第147号
トップ  > 科学技術トピック>  第147号 >  テクノロジーで養鶏 きれいでおいしい卵に

テクノロジーで養鶏 きれいでおいしい卵に

2018年12月18日 陸成寛(科技日報実習記者)

 食卓の常連である卵。栄養満点であるため特に朝食には欠かせない存在だ。

 多くの人にとって卵はあまりにも身近な存在で、卵もテクノロジーと関係があると言っても、信じられないかもしれない。しかし、そんな小さな卵が、中国科学院の院士を驚かせた。

企業の研究開発がステップアップするようサポート

 北農大科技股份有限公司は、高品質の動物用飼料や優良家畜・家禽品種の研究開発、推進に取り組むテクノロジー型企業だ。同社の科学研究展開は、今に始まったことではない。

 同社の張慶才・董事長は科技日報の取材に対して、「2004年から、当社の陳福勇教授を筆頭とする獣医専門家チームが、「農大3号」小型採卵鶏を対象とした、鶏白血病、ひ な白痢などの伝染病の浄化や科学研究を行い、小型採卵鶏の原種(親世代)と原原種(祖父母代)の養鶏場にハイテクレベルを備える、生産・実践とマッチングさせた総合実験室を立ち上げた」と説明する。

 2015年、中国科学院の院士・呉常信氏が同社を訪問し、院士専門家ワークステーションを立ち上げた。張董事長は、「当社にも早くから研究チームがあり、研究院も立ち上げていたが、当 社の研究開発能力を本当の意味でステップアップさせてくれたのは、院士専門家ステーションだ」と説明する。

 企業の高度なブレーンである院士専門家ワークステーションは、科学研究を展開し、重要問題に取り組むことで、企業の発展をサポートしている。北農大の院士専門家ワークステーションが行う業務は、必 然的に鶏および卵と密接に関係している。

 呉氏の多大なサポートの下、同ワークステーションは中国農業大学と共同で「農大5号」採卵鶏の新品種選択・育成、産業化科学研究プロジェクトを実施した。このプロジェクトは、中国の採卵鶏の品種の選択・育 成、推進に拍車をかけることとなった。

 北農大科技股份有限公司採卵鶏研究院の張冬冬・副院長は、「同ワークステーションのサポートの下、当社が遺伝技術を通して選択・育成した『農大5号』鶏は体が小さく、飼料の利用率が高く、生 産コストが安いなどのメリットがある。産卵期の場合、1日当たり食べる飼料の量は88--90グラム。普通の鶏なら120グラムだ。また、卵1個生むのに必要な飼料の量は『農大5号』鶏 が127グラムであるのに対して、普通の採卵鶏は159グラムと、32グラム少なく済む。普通の採卵鶏より飼料が20--25%少なくて済む計算だ」と説明する。

積極的に卵も改良

 優良品種の鶏を選択・育成するほか、院士・専門家は積極的に卵の改良も行っている。うち、最も大きな成果として、DHA植物性粉末を利用して生産したDHA卵や「旦更香」飼料添加剤などがある。

 DHAとは、ドコサヘキサエン酸のことで、体に重要な栄養素・不飽和脂肪酸の一つだ。張副院長によると、「DHAは神経系細胞を成長させ維持する主要な成分で、脳や網膜の重要な成分でもある。人 体の大脳皮質に20%含まれ、目の網膜には50%と最も多く含まれている。そのため、胎児や乳児の知力や視力の発育にとても重要な栄養素だ。研究者は、採卵鶏の飼料にさまざまな割合で植物性粉末を入れ、そ の後生まれた卵のDHA含有量を測定した。そして、植物性粉末の適量を確定させた。そのようにして生産されるようになった卵が『DHA卵』だ。こうした卵のDHA含有量は、普通の卵の2-3倍で、卵 の中のDHAも人体に吸収されやすい。また、DHA卵は、市場で販売されている溶剤を使って取り出したDHA関連製品と異なり、純天然で、溶剤は残留しない」。

「旦更香」とは、採卵鶏用の飼料添加剤である。タンパク質の量を増やし、白身の粘度を高めることができ、黄身の色を濃くし、風味も改善できる。また、飼料のカルシウム、リ ンなどの栄養成分の吸収率を向上させ、卵の殻の質を明らかに改善し、色が良くなり、割れる確率も下がるという。その他、鶏舍の中の有害な気体の濃度を下げ、養鶏環境を改善し、採 卵鶏の呼吸器系疾患の発症率も下げることができる。「我々は、プロバイオティクスや数種類のビタミン、中草薬を入れて、卵の品質を向上させている」と張董事長。

 この種の飼料添加剤には抗生物質は含まれておらず、自然に優しく、安全で、薬の残留がなく、汚染もなく、薬剤耐性も生まれないため、長期間飼料に入れても問題はない。張副院長によると、「 採卵鶏がこの添加剤が入った飼料を食べて生んだ卵の黄身は色がとても濃く、タンパク質の濃度も高い。また、卵の殻の質も良くなり、割れる確率が下がる」という。

 現在、「旦更香」添加剤は第三世代まで開発が進み、卵の品質も顕著に改善され、養鶏企業の費用対効果もあがっている。

 張董事長は、院士専門家ワークステーションは、①テクノロジーを活用した養鶏の費用対効果を向上させ、生産コストを削減でき、②供給側の産業高度化が実現し、良質な卵を安く販売でき、③ 食品の安全という点から、産業のエコと信用が再構築された―という3点において、業界に重要な発展をもたらした、と説明する。


※本稿は、科技日報「科技養鶏,譲蛋好看又好吃」(2018年12月7日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。