第140号
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企業と地方行政 双方の姿勢が問われる「環境保護税法」が正式施行

2018年5月18日 『中国新聞週刊』記者/蔡如鵬 翻訳/神部明果

それまでの費用徴収から税徴収へ。汚染排出をより厳しく規制する環境保護税法が先ごろ施行された。経済発展と環境保護の両立、この難題の克服には、企業と地方政府双方の意識改革が必要だ。

 今年1月、中国の生態文明(自然環境と調和した社会)建設を推進する初の単行法――環境保護税法(以下、環保税法)が正式に施行された。

 この法律については、「『グリーン(環境保護を重視する)租税システム』完成を大きく手繰り寄せるものであり、生態文明建設を加速させる重要な措置」というのがおおむねの見方だ。

 40年近く実施されてきた汚染物質排出費徴収制度は、これにともない廃止される。

 費用徴収から税徴収への移行は、政府の財政パフォーマンス是正にプラスに働くとみる学者もいる。中国財政科学研究院の劉尚希(リウ・シャンシー)院長は、「税徴収への切り替えは、政府の収入体系の規範化と財政収入構造の最適化に利する」と指摘している。

部門間協力が謳われた画期的な徴収管理モデル

 今回、課税対象となったのは、おもに大気汚染物質、水質汚染物質、固体廃棄物、騒音の4種。「中華人民共和国の領域および中華人民共和国が管轄するその他の海域において、課税汚染物質を直接環境に排出する企業・事業単位およびその他の生産経営者を環境保護税の納税人とし、本法に基づき環境保護税を納付しなければならない」とされた。

 ただし、直接排出しない物質(飲食系企業が都市配管網に排出する廃水など)は課税対象にならない。また、住民個人も納税人にはならない。

 他の税目と異なるのは、徴収にあたり、環境モニタリングなどの高い専門性が要求される点だ。「この税の特殊性からみて、徴収管理が大きな課題。汚染物質の排出量測定には複雑な技術と一連の基準がともなう。税務機関は技術的根拠、課税基準などについて環境部門と意見を交わし、より科学的で合理的な測定をおこなう必要がある」(北京公衆・環境センター馬軍(マー・ジュン)主任)

 このため、可決から施行まで1年の準備期間が設けられたほか、部門間協力が初めて法律に盛り込まれ、「企業は申告、税務機関は徴収、環境部門は監視、情報は共有する」という徴収管理モデルが採用されている。

 税額については、「環境保護税税目・税額表」で規定され、大気汚染物質は1汚染当量あたり1.2~12元、水質汚染物質は同1.4~14元、固体廃棄物は種類により異なるが、1トンあたり5~1000元(1000元は危険廃棄物)、工業騒音は超過デシベル数により毎月350~1万1200元とされた。

 汚染当量とは、汚染物質またはその排出活動の環境に対する有害度および処理技術の経済性に基づき、各汚染物の環境汚染に対する総合的な指標または計量の単位を算出したものだ。

 各省には比較的大きな裁量権が与えられている。地域の環境許容能力、汚染物質排出の現状、社会・経済の発展と生態環境保護の両立に向けてなすべきこと、これらにふまえて適用税額を上記の範囲内で決めることになる。

 現時点での各省の公布税額をみると、北京市を筆頭に、上海市、河北省、山東省などの税額基準は相対的に高く、逆に西部地区は低い。江蘇省、海南省、四川省はその中間、中南部および貴州省・雲南省などは最低税額をやや上回る程度だ。

 環境保護税にはおもに二つの役割がある。ひとつは汚染をより合理的な範囲に抑えること、もうひとつは汚染にともなう社会的費用を補うことだ。中国人民大学生態金融研究センターの藍虹(ラン・ホン)副主任は言う。「汚染物質の種類、場所、時間などの要素によって社会的費用も変わる。そのため、地域ごとに税額は異なるし、同一地域でも異なる等級や分類に基づいて税額が設定される。それにより、汚染物排出企業が税額の低い地域に移転する可能性もあるが、設定額が合理的であれば問題はない。各省が経済発展と環境保護の新たな均衡点を探る上ではプラスになるだろう」

環境保護的意味合いが強い一方地方の税体系整備にもプラス

 中国では1979年に「環境保護法(試行)」が公布され、排出費用制度が確立された。

 同制度は環境汚染の防止に大きく貢献した。だが、徴税制と比較した場合、法執行力の不足、地方政府や部門の干渉といった問題があり、税への転換が必要とされていた。

 数十年にわたって徴収されてきた汚染排出費が環境保護税に変わる――単なる名称の変化にみえるが、その意義は大きい。中国人民大学環境政策・環境計画所の宋国君(ソン・グオチュン)所長はこう話す。「汚染排出費は行政課金ゆえ徴収レベルが低く、行政が勝手に企業に強制したり、逆に企業誘致のために肩代わりしたりと、恣意的に運用される面があった」

