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「漢芯一号」と同じ轍を踏むな 国産チップ開発に求められる「市場の力」

2018年6月29日 閻肖鋒(『中国新聞週刊』論説委員)/吉村 學(翻訳)

アメリカによる通信機器大手・中興通訊(ZTE)への制裁措置により中国でにわかに活発になった「国産チップ」開発をめぐる動き。そこで必要なのは、国 が先導するそれまでのモデルではない、市場主導型の資源配置だ。

 中国経済は日々力強さを増しており、「イギリスに追いつき、アメリカを追い越せ」は、規模の点ではもはや過去の話と言える。だが、科学技術におけるイノベーションという点では、道 はまだ遠いと言わざるを得ず、イノベーション不足が産業の高度化と経済のモデルチェンジのネックになっている。これについては、冷静な見方をすべきだろう。

 第一に、立ち遅れを認めなければならない。先端科学技術分野においては世界の先端レベルとの距離は縮まりつつあるが、精密機器やNC工作機械、兵器生産といった、高い精度や品質を要する「国家の鼎」と も言うべき重点分野では、中国は依然として遅れをとっている。西側がそれらの分野を中国に100%開放することもあり得ない。現在、チップの開発・生産は、そ のほとんどが西側のグローバル企業の手の内に握られている。

 第二に、開放的なシステムなくして世界の科学技術の発展の流れについて行くことはできない。科学技術の進歩は日進月歩だ。特にチップの世代交代は急速で、いわゆる「ムーアの法則( チップの演算速度は1年半で倍になり、サイズは半分以下になる)」を裏付けている。ファーウェイは自社開発による最新チップ「Kirin970」を新型スマートフォンに搭載しているが、これとて、同 業他社を半年はリードできるにしても、その後またたく間に追いつかれ、逆転されることすら起こりうる。先端科学技術分野では、研究開発がなければ死あるのみだが、開放がなくても、やはり死あるのみなのだ。

 第三に、科学技術のイノベーションは一連の効果的な制度配置の結果であり、とりわけ市場競争の原則に沿う必要がある。この点について、中国は特に冷静さを保たねばならない。というのも、か つて痛い授業料を払ったことがあるからだ。

 この国際化・情報化の時代にあって、国が全力を傾け、代価を一切惜しまずチップを開発するなどということを繰り返してはならない。そうではなく、それを市場に委ね、市場による資源配置能力と積極的な「 万衆創新」の動きを結集させ、国営企業・民間企業・外資企業が一斉に取り組むべきだろう。国際環境の変化により、イノベーションのための条件も変化したのだ。

 最近、企業のチップ研究開発への投資が空前の高まりを見せている。アリババは杭州中天微系統に、京東は清華大学に、恒大集団は中国科学院に投資した。これらはすべて国の呼びかけに応えたものだが、こ の種の巨額投資は市場主導でなければならず、市場メカニズムによってプロジェクトの成否が決定されなければならない。国や大学を中心に据えた体制では、この重大任務の完遂には不十分だということは、過 去の失敗で明らかになっている。「漢芯」の失敗こそ、その明確な証拠だ。

 2003年、「世界一流」を謳った「漢芯一号」は、世界最先端レベルに到達すると公言、世界的ハイテク企業に戦いを挑んだ。このチップは、中 国科学院と国家高技術研究発展計画担当責任者のお墨付きを得たのみならず、上海など地方政府からの強力な支持や全世界の100社近いメディアに持ち上げられ、一時は一世を風靡した。だが、その結末はといえば、大 規模量産を実現しなかったばかりか、インチキも甚だしいことが暴露された。某世界的ハイテク企業のチップに「漢芯一号」のマークをつけただけのものだったのだ。

 また、3年前に中国が設立した半導体ファンドは4000億元の資金規模を有するが、実際の成果となると、やはり褒められたものではない。

 こうなってしまったのは、そもそも国家主導による一部の科学技術革新には市場の発展法則を軽んずるところがあり、国家の強力な関与を盲信し、「中国産チップ」の開発に全力で邁進しさえすれば、中 国の科学技術が反撃に転じるのも容易なことだと単純に思い込んでいることに原因がある。

 われわれは、科学技術のイノベーションを決定的に制約するもの、すなわち機構・メカニズムの問題を明確に認識しなければならない。国家の一方的で強力な支援によりもたらされたのは、科 学技術の飛躍的発展ではない。多くのイノベーションの担い手を誤った考えに陥れ、競争やリスクに対する意識を失わせる事態を間接的に引き起こしたこと、これなのだ。

 中国の歴史には、有名な「ジョセフ・ニーダムの謎」がある。「古代、科学技術で他国を遥かに引き離していたのに、なぜ産業革命が中国で起こらなかったのか?」というものだ。ニーダムは、硬 直した官僚主義体制が科学技術の進歩を阻害したと考えた。

 これは事実上、現在の中国において科学技術の発展が陥っている苦境でもある。言い換えれば、中国の科学技術の進歩には、資金や政策による強力な支援、ただそれのみではなく、そ れにもまして発展メカニズムの変革が必要なのだ。つまり、国家の見えざる手に頼るという考えを勇気をもって捨て去り、市場の発展力と参入意欲を強化し、市場と政府のパワーを真に効果的に結合させることだ。

 グーグルやアップル然り、インテルやクアルコム然り、世界的なハイテク企業の成長の歴史を見れば、政府のプッシュによってではなく、市場メカニズムを通じて資本を形成してきたことがわかる。また、こ れらの企業は市場のニーズを満たすことができるし、革新的な市場メカニズムを有している。これこそがアメリカの強靭な科学技術革新能力とハードパワーの根源だ。

 中国が西側先進国に学ぶべきことは、チップ産業の興隆において市場化された投資の仕組みづくりを強力に推し進め、市場の力によってチップ産業、ひいては電子産業全体の発展を促進することで、科 学技術革新における決定的な弱点を補うことだろう。

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撮影/中国新聞社記者 張斌


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年8月号(Vol.78)より転載したものである。


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