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グラフェン量子ドットの導入で、古代壁画をより「長寿」に

2018年11月27日 馬愛平(科技日報記者)

 非常に貴重な古代壁画の劣化が日に日に深刻化している。そんな中、非常に汎用性の高い無機ナノ材料(例えば、ナノメートル水酸化カルシウム)が、前途の明るい壁画保護材料として広く注目を集めている。し かし、現時点では、その合成方法のコストは高く、操作が複雑で、通常有機溶剤が使われている。

 西北工業大学ナノメートルエネルギー材料研究センターの魏秉慶教授率いるチームは最近、科学雑誌「Advanced Functional Materials」に掲載された論文の中で、シ ンプルで安価な水溶液を使って、水酸化カルシウムとグラフェン量子ドットをうまく合成することで、ナノ材料をハイブリダイゼーションし、それを3ヶ所の有名な唐墓壁画保護に応用し、成果を挙げたと発表した。 

 魏教授は、「研究者は水酸化カルシウムとグラフェン量子ドットを合成して、ナノ材料をハイブリダイゼーションし、全く新しい壁画保護の概念を打ち出した。研究結果によると、ナ ノ材料をハイブリダイゼーションすると顆粒が小さく、大きさが均等で、強い粘着力を備えているため、壁画の補強により適している。その他、耐紫外線性が強く、無機材料より保護効果が高い」と説明する。

壁画をさらに良い状態で寿命を一層長く

「壁画の構造は外から中に向かって、主に、顔料層、石灰層、草泥層、レンガ層となっており、石灰層の主な成分は炭酸カルシウム。」魏教授によると、石灰層は崩れやすく、壁画表面を痛めてしまうという。 

 魏教授が科技日報の取材に対して説明したところでは、壁画保護材料は大きく有機材料と無機材料に分けることができる。有機保護材料と壁画の相性は悪く、長期間使っていると劣化しやすく、もろくなったり、黄 ばんだりし、強度が低下する。また、形成される膜は空気を通さないため、壁画は最終的に膨張し、粉状になり、壁画の修復が不可能になる。

 一方、水酸化カルシウムなどの無機保護材料は相性が良く、劣化しにくいなどのメリットがある。それを壁画の表面に使うと、水酸化カルシウムは、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムが発生し、石 灰層と融合して一体となり、石灰層の強度が上がり、保護効果が生じる。さらに、水酸化カルシウムのナノメートル化を進めることで、表面の活性、安定性が大幅に向上し、壁画をさらに良い状態で、寿 命を一層長くすることができる。

水溶液法でナノ材料を巧みにハイブリダイゼーション

 2000年にイタリアの学者が、ナノメートル水酸化カルシウムを使った壁画保護を提起して以降、中国や海外の学者は約20年の取り組みを通して、水溶液法、アルコール溶液法、マイクロエマルション法、カ ルシウム金属法などの方法で、ナノメートル水酸化カルシウムの合成を試してきた。チームのメンバーである朱金萌氏は取材に対して、「しかし、現時点では、合成の水酸化カルシウムは、サイズが大きく、浸 透性が悪いなどの問題が残っている」と指摘する。その他、炭化が遅く、強度が弱いなどの問題について、依然効果的な解決策が見つかっていない。

 この問題をめぐり、魏教授率いるチームは、時間をかけて系統立てた研究を行い、グラフェン量子ドットを斬新な方法で取り入れた。

 魏教授は、「グラフェン量子ドット表面の活性剤の閉じ込め効果を利用して、水酸化カルシウムの核生成成長動力学スピードを効果的に制御し、水酸化カルシウムナノ材料の制御可能な合成を実現し、研 究者たちを長年悩ませてきた問題をついに解決した」と説明する。

 新研究では、シンプルで安価な水溶液法に、水酸化カルシウムとグラフェン量子ドット混成ナノ材料の合成により、全く新しい壁画保護の概念を打ち出した。研究結果によると、この材料の顆粒は小さく( 約80ナノメートル)、サイズが均等で、壁画の顔料に対する粘着力も強い。グラフェン量子ドットには増強作用があるため、水酸化カルシウムナノ材料は、完全に炭化して、安定した「方解石」のようになる。これは、壁 画の強化のためにはとても重要なことだ。

文化財保護と新材料の研究開発の密接な連携が急務

 壁画には、主に建築壁画、石窟壁画、墓葬壁画などがある。新ナノ材料は主に、墓葬壁画に応用されている。墓葬壁画は、作られた時期や場所の範囲が広く、4200年前の石■(■は山かんむりに卯)遺 跡の壁画から、唐、宋、元、明、清の時代の墓葬壁画も発見されている。そして、数の点でも、質の点でも、高い注目を集めている。

 その他、唐代の墓壁画は、服飾、装飾、舞踊、楽器、儀仗、儀礼、伝統文化など、当時の社会、生活のさまざまな面を映し出しており、壁画保護の研究には非常に重要な意義がある。

 これまでずっと、中国は、文化財保護を社会科学の分野に分類し、人文研究を重視して、新材料と新技術の文化財保護への応用という分野の研究をおろそかにしてきた。

 また、西洋諸国の文化財保護に対する考え方や技術の影響を受けて、中国の文化財保護理念や材料技術の大半は、西洋諸国の経験を参考にしてきた。そのため、中国の理工科学者の優位性を発揮させて、伝 統文化財の保護とうまく結び合わせ、さらに、中国の特色ある文化財保護理念を形成するということが、材料科学、文化財保護研究においては困難な状態だった。

 西北工業大学は、陝西省が文化財の多い地域であるという優位性をうまく活用し、同省の考古学研究院などの文化保護関連当局と密接に協力し、新型材料技術と伝統保護経験を斬新なスタイルで結び合わせた。魏 教授は、「当チームは今後も、性能がより優れた壁画保護材料の研究開発を続け、これら材料の応用範囲をさらに広げ、修復を待つ多くの古代壁画を効果的に保護したい」としている。


本稿は、科技日報「引入石墨烯量子点,譲古墓壁画更“長寿”」(2018年11月22日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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