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第一汽車―中国で最も歴史の長い自動車メーカー

2018年5月28日

陳選

陳 選(チン セン):フリーライター

略歴

 1982年、 吉林大学日本語科卒、1986年、中国社会科学院大学院日本研究所修士課程卒、中国国際信託投資公司( CITIC)勤務。1989年来日、北海道大学法学部大学院修士課程卒、大 手商社長年勤務。中国自動車メーカーのビジネスアドバイザーでもあった。

 中国で最も歴史の長い自動車メーカーがどれかと聞いてみたら、第一汽車集団であるとの答えになる。中国語で「中国一汽」或いは「一汽」と言えば分らない人がいない程であろう。上海汽車、北京汽車、広 州汽車など地方政府に所属する企業と違って本社が吉林省長春市にある第一汽車は、東風汽車、長安汽車と並べて中央政府傘下の三大国有自動車企業の一つであり、中 国自動車業界の老舗メーカーとして長い間業界に君臨し、中国自動車業界の「航空母艦」とも言える超大型企業である。

一.第一汽車の過去

 65年の歴史を持つ第一汽車は大ざっぱに言えば、下記の幾つかの発展段階に分けられる。

1)工場建設期(1950年~1956年)

 第一汽車の前身は第一汽車製造工場で、1950年に建設プロジェクトが始動し、ソビエトの支援の下で1953年に建設されたものであり、新中国の最初の自動車メーカーである。1956 年に工場が竣工の上、量産開始。新中国として一台目の「解放」ブランドトラックがラインオフし、第一汽車が中国歴史上で中国自動車産業の新たな1ページを開いた。

2)成長発展期(1956年~1978年)

 1958年に新中国第一台目の「東風」ブランドの乗用車と「紅旗」ブランドの高級車も製造した。その後、国内政治に左右され、生産と発展が阻害され、紆余曲折の道を歩むこととなった。また、七 十年代に中ソの関係悪化に伴い、毛沢東氏の国家戦略に基づき、中国中部の山奥の湖北省十堰で第二汽車を建設することになり、第一汽車より数多くの労働者、技術者が転職し応援に赴いた。1 978年に鄧小平氏主導の下で、文化大革命が漸く終わり、経済の復興等を中心とする「改革・開放」の路線が実施されてから、第一汽車も再び、発展の軌道に乗った。

3)構造改革期(1988年~2005年)

 この構造改革期では、主に2大構造の改革を行った。一つ目は1991年にドイツフォルクスワーゲンと一汽VWを、また2002年に天津汽車を吸収の上、2 005年にトヨタとの合弁会社である一汽トヨタを設立したことにより、第一汽車は中型・大型トラック、また小型車とともに乗用車も製造し、単 純な商用車メーカーから多様化の製品構造に変わる新たな発展段階に入った。二つ目は、会社の性格上の大改革であり、純粋な国有自動車メーカーから、合弁会社も含む多元化資産構成からなる集団(グループ)体 制に変わった。この期間は、第一汽車が大発展を成し遂げた時期であり、2001年の生産台数は1988年の5.1倍となり、売上も22.8倍増になった。

4)大発展期(2006年~現在)

 2007年に販売台数は144万台弱になり、その後、「管理のデジタル化、経営のグロバール化」を目指していた。

二.第一汽車の現在

 第一汽車には輝いた過去があり、現在、中国国内で最大規模の自動車製造集団の一つとして、子会社、関連会社合わせて50社程を有し、従業員を約20万人抱えている。ド イツとの合弁会社一汽VWで製造する高級ブランドのアウディが中国での生産・販売量が世界一となり、ジェッタ、ゴルフ等の小型乗用車も手頃な値段や製品の丈夫さで人気が集まっている。ト ヨタとの合弁会社である天津一汽トヨタではカローラやクラウン等を生産し、市場では好評を博している。成都の四川トヨタでマイクロバスのコースターを製造し販売好調が続いている。また、本拠地の長春では、ラ ンドクルーザーやプリウスを製造している。ところが、全体的に言えばその他の国有自動車メーカーより成長と発展のスピートが大分遅く、中 国自動車産業における位置が下がる一方で2016年に業界第三位に留まっている。(図1参照)

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(図1:2016年中国国有六大自動車集団の販売台数順位)

 この十年間、第一汽車集団全体の販売台数の伸び率は業界平均の7.7%に対し、わずか4.3%に過ぎなかった(図2参照)。

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(図2:2007~2016年第一汽車販売台数の推移)

 下記図3で示されているように、2016年、集団全体で315万台の販売実績であった。その内訳は一汽VWが190万台、60.4%を、一汽トヨタが66万台、20.9%となっており、両 社だけで80%強を占めているのに対し、トラックの販売が伸び悩んでいるし、自主ブランド高級車「紅旗」の復活が訴えられたものの、販売が極めて不調で話にならないほどで、販売実績は4800台であった。ま た中級乗用車の「奔騰」の販売も冴えず、販売実績は11万台弱に過ぎなかったため、自主ブランド乗用車を主業とする第一汽車乗用車公司は補助金無しでは生きられない状況が続いている。大変残念なことに、中 国国内6大自動車集団の中で、唯一、集団全体が上場していないのは第一汽車である。

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図3:一汽集団の会社別売上の割合(2016年)

三.第一汽車の将来

一.第一汽車の問題点

1)傲慢さと官僚主義

第一汽車は中国初めての自動車メーカーとして、自社こそ業界のナンバーワンであるといった自負がありすぎ、それにより傲慢さが生まれたと言われる。しかも、官僚主義的な社風がなかなか変えられない。& amp; amp; amp; amp; amp; amp; amp; amp; amp; amp; amp; amp; lt; /p>

2)巨大すぎる企業として、計画経済の下での政府頼りといった慣習に馴染んでしまい、社員の意識改革が不十分で市場経済への移行が遅いため、中 国の民間自動車企業で良く目に映る社員全員が会社の成長と発展のために一生懸命に奮闘するという生き生きとした雰囲気が無く、自 主ブランドを主業とした子会社は独力で生きずに政府の補助金等に頼って喘いでいる状況である。

二.将来についての展望

 第一汽車も他の自動車メーカーと同様に、電気自動車開発部門を設け、省エネ自動車の発展戦略を掲げて今後、省エネ自動車の開発・生産の重点とし、関連数十項目の技術開発に注力しているが、合 弁事業で中国自動車業界における上位集団としての地位を保ちながらも、前述の問題点を次々にに克服し、さらに「紅旗」ブランドの乗用車や「解放」ブランドトラック等自主ブランドを大いに成長させない限りでは、中 国自動車業界ナンバーワンの地位を挽回するのは無理であろう。しかし残念なことに、そのような努力が現在、殆ど見られないのである。

(本文に引用した図表・データ等は《2017-2022年中国自動車工業産業競争現状調査及び未来分析レポート》や ネット上の自動車業界関連新聞によるものである。)

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