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中国の医療用ロボット研究の現状および展望

2018年9月13日 田偉(北京積水潭医院脊柱外科、整形外科手術支援ロボット北京市重点実験室)

 医療用ロボット技術とは、医学、バイオメカニクス、機械工学、材料学、コンピュータ科学およびロボット工学等の数多くの分野を一体に集めた新たな学際的技術であり、視覚的、触覚的そして聴覚的な面から医師の意思決定や操作を充分に支援することによって医師の操作技能を高め、疾病診断や治療の質を向上させることができる。医療用ロボット技術の応用によって臨床医学は新たな時代を迎え、大量の臨床研究によってその診断、手術、治療、術後のリハビリテーションおよび在宅ケア等の分野での大いなる優位性や先進性が証明されている。

一、手術支援ロボット

 中国の手術支援ロボット関連研究は1990年代半ばに始まり、各種科学技術計画による支援を受け、神経外科、整形外科、心臓血管外科および泌尿器外科等の分野で重要なブレイクスルーが実現した[1]。1997年、北京航空航天大学と中国人民解放軍海軍総医院の共同研究によって、Puma262工業用ロボットをベースとした脳外科手術支援ロボットによる定位補助システムが開発され、臨床応用にも成功した。また、2004年には北京積水潭医院と北京航空航天大学との共同研究によって6自由度の小型モジュール化ロボットシステムが開発され、長骨や大腿骨頚部、骨盤骨折等の臨床治療への応用に成功した。2004年に北京積水潭医院はさらに中国初のロボット支援整形外科手術の臨床試験を実施し、伝統的な骨折治療の内固定術における定位の難しさや、主に手術担当者の経験や術中の透視角等に依存してきた問題の解決に成功した[2]。その後、上海交通大学と上海第二医科大学の共同研究により人工関節置換術に適用される小型ロボットシステムが開発された。これは、主に5自由度の小型シリアルロボットと7自由度の可変式サポートアーム、NDI Polarisトラッキングシステム等の装置によって構成され、ボーンクランプによって患肢への直接固定が可能となっている。

 一般外科の分野では、中国にはすでに手術支援ロボット「ダヴィンチ」に類似するさまざまなマスター・スレーブシステムが存在する。2005年に天津大学は手術支援ロボット「ダヴィンチ」と類似の機能を持つ「妙手(MicroHand)ロボット」の自主開発に着手し、その後フランスのパリ第6大学と協力して2010年には「妙手A」ロボットシステムの開発に成功した。また、2014年には「妙手」ロボットの改良版を発表し、同年3月には中南大学湘雅三医院臨床倫理委員会の審査を通過して多数の臨床試験を順調に実施し、現在までに多数例の胆嚢摘出術や結腸腫瘍根治術の支援に成功している[3]。また、ハルビン工業大学の開発した低侵襲外科手術支援ロボットシステムもすでに臨床試験に成功している。

 近年、中国ではロボット関連の科学研究で多くの成果が上がっているとは言え、本当の意味で産業への転化や製品開発の段階に進んだ科学技術成果の割合は低い。北京積水潭医院と北京航空航天大学の共同研究によって自主開発されたTiRobot 整形外科手術支援ロボットは産業への転化を実現した数少ない科学技術成果の一つである。TiRobot 整形外科手術支援ロボットは北京天智航医療科技股分有限公司によって製品化され、クラスIII(高度管理医療機器)の医療機器製品認証を獲得した中国で唯一の整形外科手術支援ロボットである[4]。TiRobot 整形外科手術支援ロボットは定位補助型ロボットシステムであり、手術経路のプランニングに加えて人工関節等のインプラントの埋め込みを正確に導くことができ、その誤差は<0.8mmである。TiRobot 整形外科手術支援ロボットは患者の身体に固定する必要がなく、脊柱全体のみならず他の骨関節部位にも広く使用することができる上に、埋め込みナビゲーションシステムによって患者の微細な変動を随時フォローアップすることができるため、操作精度が大幅に向上し、同種の世界的な製品であるSpineAssistロボットの不足を補った。このほか、TiRobot 整形外科手術支援ロボットはハードウェアモジュールの交換によってさまざまなタイプの整形外科手術のニーズを満たすことができ、その適用範囲は長骨、脊柱、大腿骨頚部および骨盤等に及び、実用性が高い。2015年、北京積水潭医院はTiRobot 整形外科手術支援ロボットを応用し、術中リアルタイム3次元映像に基づく世界初のロボット支援による胸腰椎骨折内固定術と世界初の上部頸椎の複雑な奇形の矯正手術を実施した結果、いずれも満足できる成果を上げ、伝統的な手術方法に比べて安全性も高かった[5]

