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「農村・農業・農民」の沃土を開拓しイノベーションを起こす北京市農林科学院―その60年の変遷

2018年10月15日 李建栄(科技日報記者)/王瑩瑩(科技日報実習記者)

 日々苦難を乗り越えるために奮闘した60年間はあっという間であった。9月26日、田畑で奮闘している若手、中堅、高齢の研究者が一堂に会し、北京市農林科学院の設立60周年を祝った。

 60周年記念式典で、李成貴院長は、「イノベーション型国家を建設するという偉大な事業のために、当院の研究者は、星空を仰ぎ見、現場に足を運び、初心を忘れず、試練や困難を克服して前に進んできた」と 感慨深い様子で語った。

 この60年の間に、北京市農林科学院に刻まれてきたものは、各世代の農業研究者の記憶だけではなく、勢いあるイノベーションの律動だ。

 同院が設立された当初の「北京の食料自給率向上」から、改革開放(1978年)が実施された時期の「各種育種イノベーションの大きな門を開ける」、21世紀に入ってからの「 都市型現代農業の発展におけるコア技術問題解決」、そして現在の「エコな農業の現代化発展促進」まで、言い換えれば北京市農林科学院は、単なる農作物の研究からイノベーション・テ クノロジー成果を自らの責務とするに至るまで、その発展の変化における鍵となるものを見極めて取り組んできた。

「育種イノベーション」を通して科学研究の優位性を確保

 最近オープンした北京市農林科学院展覧館には、時代を感じさせる写真や古い物品が展示されており、その歴史と伝統が継承されている様子が、外国や中国国内から来た見学者の注目を集めている。

「1975年に誕生した『黄早四』は、中国のトウモロコシの育種と、種子の生産材料の原点で、その後代の品種が現在、『一帯一路(the Belt and Road)』に 参加する多くの国で栽培されている」。

「これは『京科968』で、このトウモロコシの品種は、生産性、品質、病原菌抵抗性、適応力が高い」。「これは『京科糯2000』で、中国全土の糯トウモロコシ種植の総面積のおよそ半分を占めている」。こ のように、トウモロコシの話になると、トウモロコシ研究センターの趙久然センター長は、立て板に水のように話す。

 スイカの全ゲノム配列が解明されるまで、研究者らがスイカの高品質の品種を作れるかは、「運」頼みだった。

 野菜センターの許勇センター長率いるチームは、ゲノム配列の研究を通して、スイカの生命活動の「ブラックボックス」をこじ開け、病原菌抵抗性が高く、甘みの強いスイカの開発が加速し、「京欣」シ リーズなどのスイカの品種が華北、華東などの主な産地で栽培されるスイカの60%以上を占めるようになり、消費者の間でも人気を博している。

 1983年5月、「北京市農業科学院」という名称は、「北京市農林科学院」に変更され、研究者が一連の研究を展開して、北京の食料自給率の向上や、野菜や果物、肉、卵、牛 乳などが手に入りにくいという問題解決に取り組んだ。

 そして、世界に先駆けて、「花粉培養」技術を採用して培養した冬小麦の新品種「京花一号」の生産に取り組み、「市政府特等奨」を受賞した。

 2013年、雑交小麦研究センターの趙昌平センター長が筆頭となり、中国が独自に開発したツーライン・ハイブリッド小麦の技術体系がブレークスルーを実現した。現在、既に認定を受けている「京麦6号」の 約6.7アール当たりの生産量は15%以上増加した。中国全土で栽培する小麦の半分を同品種にすることで、更に3000万人を養うことができる。

 育種から遺伝子までを研究し、さらに、農業の情報化を進めるなど、北京市農林科学院は、世界最先端の農業テクノロジーに照準を絞って、イノベーションにおける優位性を確保し、中 国の現代農業発展を牽引する先駆者となり、北京の「種子産業の都」建設を大きくサポートしてきたほか、中国の種子産業の発展に多大な貢献をしてきた。

