第147号
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蘇州ハイテク産業開発区:イノベーション主導の発展モデルエリアの構築に注力

2018年12月28日 施為/強曉佟

中国に立脚し世界に目を向けてハイエンドイノベーション資源を集め最先端の製造産業体系構築を目指す

 中国で第一期の国家級ハイテク産業開発区として1992年に設立された蘇州ハイテク産業開発区は、飛躍的な成長を遂げ、蘇州の経済を牽引する「成長の極」、自主イノベーションのモデルエリア、ハイテク産業拠点となった。そして、1000年の歴史を誇る蘇州において、イノベーション主導の新しい牽引力となり、改革開放の新たな窓口を開いた。

 2003年以降、蘇州ハイテク産業開発区のテクノロジー発展資金は、年間2000万元(1元=約16.44円)から、6億6000万元へと33倍も増えた。2017年、一定規模以上の工業企業(年売上高2000万元以上の企業)の生産額は合わせて2841億元に達し、地域のテクノロジー進歩への寄与率は60%に達した。江蘇省ハイテク産業開発区イノベーション主導発展総合評価では2位となっている。

 改革開放40周年という新たなスタート地点に立ち、ハイテク産業開発区は、高品質発展の正念場を迎えている。蘇州ハイテク産業開発区の党工作委員会書記、虎丘区委員会書記、区長の呉氏は、「新たな情勢、新たなニーズに的を絞り、ハイテク産業開発区は、『イノベーション主導』を堅持し、重大イノベーションキャリア、プラットフォームを採用、構築することで、開放的、包摂的イノベーション・エコシステムを構築し、地域のイノベーション能力、レベルを向上させ、イノベーション主導の発展モデルエリアの建設を全面的に推進し、高品質発展の最前列を歩むことができるよう努力し、『強富美高』(強く·豊かで·美しく·ハイレベル)の新江蘇を建設するうえで、先頭を走れるように取り組んでいる」と話す。

一定規模以上の工業企業研究開発への資金投資が8.9%増加―最先端の製造産業体系を構築

 9月7日、蘇州市委員会研究室と科学技術協力が共同で「専門家座談会」を蘇州ハイテク産業開発区で開催し、蘇州科技大学商学院の王世文院長などの専門家、学者、業界のエキスパートらが一堂に会し、「自主的なコントロールが可能な最先端製造業体系構築のために、蘇州は何をすべきか」について、深い議論が行われた。座談会で、ハイテク産業開発区の企業・蘇州華芯光電技術有限公司は、イノベーションが非常に盛んな蘇州の西部における取り組みをPRした。同社は長年にわたる研究開発やイノベーションを通して、高品質の半導体レーザーマイクロチップを研究開発し、量産する世界有数の企業となり、マイクロチップを設計し、量産するまでの生産工程プラットフォームを有している。そして、コア技術を掌握し、輸入に頼っていた同分野の産業構造の改革を実現した。

 長光華芯の飛躍的発展の背後には、ハイテク産業開発区の自主的にコントロール可能な最先端製造業体系を構築するという、決意と実践がある。

 20年以上の発展を経て、「労働密集型」、「世界の工場式」の産業構造では、イノベーション発展を引き続き牽引することはできなくなっている。その点、ハイテク産業開発区は、先進地域と比べて問題点を探し出し、IT産業密集地域などの自己資源の特性や産業基礎に基づいて、条件が整い、優位性のある分野に的を絞ってブレークスルーに取り組み、主導産業群を構築し、新世代情報技術、新エネルギー、医療機器、バイオ医薬など特色ある新興産業を重点的に発展させ、はっきりとした産業発展の方向性やイノベーションが牽引する方向性を形成してきた。ハイテク産業開発区の関係者は、「戦略性新興産業を発展させ、伝統的製造業のモデル転換・高度化を加速させ、主導産業イノベーション群を構築するというのは、『ハイテク製造』から、『ハイテクスマート製造』、『ハイテククリエイト』への発展を加速させ、地域の工業経済の核心競争力や持続可能な発展能力を強化することにつながる」との見方を示す。

