第144号
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浙江省:科学技術イノベーションプラットフォームが「子犬」から「ゾウ」への成長を可能に

2018年9月25日 江耘(科技日報記者)

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写真:視覚中国

 浙江省紹興市柯橋区にある現代紡績産業イノベーションサービス総合体をこのほど取材すると、技術者が実験室で、企業から送られてきたサンプル生地の検査を忙しそうに行っていた。

 計画投資額1億2000万元(約19億4400万円)のイノベーションサービス総合体は、紡績新材料、服飾のハイエンド生地、スマート紡績装置などの分野に立脚し、「中国紡績科学技術センター」にすることが目標だ。今年は、紡績関連の中小企業1600社に既にサービスを1万8000回以上提供してきた。

 現代紡績産業イノベーションサービス総合体は、浙江省の公共科学技術イノベーションサービスプラットフォーム構築の縮図で、同省が中小・零細企業、伝統産業のモデル転換と高度化を推進する重要なプラットフォームの一つだ。

 改革開放(1978年)から40年の間、浙江省の人々は、たゆまぬ努力を通して、数万社の小・零細企業を立ち上げてきた。小・零細企業は、「小さい船ほどUターンが簡単」というメリットを活かし、地方経済発展において重要な役割を果たし、非常に強い瞬発力と敏捷性を備えているため、業界では「子犬経済」と称されている。

 しかし、経済のグローバル化が加速するにつれ、資源への依存度も高くなり、多くの労働者を必要とし、研究・開発能力という面では劣る小・零細企業が元々誇っていたメリットが逆にデメリットとなるようになってしまった。そして、「子犬」が「ゾウ」になるためには、産業の段階的なモデル転換、商品・技術の高度化・モデルチェンジが必然となった。

 このような背景の下、2004年、浙江省は、科学技術イノベーションサービスプラットフォーム構築に乗り出し、イノベーション資源を集め、イノベーションコストを削減することで、中小企業がモデル転換と高度化を進めることできるようサポートするようになった。

資源を共有して「公共インキュベーター」の誕生促す

 浙江省創薬科学技術サービスプラットフォームが、国家級科技プロジェクト178件、省部級以上の科学研究プロジェクト498件を請け負い、国家発明特許を178件取得し、科 学研究経費2億6000万元(約42億1200万円)を取得し、世界最大、最強の日用品生産モデル拠点15ヶ所を建設するなど、驚異的な実績を上げるのにわずか10年しかかからなかった。

 浙江省科学技術イノベーションサービスプラットフォームは、2004年から試験ポイントを設置して業務を展開し、同年、「省創薬科学技術サービスプラットフォーム」、「省集積回路設計公共技術プラットフォーム」というイノベーションサービスプラットフォームの試験ポイント設置事業をスタートさせた。

 浙江省創薬科学技術サービスプラットフォームは、浙江工業大学、浙江中医薬大学、省医学科学院、浙江大学、浙江省食品薬品検験所が共同で立ち上げ、新薬学、薬力学、安全性評価研究などを展開し、創薬のためにワンパッケージサービスを提供している。これは、業界で「医薬企業の創薬の公共インキュベーター」と呼ばれている。

 創薬科学技術サービスプラットフォームが多くの成果を上げたことで、浙江省はイノベーションプラットフォーム構築において、幸先の良いスタートを切った。

 設置した試験ポイントが成功を収め、浙江省は、技術資源を効果的に統合することによって、資源共有メカニズムを構築し、イノベーション資源の配置が最適化され、総合的なイノベーション能力が高く、オープンサービスの水準が高く、健全な自己発展メカニズムを備えた公共科学技術基礎条件プラットフォーム、業界のイノベーションプラットフォーム、地域のイノベーションプラットフォームを構築する総合プランを提示している。

 2006年、浙江省科学技術イノベーションサービスプラットフォームの構築が正式にスタートした。それから十数年の発展を経て、浙江省では既に、大型科学器具設備共用、科学技術文献の共同作成、共有などの公共科学技術基礎条件プラットフォーム、創薬、集積回路設計、現代紡績技術・設備の業界の科学技術イノベーションプラットフォームなど、95の重大科学技術イノベーションプラットフォームが構築された。

活力を強化して生産額数千億元を生み出す

 服飾紡績産業にサービスを提供する浙江現代紡績工業研究院は立ち上げ当初、2000万元(約3億2400万円)の財政補助を得ていた。しかし、今では、企業の生産額が数千億元になるようサポートし、大きなレバレッジ効果を生んでいるのは言うまでもない。

 浙江省現代紡績工業研究院の胡克勤・院長は、「省級公共サービスプラットフォームは、ポイントを抑えて、紡績・生地の研究開発、設計の分野で先に行い、先に試み、クリエイティブ設計を通して発展を牽引する責任がある」との見方を示す。

 浙江省科技庁の関連の責任者は、「体制、メカニズムの革新を行い、プラットフォームの活力を向上させることは、プラットフォーム構築の主な目的であり、難しい点でもある。浙江省の三つの重大科学技術イノベーションプラットフォームは、異なる分野の機関が一つになり、産学官が連携し、運営が市場化されている新型イノベーションキャリアだ」との見方を示す。

