第140号
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来年開港! 京津冀エリア発展の新たな動力源「北京新空港」(その2)

2018年05月28日 閔傑(『中国新聞週刊』記者)、趙一葦、江瑞(翻訳)

その1よりつづき)

雄安新区計画とのリンクで巨大臨空経済区が誕生する

 新空港の全面着工にあわせ、周辺の臨空経済区計画の制定作業も立ち上がった。

 国家発展改革委員会は一昨年、「北京新空港臨空経済区計画(2016〜2020年)」を発行、これを受け、新空港が大型国際ハブ空港としての役割を十分に発揮できるよう、北 京市は河北省と合同で新空港臨空経済区の設置を決定した。

「新空港建設に合わせ、国は空港周辺に総面積約1000㎢の臨空経済区を計画している。その中心エリア150㎢は、国家対外交流センター機能搭載区、国家航空技術イノベーションリーディング区、京 津冀協同発展モデル区となる予定だ。そこでは新空港を核に、航空サービスを基盤とした、創新駆動型のエコで低炭素なハイテク産業が牽引役となる」(姚氏)

 臨空経済区全体では、航空物流、臨空サービス業、航空宇宙産業、そして航空事業関連の本部経済(企業の地域統括本部を誘致する政策)を重点的に発展させる計画だという。

 臨空経済区の開発投資総額は2000億元を超える見込みだ。中国民用航空局の董志毅(ドン・ジーイー)副局長によると、新空港建設プロジェクトと、それにともなう企業移転関連のもろもろ、総 合交通システムなどのインフラ整備事業への投資だけで4100億元の経済効果があるという。

図4

図4:新空港建設の作業は続く。写真/取材先提供

 新空港運営初期には、旅客数のべ4500万人、新規雇用者8万人を見込んでいる。また、開港後20年で北京市に累計8.6兆元を超える経済効果をもたらし、北京市のGDPに占める南部地域の割合を、2 011年の10%から32%前後まで引き上げると試算されている。

「臨空経済区には将来、1兆元規模の産業が形成される」と曹所長はみている。産業だけにとどまらず、空港・産業・都市が一体化した「エアポートシティ(航空城)と呼べる規模になるだろう」という。

 だが、そこに至るまでの最大の障壁となるのが行政区画だ。

「臨空経済区が行政区画をまたぐのは、中国ではよくあること。武漢空港の臨空経済区は武漢市と孝感市に、広州白雲空港は北側が花都区、南側が白雲区にまたがっている」。複 数地区にまたがる行政区画では問題は避けられない、と曹所長は言う。「新空港は北京市と河北省をまたぐ。中央の規定に従い、計画・建設・運営管理の統一を図るべき。別々に管理委員会を設ければ、自 身の利益だけに目がいき、問題の解決が困難になる」

 新空港の臨空経済区は、雄安新区計画とのリンクも必要だ。「新空港は『千年の大計、国家の大事』である雄安新区への貢献という点で、きわめて重要な役割を担っている」。特に「ハイテク産業発展」と「『 新高地(新境地、新分野といった意味の党の用語)』の拡大・開放」といった新区の位置づけを強力にサポートする役割が期待されている、と姚氏は語る。

「新空港と雄安新区は、将来的に相互補完の関係になる」と曹所長も言う。新区は今後、グローバル・バリューチェーンの一角を占めるハイテク産業を発展させていく計画だ。「 グローバルな雄安新区が建設されれば、そこには必ず巨大な航空輸送ニーズが生じるだろう」

中国3大航空会社の2空港での住み分けは?

 新空港完成にともない、もうひとつの問題が生じる。それが「1都市・2空港」問題だ。つまり、ひとつの都市に二つの超大型国際ハブ空港が誕生することになるのだ。首都国際空港と新空港は、距 離にして70㎞も離れていない。それゆえ、両空港の運営が課題となってくる。

「1都市・2空港」「1都市・多空港」は、民間航空大国が航空輸送を発展させる上で避けて通れない道だ。ニューヨーク、ロンドン、ソウル、東京なども、ひとつの都市に複数の空港を建設し、並 行して運営している。

「1都市・多空港」体制では、それぞれの空港の位置づけや資源配分、空港間や交通システム間のスムーズな連結がカギになってくる。

「2空港」をどう役割分担させるかには、主に二つの考え方がある。ひとつは、航空会社のアライアンスで区分し、同一アライアンス間の乗り継ぎの利便性を重視したもの。もうひとつは、国 際線と国内線という区分だ。この場合、市中心部に近いほうを国内線メインに、国際線(特に長距離の国際線)を中心部から離れた空港に配置する。

