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GEEPは新たな指標になりうるか

2018年11月9日 徐天(『中国新聞週刊』記者)/脇屋克仁(翻訳)

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――中国環境政策の最先端グリーンGDPという新たな計算システムがいま中国で注目されている。このほど生態環境部環境計画院がまとめた「中国経済生態系総生産計算研究報告2015」はGEEP(「経済生態GDP」)という新概念を提起した。これは、環境コストと生態系サービスの両方を数値化し、従来のGDPから前者を控除し後者を加算するものだ。この計算システムによって、北京市、上海市などの「GDP優等生」は「GEEP劣等生」に転落する。「持続可能な発展」のバロメーターとしてGEEPを活用し、さらには地方政府の政績評価基準にしていく――生態環境部は本気だ。中国環境政策の今を追う。

頓挫したグリーンGDPの導入

 国民経済の計算システムに資源・環境の要素を反映させること自体は、決して目新しい試みではない。

 2004年に、当時の国家環境保護総局と国家統計局が研究プロジェクトをスタートさせ、2006年9月には合同で「中国緑色国民経済核算研究報告2004」、すなわち最初の「グリーン国民経済計算(グリーンGDP)」の研究報告を取りまとめている。環保総局の潘岳(パン・ユエ)・副局長(当時)は言う。「計算結果は決して完璧なものではなかったが、実際の全体像を把握する助けにはなった。つまり、環境破壊は経済発展にますます深刻な悪影響をもたらしつつあることがはっきりした」

 当時、この研究報告をうけて北京市、河北省、広東省はじめ10の省・直轄市がグリーンGDPの試験的導入に着手、環保総局と統計局もこの取り組みにお墨付きを与えた。

 しかし、計算結果を公表されたのはわずか2省(市)にとどまった。結果を公表しないよう環保総局と統計局に直訴した省(市)もあった。

 その後10年間、グリーンGDPの研究成果が国から新たに発表されることはなかった。

 生態環境部環境計画院の王金南(ワン・ジンナン)・院長は次のように総括する。当時、グリーンGDPの導入は新たな試みだったため、データの精度管理、比較可能性など、あらゆる面で難があった。そういう意味では「未完成品」だったといえる。制度化にはまだ長い道のりが必要だった。「地方政府はとにかくグリーンGDPにネガティブだった。地方によっては9%前後のGDP成長率が一挙に鈍化し、政績(政治的業績)が甚大なダメージを受けるからだ」(王金南氏)

激変する「GDPランキング」

 2015年3月に中央政治局が「生態文明建設の推進を加速させることに関する意見」を公布すると、直後に10年の沈黙を破って環保部が「グリーンGDP計算システム・バージョン2」を発表した。

「バージョン1(研究報告2004)」との最大の違いは、天然資源の消耗分と環境劣化コストを算出するだけではなく、生態系総生産(Gross Ecosystem Product、略称GEP)も算出したところにある。

 伝統的なGDPから「引き算」をおこなうのがバージョン1だとすれば、「足し算」をおこなうのがバージョン2だといえる。

 バージョン2で計算すると、内蒙古、黒竜江、チベット、四川、広東の各省(自治区)がGEP上位を占め、逆に海南、北京、上海、天津、寧夏の各省(市、自治区)が下位になる。

 バージョン2の研究段階では、グリーンGDPとGEPはそれぞれ独立した計算システムとして存在していたが、これを一歩進めて一体的な計算システムにしたのがバージョン3、すなわちGEEPだ――生態環境部環境計画院計算研究センターの馬国霞(マー・グオシア)・副主任はこう説明する。つまり、GEEPとはGDPに対して加減計算をおこなう総合的な枠組をもつ計算システムだということだ。この結果、生態系と経済の関係をより科学的・全面的に反映させることが可能になったのである。

「バージョン1が『金山銀山(経済発展)』だとすれば、バージョン2は『緑水青山(環境保護)』。バージョン3はこれら二つをあわせたもの。つまり、『金山銀山+緑水青山』だ」(王金南氏)