 現在、ハイテク産業開発区では、国際競争力を有する最先端製造産業体系の頭角が表れ始めている。新エネルギー企業の阿特斯は、第四世代太陽光発電技術を世界でも先んじて採用し、金属触媒エッチングの産業化を進め、2018年、国家「トップランナー」基地、「スーパートップランナー」基地となるため、10件の最高評価の最先端コンポーネントを研究開発し、リリースした。固徳威の新世代太陽光発電インバーターは59ヶ国の卓越したデザインの商品の中から選出され、2018年に、世界最大のデザイン・コンテストの一つ・ドイツのレッド・ドット・デザイン賞を受賞した。

 統計によると、2018年1-9月期、ハイテク産業開発区の新世代情報技術、新エネルギー、医療器械・バイオ医薬の三大戦略性新興産業が飛躍的に発展している。うち、医療器械産業は、全省戦略性新興産業地域群発展モデルケースに認定され、一定規模以上の工業企業の総生産額は8.9%増の2289億元に達し、ハイテク産業の生産額と戦略性新興産業が一定規模以上の工業企業の総生産額に占める割合は58.1%、55.3%に達している。

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沃倫韋爾公司が製造した医療用のスマート物流システム

 また、イノベーションチェーンと産業チェーンの融合が日に日に深化し、製造業の能力・レベルが向上を続けている。2018年度第一期の省級モデルスマート工場リストを見ると、ハイテク産業開発区企業の佳世達(Qisda)、シーメンスなど6社のスマート工場がリスト入りしている。リスト入りしている企業のうち、シーメンスと美視伊汽車などは、ハイテク産業開発区では数少ない、省級モデルスマート工場が2ヶ所ある企業であることは特に注目に値する。9月の時点で、大中型、または一定規模以上のハイテク企業の研究開発機関の所有率は97.26%、有効所有率は94.75%に達している。

 その他、ハイテク産業開発区は、軍民融合産業の発展に力を入れている。例えば、中国兵器工業集団214研究所や中航雷電院などの中核となる軍工科研院所を頼りに、中核蘇閥、華旃航天電器などの軍事関係のミッションを担う大型国有企業や東菱科技、長光華芯などの軍事関係に参入している民営企業のメリットを生かして、航空・宇宙飛行、ハイエンド設備などの軍民融合の特色ある産業群を形成し、国防テクノロジー工業の新たな重要な拠点を構築している。

 テクノロジーイノベーション企業の育成プロジェクトをさらに促進し、テクノロジーイノベーション企業を強化するために、ハイテク産業開発区は、産業のトップレベルデザインを特に強化し、「ハイテク産業開発区産業高度化3年行動計画」の制定を基礎に、「金融機関群の発展に関する若干の政策」、「企業の上場奨励に関する若干の意見」、「ハイテク産業開発区の総部経済を加速させることに関する若干の意見」、「蘇州ハイテク産業開発区のガゼル企業の育成実施に関する意見(意見公募)」などを次々に発表したほか、全区「1+5」産業発展指導意見や新世代情報技術、新エネルギー、医療器械・バイオ医薬、軍民融合、スマート製造の5つの主導産業の3年行動計画を打ち出し、区全体の投資誘致やインテリジェンス導入のために政策的基礎を固めた。

 「ガゼル企業」発展目標は、2022年までに、ハイテク産業開発区が、世界的に影響力を持つガゼル企業150社、ガゼル育成企業200社、上場企業30社以上を集め、ガゼル企業などのモデル的役割効果を発揮させて、区内の国家ハイテク企業を1000社以上にすることを目標に掲げている。

「大院大所」100機関以上が進出しバリュー・チェーンの最先端を加速しながらよじ登る

 ハイテク産業開発区の企業・天准科技によると、「当社が自主研究開発した高精度三次元測定機は、世界トップレベルに達した。その精度は最高で髪の毛の200分の1に相当する0.3マイクロメートルだ」という。

 これで、ドイツや日本に次いで、中国はこのレベルの精度の測量技術を持つ3ヶ国目の国となった。このイノベーションプロジェクトのブレークスルーにより、中国の精密製造業に、工業の自動化、スマート化の解決策を提供することができるようになった。

 イノベーション型企業の飛躍的な発展は、ハイテク産業開発区が「大院大所」を重要なイノベーションの後方拠点とし、開放的、包摂的イノベーション・エコシステムの構築に力を注いでいることに起因している。今年、南京大学蘇州イノベーション研究院、中科院光電技術研究所蘇州研究院、吉林大学蘇州イノベーション研究院、(英国)バーミンガム--東南大学蘇州聯合研究院などの重大なイノベーションキャリア17機関が契約に調印してハイテク産業開発区に進出し、ハイテク産業開発区に集まる「大院大所」は100機関を超えた。

