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リチウムイオン電池用負極材研究の現状および展望(その1)

2018年4月23日

劉 金玉: 河北民族師範学院講師

修士、研究分野は電池材料。

王 艶、孟 玲菊、王 暁忠: 河北民族師範学院 化学化工学院

焦 連昇: 河北民族師範学院准教授

博士、研究分野は電気化学エネルギー貯蔵材料

概要:

 リチウムイオン電池は比較的高いエネルギー密度を持つことから、ポータブル電子機器に広く用いられており、将来的にはハイブリッドカーや無停電電源装置といった分野への応用も見込まれている。中でも負極材は、電池のエネルギー密度とサイクルおよび安全性に対して重要な影響を及ぼす。本稿では、負極材の分類とそれに対応する研究の現状を総括して述べ、研究における問題を指摘すると同時に、今 後の研究の趨勢を展望した。

キーワード:リチウムイオン電池;負極材;研究の現状

1、序文

 化石燃料の幅広い使用によりエネルギー危機が招かれ、また環境汚染ももたらされた。温室効果はその典型的な例である。このため、各国の政府は太陽エネルギー、潮汐エネルギー、風 力エネルギーといった再生可能エネルギーに注目し始めている。しかし、こうしたエネルギーは周期性という特徴を持つことから、エネルギーの貯蔵が必要になってくる。比 較的高いエネルギー密度と優れたサイクル性能を持つリチウムイオン電池は、現時点で最も将来性のあるエネルギー貯蔵技術である。リチウムイオン電池は主に正極材、負極材、電解質および分離膜から構成される。う ち正負極材は電池の総合的な性能を決定づけるもので、研究者らにとって重大な研究となっている。電池の総容量を制約するのは正極材の容量であるが、正極材と対応する負極材も軽視することはできない。なぜなら、高 容量の負極材は、正極材の性能を発揮できるか否かを決定づけるものであり、さらに高電流値電池充電のボトルネックとなるのも負極側であるためだ[1]

2、リチウムイオン電池用負極材の研究の現状

 材料とリチウムイオンに生じる電気化学反応の違いに基づき[2]、リチウムイオン電池用負極材は大きく3種類に分類することができる(図1-1)。

図

図1-1 離散時間システムで時間領域分析した操作サブインタフェースの入口インターフェース

 まず一つ目は、すでに大規模生産され、実用化も始まっている挿入材料で、典型的な例として炭素材料とチタン酸塩が挙げられる。これらの材料の長所は、充放電に伴う体積変化が比較的小さいことである。グ ラファイト系材料の体積変化はおよそ11%、チタン酸リチウムに至っては、「無ひずみ」材料と呼ばれているほどだ。しかし、リチウムイオンの挿入量には限りがあるため、容量が小さく抑えられてしまう。二つ目は、S i、Sn、Biなど、リチウムイオンとの合金化が可能な負極材だ。三つ目は、転化反応を起こす負極材で、MnxOy、FexOy、NiO、CuO、Cu2Oなどの遷移金属酸化物、金属のリン化物、金 属硫化物である。このうち、二つ目と三つ目の材料は比較的多くのリチウムイオンと反応を起こすため、挿入材料と比べると容量が大幅に増加する。しかしながら、電気化学反応に伴い非常に大きな体積変化が生じる。図 1-2は各負極材の充放電反応のメカニズムを表したものである。

図

図1-2 リチウムイオン電池用負極材の充放電反応のメカニズム[4]

2.1 挿入型負極材

 最も代表的な挿入材料はグラファイト系材料である。これらは、グラフェンシート層をc軸に沿って規則的に並べることで形成される三次元秩序構造である。面内の炭素原子はC-C共有結合で結ばれており、面 と面の間の炭素原子間に働いているのはファンデルワールス力である。これが理想的な挿入材料の必須条件となる。1955年、フ ランスの科学者Herold·A.は化学的方法を使ってリチウムイオンをグラファイトに挿入できることを初めて発見し、リチウム-グラファイト層間化合物を作製した[4]。その後、1 980年代になって初めてポリマー電解質中におけるリチウムの電気化学的挿入が実現し、ここから二次電池の負極材として活発なリチウム金属がグラファイトに取って代わった。リ チウムイオンは2種類の挿入材料間で可逆サイクルを実現でき[5]、ここからロッキングチェア型電池という名前が付いている。作製されたリチウム-グラファイト層間化合物は、リ チウム挿入時に隔てられたグラファイト層の層数に基づき、n次層間化合物と呼ばれる。また、充放電に伴って二相共存反応が起きるため、充放電曲線に平坦な領域が現れる(図1-3)。

図

図1-3 a)n次リチウム-グラファイト層間化合物;b)充放電曲線[3]

 層間化合物の電子導電率は比較的高いため、c軸方向へのリチウムの拡散スピードも比較的速い。負極材としてのグラファイト材料の研究は画期的な進展を果たし、1 991年にSonyが初となるリチウムイオン電池を発売、その後急速にリチウムイオン電池の普及・応用が進んだ。しかし、リチウムイオンは挿入の過程において、溶媒分子が共挿入されるため、グラファイト中のグラフェンシート層が剥離されて材料の電気化学性能が急速に衰えてしまう。これについては、複合電解液を用いて固体電解質界面(SEI)膜を形成することにより、溶 媒分子の挿入を阻止できることが研究で明らかになっている(図1-4)。SEI膜は主にLi2CO3やROCO2Liなどの沈殿物から構成される混合物である。エチレンカーボネート(EC)は SEI膜の形成に対して欠かせない役割を担うが、プロピレンカーボネートはこのような作用を持たない。

