第139号
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GISに基づく都市緑化の生態系サービス量およびその均一化に関する評価(その1)

2018年4月25日

張 雪花: 天津工業大学環境経済研究所教授

 博士。研究テーマは生態環境計画と管理。

郝 彪: 天津工業大学環境経済研究所

張 宝安: 河北環境工程学院

概要:

 都市緑地は都市生態系を構成する重要な一部であり、重要な生態系サービス機能を果たす。本稿では、都市緑地による緑化効果と生態系サービスの均一化レベルを客観的かつ科学的に評価するために、天津市の浜海新区漢沽行政区エリアと河西区エリアを例にとり、生態系の緑の量による都市緑化における生態系サービス量の測定方法を採用し、GISを都市緑化における生態系サービス量の分析ツールとし、距離減衰と重ね合わせの原理のモデルを結びつけ、各区画で受け取った多様な緑化源からの生態系の緑の量を計算した。また、可視化システムを構築し、各区画における生態系の緑の量の空間分布状況を示した。この結果、全体的に見ると、研究エリアにおける生態系の緑化建設効果は良好であり、ほとんどの区画で生態系の緑の量の基準ラインである51.848を達成し、基準を達成できなかったのは南西端の一部の区画のみであった。また、分布状況を見ると、研究エリアにおける生態系の緑の量の分布は均一ではなく、同じ緯度では東部のほうが西部より生態系の緑の量の受取量が多く、東から西に向かうにつれて漸減する傾向を示した。一方、同じ経度では北部のほうが南部より生態系の緑の量の受取量が多く、北から南に向かうにつれて漸減する傾向を示した。研究エリアのなかでは北東エリアと南西エリアの受取量の差が最も大きく、各区画で受け取った生態系の緑の量の最大値は161で、最小値はわずか46であったことから、均一化レベルが低いことが分かる。本稿の研究方法を応用すれば、都市緑化における生態系サービスの比較的脆弱な区画を正確に見つけ出すことができるため、都市緑地システムの計画に一定の参考価値がある。

キーワード:都市緑化;生態系サービス機能;基本的公共サービス;均一化に関する評価

 都市緑化は環境美化や住みやすさの向上、局地的な気候の調節等の面で大切な役割を発揮することから、重要な生態系サービス機能がある(趙丹ら, 2011)。このため、中国では模範都市、生態市、生態県の建設基準において生態系や緑化に関する明確な条件を求めており、緑被面積や1人あたりの緑地面積、1人あたりの公共緑地面積等に関する指標や達成基準を公布しているが、これらの基準ではさまざまな緑化構造下における生態系サービス機能の違いを客観的に反映できない。そこで、緑地均一度の分析と緑地集落の形成に関する研究により、この不足を補うことができる。高祥偉ら(2013)は、達成可能性分析やMarian et al.(2000)による階層分析等の方法を応用して、都市緑化の空間分布状況や緑地構造を測定した。全体的に見て、都市緑地に関する評価は、緑地面積や緑被率(盧小麗,2011)、緑地構造(肖建武ら,2011)から都市緑地の生態系サービス機能へと関心が徐々に拡大している。生態系サービスは、基本的公共サービスにおける最も基礎的で重要なコンテンツの一つであるが、なかでも生態系サービスの均一化は市民ひとりひとりの生態系サービスを平等に受ける権利にかかわるもので、特に人口の密集する都市においては、緑化空間とその産生する生態系サービス機能は人々の生活の質を向上し、バランスのとれた社会の発展を実現する上で重要な役割を果たす。しかし、現時点では生態系サービスの均一化に関する指標と評価方法がないため、さまざまな緑化構造下における生態系サービス機能の差や都市緑化における生態系サービスの普及レベルを客観的に示すことができない。

 都市緑地の生態系サービスに関する海外の研究は、現在、生態系サービス価値の計量(Costanza et al., 1998)や生態系サービスに対する植物の多様性の影響(Broadbent,2013)、緑地生態系の管理による生態系サービス機能の向上(Jim, 2001)等の分野に集中している。また、都市緑地の生態系サービスに関する中国国内の研究は、生態系サービスの評価指標体系の構築(王光軍ら, 2015)や、緑地の構造および分布による生態系サービス機能への影響評価(盧小麗, 2011、肖建武ら, 2011)ならびに緑の量に基づく都市緑地の生態系サービスの評価(周堅華, 1998)等の分野に集中している。上記の都市緑地の生態系サービス機能に関する測定と評価によって都市緑地における生態系サービスの均一化分析のベースが築かれたが、中国内外の論文を検索したところ、現時点では都市緑地における生態系サービス機能の均一化の分析に関する研究成果は存在しない。

