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中国キャリアロケット技術の発展(その2)

2018年7月27日

魯 宇: 中国運載火箭研究院研究員

中国運載火箭(キャリアロケット)技術研究院科学技術委員会主任。

その1よりつづき)

3 中国の宇宙輸送システムの国際協力

 中国の宇宙輸送システムの国際協力は主に、搭載打ち上げ、商業衛星打ち上げサービス、軌道上引き渡しの3つがある。長征ロケットはこれまでに55回にわたって国際協力のための打ち上げを行い、20カ国・地域に向けて64個のペイロードを打ち上げた[3]

3.1 搭載打ち上げ

 1987年8月、CZ-2Cキャリアロケットは、フランスのマトラ社向けの微重力装置の搭載打ち上げに成功し、中国の宇宙国際協力の歴史を開いた。CZ-2Cロケットによる帰還型衛星の搭載打ち上げを通じて、中国のキャリアロケットは国際協力プロジェクトへのより明晰な認識を形成し、国際協力モデルへの理解を深めた。

 搭載打ち上げは、中国の商業打ち上げの起源であり、1990年7月16日のCZ-2Eロケットの初飛行では主要ペイロードの打ち上げ能力を検証したほか、搭載したパキスタン科学試験衛星を予定軌道に投入することに成功し、その後の第三世界の国の宇宙発展推進を促進する重要な役割を果たした。

 搭載打ち上げは、コストが低く、検証環境が真実に近いなどの優位性を持ち、新技術や新設備の開発プロセスで最も有効な検証方法の一つとなっている。2014年10月には、嫦娥五号を利用して帰還型飛行試験器の打ち上げ任務を行い、CZ-3CロケットはLuxSpaceの4M小衛星の搭載に成功した。この搭載ペイロードは、非分離プランを採用し、ロケットの末段とともに月に向かって飛び、月遷移軌道の飛行環境の検証を受けただけでなく、後続の搭載打ち上げ国際協力の拡大に手本を提供した。

3.2 商業衛星打ち上げサービス

 対外商業衛星打ち上げサービスは、中国の宇宙輸送システムの国際協力の主要な形式である。1990年、長征三号によるアジア一号の打ち上げは、長征シリーズキャリアロケットの対外商業打ち上げの序幕を開いた。中国最初の液体ストラップオンロケット・CZ-2Eロケットも、対外商業打ち上げ任務のために特別に開発されたものだ。

 20世紀末、長征シリーズキャリアロケットの対外打ち上げサービスプロジェクトは旺盛に発展した。中低軌道ではCZ-2Cキャリアロケットによるイリジウム衛星の打ち上げが、高軌道ではCZ-2EとCZ-3Aのシリーズによるオプタスやアジアなどの衛星打ち上げプロジェクトがそれぞれ代表的な例となった。長征シリーズロケットは、高いコストパフォーマンスで世界に知られ、中米両国の宇宙分野での協力も世界の経済成長と社会発展を後押しする重要な力として評価された。21世紀に入ると、冗長技術の大量の応用に伴い、長征シリーズロケットの信頼性はますます高まり、2011年には長征三号乙ロケットがユーテルサットのW3C衛星の打ち上げに成功し、長征シリーズロケットの信頼性と履行能力を再び証明した。

 対外商業衛星打ち上げサービス任務を通じて、中国の宇宙事業は世界との軌道合わせを進め、長征シリーズキャリアロケットと衛星の間の接続の統一と標準化を推進し、キャリアロケットの軌道設計と遠距離安全性分析、分離分析、ペイロードカップリング分析、熱カップリング分析などの研究を深め、中国の宇宙輸送システムの発展に積極的な役割を果たした。同時に中国は、これらの研究成果を世界と積極的に共有し、環境パラメーター遠隔測定データ処理方法をリーダーとなって完了し、遠距離安全性分析要素などの国際標準を制定した。

3.3 軌道上引き渡し

 中国の宇宙事業は、キャリアロケットや衛星、有人宇宙船などの分野で全面的に発展し、整った体系を構築し、ロケット+衛星の軌道上引き渡しの一括ソリューションのユーザーへの提供を可能とした。