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 バージョン3による計算は次のようになる。2015年、中国のGDPは72兆3000億元、そこから環境破壊コスト6300億元と汚染損失コスト2兆元を控除した69兆6700億元がグリーンGDP、そこに生態系サービス分53兆1000億元を加算した122兆7800億元がGEEPだ。

 この計算システムで省毎のGEEPを算出すると、生態系を有する面積が広く、その機能が秀でた地区ほど上位にくる。

 したがって、GDPとGEEPの順位は一致しないことが多い。例えば、GDP13位の北京市がGEEPでは24位にランクダウンし、GDP16位の内蒙古自治区がGEEPでは2位にランクアップする。

塩田区モデル――評価基準に組み入れられるGEP

 そうしたなか、GEP概念をより発展させたのが、深圳市塩田地区が提起する「都市GEP」だ。これは、人類が自然生態系から得る製品やサービスのほかに、都市計画、都市建設、都市管理などの手段による都市の自然環境・生活環境の維持、向上から生み出される生態学的価値を計算に組み入れたものである。

 したがって、塩田区は区として単独でGEPを計算するだけでなく、区の実態に即したアレンジを計算方法に加えたことになる。

 塩田区環境保護兼水務局の許潔忠(シュー・ジエジョン)・副局長は、実際のところこれは都市生態系機能の「価値化」だという。「水、空気、緑など都市の生態系資源に『値札』をつけて、生態系資源の『帳簿』をつくり、毎年のGDPとGEPを同期させて算出する、生態系環境の数値化による評価なのである」(同氏)

 評価には3つのプロセスがある。まず、生態系が提供する製品・調整などのサービスの効果計算。次に、その製品の経済価値とサービスの生態学的価値の計算。そして最後に、両者の集約。こうして生態系サービスの価値総額、すなわちこの地区のGEPをはじきだすのである。

 塩田区の取り組みはこれで終わらない。区独自の計算システムを確立すると、今度は計算されたGEPを一連の行政フロー、つまりプランニング・政策決定・最終評価へ組み入れることに着手した。

 各行政部門にとって、とりわけ直接的な影響があるのは、GEPの指標(数値目標)と、その達成にむけた取り組みを生態文明建設の進捗評価と各部門の業績評価に反映させるという点だ。現在、すべての党政機関、区直属部門、末端行政機関を網羅する計45の部門が評価対象になっており、専門の監査団が評価にあたっている。「生態文明建設の進捗」「都市GEP目標達成状況」といった項目の得点が評価の7割を占める。

 塩田区発展改革局を例にとると、2016年GEP目標は52億8500万元。これは前年の大気汚染改善の度合いなどをもとに算出されている。そして、この目標数値達成のために様々な任務(次世代エネルギーの推進による公共交通機関のEV化、生態文明理念を取り入れた区の発展計画策定など)が下達される、というしくみだ。

 頓挫したバージョン1と違い、塩田区の取り組みは全国に広がりをみせている。GEPの鍵である「足し算」の考え方は受け入れやすいからだ。

 生態環境部環境計画院がこのほど公表した最新のGEEP計算システムは、足し算と引き算を統合したものだ。しかし、これでGDP順位が下がるとなると、理屈抜きにショックを受ける地方(省・市・自治区)が少なくない。

 深圳中大環保科技創新工程中心有限公司の葉有華(イエ・ヨウホア)チーフエンジニアは、地方政府がその評価体系に新計算システムを組み込むことは可能なことであり、また絶対に必要なことだと考えている。

「計算システムが完全なものでないことは問題ではない。実地に適用、実践なくして改善などありえない。方法としては国内外に通用するものだ。問題は、どのように合理的にマネジメントして、地方の実情を反映させるかだ。初年度のガイドラインには当然賛否も出るだろうが、その後、数年かけて改善を重ねれば、徐々に完全なものに近づいていくだろう」(同氏)

「計算システムが完璧なものになるにはまだかなり時間がかかる。しかし、ガイドラインを文字通りガイドとして活用し、地方政府の政績評価基準とすることは十分に可能だ」(王金南氏)


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年12月号(Vol.82)より転載したものである。


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