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警察用セキュリティパトロールロボットの発展に関する研究

2018年9月26日 李 剣、韓 忠華、王 浩(公安部第一研究所)

摘要

 モノのインターネット(IoT)、人工知能、クラウドコンピューティング、ビッグデータといったハイテクノロジーのたゆまぬ発展に伴い、警察用セキュリティパトロールロボットの研究はますます盛んになり、その応用分野も徐々に広がり、人民警察の職務補助やスマートセキュリティ、市民向けサービスなどの面で大きな役割を発揮している。本稿は、警察用セキュリティパトロールロボットの研究の現状を総括したうえで、実際の応用と組み合わせ、その機能と性能面の課題を提起し、最後にその発展の趨勢を展望するものである。

キーワード:警察用セキュリティパトロールロボット 自律航法 無線通信 自己識別

1 序文

 ロボットはスマート機器の一種であり、人工知能、モノのインターネット(IoT)、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどのハイテクノロジーを総合的に応用している。これらの技術の進歩に伴い、ロボットは急速に発展するようになり、各業界で幅広く使用されるようになった。近年は公共安全分野での警察用ロボットの使用が増え、高い実績を上げている。典型的なものとしては、セキュリティパトロール、テロ対策、火災救助などの警察用ロボットが挙げられる。各ロボットの応用シーンと機能はそれぞれ異なり、一部の機能はまだ試験段階で、十分に成熟していないものの、包括的に見ればその実用効果は比較的高い。

 警察用セキュリティパトロールロボットは、公共安全分野に特化した特殊ロボットである。一般的なモバイルロボットとは違い、自律航法機能をもつほか、顔のキャプチャ、人物認知、音声インタラクションなどの機能を持ち、主に職務補助、自律型セキュリティ、市民向けサービスの提供などに使われている。警察官の負担軽減や警察の戦闘力向上にとって重要な意義を持つ。

2 警察用セキュリティパトロールロボットの発展の現状

 警察用セキュリティパトロールロボットは全方位で死角のないビデオ監視が可能で、多次元の情報を収集できる、複雑な環境に適応できる、一日中休まず働ける――といったメリットを持つ。従来型の監視システムと人間によるパトロールの利点を兼ねそろえているだけでなく、これら2種類の手段の欠点を克服している。顔のキャプチャや人物認知、音声インタラクション、携帯電話検出といった機能がますます豊富になるにつれ、そのセキュリティ体系における役割はますます重要になり、徐々に公共安全分野に欠かせない設備となった。

 警察用セキュリティパトロールロボットの応用シーンは室内環境と室外環境に大きく分けられる。室内用ロボットは主に展示場、広場、駅待合室などの比較的平坦な場所で使われ、走行速度が比較的遅く、柔軟に方向転換できる。室外用セキュリティパトロールロボットは、でこぼこした一般の道路、急な坂や小さな裂け目などの環境下でも安定的に走行しなければならないため、高い運動能力が要求される。また、雷や雨・雪といった特殊な天候下においても安全に運行する必要があり、野外作業での高温・低温環境にも適応しなければならない。野外セキュリティパトロールロボットは通常、サイズが比較的大きく、小型の四輪車両の構造をしており、回転半径が大きく、狭い空間での使用には向かない。また通常は、専用のネットワーク転送ステーションを設置し、ロボットとバックグラウンド間の通信を保証する必要がある。

2.1 中国国外の警察用セキュリティパトロールロボット発展の現状

 中国国外はセキュリティパトロールロボット研究のスタートが早かったため、技術も進んでいる。特に軍用ロボットの開発には巨額の投資をしており、多くの軍用ロボットはすでに戦場で幅広く実用化されている。近年は、公共安全分野でのセキュリティパトロールロボットの実用についても大きく前進した。