 SSOの面では、中国は、成熟したリモートセンシング衛星技術を備え、2012年のベネズエラのリモートセンシング衛星打ち上げではCZ-2Dによる打ち上げを採用し、SSO軌道上での引き渡し任務の典型的な代表となり、関係国の宇宙技術の発展にだけでなく、国民経済建設にも貢献した。

 GTOの面では、5t級の東方紅四号衛星プラットフォームの成熟に伴い、中国の宇宙事業は、世界の主流な商業通信衛星市場へと躍進した。東方紅四号衛星打ち上げ任務のさらに良好な実施のため、CZ-3Bキャリアロケットは、ブースターとコア機体の長さを伸ばす改良を行い、標準GTO運搬能力は5.1tから5.5tに上がった。東方紅四号プラットフォーム衛星とCZ-3Bは最良のパトナーとして国際競争にともに参加し、高いコストパフォーマンスや軌道上引き渡しなどの優位性によって市場の評価を得た。現在、こうした方式で、ナイジェリア、ベネズエラ、ボリビア、ベラルーシ、ラオスなどの国に向け、軌道上での通信衛星の引き渡しに成功した。2018年にはアルジェリアへの通信衛星引き渡しを行う計画だ。関係国はこれによって自国の宇宙の夢を実現し、国民の生活の質の向上に土台を築いた。

4 未来の探索・発展

4.1 機種の充実

 2030年前後の世界の宇宙機発展の予測分析によると、未来の潜在的な任務に対しては、既存の長征シリーズキャリアロケットは依然として能力が不足している。今後は、700kmのSSOへの3t~4.5tの運搬能力を持つ中低軌道キャリアロケット(CZ-8)、GTOへの6.5t~7tの運搬能力を持つ高軌道キャリアロケット(CZ-832C)、LEOへの140tの運搬能力とLTOへの50tの運搬能力を持つ重量型キャリアロケット(CZ-9)を開発する必要がある[4]

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図1 次世代キャリアロケットの機種

Fig. 1 New generation launch vehicle series

 現在、CZ-8ロケットはすでにプロジェクトの立案がなされ、CZ-832Cロケットは開発プランの論証作業が行われている。これら2機種のロケットは、中国のキャリアロケットの商業競争力を高める重要な機種となる。第一段は依然として3.35m直径を利用し、CZ-7ロケットのコア機体の成熟技術を十分に利用できる。最終段は水素・酸素モジュールを採用している。CZ-9ロケット案については、論証の深化とキー技術のブレークスルーがすでに立案されている。CZ-9ロケットは三段半の構造で、コア機体の最大直径は10m級、宇宙探査と有人月上陸、有人火星上陸、(宇宙太陽エネルギー発電所のような)宇宙インフラ建設などの任務を遂行するための重要な支柱となり、宇宙強国の建設の歩みを加速するものとなる。以上のロケット開発を通じて、体系を完備し、配置に合理性を持たせ、性能の卓越した宇宙輸送システムを構築し、中国の宇宙への参入と宇宙における探索能力を高め、宇宙探査や宇宙科学、各種の打ち上げ活動をサポートし、経済・社会の発展の需要を満たし、宇宙強国の建設に効果的な支援を提供する。

4.2 低コスト改良

 低コストの宇宙参入は、宇宙事業を手掛けるすべての国と企業が追求する永遠の目標と言える。米国SpaceX社のFalcon9ロケットは、設計から生産、試験、管理までの各レベルで低コスト措置を取り、比較的低廉な打ち上げコストで、打ち上げサービス市場で多く活用されている主流ロケットに大きな競争圧力をもたらしている。欧州は21世紀初めにはすでに、将来打ち上げ機準備プログラム(FLPP)研究を展開している。この研究の主な目標は、キャリアのコストを引き下げることだった[5]。現在、各国が開発している次世代ロケットも、より先進的な技術と管理方法を通じてコストを引き下げるもので、こうしたロケットには主に、米国のバルカン、欧州のアリアン6、日本のH3、ロシアのアンガラが含まれる。2020年前後には、各国の低コスト次世代ロケットは続々と初飛行を実現し、中国の長征シリーズロケットは過酷な競争に迫られることとなる。

4.2.1 技術改良

 現役ロケットの低コスト改良は、競争力向上のため急務であり、すでに打ち上げ応用に投入されている第2世代から第4世代のキャリアロケットはいずれも、総体や電気、構造、動力などの面から低コスト改良を展開し、中国の長征シリーズロケットの国際競争力をいっそう高めることができる。

