第145号
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中国テクノロジー企業株の「公募割れ」問題

2018年10月4日 閔傑(『中国新聞週刊』)/神部明果(翻訳)

偉大な企業は必ずしも株価が高いわけではない。しかし株価が長期低迷している企業は決して偉大な企業にはなれないだろう。

 現在、中国のテクノロジー企業はおおむね難しい局面を迎えている。米国または香港に上場した多くの新規ビジネス関連企業の株価が公募割れ(初値が公募価格を下回ること)しているのだ。この傾向はしばらく続いており、国外でのIPO(株式新規公開)を計画中の企業に暗い影を落としている。

 最近の例を挙げると、シャオミグループ(小米集団)は7月9日、正式に香港証券取引所に上場を果たした。ところがこの取引初日、シャオミでさえ「公募割れ」のジンクスから逃れられなかった。初値は16.6香港ドル、終値は16.8香港ドルで発行価格の17香港ドルに比べ1.18%落ちとなったのだ。とはいえ、上場2日目には相場と逆行して19.34香港ドルの高値を付け、終値は19香港ドルと13.1%も値上がりした。値動きの一部始終を見守ったシャオミの創始者、雷軍董事長兼CEOは思わず「気が気でない2日間だった」とSNSの微博(ウェイボー)でつぶやいている。

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7月9日午前、シャオミが香港証券取引所に上場し、雷軍董事長兼CEOが銅鑼を叩いて取引開始を告げた。写真/CNS

 中国の金融データ情報サービスベンダーWindのデータによると、6月30日の時点で、今年上半期に香港で上場した中国企業のうち13社が上場初日に公募割れしたとのこと。またブルームバーグのデータでは、昨年1年間にアメリカでIPOを実施した中国ハイテク企業21社のうち、3分の2の株価はすでに公募価格を下回っている。とりわけインターネット融資サービスを手がける趣店と拍拍貸の株価の下落は大きかった。今年7月10日、趣店の終値は7.93米ドルで発行価格から7割の下落、また拍拍貸の終値は5.49米ドルで発行価格から6割弱の下落となった。

 表面的には、相次ぐIPOの実施により資本市場の過度な膨張や資金面の逼迫などが起こり、これが「公募割れブーム」の要因であるようにみえる。また、ある特定分野の企業の株価のみが下落し、過小評価されているのなら、アメリカまたは香港の資本市場がその「ビジネスモデル」を理解できないことに起因する可能性もある。しかしこれほどまで広範囲に及ぶ中国テクノロジー株の公募割れは、熟考すべき問題を根本に抱えている。自社を過大評価し、上場を急ぎすぎているスタートアップ企業が総じて多い。さらには赤字状態にもかかわらず上場する企業さえある。

 事実上、新規ビジネス関連企業株の大幅な公募割れは、中国のスタートアップ企業への忠告のメッセージとなっている。中国のIT業界はあまりに先走りすぎており、全体として今なお猪突猛進で荒削りな発展段階にある。投資家あるいは起業家のいずれも、忍耐強く時間をかけて、新たな価値を創造する仕組みづくりに取り組んでいない。

融資環境は悪化の一途

 過去にも中国IT企業の海外上場ブームが何度か起きている。

 第1次ブームは2000年に訪れ、初期のIT企業であるバイドゥ、盛大、SOHU、網易はアメリカでの上場、テンセントは香港での上場を果たした。第2次ブームは2010年前後で、優酷(Youku)、当当網、奇虎360、人人網、開心網、迅雷などの企業が海外での上場ブームを巻き起こした。現在のブームは昨年から現在まで続いており、これが3度目となる。

 昨年の第四四半期より、趣店、捜狗、拍拍貸などが米国ニューヨーク証券取引所に上場、また動画共有サイトのビリビリや愛奇芸などがナスダックに次々と上場した。さらにシャオミや易鑫集団、平安好医生などが香港証券取引所でIPOを実施した。

 7月9日の終値の時点で、上記23社の半数以上を占める15社の公募割れが統計により明らかとなった。株価の下落が最も激しかったのは趣店、拍拍貸、易鑫で、発行価格より6割前後も株価が落ち込んでいた。

 にもかかわらず、相当数の中国企業が今後の上場を計画している。シンクタンク「億欧智庫」の統計によると、現時点で12社がすでに香港とアメリカで上場待機中とのこと。また美団点評を含む10社が香港証券取引所にIPO申請済みで、拼多多、極光大数据もアメリカ証券取引委員会(SEC)に目論見書を提出している。

 過去のテクノロジー企業のほとんどはアメリカで上場していたが、今年6月以降は主に香港で上場が申請されている。その最大の理由は香港証券取引所が上半期に発表した「種類株(普通株と異なり、1株あたりの議決権が多い)を発行する企業の上場解禁」など3つの改革により、新規ビジネス関連企業に多大な便宜がもたらされたことにある。