テクノロジーを活用して農民に実益を

 人口2038万人、耕地約22.6万ヘクタール、農業が国内総生産(GDP)に占める割合は1%未満。市中心部が広く郊外が狭い、人口が多い、資源が少ない——。これが北京の農業の現状だ。緊急時対応、テ クノロジーモデル、グリーンツーリズムなどの発展が、北京の農業発展の方向性で、北京全体の共通の認識でもある。

 北京市農林科学院党委員会の高華・書記は、北京の郊外にテクノロジーモデル拠点を建設した当初の目的を振り返り、「国際的な大都市は、世界レベルの都市型現代農業の発展に取り組まなければならない。そ の基礎は、テクノロジーをメインとして、限りある資源を使って、最大限の生産量を確保し、首都を支え、農民を裕福にするという戦略目標だ」と語る。

 2012年から、同院は、「テクノロジーを活用して農業に益をもたらすための行動計画」を実施している。例えば、農村・農業・農民のテクノロジーサービスプラットフォームを構築して、効 率の高いメカニズムを構築、専門サービスチーム立ち上げ、農民に実益をもたらすためのプロジェクト実施という「1+3」のスタイルで、北京郊外でテクノロジーサービス・成果モデルのPRを展開してきた。

 また、2015年にも、郊外の技術をめぐる需要に的を絞り、3—5年をめどに、専門家100人からなるサービスチームを形成し、100以上のポイント拠点を作るプロジェクト「双百工程」をスタートさせた。< /p>

 李院長は科技日報の取材に対して、「北京にモデル拠点約140ヶ所、関連拠点約300ヶ所を立ち上げ、北京以外にもモデル拠点約130ヶ所を立ち上げた。そして、『中国』の 名前が入った農業に的を絞った初の研究拠点を設立した。北京市農林科学院の技術は既に中国全土に波及し、新品種500種類以上、新技術400件以上の導入を推進し、およそ100億元(1元=約16.5 5元)の経済効果を生み出している」と説明した。

テクノロジー体制改革と成果の応用を深化

 近年、北京市農林科学院は、成果の応用という面でも大きな成果を上げている。

 趙センター長は、「私たちが一番期待しているのは、新品種の生産が拡大して、社会的効率がさらに向上するのを見ることだ。トウモロコシの新品種開発連合体は、参加している機関のメリットを補完させ、1 年で、約4万ヘクタールから約40万ヘクタールという飛躍的な発展を実現した」と成果を強調する。

 この連合体は北京市農林科学院が企業5社と共同で立ち上げ、産学研用(企業・大学・研究機関・実用化)のメカニズムを作り上げた。初めに選ばれた交配組合せは、多くの実験が必要で、そ れを連合体に属する企業に任せ、企業が実用性を確認したものを前倒しで産業化し、新品種の種子を大量に供給できるようにする仕組みだ。

 理想的な科学研究イノベーションの環境の下、人材のイノベーションとテクノロジー体制改革も徐々に盛んになっていった。

 2017年に中国工程院の会員に選出された趙春江氏が立ち上げた中国で最大の農業情報化専門研究チームが研究開発したGPSを搭載した自動運転可能な農機・北斗の技術は、海 外企業の独占状態にピリオドを打つことになった。現在、北京市農林科学院は、中国スマート農業の先駆者となっている。

 今年、「北京市科研機構専業技術職務自主評価招聘管理弁法」に基づき、北京市農林科学院は、役職の自主評価・招聘を展開することを認可された最初の2機構の1つとなった。

 「ハイレベルな人材を集めるという戦略を確実に推進し、人材構造の最適化に力を入れるというのが、当院全体の人材発展の新局面において重要なこと。」高書記が見通すのは、輝かしい成果は、各 世代の研究者の努力のおかげで、北京市農林科学院は、引き続きハイレベルな人材を集めて活用し、イノベーションを発展の牽引力とし、イノベーションを通して切り開く未来である。


※本稿は、科技日報「深耕“三農”沃土 打造創新強院―北京市農林科学院六十年変遷」(2018年09月27日第03版)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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