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自動車メーカー・IT企業・政府まで参戦する「スマートカー」覇権争奪戦

2018年6月29日 閔傑、許青青(『中国新聞週刊』記者)/江瑞(翻訳)

ウーバー・テクノロジーズやテスラの事故報道はあったものの、自動運転をめぐる熱はいまだ冷めていない。世界的企業の提携のニュースが日々報じられるように、「新世代のクルマ」をめぐる競争は熾烈をきわめている。世界最大の自動車市場を有する中国の企業・政府は、この覇権争奪戦にどう挑むのか

 3月18日、米アリゾナ州で、ウーバー・テクノロジーズ社が自動運転実験車両として改装を施したボルボXC 90 が交通死亡事故を起こした。自動運転車が歩行者を死亡させた事故としては世界初で、事故のニュースは全世界に衝撃を与えた。

 事故後、同社は自動運転の路上走行試験の停止を命じられた。反省、議論、批判の声がさまざま巻き起こり、自動運転技術の信頼性が再び揺らぐ事態になった。

 歴史を紐解くと、大きな事故は、しばしば技術の代替や規制導入のきっかけになってきた。だが、今回の事故が自動運転の潮流を変えるのは難しそうだ。

 米ブルッキングス研究所が最近発表した報告書によると、過去3年(2014年8月~昨年6月)の自動運転および関連産業への投資総額は、世界全体で800億ドルにも上るという。スマートカーは、モバイルネットワークに続く最大のトレンドになりつつある。

 現在の自動運転の潮流は、グーグルやアップルといったIT企業が牽引し、全世界に波及している。中国では、政府の後押しと資本の流入もあり、従来型のガソリン車メーカー、ライドシェア企業、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)をはじめとするIT企業、新興自動車メーカーが「下剋上」を狙い、世界と「時差なし」の覇権争いに続々と参戦している。

経営モデル転換を迫られる自動車メーカーの焦り

「トヨタはもう自動車メーカーではない」。今年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、トヨタ自動車の豊田章男社長の口から「驚きの発言」が飛び出した。

 保守的と言われてきた完成車メーカーのトヨタだが、豊田社長はこのとき、そのイメージに反し、大胆で過激な発言を繰り出した。「トヨタは従来型の自動車メーカーからモビリティ・サービスを提供する企業になる。ライバルも同業他社ではなく、グーグル、アップル、フェイスブックなどのIT大手だ」「電動化・コネクテッド化・スマート化(自動化)・共有化の『4つの新たな潮流』が自動車業界と産業構造を再構築しようとしている」。国務院発展研究センター産業経済研究部研究室の王暁明(ワン・シャオミン)主任はこう語る。

 革命前夜には、完成車メーカー大手も高みの見物を決め込んでいるわけにはいかない。行動の遅れは、玉座からの転落、帝国の没落を意味する。100年の歴史を持つアウディ、BMW、ダイムラーのドイツ御三家は、将来の新たな経営戦略を策定中、フォードやGMをはじめとする米自動車メーカーは、早々にアクションを起こしている。

 どの完成車メーカーにとっても経営モデルの転換が唯一の選択肢になっているが、そのモデルやスピードの選択については、戦略上熟考を要する。

 中国の完成車メーカーも、経営モデルの転換に乗り出している。なかでもその意思が堅いのは、広州汽車(広汽)集団だ。

 広汽研究院CTO(最高技術責任者)兼インテリジェント・コネクテッドセンター主任の黄少堂(ホアン・シャオタン)氏によると、広汽のインテリジェントドライブ研究は「漸次量産式」と「飛躍型イノベーション学習式」の2つのアプローチで進められているという。「漸次量産式」とは、初歩的な運転支援から徐々に開発レベルを上げていくスタイル。自動運転レベルのL1(単独の運転支援機能搭載)からL3(条件つき自動化)まで量産化のベンチマーク・時期・車種が決められており、開発プロセスが時間で区切られている。これに対し「飛躍型イノベーション学習式」は、直接L4(高度な自動化)・L5(完全な自動化)の開発に着手し、LiDAR(レーザー光線を使ったレーダー)やカメラ、ミリ波レーダー、超音波レーダーなど、L4・L5の基準に基づく最新装備を生産プロセスにおけるアルゴリズムやセンサー感度などの技術と絶えず融合させ、その成果をL3車の量産に反映させるというものだ。「漸次量産式」は市場をサポートし、教育する役割を担うことが期待されている。だが、それだけでは、将来的に市場で主導権を握るには不十分だ。