 米国国防総省は1989年、セキュリティパトロールロボット計画「MDARS」を発表し、その後室内用ロボット「MDARS-I」を打ち出した。このロボットはマイクロ波レーダー、熱イメージャ、カメラ、オーディオセンサー、ナビゲーション、超音波センサーなどを搭載し、倉庫のパトロールや煙霧・火事の検査、10メートル以内の物体と不審人物の調査などを行える。米Knightscope社は2014年、コミュニティロボット「K5」を開発した。これは自律パトロール、スマート障害物回避、環境探知などの機能を持つ。シンガポールのOTSAW Digital社が2017年に開発した室外用パトロールロボット「O-R3」は、基本的な自律パトロール機能のほか、顔認識、ナンバープレート認識などの機能を備え、不審者の車両を記録・追跡できる。現在すでにドバイの無人警察の周辺パトロールに使われている。

2.2 中国の警察用セキュリティパトロールロボット発展の現状

 中国では近年、警察用セキュリティパトロールロボットが急速に発展しつつある。特に「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」「ロボット産業発展計画(2016~2020年)」「次世代人工知能発展計画」などの政策が打ち出されてからというもの、国はロボットを代表とするハイエンドスマート製造業に非常に注目し、力強い支援を行ってきた。大学、研究機関、企業は密接に協力し合い、産学官が一体化したロボットエコシステムを形成した。公安部第一研究所が主導となり、公安に関する専門技術・知識を発揮しつつ、複数の企業と協力し、多くの警察用セキュリティパトロールロボットを打ち出した。

 「小智」を代表とする警察用室内セキュリティパトロールロボットは、自律パトロール、自主的な障害物の回避、自己充電、音声インタラクション、ビデオ通話などの機能を持ち、外観は親しみやすく可愛らしい。警察署のホール、広場、ショッピングモール、待合室など公共の場所で使用でき、秩序の維持をサポートしたり、警察業務の問い合わせ、遠隔地からの通報などの市民向けサービスを提供したりできる。また、赤外線感知やナイトビジョン機能を持つため、夜も休まず作業が可能であり、警察官の負担を軽減すると同時に、人々に便宜を提供し、安全感と幸福感を高めることができる。

 室内セキュリティパトロールロボットと同じく、警察用室外セキュリティパトロールロボットも急速に発展しつつある。室外セキュリティパトロールロボットの機能はより豊富で、応用シーンも様々だ。自律パトロールという基本的機能のほかに、環境モニタリング、移動放送、火災の危険性検査、異常音の収集、顔のキャプチャ、携帯電話検出などの機能を備え、広範囲のスマートセキュリティを実現できる。特に重要な場所や重大イベントでのセキュリティでは、重点人物の急速なスクリーニングと測位が可能で、警官の負担を軽減できるだけでなく、セキュリティ効率を大いに高めることができる。

3 警察用セキュリティパトロールロボット研究の重点

 ロボットや人工知能などのハイテクが成熟するに伴い、警察用セキュリティパトロールロボットも急速に発展し、今や公共安全、スマートセキュリティ分野の重要設備の一つとなっている。また、科学技術が進歩し、社会環境がますます複雑になるにつれ、セキュリティに対する要求もますます高まっている。警察用セキュリティパトロールロボットは実際の応用において、重要な役割を発揮している。現在、警察用セキュリティパトロールロボットの研究の重点は主に以下のとおりである。

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3.1 複雑な環境下における自律航法の安定性

 自律航法はロボットのキーテクノロジーの一つであり、警察用セキュリティパトロールロボットの自律パトロールの基礎である。現在よく使われているナビゲーションは、レーザーナビゲーションと視覚的ナビゲーションであるが、応用される環境の違いによって、2種類のナビゲーションにはそれぞれある程度の制限が存在する。