 香港証券取引所の改革によるメリットは、これら企業の上場を呼び込む要因のひとつにすぎない。企業の上場を促す別の事情に、市場に広がる非楽観的なムードがある。いくつもの要因が重なって上場を急がせており、「早いうちに上場した者勝ち」という認識が広がっている。

 第一の要因として、モバイルインターネットの利用者数がもたらす「ボーナス」はピークに達しており、予想を上回る急成長を速やかに実現するのはこれ以上難しい。さらに、このたび国外で次々と上場している「ユニコーン」企業のほとんどはモバイルインターネットをベースとした事業を展開している。根本的なビジネスモデルが同じという前提においては、急速な規模拡大はもはや望めない。

 第二に、創業者が直面する融資環境は徐々に厳しくなっており、市場での資金調達もますます困難になっている。デレバレッジ(過大投資の抑制)という大きな趨勢のなか、各種銀行資金およびベンチャー企業へ投資する政府主導ファンドの流動性は低下している。「金融機関の資産管理業務の適正化に関する指導意見」の公表により、満期のミスマッチ、多層的あるいは入れ子構造の投資手法、資金プール、元本保証などが明確に禁じられたことで、政府主導ファンドによる資金調達は輪をかけて困難になった。近年、政府主導ファンドは一次市場の重要な資金源の一つとなっていた。「一次市場」への投資者はかつてのように潤沢な資金を持ち合わせなくなっており、このため資金投入段階にある多くのユニコーン企業は、二次市場で資金調達せざるを得なくなった。IPOによる資金調達と二次市場での再資金調達が、今では今後の成長を保証する唯一の手立てとなっている。

 さらに多くのファンドが今年「清算期」に入ったことも、資金調達環境をさらに難しくしているとの分析がある。2013年~2015年に遡ると、「双創キャンペーン(大衆による起業とイノベーションの奨励)」の主導により、国内の投資機関のファンド数と調達額が爆発的に増えた。2014年のファンド数は448本、調達額は631億米ドルだったのが、翌年には721本、2200億米ドルに増加している。結果として「パイの奪い合い」のような状況となり、多くのファンドがもはやリターンの金額ではなく、いかに早く資金を回収するかに目を向け始めた。この投資側の圧力により、企業は一刻も早い上場を迫られるようになった。一部の企業は投資側と上場時期に関してギャンブル契約(VAM)を結んでいるためであり、これも企業のIPOを間接的に後押ししている。

「赤字上場」を見直すべし

 最近上場した企業の創業から上場までの期間は、「先輩」企業に比べ総じて短くなっている。例を挙げると、捜狐は2年強、網易は3年で上場している。しかしテンセントは創業6年経ってようやく上場している。国外で上場した初期のIT企業に至っては、上場以降すでに10年以上も経営を続けていることになる。

 一方、ここ最近で上場済みまたは上場準備中の企業のほとんどが創業から8年未満だ。創業から5年、いや3年未満の企業さえ存在する。

 このような現象は2つの角度から説明できる。まず、モバイルインターネット時代にあって、クラウドコンピューティング、ソーシャルネットワークによって起業のハードルが下がり、スタートアップ企業が増え続けている点だ。大量のプライベートファンドや投資信託が流入し、多くの年金基金、ヘッジファンド、大型銀行はベンチャーキャピタルに大量の資金を投入し、低金利環境でのより高いリターンを求めるようになっている。

 また、上述の要因の影響を受け、スタートアップIT企業の企業価値は史上前例をみないスピードで急騰している。「ユニコーン」企業が成長に要する時間はこれまでより明らかに短くなっており、全体的に評価価格が実体を上回る現象がみられる。

 この過大評価という問題以上に懸念されているのが、このたびのIPOブームに乗り赤字上場した多くの企業だ。平安好医生は過去3年間連続赤字の状態にある。また拼多多も赤字続きで、今年の第一四半期の時点で2億100万元の純損失となっている。

 なかでも香港で上場待機中の美団点評は最も大きく取り沙汰されている。同社の目論見書では、2015年から昨年までの損失額は105億元、58億元、190億元となっている。8年前の創業以来、美団点評の赤字は長らく続いており、上場を目前にしても利益を出せていない。

 赤字上場や上場後の公募割れという異常事態は、我々の省察を促している。赤字前提での巨額投資や規模拡大、買収による市場拡大や企業価値の底上げ――このような企業はたとえ上場に成功したとしても、株主にとっての価値を生み出せず、企業の長期的な発展にも不都合だ。資金力にものをいわせた規模拡大、コア技術のイノベーション不足は、中国IT企業の進むべき道であってはならない。


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年11月号(Vol.81)より転載したものである。