1)総体最適設計の展開。総体設計は、従来の各専門の直列的な設計から、多くの専門の並列的な協同設計に改められ、主要モデルの総体協同設計に基づき、専門間のデータインターフェースを規範化する。また飛行結果と結びつけ、パラメーターの同定を展開。パラメーター同定と総体協同設計を結合し、各専門の不必要な設計余裕をできるだけ除去し、ロケットのペイロードを引き下げ、構造効率をさらに高め、キャリアロケットの総合性能を高める。

2)低コスト電気系統設計の展開。不必要な冗長設備、不必要な遠隔測定パラメーター・測定設備を除去する。一部の電気系統製品では民用製品を採用し、工業級の電子部品の調達と選出の制御方法を研究・形成する。電気系統の一体化設計を展開し、各系統モジュールの統合と最適化を実現し、重要モジュールと機体の冗長と再構成を実現し、コストを引き下げると同時にシステムの信頼性を確保する。

3)低コスト動力系統の設計の展開。増圧系統設計の面では、自己増圧路線を採用し、ロケットのシリンダーの量を減少させた。Yf-100をはじめとするエンジンの推力の向上、推力ベクトル制御エンジンの改良、構造の質量の軽減、使用・メンテナンスの簡素化の研究、タービンポンプの優化改良案と製品のコールド試験の検証、流量調節器の改良案のコールド試験の研究を展開し、エンジン性能を高め、使用とメンテナンスを簡素化する。

4)低コスト構造・系統の設計の展開。液体酸素タンクの柱段は不断熱とし、柱段の発泡プロセスを省略する。一部の構造の環境防護措置を最適化する。生産技術の水準を高める。例えばタンクの壁板/箱底構造を等厚度の壁板とし、タンクの筒段壁板は光筒構造を採用し、前後の底に等厚構造を採用する。等厚構造は、設計プロセスを簡素化する。タンクは、先進的な摩擦攪拌接合工法で現在の融接自動接合工法を代替する。大厚度板材で鍛造品工法を代替し、熱処理などの工程を取り消す。一部の部品は、レーザー付加(3Dプリント)製造技術を採用する。タンクの底は、スピン成型技術を採用する。以上の措置を通じて、生産効率を大きく高め、生産周期を短縮し、コストを引き下げることができる。

 このほか現在のテスト・打ち上げプロセスの設計の鍵となる要素の体系的な研究を通じて、不必要で最適でない部分を改良し、新方法・新技術・新手段を応用し、遠距離急速打ち上げテスト技術が採用され、テストの効率を高め、使用コストを引き下げる。

4.2.2 破壊的技術の発展

 破壊的技術とは、既存の主流技術を予想外の方式で代替する技術を指す。破壊的技術の応用は、キャリアロケットのコストを飛躍的に引き下げ、性能を大幅に高めることができる。未来のキャリアロケットの各系統はいずれも、破壊的技術の応用シーンを伴っている。ロケット機体構造では、高強度ナノ材料を採用し、ナノ材料の高強度という優位性を十分に発揮し、構造の質量を大幅に減少させることができる。電気の面では、干渉耐性が高く信頼性の高い通信手段を採用し、ロケット全体で電気ケーブルのない設計を採用し、安全を確保すると同時に大量のデータを伝送し、また電気系統のコストを引き下げると同時に電気系統の質量も大幅に引き下げ、キャリアロケットの効率を高めることができる。エンジンの面では、新型動力技術でのブレークスルーを実現し、比推力などの性能指標で質的な飛躍を収めることができる。

その3へつづく)

参考文献:

[3]  孫冀偉,張涛,劉佳雯,等. 浅析中国運載火箭的商業化発展[J]. 航天工業管理,2017(1):13-16.

[4]  王雪梅,秦旭東,王小軍. 基于聚類分析的運載火箭劃代研究[J]. 航天工業管理,2013(11):4-6.

[5]  Lu Y,Qin X D,Chen H P. Low Cost and Reusability of Launch Vehicle [J]. Aerospace China,2016(2):37-44.

※本稿は魯宇「中国運載火箭技術発展」(『宇航総体技術』2017年第1巻第3期、pp.1-8)を『宇航総体技術』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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