 視覚的ナビゲーションはレーザーナビゲーションと比べ、環境への依存性が高く、外的環境の大きな変化に耐えられない。特に光(照明)に対して高い要求を持っている。視覚的ナビゲーションは光の条件が整った応用シーンでの利用に適している。一方のレーザーナビゲーションは環境への適応性が高く、小さな環境の変化ならナビゲーションに影響を及ぼさない。レーザーナビゲーションは2Dレーザーナビゲーションと3Dレーザーナビゲーションに分けられる。主な違いはレーザーレーダーのスキャンの次元の違いである。2Dレーザーナビゲーションはシンプルかつスピーディで、コストも相対的に低いが、ナビゲーションの精度と安定性はやや劣る。一方、3Dレーザーナビゲーションは精度が比較的高いが、リアルタイム性にやや劣り、コストも高い。レーザーナビゲーションは視覚的ナビゲーションと比べて、適応能力は高いものの、外的環境に大きな変化があった場合はナビゲーションの効果に影響がもたらされる。例えば人が密集している場所や、非常に広々とした場所などの特殊な状況では、自律航法能力が大きく影響を受ける。

 複雑な環境下における自律航法の性能の安定性が不十分であることは、警察用セキュリティパトロールロボットが抱える大きな問題である。これらのロボットの作業環境は比較的複雑なため、ナビゲーションの安定性は真っ先に解決しなければならない問題である。

3.2 スムーズで安全な遠距離無線通信

 警察用セキュリティパトロールロボットの作業は全て、サービスプラットフォームによって指揮・コントロールされる。サービスプラットフォームはロボットの情報を収集してリアルタイムで分析し、決定を下す。特殊な任務の際は手動による操作が必要で、技術者がリモートコントロール端末でロボットを制御する。このため、通信のリアルタイム性、安全性、安定性に対して高い要求が突き付けられる。ロボットの情報伝達は高速かつ安全であることが求められ、ビデオの伝送は高解像度かつスムーズであることが求められる。セキュリティパトロールロボットは一種の自律移動デバイスであり、ワイヤー制御だとロボットの柔軟性が下がり、パトロール範囲が狭められてしまう。このため、ロボット同士、あるいはロボットとバックグラウンド間では無線通信を実現する必要がある。

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 既存の主な無線通信方式はWIFIと4Gネットワークである。WIFI通信は、ロボットの作業範囲内に基地局を設置する必要がある。各基地局間の構成切り替えは複雑であり、しかもセキュリティ上の危険が存在する。4Gネットワークは基地局を設置する必要がないが、通信キャリアが提供するネットワークサービスは有料であり、特に高解像度のビデオを伝送する場合、データ通信量が膨大となり、コストが高くなる。ゆえに、既存の通信方式では、「高速、安全、遠距離」という無線通信の要求を満たすことができない。まもなく普及する5Gネットワークは、この問題を効果的に解決できるとみられる。

3.3 人が密集する場所での自己識別・自律追跡のスマート性

 警察用セキュリティパトロールロボットの重要な機能の一つに、流動する人混みにおけるスクリーニング・検査が挙げられる。この機能を実現するためには、人物の自己識別と自律追跡が必須となる。

 自己識別とは、セキュリティパトロールロボットが人や物の特徴と行動をインテリジェントに認識することを指す。顔認識とナンバープレート認識技術はすでに比較的成熟しているが、パトロールの目的は異常な状況(群衆の集まり、パニック、強奪、殴り合い、放火、よじ登り、転倒、追いかけ)を予測し発見することである。これらの異常な状況は通常、複雑な環境下で発生し、多くの人物、建築物、樹木、車両、道路など、複雑な背景が存在するため、ターゲットの検出が大きな干渉を受ける。また、ロボットの移動に伴い、カメラで映されるシーンの背景が変化し、ターゲット検出の難度が高まる。

 自律追跡は、ロボットが不審なターゲットを認識した後、それを能動的に追跡することを指す。既存の追跡方法では、規則正しい運動を行うターゲットに対しては効果的な追跡が可能だが、運動が不規則的で、形が大きく変化するターゲットに対する追跡効果は劣る。実際の応用では、ターゲットの運動はほとんどが不規則であり、何かに遮られたり、光の加減の変化といった問題もある。ゆえに、自律追跡の効果は現段階の実践の要求を満たすことができていない。