二、スマート義肢およびリハビリテーション支援ロボット

 中国でリハビリテーション支援ロボットの研究を最も早く手がけたのは清華大学である。2000年、清華大学は中国で初めて神経系リハビリテーション臨床訓練ロボットシステムを開発した。その後、北京大学が中国初のインテリジェントパワーモジュールによる下腿義足「風行者」(WindRunner)ロボットシステムを開発し、上海交通大学が筋電義手ロボットシステムを、ハルビン工業大学北京航空航天大学等が器用な多指ロボットハンドシステム(Dexterous Multi-fingered Robot Hand)を開発し、北京航空航天大学と北京大艾機器人科技有限公司の共同研究によって「大艾」下肢外骨格型ロボットシステムが開発され、上海傅利叶智能科技有限公司によって下肢外骨格型ロボットFourier X1システムが開発された。このほか、電子科技大学華中科技大学中国科学院深圳先進技術研究院も独自の下肢外骨格型ロボットシステムを開発し、肢体の一部機能の代償の実現に成功している。なかでも、「大艾」外骨格型ロボットシステムは、2017年1月に北京市食品薬品監督管理局によって「北京市イノベーション型医療機器」としての認証を受けている。

 中国はスマート義肢とリハビリテーション支援ロボットの分野ですでに卓越した研究成果を上げているが、その多くは臨床試験段階にあり、スマート型リハビリテーション支援ロボットの開発を支えるシステム理論や重要技術の形成には至っていない。

三、医療用ロボット技術の発展傾向

1. 自然開口部越経管腔的低侵襲手術または非侵襲手術支援ロボット技術

 低侵襲手術の発展に伴って自然開口部越経管腔的内視鏡手術(natural orifice translumenal endoscopic surgery, NOTES)の臨床応用が増加しており、これによって人体外表への創傷を減らし、(人体外表への)非侵襲手術を実現することができる。また、ロボット技術によってNOTESの正確な操作が可能となる。このため、ロボットによるNOTES技術支援の関連研究が世界で幅広く行われており、手術支援ロボット「ダヴィンチ」等のシステムではこの種の機能がすでに配備され始めている。ロボットによるNOTES技術支援については、さまざまな手術適応症でさらなる応用と普及が進められるだろう[6]

2. 医療用ロボットの「マンマシン協調」技術

 「マンマシン協調」技術は操作の安全性と患者の快適性の向上に効果的であるため、現在の臨床研究の関心事となっている。また、これは医療用ロボットの新型のインタラクション機構やマンマシンシステム等における新たな課題でもある。なぜなら、これまでの研究では人体組織と外界の剛-柔-軟を対象とする相互の力学的伝導機構を明確に構築しておらず、ロボットの作動時には人体組織を損傷する潜在的リスクが存在したためである。また、医師が介入する治療過程においては、医師がそのサイクルの一部となることから動態の典型的な非構造化という特徴があったため、医師の動作を意図的にインタラクション機構に融合させ、機構設計の制約によって医師の操作や動作を制限し、操作の安全性を確保する必要があった。このため、「ロボット-人-臨床環境」の自然融合による新型のインタラクション機構や作動メカニズムの研究によって、医療用ロボットシステムのマンマシン協調能力を向上させられるだろう。