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中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所

 ハイテク産業開発区が、科学研究院所を誘致しているのは、「見栄え」のためではなく、自身の産業チェーンのニーズに的を絞って、イノベーションチェーンを構築するためだ。それをテーマに、ハイテク産業開発区は、「進出した大院大所は、どうすればその価値を発揮できるのだろう?」と一貫して模索している。中国科学院蘇州地理科学・技術研究院の院長で、中国科学院の院士である周成虎氏は、「大院大所を誘致すると、新興産業を育成することができる」との見方を示し、「5年前に蘇州ハイテク産業開発区に進出して以降、中国科学院地理情報・文化テクノロジー産業基地は、中国科学院が原動力となり、地理関連の研究キャリア10機関以上が集まったほか、多くの産業が企業として進出している」と説明する。

 現在、ハイテク産業開発区内の「大院大所」はさらに増えており、イノベーションの原動力も大きくなっている。中国科学院地理所蘇州基地は、華為と戦略的提携契約に調印し、地理時空クラウドプラットフォームを共同で構築している。浙江大学蘇州工業技術研究院の「超高速デジタルインクジェットプリンターのコア技術研究開発と応用」プロジェクトは、国家技術発明賞二等賞を受賞した。清華蘇州環境イノベーション研究院には職員が141人おり、科学研究チーム17チームを誘致、企業10社が登録し、専門研究センター5ヶ所が設置されている。9月の時点で、同区には、インキュベーター企業が年間目標の91%に相当する1300社進出し、産業化プロジェクトの数は418プロジェクトと、年間目標を既に達成した。

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中国科学院蘇州地理所

 「アオギリを植えれば、鳳凰がやって来る」。プラットフォームを構築したことで、優秀な中国内外のイノベーション・起業人材が集まり、人材の誘致、育成を通して、高い品質の発展を実現させている。現在、区内のハイレベル人材は2万5200人、誘致したリーディング人材は延べ900人以上に達している。2017年、国家級イノベーション人材育成モデル拠点に認可され、人材サービスのレベルも向上を続けている。また、同区は、2020年までに、区内の修士以上の学歴を持つハイレベル人材を3万人以上にすることを目標に掲げている。うち、博士が3000人で、各種リーディング人材を2000人以上誘致、育成したい考えだ。

 ハイテク産業開発区は今後、南京大学電子科技大学、バーミンガム大学などの中国内外の重点大学、中国科学院関連の機関と連携し、提携機関の専攻学科の特色、学科の優位性を十分に発揮し、業界の基盤技術と応用性の研究、科学研究成果の技術移転、実用化、技術・人材交流などを展開し、2020年までに、重大イノベーションキャリア(プラットフォーム)をさらに30機関増やしたい考えだ。

テクノロジーサービスのターゲットを絞りテクノロジーイノベーションチェーン全体をカバー

 10月12日、「青春をクリエイト」をテーマにした「蘇高新杯」第5回中国青年イノベーション・起業コンペ関連のイベントにおいて、多くのイノベーション型企業が中国青年イノベーション・起業板(江蘇)区域センターにおいて発足し、イノベーションを開拓することができ、前途明るい「ブルーオーシャン」に進出した。

 中国青年イノベーション・起業板(江蘇)区域センターは、ハイテク産業開発区が、起業とテクノロジー金融の融合やマルチレベル資本市場の金融サービスの重要拠点の構築、中・小・零細企業の発展などを促進するためのテクノロジーサービスイノベーションの一環だ。

 2017年8月、太湖金谷は、中国共産主義青年中央委員会の認可を受け、中国青年イノベーション・起業板(江蘇)区域センターの政府の認可を受けた運営機関となった。2018年4月12日、同センターは正式に蘇州ハイテク産業開発区で運営を始めた。業務を展開するようになってから今に至るまで、同センターは企業(プロジェクト)100社以上にサービスを提供し、企業(プロジェクト)50社以上が同センターで発足するようサポートしてきた。

 イノベーション主導発展戦略を確実に実施し、蘇南国家自主イノベーションモデルエリアの中心エリアの建設を深化させ、国家、省、市のテクノロジーサービス業発展を加速させるための関連の措置を実行するため、ハイテク産業開発区は最近、「蘇州高新区加快科技服務業発展実施方案」を打ち出した。計画は、3年以内に、ハイテク産業開発区はテクノロジーイノベーションのチェーン全体をカバーするテクノロジーサービス体系を構築し、中国国内で影響力を持つテクノロジーサービス業発展モデルエリアを構築するという目標を掲げている。