 基本的公共サービスの均一化という視点から見れば、都市緑化によって生じる生態系サービス機能はすべての人々に行きわたるべきであるため、都市緑化効果の評価は、緑化率基準を満たしているか否かや緑地システムそのものの構造の合理性のみならず、緑地空間の分布が適正か否かや緑地により産生される生態系サービスが均一か否かにもかかわる。科学的な空間分布によって、緑化空間における生態系サービス効果や生態系サービスの均一化レベルが高まることは、疑うべくもないからだ。このため、本稿では基本的公共サービスの均一化という概念を都市生態系の緑化に関する研究に組み入れ、生態系の緑の量によって生態系サービス量を表現し、リモートセンシングとGIS技術を運用して空間データの分析を行い、緑の量の産生量とその空間分布の分析という2つの階層から都市緑化の基準達成状況を評価する。

1 基本概念

1.1 基本的公共サービスの均一化

 基本的公共サービス(郭小聡ら, 2013)とは、一定の社会的コンセンサスをベースとして、個人の基本的な生存と発展の権利を保護し、人の全面的な発展に必要な基本的社会条件を実現することをいう。基本的公共サービスには義務教育、生態環境、公衆衛生、基本医療および基本的な社会保障等が含まれ、基本的公共サービスの優劣は人の寿命や健康、尊厳ないし人生の意義に直接の影響を及ぼす。基本的公共サービスの均一化(郭小聡ら, 2013)とは、ほぼ同じ水準の基本的公共サービスを国民が平等に享受し、公民の生存権を可能な限り保障することをいう。均一化とは、すべての住民が完全に一致する基本的公共サービスを享受することを強調するものではなく、地域、都市と農村、集団間の差を認めることを前提として、すべての住民が一定基準以上の基本的公共サービスを享受することを保障するものであり、その実質はボトムラインの均一である。都市緑化により産生される生態系サービス機能は、都市における生態系サービス機能を構成する重要な一部であるとともに、基本的公共サービスを構成する重要な一部でもある。このため、基本的公共サービスの均一化によって、都市緑地における生態系サービス機能の全国民への普及状況を表現することができる。

1.2 生態系の緑の量

 都市緑地は都市生態系を構成する重要な一部として、都市の環境調節において重要な役割を果たし、水源の涵養や都市の微気候の調節、環境浄化、炭素/酸素バランスの維持、ヒートアイランド効果の緩和等のあまたの生態系サービス機能を持つ。本稿では、生態系の緑の量を用いて都市緑地における生態系サービス機能を評価する。生態系の緑の量(Law et al.,1994)は単に緑の量とも呼ばれ、単位面積あたりの緑色の植物の総量を指す。また、3次元バイオマスとも呼ばれ、生長中の植物の茎や葉の占める空間面積におけるバイオマスであり、一般にkg·m-2 またはt·hm-2 の単位で示される。生態系サービス機能を持つ林や灌木、草地等の用地についてそれぞれ緑の量を計算すれば、緑地全体における生態系サービス機能の分析に役立つのではなかろうか。また、水域にも大気の構成を調節し、空気を浄化する等の機能があるため、生態系サービスという視角から分析すれば、水域は緑の量を暗に含む用地と言える。そこで、本稿では緑の当量(草地や園地、耕地、湿地等の緑色植被における緑の量の、等量の森林面積の緑の量に対する割合)を採用して緑の量の計算を行う(倪琳ら, 2008)。すなわち、水域を緑の量の計算範囲に組み入れ、上述の緑化用地により産生される緑の量と足し合わせて生態系の緑の量と総称し、これを都市における緑色の環境と市民の生活の質を反映し、評価する重要な指標として、都市緑地における生態系サービス機能とサービスの効果を評価する。

その2へつづく)

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※本稿は張雪花,郝彪,張宝安「基于GIS的城市緑化生態服務量及其均等化評価」(『生態環境学報』2017年第26巻第4期、pp.547-552)を『生態環境学報』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司