 黄氏の考えでは、真のスマートカーは人々の移動手段というだけでなく、交通のあり方、特にクルマの生態系を一変させる存在になるという。しかも、この変化は現時点での想像をはるかに超え、インテリジェント交通、地図・位置情報・通信サービス、クラウド、ビッグデータを統合したものになるという。「L3レベルのスマートカーでは、それを成し遂げることは不可能」(黄氏)

 一方、「飛躍型イノベーション学習式」の意義は、スマートカーの生態系を共通化し、将来的に商品市場での決定権を握ることにあると黄氏は考えている。

 L4やL5のみを目標としていては、口先だけで実物のお披露目は当分できず、「消費者はしびれを切らし、市場は勢いを失ってしまう」。ゆえに、「二つのアプローチで開発を進めなければならない」と黄氏は言う。

 その意味で、L3は避けて通れないひとつの基準になっている。L3の自動運転機能を活用するシーンは主に3つ、高速道路での時速120㎞の走行、高速道路での渋滞ノロノロ運転、そして自動駐車だ。L3なら、ドライバーは高速道路上で手足を自由にすることができる。だが、前方の状況に気を配ることは必要だ。つまり、目と脳を運転から解放することはまだできない。「広汽はL3の技術を蓄積し、アルゴリズムの作成を終えた。今は集中的テスト段階に入っている」と黄氏。広汽のL3車は、①安全性、②センサー・位置情報の高精度化、そして③車体制御技術(操作性)をすでにクリアしている。「3番目はIT企業の自動運転プラットフォームにはない強み」と黄氏は胸を張る。

 インテリジェントドライブ技術(自動化)は自主開発、一方、コネクテッド化と共有化ではオープンイノベーションによる共栄圏を構築する、これが広汽の戦略のもうひとつの特徴だ。広汽は「クラウドナビゲーション」や車載用のインテリジェントコネクテッド端末などを他社と共同開発している。

 従来型の完成車メーカーは将来、IT系自動車メーカーの下請けに成り下がってしまうのでは、という懸念を抱く人は多い。たとえば、自転車業界ではシェアサイクルの台頭で、従来型の自転車メーカーが自社ブランドの製品を作るのをやめ、モバイクやofoのOEM工場となり、経営まで仕切られている。「当初、世論は『自動車革命が始まった』『自動車生産は今後すべてOEMモデルになる』という論調一色で、私も危うく納得しそうになった。だがここ1年の状況を見ていると、流れは再び完成車メーカーに有利な方向に変わっている」。自動車は非常に複雑なシステム工学の結晶だ。IT系企業の多くはアルゴリズムが一つか二つ完成するとすぐ車体を購入し改造を試みるが、これでは商業化は無理だとすぐに気づく、と黄氏は指摘する。

 黄氏に言わせれば、ウーバーが大事故を起こしたのは何ら不思議なことではなく、再発の可能性すらあるという。「テクノロジーの追求と同時に、自動車業界や人の命、技術の蓄積を尊重し、認める姿勢が不可欠だ」「いま、世界で無人運転技術が最も成熟しているのは、米GMのSuper Cruise。そのため、ここ1年は、IT系企業が完成車メーカーとの提携を望む姿勢が目立っている」(黄氏)

 その一方で、黄氏は完成車メーカーとして強い危機感を抱いていることも認める。そうした危機感が経営モデル転換の原動力になっているのも事実だ。従来型の完成車メーカーである広汽は、当面は無名のIT系企業のOEM工場になるつもりはないが、パブリッククラウドやプライベートクラウドを立ち上げてビッグデータを収集、消費者のペインポイントを把握して新しい走行モデルを探るなど、今後に向けビジネスモデル転換の準備を進めている。

 今のところはまだ、旧来型の自動車メーカーが自動車生産の能力とビークルコントロール(車体制御)を集約する最も重要な競争力を掌握しており、当面は完成車の設計・製造を主導していくだろう。IT系企業はAIやヒューマンマシンインタラクションなどの強みを活かし、インテリジェントコネクテッドや自動運転システムなどを切り口にスマートカーの競争に参入したが、かつてのアリババや滴滴出行のような「電撃的な下剋上」は果たせていない。

 だが、革命はすでに静かに進行しているのだ。

車載OSでもつばぜり合いを演じる「BAT」

 バイドゥ、アリババ、テンセント=BATは、自動車産業革命でも火花を散らしている。

 自動運転やスマートカーの出現により、本来ならクルマにあまり縁がないIT企業にも参入のチャンスがめぐってきた。

 最初につばぜり合いが起こったのは、スマートカーの車載OSの分野だ。BATにとって、車載OSは自社サービスにつなげられる最大の「入口」でもある。

 先手を打ったのはアリババだった。2014年から開発に着手したアリババのAliOSは自動車専用OSの最初期の製品のひとつで、インテリジェントボイスコミュニケーションやスマートフォン・スマートウォッチによる操作機能、無線ネットワーク経由のアップデート、測位誤差1m以下のサブメーター級高精度位置情報、座席に座ったままでの決済機能などが搭載されている。