 上海は中国で最初に「1都市・2空港」となった都市で、虹橋空港と浦東国際空港を擁する。当初は両空港とも国内線・国際線を同時運航していたが、2002年から虹橋は国内線、浦東は国際線と分けられた。2 007年以降は、その区分の厳格性が薄れ、現在は再び両空港とも国内線・国際線の同時運航に戻っている。

「国内線・国際線による区分が不適切だということは、上海の例からも証明されている」と曹所長は言う。空港、特に大型ハブ空港は、国内線・国際線両方を備えていることが必須だ。「そうでないと、旅 客にとっては乗り継ぎが不便で高くつく。航空会社も両方の空港に設備などを完備させなければならず、運営コストが増大する」

 新空港と首都国際空港は、航空アライアンスによる区分を採用する。国家発展改革委員会と中国民用航空局の関連文書によると、新空港開港後は、中 国南方航空と中国東方航空をはじめとするスカイチーム各社がそろって新空港へ移転し、中国国際航空をはじめとするスターアライアンス各社は首都国際空港に残るという。

 2空港体制のもうひとつの難点は、航空権、航路、発着枠の配分だ。航空旅客輸送市場の競争は激しく、高収益路線と高需要発着枠をどれだけ有しているかが、航空会社の業績アップのカギを握る。

 昨年8月、中国民用航空局は「国際航空権の資源配置および使用管理弁法(ドラフト)」の「付録」で、北京2空港の国際航空権配分に関する計画を作成している。

 それによると、新空港と首都国際空港は同一の航空拠点とされ、両空港から同一都市に向かう国際線は同一航路とみなされている。

 これはつまり、両空港が今後、航空権、航路、発着枠の配分をめぐり、競争しなければならないということだ。

 民用航空局輸送司の劉鋒(リウ・フォン)司長によると、新空港の航空権配分をめぐっては、すでに次のような大原則が確立しているという。①新空港に移転する航空会社は、首 都国際空港で運航していた国際線を移転させるにあたり4年の猶予が与えられ、かつ、獲得済みの国際航空権は維持される。②新空港の国際線には政策面で優遇措置を与える。③新空港と首都国際空港は、「 強みを相互に補完し、適度に競争する、国際競争力を備えた」北京の「ダブルハブ」空港として発展させていく。

 現時点では、中国国際航空が首都国際空港の国際線発着枠で優位にあり、全航空会社の中でもトップの47%を占め、バランスのとれた航路網を構築している。中国東方航空と中国南方航空は、新 空港に拠点を置く航空会社として、今後、新空港の「大型国際ハブ空港化」の重責を担っていく。

 都市群と空港群が一体となった発展は、まさに動的なプロセスと言える。直線距離にして67㎞という二つの空港は、大勢の人々のフライト選びだけでなく、中国国際航空・中国南方航空・中 国東方航空という3大航空会社の華北市場における三つ巴の状況にも変化をもたらすことになるだろう。

図5

図5:北京新空港全体計画図(クリックすると、ポップアップで拡大表示されます)

 中国南方航空と中国東方航空にとっては、完全移転までの4年の間に両空港での輸送業務をいかにこなすか、そして完全移転後、いかにすばやく新空港に適応するかといった問題が待ち構えている。一方、ス ターアライアンス各社にとって首都国際空港に残ることは短期的には有利に働く。同空港ターミナル3で最多の発着枠を有する中国国際航空は、中国東方航空と中国南方航空がターミナル2に持っていた枠を取り込み、さ らにシェアを高めることができるからだ。

 だが、長期的には、北京と華北における3大航空会社の競争はさらに激しさを増すことが予想される。

 空港部門建設処の彭愛蘭(ポン・アイラン)処長によると、新空港の運営支援のため、民用航空局では新空港に入る航空会社への支援策をまとめたという。その内容は、① 他国との航空権交渉において北京線の拡大を図り、新空港の「ハブ空港化」を進める、②4年間の移転期間中は新規航空権を新空港に多めに配分する、③新空港に入る航空会社が未使用の航空権を有効活用し、新 空港の国際線網を拡大させることを奨励する、などだ。

 昨年4月、国家発展改革委員会は、北京新空港における中国東方航空と中国南方航空の拠点建設に関する認可文書をそれぞれ公布した。

 それによると、新空港の両航空会社の拠点は、同空港の航空旅客業務量の40%を処理できる規模で建設するという。つまり、2社で新空港の80%のシェアを占めるということだ。長期的視野に立てば、中 国南方航空と中国東方航空の両社は、業務拡大のビッグチャンスをつかんだと言えるだろう。

(おわり)


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年6月号(Vol.76)より転載したものである。