第142号
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商務部発表EC統計を読み、中国の近未来の姿を予測する

2018年7月9日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身、41歳。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コ ンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 近年ますます中国でEC、オンラインショッピングが盛り上がりを見せている。筆者が拠点とする雲南省の省都「昆明」のマンションでも、しばしばバイクによる配達業者が段ボール箱の山を積んでは中に入り、宅配ロッカーに手際よく入れていく。都市部の多くのマンションで宅配ロッカーが用意されているあたり、もはやオンラインショッピングは不可欠なものとなっているだろう。では実際どれだけ発展しているのか。中国政府商務部が発表した「中国電子商務報告2017」を読み解いていく。

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写真1 宅配ロッカーは都市のマンションには必須に

 「中国電子商務報告2017」では、全体的な統計データや政策や各省市のデータに加え、2017年の重点強化ポイントとして、EC全体の信頼向上、農村部での利用向上と、越境ECについて集中的に紹介している。

 中国の2017年における(B2Bを含む)EC交易額は前年比11.7%増の29兆1600億元(約500兆円)で、うちEC小売額は32.2%増の7兆1800億元(約125兆円)となっている。2011年には1兆元いかなかったが、12年には1兆元、14年には2兆元、15年には3兆元、16年には5兆元、17年には7兆元をそれぞれ超えている。まだまだEC利用額は伸びている。CNNIC(中国インターネット情報センター)の発表によると、オンラインショッピング利用者は2016年末の4億6670万人から2017年末に5億3332万人へと、前年比7000万人弱増(15%増)の伸びを見せている。とすると、一人当たりの支払額は去年よりも大きい。ジャンル別では食料品が28.6%増、衣服が20.3%増、日用品など使用用途の製品が30.8%増となった。

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図1 EC小売市場規模と年成長率(単位:兆元)(「中国電子商務報告2017」より)

 農村では2015年以降に市場が急拡大し、農村でのEC小売り額は、2015年には約3500億元(約6兆円)だったのが、16年には約9000億元(約15兆3000億円)、17年には前年比39.1%、3500億元増となる約1兆2500億元(約21兆3000億円)と急増した。

 このうち実物の商品の取引額は35.1%増の7800億元(約13兆3000億円)で、商品ジャンルでは、シェアが大きい順に服装やカバンなどのアパレル製品が30.5%増の1600億元、家具やインテリア用品が6.4%増の1130億元、健康食品が61%増の1031億元となった。つまり農村では健康食品が売れてきている。また農村部では商品以外では、フードデリバリーと旅行予約サイトが利用されている。

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図2 農村部EC小売市場規模(「中国電子商務報告2017」より)

 ところで日本と中国の比較をすると、市場規模の差が拡大していることがわかる。経済産業省によると、EC小売額のうちB2C市場は前年比5.8%増の16兆5054億円、ネットオークションの市場規模は1兆1200億円(うち、オークション(C2C)市場規模は3569億円)となった。つまり中国EC市場全体はおろか、農村市場までもが、日本のEC市場に比べて大きい状態となっているのだ。

 話を戻そう。EC市場の拡大とともに、EC関連の就業者も増えている。2014年には2690万人だったのが、15年には3260万人、16年には3760万人、17年には4250万人と、毎年500万人程度増加している。

 農村の販売者や恩恵を受ける集落が増えてきている。農村部の店舗数は前年比169万店増の986万店となった。また中国全土でその土地で作った農産品や工芸品などの商品や集積した商品をECサイトで販売する「淘宝村」と呼ばれる集落や、行政区画の鎮全体でECを産業とする「淘宝鎮」が増えている。17年末の段階で中国全土で淘宝鎮は16年の135カ所から242カ所に、淘宝村は16年の1311カ所から2118カ所へと急増した。これは「関于深化農商協作大力発展農産品電子商務的通知」といった政策や、農村での店舗出店をサポートするプラットフォームのリリースのほか、阿里巴巴や京東などのECサイトが貧困救済チャンネルを開いたこと、また農村部の一部地域での流通の改善によって、出店しやすくなったことを理由に挙げる。

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写真2 巨大マーケットで知られる義烏周辺にも集積場として活用する淘宝村が多い

 とはいえ、農村部でのインフラ面はまだまだ脆弱であり、流通ほか、EC出品をフォローするサービスや、現地で出店を啓蒙する施設が不十分だとしている。これらの問題の解決が進むと同時に、インターネット+(互聯網+)によりインターネットと農業の融合がおき、農業の効率化が進むことで、今後都市部の食卓やレストランで農村から直接オンラインショップで買い付けた農作物による食事が並ぶ光景が珍しくなくなっていくだろう。