 テンセントとバイドゥもすぐさま後を追った。昨年11月8日、テンセントは車載コネクテッドシステム「AI in Car」を発表、その10日後、バイドゥもヒューマンマシンインターフェイスのApollo小度車載OSを発表した。

 車載OSの勝負は、最終的にはそれをクルマに積み込む勝負になる。BATの次なる競争は、より多くの自動車メーカーをパートナーに引き込むことだ。

 アリババは2015年3月の時点で上海汽車(上汽)と合弁会社を設立しており、AliOSは「斑馬智行」として自動車業界に浸透しつつある。上汽のほか、神龍汽車やフォードとも提携契約を結び、2016年には量産車で商用化が実現している。上汽集団傘下の自主ブランドの新車にはすべてAliOSが搭載されており、上汽のデータによれば、今年4月時点で60万台を超えるAliOS搭載のインテリジェントコネクテッドカーが実際に路上を走行中だという。

 テンセントの「AI in Car」も広汽集団のEV(電気自動車)に搭載されている。昨年11月16日、広汽とテンセントはインテリジェントコネクテッドカーのiSPACEコンセプトモデルを発表した。「AI in Car」はこれが初の実用化であり、今年の一般発売と量産化が予定されている。

 バイドゥのパートナーも増えている。同社は自動運転オープンプラットフォームApolloを切り札に、自動車業界や自動運転分野のパートナー企業を車両やハードウェアと結びつけ、車両・ハードウェア・ソフトウェアのプラットフォームとクラウドデータサービスの4つからなる、独自の完全な自動運転システム構築を目標としている。

 バイドゥによると、Apolloの登録パートナー企業は、完成車・部品メーカーやセンサー・ICチップメーカーなど、90社を超えるという。生産を請け負うメーカー側も量産化のタイムスケジュールを組んでおり、たとえば金龍客車は今年中国初の無人運転循環バス「阿波龍」を発売予定、北京汽車と江淮汽車は来年ApolloOSを搭載した自動車を量産化する計画だ。

 現在のところ、BAT各社はいずれも多額の資金投入が必要な直接生産ではなく、大手自動車メーカーとの業務提携や資本参加の形で、それぞれのクルマづくりに着手している。

 だが、BATに対し、警戒の声を露わにする者もまた絶えない。こうした提携の行く末を案じる一人、奇点汽車の沈海寅(シェン・ハイイン)CEOは「自動車メーカーはIT系大手との業務提携に対し、警戒心を抱いている」と指摘する。「自動車メーカーはIT企業のOEM工場にされてしまうことを恐れているため、提携しても不完全なものになる」。沈CEO曰く、自動運転システムはクルマの「脳」にあたり、車体の各システムを指揮するが、自動車メーカーは「脳」をIT企業に譲り渡すはずがない。いったん「脳」が支配されれば、自動車メーカーはただの入れ物屋になってしまうからだ。「完全な協力関係を結ぶことはかなり難しい。過去に成功例はまだない」

 ドイツの自動車御三家のCEOらも2016年の時点で「自動車メーカーは思考を切り替えなければならない。さもなければ、シリコンバレーの下請けに成り下がってしまう」との声明を出している。「両者は基本的にライバル。提携も条件つき」。こう語るのは清華大学蘇州自動車研究院の成波(チョン・ボー)院長。現段階の自動車メーカーとIT系企業は、互いに探り合い、学び合う関係だという。

「自動車メーカーがなぜ提携を望むのかといえば、一緒に仕事をすることで、市場や将来のビジネスモデル、製品定義に対する理解など、自らに欠けているものを学ぶためだ」。それゆえ、警戒心を抱くのもうなずける。「今後、利益共同体でなくなれば、競争か吸収合併のどちらかになる。自動車メーカーがOEM業者になるのか、あるいはIT系企業を買収するのか、どちらの可能性もある」

スマートカー開発は政府同士の競争でもある

 世界各国が参戦するスマートカーの競争においては、政府の力も無視できない。スマートカーは自動車産業だけでなく、通信、AI、ビッグデータ、高精度のナビゲーションやセンサー、さらには都市の道路計画やインフラ整備などにも関わるため、「政府の見えざる手」がスマートカーの発展を後押しするカギになってくる。