4 警察用セキュリティパトロールロボット発展の趨勢

 警察用セキュリティパトロールロボットは急速に発展しており、機能もますます整いつつある。ハイテクノロジー発展の趨勢と実際の応用でのニーズに基づき、警察用セキュリティパトロールロボットの発展趨勢を▽プラットフォームのモジュール化▽機能のスマート化▽スピーディな設置――の3つに総括することができる。

4.1 プラットフォームのモジュール化

 警察用セキュリティパトロールロボットは警察官の負担を軽減し、警察の戦闘力を高めることができる。その応用は今後もますます幅広くなり、警察用ロボットのニーズもますます高まることだろう。ロボットの産業化を実現するには、ロボットプラットフォームのモジュール化が必須となる。プラットフォームのモジュール化とは、ロボットの各部材の基準を統一し、実際の需要に基づきロボットの組立を行うことを指す。こうすることで、警察用セキュリティパトロールロボットの研究と応用・普及に役立つ。

4.2 機能のスマート化

 警察用セキュリティパトロールロボットでよく使われる機能には、自律パトロール、音声インタラクション、顔のキャプチャ、人物認知、自律追跡などがある。これらの機能はスマート化のレベルにまだ不足が存在する。例えば、自律パトロール時に障害物を柔軟に回避できない、音声インタラクションにおいて主観的なコミュニケーションができない、顔認識に欠陥がある、人物の自律追跡の効果がまだ理想的ではない、などである。

 ゆえに、警察用セキュリティパトロールロボットの重要な発展の趨勢として、機能のスマート化が挙げられる。これは具体的には、ロボットのサービスプラットフォームのスマート化である。これにより、上述の機能のスマート化のほかに、異常な状況の速やかな判断ができるようになるほか、一定のエリア内の人物の行動分析を行い、異常な状況の予測を行い、災害を未然に防ぐことが可能となる。

4.3 スピーディな設置

 警察用セキュリティパトロールロボットの重要な応用分野として、重要な場所やイベントでのセキュリティがある。こうしたイベントのセキュリティは作業量が多く、また突発的であったり、迅速さが求められたり、場所が移動する可能性が高い。通常だと、こうしたセキュリティ業務には長時間の下準備が必要だが、特に現場指揮本部は臨時に設置され、再利用される可能性は低い。ゆえに、警察用セキュリティパトロールロボットの重要な発展趨勢として、スピーディな設置が挙げられる。これには主に、現場指揮本部のスピーディな設置、突発的な状況の迅速な処理などが含まれる。これには、機動的で迅速なロボットの指揮・コントロールプラットフォームが必要である。

5 結語

 警察用セキュリティパトロールロボットは急速に発展しており、その応用範囲はますます広がっている。しかし、現在のロボットは性能および機能の面でまだ改善が必要である。ハイテクノロジーの発展、機能と性能のたゆまぬ改善に伴い、警察用セキュリティパトロールロボットのスマート化水準は今後より一層向上していくだろう。警察用セキュリティパトロールロボットの急速な発展は、国家政策による力強い支援、参加部門の協力、技術者の懸命な研究と密接に関連する。各方面による支援と努力により、従来型のセキュリティ技術が抱えていた問題が打開され、セキュリティ業界が従来型セキュリティシステムから近代的サービスを理念とするスマートセキュリティシステムへと移行を遂げ、スマートセキュリティが新たな高みに到達することだろう。

主要参考文献:

[1] 陳暁東. 警用機器人[M].北京:科学出版社, 2008.

[2] Lu J, Liong V E, Wang G, et al. Joint Feature Learning for Face Recognition[J]. IEEE Transactions on Information Forensics & Security, 2017, 10(7):1371-1383.

[3] 陳暁東.警用輿反恐機器人的現状輿趨勢[J]. 機器人技術輿応用, 2015(6):31-33.

[4] 宋偉剛, 柳洪義.機器人技術基礎[M]. 北京:冶金工業出版社, 2015.

※本稿は李剣、韓忠華、王浩「警用安保巡邏機器人発展研究」(『中国安全防範技術与応用』2018年第3期、pp.16-19)を『中国安全防範技術与応用』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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