「一方、環境保護税は法定税目。税収法が定めるルールにのっとって徴収されるため、徴収レベルは格段に高くなる。徴収基準と手順は厳格に規定されるため、これまでのような恣意的運用は許されなくなるだろう」

 環境保護税のプラス効果について、関係者はおおむね以下のようにみる。短期的には、重点汚染物質の削減目標が達成され、良好な資源節約と環境保護効果が得られる。中長期的には、企業の省エネ・環境保護・低炭素技術の検討や利用を後押しする。さらに、経済構造の調整や最適化、発展モデルの転換も促進される。

 国際的には、排出行為に対する徴税は、ごく一般的な方法だ。徴収を始める国はいまも増え続けている。税法の改正・整備により、税額引き上げや徴収範囲拡大に踏み切る国も多い。

「環境保護税の税収規模は決して大きくない。税制化のおもな目的は、財政収入増加ではなく、徴税を梃子にして企業に汚染物排出削減を促すこと。その環境保護的意義は、財政的意義よりはるかに大きい」(専門家)

 昨年12月、国務院は「環境保護税の税収帰属問題に関する通知」を出し、環境保護税は全額地方収入とすることを明確にした(これまでの汚染排出費は中央1割、地方9割)。

 昨秋の中国共産党第19回全国代表大会では、税収制度改革の深化と地方の税体系整備が提起されていた。財政部の肖捷(シアオ・ジエ)部長は、「地方の税体系改革を積極的かつ着実に推進する。税収構造の調整、税源拡大、地方の権限強化などに取り組む」と語った。

 地方税の税目整備は税体系構築の最重要課題だ。環境保護税が全額地方収入となったことで、地方の税源拡大が一歩前進した。

 もうひとつの重要課題が地方の権限拡大だ。環境保護税のうち、現在は大気・水質汚染物質の税率決定が地方に任されているが、これもその流れを反映したものと言えるだろう。

企業など税負担側の意識改革もこれからの課題

 今回施行された環保税法は、汚染抑止や技術革新の促進など、徴税により社会・経済に幅広い効果をもたらすことを第一の狙いとしている。中央財経大学は、環境保護税の税収規模を毎年500億元と予測する。

 国家税務総局はかねてより「費用徴収制から税徴収制への同等レベルを維持しての移行」を基準に、これまでの汚染物排出費をそのまま環境保護税に転換するとしていた。

 事実、現時点では一部地域を除き、財政面での影響は少ない。

 たとえば、天津市の昨年上半期の排出費用は3.02億元だったが、制度移行後は前年同期とほぼ同額の約2.98億元の税収を予測している。

 一方で、「これまでの環境モニタリングの数値は全体的にかなり低い。環保税法には法的強制力があり、脱税した企業は刑事罰を科される。このため、排出データの正確性が大きく改善され、結果、企業の納税負担はかなり大きくなるだろう」と予測する宋氏のような研究者もいる。

 ほかにも、畜産業への影響がある。ある専門家は、制度移行期の転換をスムーズにおこなえるよう、畜産関連企業に補助金を出すべき、と提言している。「一定規模の飼育数を抱える企業は環境保護税を徴収されることになるが、ほとんどは赤字経営で、かなりのコスト負担になるのは必至。汚染対策は必須だが、補助金や支援政策を通じ、一定の損失を補填するのが望ましい」

 宋氏は「各省の税額はこれまでの汚染排出費とほぼ同額が適切。現時点ではあまり高額に設定すべきでない」と述べる。企業負担が短期間で激増する可能性があるからだ。しかし、この意見に同意しない研究者も多い。

 劉氏は「真の意味で企業の汚染対策を促し、『汚染対策をするくらいなら金を払う』という意識を改めるため、各地域は企業の負担能力と生態環境の損失程度を加味しながら、最低税率を上回る実態に即した税額を設定し、税による是正効果を高めるべき」と述べる。

 同氏はまた、地域間の過度な税額差が「汚染転移」という大問題を引き起こさないようにするため、地方や企業の実情を考慮した上で最低税率を段階的に引き上げるべきとも提言している。

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昨年12月22日、スモッグに姿を「くらます」陝西省西安市の大明宮丹鳳門。写真/CNSphoto


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年4月号(Vol.74)より転載したものである。