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浙江:「創業資金」が基礎研究を「無人区」に牽引

2018年12月21日 江耘(科技日報記者)/洪恒飛(科技日報実習生)

 「30年前に浙江省自然科学基金プロジェクトを獲得した当初、教員も我々の同僚もこれは重要ではないと考えていた。しかし30年後、我 々は生産量や品質などと関連する多くの重要遺伝子のクローンを作ってきた。これは中国及び世界の分子育種の基盤をなした」。中国水稲研究所稲種資源研究分野首席科学者、水 稲生物学国家重点実験室主任の銭前研究員はすでに業界のエリートになったが、当時の創業資金が科学研究事業のスタートを支援したことに今でも感謝している。

 1988年設立の浙江省自然科学基金はこの30年間で、1万6000件以上のプロジェクト、延べ9万人以上の科学研究者に13億元(約213億円)の財政経費支援を行ってきた。浙 江省の基礎研究事業の発展に重要な推進的役割を果たした。

 自然科学基金のほか、浙江省は之江実験室の設立に100億元(約1637億円)を投じ、さらに世界一流を目指している私立研究型大学の西湖大学、そ れから科学技術の未知を探るアリババ達磨院に巨額の資金を投じた。基礎研究はすでに百花繚乱の様相を呈している。

基礎研究の弱点補強、重要コア技術のブレークスルー

 謝恬教授が率いるチームは20年以上にわたり「浙八味」の一つであるウコンを研究しており、第4世代医薬品を代表する「リポソーム」を、初めて中国医薬(漢方薬)の新薬の実用化に成功し、産 業化を実現した。

 「基礎は応用研究の根本であり、基礎研究がなければコア技術が生まれることはない」。謝氏のチームは15年前から基礎研究に取り組んでおり、国と浙江省自然資金から力強い支援を受けている。「 これがなければ、今日の知的財産権を持つ1類新薬『β-エレメンリポソーム』は生まれていなかっただろう」。

 「オリジナル・イノベーションは主に基礎研究による。基礎研究が脆弱であれば、コア技術の研究開発はできない」。浙江省科学技術庁政策法規処の魯文革処長によると、基 礎研究は浙江省の科学技術イノベーションの弱点であり、浙江省がかつてないほど高等教育に力を入れるのは、基礎研究水準を高めるのがその目的の一つだ。

 浙江省政府は今年12月に「全面加快科技創新推動高質量発展的若干意見」(『科学技術新政策』)を発表した。うち「1号政策」は先端基礎研究を強化する。

「『科学技術新政策』は基礎研究を主な突破口とし、世界の科学研究の先端を見据え、経済社会発展戦略の需要に焦点を絞り、5件以上の重大基礎研究特別プロジェクト実施する」。浙 江省科学技術庁の高鷹忠庁長によると、今後は情報科学、生命・健康、新材料、先進製造などの科学分野において先端基礎理論研究を重点的に強化し、世 界的な影響力を持つ一連の重大基礎研究成果を獲得することが目標であるという。

 政策による誘導のほか、浙江省財政は近年、基礎研究への投資を拡大している。2017年から毎年、自然基金を5000万元追加し、2022年まで継続する。今年の基金総額は2億6000万元だ。

民間の力を集結し開放型研究体制を形成

 財政キャッシュプーリングは基礎研究の根本だが、より外部に拡大していくためには社会全体の参加が不可欠だ。之江実験室は、浙江省における民間が参加する基礎研究の典型だ。

 之江実験室は設立当初より「一体、両核、多点(1つのシステム、2つの軸、多数の拠点)」という枠組みを確立した。すなわち、浙江省政府、浙江大学、アリババが共同出資する之江実験室が「一体」に、浙 江大学とアリババが「両核」に、中国内外の有名大学・研究所、中央企業、民間企業という質の高いイノベーション資源が「多点」となる。

 之江実験室の袁継新副主任によると、このモデルにより同実験室は「基礎研究・応用基礎研究・技術開発・産業化」というイノベーションチェーンを構築し、世 界の資源を集めボトルネックとなっている重要コア技術のブレークスルーを達成した。

 「一体、両核、多点」により、之江実験室は人工知能(AI)研究院、未来ネットワークコンピューティング研究院、AIアルゴリズム研究センターなどのクロスオーバー研究センターを設立し、実 験室の基礎研究展開をサポートしている。

 浙江大学とアリババの既存の科学研究の基礎を踏まえ、之江実験室は「高原に高峰を作る」べく、先進AIアルゴリズムプラットフォーム基礎理論・重要技術研究、先 進インダストリアルインターネットセキュリティプラットフォーム及び重要技術など、基礎科学研究プロジェクトを始動した。

 3年間で1000億元を投資する100%民間資本のアリババ達磨院が設立された当初、馬雲氏は基礎科学を立脚点として常識を覆す技術を研究するとした。

 達磨院にとって初の基礎先端新技術が今年、お披露目された。これは「Ali-NPU」というニューラルネットワークチップで、画像・動画分析、機械学習などのAI推理計算に用いられる。設計によると、同 チップのコストパフォーマンスは同類製品の40倍になる。

 達磨院は現在、AI、量子技術、クラウドコンピューティングビッグデータ、サイバーセキュリティなどの未来の科学技術発展方向のトップクラスの科学者を集め、中 国国内トップの企業による科学研究機関の一つになっている。

 また浙江省自然科学基金は青山湖科技城、浙江省薬学会、華東勘測設計院有限公司などと、多くの自然科学共同基金を設立している。

 「浙江省は民間資本が強く、地方の科学研究と関連人材の需要が高い。ますます多くの民間企業や組織が基礎研究の重要性を意識しており、来年はさらに多くの民間資本が自然科学基金に注ぎ込まれるだろう」。浙 江省自然科学基金委員会弁公室の呉正光主任は、かつてない支持と民間パワーの参加のもと、浙江省では、基礎研究がすでに春を迎えたと見ている。


※本稿は、科技日報「浙江:“種子資金”引領基礎研究進入“無人区”」(2018年12月14日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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