図

図1-4 グラファイトの剥離とSEI膜の保護作用[6]

 もし、高いイオン伝導性や電気絶縁性を持ち、電極の体積変化を効果的に抑えることができ、化学的性質が安定しているなど多くの利点を備えたSEI膜を形成することができれば、リ チウムイオン電池の電気化学性能と使用寿命の大幅な改善につながる。広く使用されている電解液の添加剤は主にビニレンカーボネート(VC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)である。このため、現 時点ではグラファイトはまだ主流の負極材と言えるが、グラファイト負極の比容量はわずか372mAh g-1であり、さらにその電位はリチウム金属とも近く、急速充電時、特 に大電流が流れた際にリチウムが電極の表面に沈殿しリチウムの樹状結晶(デンドライト)が生じてしまう。これは電池の安全な使用にとって非常に不利であると同時に、電 気自動車分野における同電池の使用を制限する要素ともなっている。このため、研究者らは近年、グラファイトに代わる新型負極材を求め続けている。

 グラファイトと違い、スピネル型構造を持つチタン酸リチウム:Li4Ti5O12(LTO)は、充放電のサイクルに伴う体積の変化がほぼ無いため、無ひずみ材料とも呼ばれている。L TOは高電流値下でも高い安定性を誇る。このほか、環境にやさしく、大規模生産コストが低いといった点も大きな利点である。充放電サイクル時のリチウム挿入電圧は1.5Vであり、こ れでリチウムデンドライトの形成がもたらす安全リスクをほぼ完全に解消することができる。さらに、負極材の集電体として高価なCu箔の代わりに廉価なAl箔を用いることができる。このため、比容量はわずか175mAh g-1であるものの、一部の特殊な分野において幅広く応用されている。ただし、LTO材料にも欠点が存在する。充放電中、特に高温下において「気体による膨張」現象が発生し、容 量が急激に低下してしまうのだ[7]。気体は主に、炭酸エステル溶媒の分解生成物と微量の水反応によって生成されたH2、CO2からなる[8]。反応性はLTOの表面の状態によって決定される。(111)結 晶面上に正孔が存在し、溶媒分子と酸化反応を起こしてCO2が生成される[9]

 最新の研究結果[10]により、無機材料のAlF3を用いてチタン酸リチウム粒子の表面を修飾すると、LTOと溶媒分子による反応の活性をある程度抑制できることが明らかになった。

その2へつづく)

参考文献:

[1]Goodenough, J. B.; Kim, Y., Challenges for Rechargeable Li Batteries† [J]. Chem. Mater. 2010, 22 (3), 587-603.

[2]Goriparti, S.; Miele, E.; De Angelis, F.; Di Fabrizio, E.; Proietti Zaccaria, R.; Capiglia, C., Review on recent progress of nanostructured anode materials for Li-ion batteries [J]. J. Power Sources 2014, 257 , 421-443.

[3]Zheng, T.; Reimers, J. N.; Dahn, J. R., Effect of turbostratic disorder in graphitic carbon hosts on the intercalation of lithium [J]. Physical Review B 1995, 51 (2), 734-741.

[4]Monconduit, L.; Croguennec, L.; Dedryvère, R.; Monconduit, L.; Croguennec, L.; Dedryvère, R., Negative Electrodes. In Electrodes for Li-Ion Batteries , John Wiley & Sons, Inc.: 2015; pp 1-28.

[5]Yazami, R.; Touzain, P., A reversible graphite-lithium negative electrode for electrochemical generators [J]. J. Power Sources 1983, 9 (3), 365-371.

[6]Vetter, J.; Novák, P.; Wagner, M. R.; Veit, C.; Möller, K. C.; Besenhard, J. O.; Winter, M.; Wohlfahrt-Mehrens, M.; Vogler, C.; Hammouche, A., Ageing mechanisms in lithium-ion batteries [J]. J. Power Sources 2005, 147 (1–2), 269-281.

[7]Belharouak, I.; Koenig, G. M.; Tan, T.; Yumoto, H.; Ota, N.; Amine, K., Performance Degradation and Gassing of Li4Ti5O12/LiMn2O4 Lithium-Ion Cells [J]. J. Electrochem. Soc . 2012, 159 (8), A1165-A1170.

[8]Bernhard, R.; Meini, S.; Gasteiger, H. A., On-Line Electrochemical Mass Spectrometry Investigations on the Gassing Behavior of Li4Ti5O12 Electrodes and Its Origins [J]. J. Electrochem. Soc. 2014, 161 (4), A497-A505.

[9]Kitta, M.; Matsuda, T.; Maeda, Y.; Akita, T.; Tanaka, S.; Kido, Y.; Kohyama, M., Atomistic structure of a spinel Li4Ti5O12(111) surface elucidated by scanning tunneling microscopy and medium energy ion scattering spectrometry [J]. Surf. Sci. 2014, 619 , 5-9.

[10]Li, W.; Li, X.; Chen, M.; Xie, Z.; Zhang, J.; Dong, S.; Qu, M., AlF3 modification to suppress the gas generation of Li4Ti5O12 anode battery [J]. Electrochim. Acta 2014, 139 , 104-110.

※本稿は劉金玉 王艶 孟玲菊 王暁忠 焦連昇「鋰離子電池負極材料的研究現状及展望」(『河北民族師範学院学報』2017年第37巻第4期、pp.110-120)を『河北民族師範学院学報』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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