 「解放・包容を際立たせ、良好なイノベーション・エコシステムを構築する点でブレークスルーを目指している」。蘇州ハイテク産業開発区は常に、イノベーションに適した生態環境を積極的に作り出し、良好な人材サポート政策や整った産業関連政策、金融サポート政策などを通して、整ったテクノロジーサービス体系を積極的に構築し、イノベーションの「芽」が成長して大きくなるようサポートし、イノベーションの「森林」を作り出している。

 イノベーション企業は、起業・インキュベーター関連のサービスを必要としている。現在、ハイテク産業開発区には、省級以上の各種テクノロジー企業インキュベーターが15社(国家級が6社)あり、企業700社以上がそこで成長している。科学研究院所が技術移転、実用化を加速して推進しているのを背景に、技術関連の契約・取引額が右肩上がりとなっている。また、検査、測定サービスの面では、東菱振動、中国賽宝(華東)実験室などが、産業チェーン全体、製品のライフスタイル全体を対象に、イノベーション検査技術を提供するようになっている。2020年までに、研究開発設計サービス、起業インキュベーターサービス、技術移転サービスなどの分野の企業や人材、サービスの收入が爆発的に増加すると見込まれている。

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実験室で作業する科学研究スタッフ

 テクノロジー金融サービスの面では、テクノロジー金融政策を積極的にPRし、実益を企業にもたらしているほか、ハイテク産業開発区の金融サービスは、省の中でも先頭を歩んでおり、「蘇州高新創業投資」を中心にして、テクノロジー金融プラットフォームを構築し、テクノロジー金融機関を集め、金融サービスイノベーションを展開し、テクノロジー金融生態が形成されている。また、「ハイテク産業開発区テクノロジー金融サービスセンター」や「太湖金谷」などのプラットフォームが相次いで設置され、テクノロジー型、イノベーション型の中小・零細企業とのスムーズで効率の良いマッチングが実現している。そして、全国「起業投資モデル拠点」、全国「保険とテクノロジーが融合した総合イノベーションモデルケース」などに選出されてきた。

 ハイテク産業開発区が招商局集団と共同で構築した「蘇州金融村」の総計画面積は4平方キロで、山に囲まれ自然が美しく、江蘇省の第一期のテクノロジーサービス業の特色ある拠点、蘇州市の第一期の特色ある村にも選ばれ、江蘇省の第二期の特色ある村の創建リストに入った。現在、「蘇州金融村」には、金融サービス機関や基金投資機関が440社機関以上、資本800億元近くが集まっている。複合効果も表れ始めており、各種金融業態が競って発展する良い流れが形成されている。

 他方、ハイテク産業開発区は知的財産権サービス業が集まるエリアを構築し、基盤が整っている知的財産権の面で優位性を誇る企業をさらに発掘するため、地域の知的財産権業務の全体的なレベルを向上させ、その基礎を打ち固めている。現時点で、同エリアには、80以上の知的財産権サービス機関が進出しており、よく整備された知的財産権サービスチェーンを形成している。また、江蘇国際知的財産権運営トレードセンターなどの公共サービス機関が続々と設立、進出しており、進出しているサービス機関の各種ニーズを確実に満たしている。今年10月末の時点で、ハイテク産業開発区で、有効発明特許が20件以上に達している企業が56社あり、有効発明特許を持つ企業の数は850社以上となっている。1万人当たりの有効発明特許保有件数は110.35件に達し、市内では2番目に多く、市の平均水準の2.1倍となっている。

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蘇州ハイテク産業開発区の知的財産権サービス業が集まるエリア

 近年、ハイテク産業開発区は、「国家テクノロジーイノベーションサービス体系建設モデルケース単位」、全国で第一期の「知的財産権サービス業が集まる国家発展モデルエリア」、「国家知的財産権医療器械特許ナビゲーション産業発展実験区」、全国第一期のテクノロジーサービス業試験区域などに選ばれ、整備されたテクノロジーイノベーションサービス体系が構築されている。


※本稿は、科技日報「蘇州高新区:全力打造創新引領発展示范区」(2018年12月13日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。