジスティック回帰モデルによる警報結果は図11、12のとおりであった。

図11

図11 確率的警報モデル

Fig. 11 Probabilistic early warning model

図12

図12 ロジスティック回帰モデル

Fig. 12 Logistic regression model

 確率的警報モデルによる3級警報地域は四川省中部、北西部のすべての地域をほぼ網羅したが、これらの地域では土砂災害が発生しておらず、誤報率が非常に大きかった。2級警報地域(図の橙色の地域)のなかでは南西地域に誤差が生じ、実際の警報業務の実施において大きな不便が生じた。また、1級警報地域が存在しなかったことから、大型、超大型土砂災害当日の強度に対する警報の正確性は非常に低かった。

 ロジスティック回帰モデルでは3級警報地域が相対的に集中していた。3級警報地域の面積は比較的小さく、当日のすべての土砂災害ポイントが含まれると同時に誤報率が制御された。2級警報地域は土砂災害群発地域に主に集中し、すべての大型、超大型土砂災害が含まれ、土砂災害強度予測の向上が達成された。1級警報地域の面積は非常に小さかったが、大型、超大型土砂災害の付近に集中的に分布し、実際の警報業務の実施において良好な指導的役割を果たした。

5 結論および展望

 本稿においては、国内外の土砂災害警報モデルをベースに、四川省の地質岩性特徴や降水特徴ならびに両者の相関性の分析を結びつけ、ロジスティック回帰モデルに基づく土砂災害に対する長期モニタリング警報モデル—土砂災害リスク区分を確立することによって四川省全体の土砂災害気象警報モデルを構築し、さらにその警報モデルの結果について検証を行い、主に以下の結論を得た。

(1)四川省の土砂災害には強い空間分布による特徴があり、具体的には竜門山断裂帯、鮮水河断裂帯、安寧河断裂帯に沿って帯状に分布し、四川省北東地域においては群発的分布を示す。

(2)当日の降水量による土砂災害誘発の貢献度が最も大きく、前日がこれに次ぎ、日数がそれより前になるにつれて、降水量による土砂災害発生への影響は減少する。

(3)決定係数を用いる方法により被災因子を定量化し、被災因子と土砂災害発生に関するロジスティック回帰モデルを構築し、四川省の土砂災害リスク区分を完成させた。その結果、四川省における土砂災害ハイリスク地域は「Y」字型に分布するほか、四川省中部や北東部の土砂災害リスクが非常に高いことが分かった。この分布は、実際の土砂災害発生状況と一致する。

(4)土砂災害リスク、当日降水量、前日降水量、2日前降水量因子とロジスティック回帰方法により土砂災害気象警報モデルを構築し、災害ポイント2139ヵ所に対する検証の結果、モデルの警報正確率は82%に達した。また、2013年7月10日を個別事例として選出し、土砂災害空間警報の効果に対する評価を行ったところ、本研究の警報モデルは警報精度の向上をベースに警報範囲を縮小した結果、誤報率が減り、全体の警報精度が大幅に向上したことがわかった。

(おわり)


※本稿は李雲君,劉志紅,呂遠洋,柳錦宝,王平「四川省滑坡災害気象預警模型建立与験証」(『地球信息科学学報』2017年第19卷第7期、pp.941-949)を『地球信息科学学報』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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