 浙江省初の公共サービスプラットフォームである浙江現代紡績工業研究院は、企業1万社以上、中国内外の大学研究所数十カ所、多くの学士院の会員、紡績専門家と連携し、インターネット+紡績サービスのネットワークを形成し、企業が主催する省級公共サービスプラットフォームが企業にサービスを提供するという道を歩んできた。

 科学技術イノベーションサービスプラットフォームの役割について、浙江省科技庁の関係の責任者は、まず、技術資源の統合を挙げる。浙江省の大型科学器具共用プラットフォームを例にすると、浙江省の大学、科学研究院所など100以上の機関が参加し、共用されている器具は、スペクトル分析、質量分析、カラーアトラス分析などの測定器など数千台に上る。

 次にイノベーション人材を集めるのもその役割だ。現在、プラットフォーム構築に参加している中級以上の「職称」の科学技術人材は1万人以上に達し、学士院の会員は50人だ。

 さらに、プラットフォームはイノベーション能力を強化している。プラットフォームが構築されて以降、国家級科学研究プロジェクト1000件以上を請け負い、数十億元の経費支援を得てきた。浙江省創薬科学技術サービスプラットフォームは、共同で科学技術の新たな成果を生み出すよう積極的に取り組み、新しい研究分野や方向性を継続的に開拓し、独自の知的財産権を有する化学薬品一類新薬3種類の研究開発に成功し、企業360社以上にサービスを提供している。

プラットフォームを高度化しサービス総合体を構築

 竜泉宝剣で広く知られる浙西省麗水市竜泉市には、中国国内でも重要な位置を占める自動車エアコン産業もある。

 2003--17年、竜泉市の自動車エアコン産業の生産額は1億2000万元(約19億4400万円)から約70億元(約1134億円)にまで増加し、現地の工業経済でも発展が最も早く、ポ テンシャルが最も大きい基幹産業となっている。

 竜泉市の自動車エアコン産業は多くの中小企業からなり、企業一つ一つの規模はそれほど大きくない。浙江新勁空調設備有限公司の范愛松・董事長は、「以前、当社の商品は、合肥や重慶、長春などに輸送して検査を行っていたため、時間や労力、経費がかかった」と、多くの企業の共通の思いを語る。

 2011年、竜泉市は約4100万元(6億6420万円)を投じて、自動車エアコン産業技術イノベーションサービスプラットフォームを構築した。同プラットフォームを通して、多 くの企業は地元で検査のワンパッケージサービスを利用することができるようになった。

 しかし、近年、企業の「食欲」は旺盛になるばかりで、プラットフォームが提供するサービスだけでは、地元企業の発展に追いつかなくなってしまった。

 イノベーションプラットフォームの高度化は、企業のモデル転換と高度化の過程で期待されていることであるほか、政府もその問題点に目を留めるようになった。

 昨年3月、浙江省党委員会の車俊・書記は、浙江省現代紡績工業研究院、大唐襪芸小鎮を視察した後、産業イノベーションサービス総合体の構築を提案した。

 産業イノベーションサービス総合体とは、科学技術イノベーション公共サービスプラットフォームをベースに、新興産業の育成と伝統的な活力の復活のために、公共科学技術イノベーション資源を集め、中小企業に技術革新、業態のイノベーション、マーケティングスタイルのイノベーションなどの産業公共サービスを提供するイノベーションプラットフォームのことだ。

 浙江省科技庁の関連の責任者によると、総合体は、科学技術体制改革を深化させ、公共科学技術サービスの短所を補い、科学技術型小・零細企業を育成し、中小企業が一定規模以上の工業企業(年売上高2000万元以上の企業)に成長するよう促進し、産業イノベーションの整体を改善し、ブロック経済のモデル転換と高度化を推進し、イノベーション型新興産業グループの構築において、大きなサポート的役割を果たす。

 科技庁業務部門はより一般的な通称として、「中小・零細企業のシェアリング経済の新プラットフォーム」と呼んでいる。

 竜泉市の自動車エアコン産業技術イノベーションサービスプラットフォームも設立リストに名を連ねている。同市産業イノベーションサービスセンターの葉俊副センター長は、「全ては企業がさらに成長するためだ。今後、竜泉自動車エアコン産業イノベーションサービス総合体は、研究開発・設計、検査、人材交流サービス、科学技術公共サービス、ブランドマーケティング、国際提携、科学技術金融、ビッグデータクラウドサービスの八大センターを構築する」と話す。

 浙江省科技庁の関連の責任者は、「浙江省は、イノベーション要素が相互接続し、イノベーションチェーン、産業チェーン、資金チェーンの三チェーンが一体化した産業イノベーションサービス総合体を構築しなければならない」とし、「2020年までに、浙江省は、約20の科学技術イノベーションサービスプラットフォームを新設し、合わせて約100プラットフォームにする計画。そして、企業3万社に科学技術サービスを10万回提供し、技術取引総額を800億元(約1兆3000万円)に到達させたい考えだ」と説明する。


※本稿は、科技日報「浙江:有了科創平台,"小狗"也能叫板"大象"」(2018年09月10日第07版)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。