 中国ではスマートカーに「ゴーサイン」を出している地方政府も少なくない。これらの地方政府は意欲的で、行動も迅速だ。北京市と上海市はその急先鋒として、すでに路上走行試験の細則を公布しており、バイドゥは3月に北京で、上海汽車と蔚来汽車も同月上海で自動運転の路上試験用ナンバープレートを取得した。今後、さらに多くの都市が後に続くだろう。

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写真1:モーターショーに出展された蔚来汽車のEP9。写真/視覚中国

 それ以上に野心的なのが、雄安新区だ。「開発当初からすべての土地のデジタル化」を謳う雄安新区は、インテリジェント交通と無人運転が本格的に実施される中国初の都市になる可能性が高く、こうした都市は世界的に見ても数えるほどしかない。AI技術を有する企業にとって、雄安新区は思う存分実力を発揮できる場となるだろう。

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写真2:雄安新区で乗員を乗せ、路上走行試験を行うバイドゥのApollo自動運転車。写真/新華社

 新区では、すでに無人運転車の走行が実現している。バイドゥは昨年12月にApollo搭載の自動運転車の無人運転モードによる路上走行試験をおこない、その日のうちに河北省雄安新区管理委員会と戦略提携合意を締結、雄安新区をインテリジェントシティの新たな世界モデルにしていくことで合意した。

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写真3:無人運転車を体験する市民。写真/視覚中国

 スマートカーの最高レベルの競争は、事実上、国同士で繰り広げられている。中国はスマートカーを機に、自動車産業やインテリジェント交通、スマートシティなどの分野での発言権拡大を目指している。

 国によるトップレベルデザインも大枠が確立している。今年初め、国家発展改革委員会は「スマートカーイノベーション発展戦略(意見募集稿)」の中で、中国におけるスマートカー発展のタイムスケジュールを次のように制定した。「2020年までに、新車に占めるスマートカーの割合を50%にし、ミドル~ハイエンドのスマートカーの市場化を実現する。2025年までに、新車のインテリジェント化をほぼ完了させ、ハイエンドのスマートカーの量産化を実現する。2035年までに、他国に先駆けスマートカー強国となる」

 だが、スマートカーのコア技術において、中国は現時点でトップレベルとは言い難い。「コア技術の面では、アメリカが先んじている」(成院長)。自動運転が人に取って代わるには、車載センサーと意思決定システムによる自主的な識別・判断・操作が必要で、そのためにはセンサーが非常に重要になる。「中国はカメラに関してはまあまあだが、LiDARやミリ波レーダーに関しては、産業基盤がまだ弱い」と成院長は語る。

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写真4:昨年8月24日、スイスの保険会社がおこなった無人運転車の衝突実験。ハッカーが無人運転車のOSに侵入した結果、ブレーキが効かなくなり、自動車同士の衝突事故に至った状況をシミュレートした。写真/新華社

 成院長の認識では、中国が最も強みを持っているのは通信技術だ。「ファーウェイや大唐集団といった企業は、世界の大手と互角に渡り合える実力がある」

 国務院発展研究センター産業経済研究部研究室の王暁明主任は、中国は通信や地図といったスマートカーの基礎技術分野で自主化がかなり進んでおり、AIやビッグデータなどにおいてもBAT各社に技術的蓄積が相当程度あるため、外国との差はハードウェア中心の時代ほど大きくはないと考えている。

 目下の弱点はやはりセンサー、アルゴリズムとICチップだ。「これらはいずれも資本の大規模な投入と長期に及ぶ開発が必要な分野。中国は資金も人員も投入不足だ」と王主任は指摘する。

 スマートカーの分野で最も発言権を握っているのは、やはりアメリカだ。シリコンバレーはAIやアルゴリズムに強く、デトロイトの自動車メーカーも奮闘している。GMやフォードは、すでにL4の開発でかなりの成果を上げている。

 成院長曰く、中国のもうひとつの潜在的優位性は、インターネットの応用とイノベーション力だ。「資本と技術の結合により、絶えず革新的な技術や製品、ビジネスモデルが生み出されるが、長期的にみて、これが成長に決定的な役割を果たす。ICチップが得意な日本にも、すばらしい自動車をつくるドイツにも、このような活力はない。その点で、中国とアメリカは似ている」「中国の道路環境が、スマートカーの開発にプラスになる」と成院長は語る。道路の複雑さゆえ、製品開発には困難が多い。だがその反面、中国で認証を受けた技術は、汎用性が高いということになる。「中国で認証を受けた車は、他の国で走っても大きな問題は起きないだろう。だが、アメリカで認証を受けた車が中国で走れるとは限らない」


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年8月号(Vol.78)より転載したものである。


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