3. 医療ビッグデータにより牽引されるロボット開発技術

 臨床データの複雑性と多様性は、医療用ロボットの診療計画のプランニングに対する新たな課題となっている。それは、臨床診療に関係するデータの種類は従来からの医療画像データやカルテ、設備(ロボットを含む)や機器データ等の静的データのみならず、治療プロセスにおけるリアルタイムデータや動態モニタリング、作業フロー等の「プロセス」データも含むようになってきているためである。また、臨床診療に関係するデータの規模はますます拡大し、もはや診療室内の関連データにとどまらず、画像アーカイブや通信システム、病院の情報システムにおけるネットワークデータも診療プロセスに取り入れられている。このため、これらのデータをいかに効果的に分析し、治療プロセスにおいて各要素間の情報交換を実現するかが医療用ロボットシステムにおいて最良の診療計画のプランニングを実現する上で最初に解決すべき問題となっている。2017年には世界の医療用ロボット研究分野における著名な研究者25名によって「外科データ科学」( surgical data science, SDS)という概念が提起された。彼らの考えでは、SDSは次世代外科技術を推進する重要なエンジンであり、手術支援ロボットの研究を推進する重要な原動力でもある[7]。このため、臨床データの科学的分析によって、臨床データ科学や医療用ロボット技術の協調的発展が推進されることは疑いようがない。

 科学技術の発展に伴って医療関係の各分野にロボットは浸透し、臨床医療の新天地を切り拓くだろう。しかし、その技術がどのレベルまで発展しようと、人間に服従する存在であることに変わりはなく、応用計画を策定し、それを実施する者は永遠に医師である。このため、新技術の研究開発やプランニングは臨床上のニーズを満たすことを必ずや核心とし、医師を主導とすべきである。

参考文献:

[1] 王田苗, 劉文勇, 胡磊. 医用機器人與計算機補助手術MRCAS進展[J]. 中国生物医学工程学報, 2008, 27 (1) : 137-145. DOI: 10. 3969 /j. issn. 0258-8021. 2008. 01. 026.

[2] 王軍強, 劉文勇, 張利軍, 等. 計算機補助帯鎖髄内釘固定脛骨骨折全程規劃手術系統的実験研究[J]. 中華創傷骨科雑誌, 2006, 8 (12) : 1149-1152. DOI: 10. 3760 /cma. j. issn. 1671-7600. 2006. 12. 013.

[3] 王樹新, 王暁菲, 張建勲, 等. 補助腹腔微創手術的新型機器人“妙手A”[J]. 機器人技術與応用, 2011(4) : 17-21. DOI: 10. 3969 /j. issn. 1004-6437. 2011. 04. 005.

[4] 韓暁光, 劉亜軍, 範明星, 等. 骨科手術機器人技術発展及臨床応用[J]. 科技導報, 2017, 35(10) : 19-25.

[5] Tian W. Robot-assisted posterior C1-2 transarticular screw fixation for atlantoaxial instability: A case report [J]. Spine (Phila Pa 1976), 2016, 41 (Suppl 19) : B2-B5. DOI: 10. 1097 /BRS. 0000000000001674.

[6] Yang GZ, Cambias J, Cleary K, et al. Medical robotics: Regulatory, ethical, and legal considerations for increasing levels of autonomy [J]. Science Robotics, 2017, 2 (4) : 1-2. DOI: 10. 1126 /scirobotics. aam8638.

[7] Maier-Hein L, Vedula S, Speidel S, et al. Surgical data science: Enabling next-generation surgery[J]. Nat Biomed Eng, 2017: 10. DOI: 10. 1038/s41551-017-0132-7.

※本稿は田偉「我国医用機器人的研究現状及展望」(『骨科臨床与研究雑誌』2018年7月第3巻第4期、pp.193-194)を『骨科臨床与研究雑誌』編集部の許可を得て日本語訳/転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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