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写真3 農村へのオンラインでのエコツーリズム予約も普及が期待されている

 ところで中国のEC市場は、個人でも販売できる阿里巴巴(Alibaba)の淘宝網(Taobao)が最初に普及した。多くの企業が販売しているが、個人も販売しているということで、中国では一般的にはC2C(個人対個人取引)と呼ばれる。この後に大型商品配送や信頼ある取引を強みとして、阿里巴巴の天猫(Tmall)や京東(JD)が普及していった。これらサイトを中国では一般にはB2C(企業対個人取引)と呼ぶ。こうした経緯から、C2C(淘宝網)とB2C(それ以外)を分けて統計を取りがちであり、王者淘宝網に対して、どこまで他のサイトが食い込めるか、天猫や京東の経済圏に取り込めるかが焦点となる。

 2017年のB2Cの比率は全体の58.4%となった。つまりC2Cを上回っている。B2CがC2Cを上回ったのは2015年のこと。その後徐々に割合を高めている。B2Cのサイト別シェアでは天猫が57.0%と最も高く、天猫を追う京東は25.5%となっている。その後に蘇寧易購(4.5%)、唯品会(3.0%)、国美在線(1.5%)、Amazon中国(0.8%)、網易考啦(0.7%)などと続いた。なお網易考啦は越境ECに特化したサイトで、Amazon中国も越境ECに強いサイトである。

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図3 B2CとC2Cの比率(「中国電子商務報告2017」より)

 2017年の動きとして、ライブチャット+ECの動き(2018年にはソーシャル動画+ECの動きへ変化)と、高いアリババの淘宝と天猫のシェアに対抗するために、それらに続く京東がアリババ以外の「騰訊(Tencent)」「百度(Baidu)」など著名インターネット企業と提携し、囲い込みを行う「京X計画」が発表されたことを挙げている。またEC業者がリアル店舗に出店したり技術を提供するニューリテール(新零售)がはじまったとし、その代表としてアリババのスーパー「盒馬鮮生」を挙げている。盒馬鮮生は、スーパーと魚料理などが食べられるフードコートとアリババによる配達網を一体化し、その場で購入した魚料理などが食べられてかつ迅速な配達を実現したスーパーである。

 またレポートにおいて、オンラインショッピングの信用がまだ不十分だと問題視している。中国で最もオンラインショッピングが盛り上がる11月11日のセール日「双十一」において、事前に値上げをしておいて大幅値下げをアピールする店舗がいまだ多いと指摘。双十一で価格が本当に下がった製品の割合は、2015年の34.6%から17年の44.2%に改善されている。また「自演による購入者レビューを含めた虚偽の広告」や、「ニセモノ・海賊版の販売」について法律法規によって"改善されている"としたが、まだ問題は残っている。ここでいう法律法規とは、具体的には2017年にできた「反不正当競争法(修正草案)」「電子商務商品口碑指数評測規範」「電子商務信用網絡零售信用基本要求消費品零售」「電子商務信用第三方網絡零售平台交易糾紛処理通則」「2017網絡市場監管専項行動方案的通知」などが挙げられる。

 ほかにも問題として、オンラインと実店舗の価格差が大きい一方で、実店舗での商品に比べ、オンラインの商品の品質が悪いケースが散見するほか、サービスの態度が悪いという問題や、返品できない問題など、信用あるオンラインショッピング環境にするための課題が多く残っているとしている。中国国内の商品は改善の兆しを見せているが、越境ECに関してニセモノ問題が発生するほか、中国国内でのオンラインショッピングと同様に、製品の品質に不満があり返品しようにも国を跨ぐため返品へのハードルが高い。これに対し、越境ECのニセモノ対策としてブロックチェーンを活用して、生産地や経由地の情報を改ざんなく記録し信用してもらうという試みが行われている。

 2017年の越境ECサイトの商品で最も多い輸入国は日本だった。以下アメリカ、韓国、オーストラリア、ドイツ、ニュージーランド、オランダ、フランス、イギリス、香港と続いた。目下、越境ECのトラブル解決に向けて官民ともに動いている。これが進むことで越境ECが身近になり、より多くの人が日本など海外製品をオンラインショッピングで買うことになろう。

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